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ドコモが量子コンピューティング基盤を開発、7月から通信ネットワークの最適化に適用へ

 NTTドコモは、量子コンピューター技術を活用し、提供サービスを最適化する量子コンピューティング基盤を開発した。7月からはこの基盤を活用し、ドコモの通信サービス最適化への取り組みを全国に順次展開する。

通信サービス最適化への適用

 7月からの取り組みでは、基地局からユーザー端末の位置情報を取得するために送信される「ページング信号」を減らし、同時により多くの端末と接続できる取り組みが行われる。

 端末へ着信があった場合、その端末がどの基地局のエリアで通信できるのかを把握するため、「ページング信号」と呼ばれる信号を送信し、端末の位置を確認する。

 その際、端末が多く相互移動する複数の基地局エリアをグループ化しておくと、少ない信号数で端末の位置を把握しやすくなるという。いわゆる、端末の位置をある程度絞り込むことで信号の無駄打ちを防ぐことができる。

 同社では、一定のエリア(位置登録エリア)ごとに端末を管理しており、着信時はこのエリア内でまずページング信号を発信する。位置登録エリア内では、さらに複数の基地局でグループ(トラッキングエリア)にまとめており、トラッキングエリア単位で信号を発信している。

 今回の取り組みは、このトラッキングエリアを最適化することで、いわゆるトラッキングエリアまたぎをできるだけ少なく位置の把握ができるようになることが期待できる。結果、ページング信号の発信回数を全体で減らせるようになり、混雑時などにより多くの端末と通信できるようになるという。

膨大な組み合わせ計算をAIで

 今回の量子コンピューティング基盤は、量子コンピューティング技術の中でも日本が先行して開発が進んでいるイジングマシン方式の理論で、その中でも量子アニーリング方式によるものだという。

 トラッキングエリアは、基地局やエリアの組み合わせを最適化することで改善が図られるが、この組み合わせを最適化する際の計算がこれまでのコンピューター(古典コンピューター)では時間がかかりすぎてしまうことが課題となっていた。

 一般に、組み合わせをする数が増えれば増えるほど、解を出すまでの時間が指数関数的に増加する。たとえば、270の基地局と21のエリアの組み合わせでは5670の変数があり、2の5670乗(6.92×10の1706乗)の組み合わせ計算が必要になる。

 量子アニーリングでは、同様の計算を物理シミュレーションを通じて一定時間で高精度な解を導き出せるという。古典コンピューターで27時間かかる問題を量子アニーリングでは40秒で解を出せる。実際にトラッキングエリアの最適化問題では、これよりも大きい規模となるため、古典コンピューターでは解けきれないが、量子アニーリングでは数分レベルで解を導き出せるという。

処理負荷軽減に貢献

 実証実験では、これによりページング信号数が最大約15%、平均約7%削減されることが確認され、着信集中時に現在の約1.2倍多い端末数で接続できることに相当するとしている。

 また、基地局設備自体の処理負荷も軽減されるため、通信の品質改善に貢献する可能性もある。

 これまでにも古典コンピューターでページング信号の改善に取り組む構想はあったが、うまくいかなかった過去があったという。量子コンピューティング技術が進歩する中で、この構想が合流し実証に成功したかたちだとしている。

 なお、今回の最適化にあたっては、端末のソフトウェア更新などの必要はない。

 同社では、通信だけでなく量子コンピューティング基盤をさまざまなサービスへ今後適用していくとしている。