インタビュー
プロ野球のデータを示す「NPB+」アプリ開発者ロングインタビュー、「データの民主化」でもたらす次世代の観戦体験
2026年2月26日 04:01
NPBエンタープライズ、コナミデジタルエンタテインメント、ソニーの3社が、プロ野球の2026年シーズンに向けて、NPB公認プロ野球速報アプリ「NPB+」正式版の提供を発表した。これまでチーム強化のために使われていたソニーのグループ会社である「ホークアイ」の精密なトラッキングデータを、ファン向けにエンタメとして開放する。
KONAMIのゲームUI(ユーザーインターフェイス)に関するノウハウとソニーの技術力が融合した「NPB+」アプリは、“データの民主化”を通じて、「次世代の野球観戦」を実現して若年層やライト層の取り込みを目指そうとしている。
昨秋のクライマックスシリーズ・日本シリーズで提供された「NPB+」アプリはどのような経緯で登場し、今回の正式版に至ったのか。NPBエンタープライズ執行役員デジタル事業部長の丹羽大介氏とデジタル事業部 主任の九鬼祥公氏、コナミデジタルエンタテインメントでプロデューサーの田村哉太氏、ソニーのスポーツエンタテインメント事業部デジタルプラットフォーム推進室統括課長の小沢賢仁氏に聞いた。
12球団で「ホークアイ」
――プロ野球ファンは、新シーズン開始の3月下旬に「あけましておめでとう」と言う人もいるくらいですが、そんな新たなシーズンにあわせて「NPB+」が登場することになりました。昨年2025年10月にテストとして公開されたわけですが、そもそもの開発のきっかけは?
丹羽氏(NPBエンタープライズ)
従来から、各球団はファンエンゲージメントの取り組みなどで、アプリやWebサービスを開発し運用しています。
その一方で、特定の球団のファンではない方に向けては、プロ野球に興味・関心を持っていただくタッチポイントが限られていると考えていました。
そのような中、2024年シーズンに、12球団の各球場にソニーさんの「ホークアイ」の導入が完了しました。「ホークアイ」のトラッキングシステムでは、ボールや選手の動きを追跡(トラッキング)することができます。
球団の戦力強化として「ホークアイ」のトラッキングデータを活用できる環境が、12球団全てに整ったわけです。
これをきっかけに、そのトラッキングデータをもとにした事業を推進しようということになりました。データを資源化して、管理・運用・シェアなどで活用できるようにする。蓄積されたデータで、選手の動きや試合の模様を可視化して、プロ野球選手の凄さ、プロ野球の面白さを伝えていきたいと。
――なるほど。
丹羽氏
プロ野球界として、いわゆるオウンドメディアというのを作りたいとも考えました。そこで、ソニーさん、KONAMIさんの協力を得て開発されたアプリが「NPB+」になるわけです。
もちろん、世の中には、すでに一球速報のようなサービスが提供されています。そこに「ライブ感」と「情報量」を足せるのではないか。
これまでの試合経過の情報は、文字情報が中心でした。そこで「NPB+」では、データを可視化して、「ライブ感の醸成」を目指すことにしました。
――「ライブ感」ですか。
丹羽氏
はい、これまでのプロ野球界でのデータと言えば、打率、防御率といった成績、あるいは試合結果がメインです。あるいは、試合中には「球速」も主な情報として提供されます。
その一方で、大谷翔平選手ら日本人メジャーリーガーの活躍によって、打球の速度・飛距離・アングル(角度)といったものもニュースなどで提供されるようになっています。
選手の、その瞬間のパフォーマンスを、数字として可視化する。可視化して凄さを伝えていく。
「NPB+」では、球場の外、試合を中継でご覧になれない環境下でもライブ感を体験できます。あるいは、球場にいたり、テレビの前で観戦したりしていても、選手のプレーの詳細をデータで示せます。
繰り返しになりますが、データの可視化によって選手の凄さ・プロ野球の面白さを伝えられる、唯一無二のアプリと考えております。
――アプリ開発の背景から、NPB+の提供したい体験まで、一気にお話いただいて、ものすごい情報量です。
丹羽氏
構想としては2024年からスタートしていましたね。2025年中に提供したいと頑張りまして、なんとか2025年シーズンのクライマックスシリーズにあわせてテストローンチとして登場させることができました。約2年で、提供に至ったということになりますね。
プロ野球のファン層拡大を目指す
――タッチポイントを設けたいということでした。ただ、プロ野球を巡るメディアは本当に数多く存在しています。それでも足りないと思われた理由は?
丹羽氏
確かにコロナ明け以降、球場へお越しいただくお客さまの人数はどんどん増えて、記録を更新しています。
一方で、冒頭に少し触れたように、「特定の球団ファン以外の層」に対して訴えていくことが難しい。
(プロ野球に関わりながら球団とは異なる存在として)ある意味、フラットなNPBエンタープライズという立ち位置から見た時に、「プロ野球ファンの底上げ」を進めたいと考えました。
もちろん各メディアさんを通じた取り組みもありますが、自分たちでもきちんと発信できる場を作っていきたいと考えたわけです。
――少し飛躍しますが「NPB+」のもとになったデータを、サードパーティへ開放する可能性はあるのでしょうか。
丹羽氏
我々内部では、「データの民主化を進めたい」と話しています。ピッチャーの投げた変化球の変化量や、あるいはバッターの打球速度・飛距離といったものを単純に出しただけでは、楽しんでいただけないかもしれない。
そのためには、より多くのメディアに取り上げていただくことが大切です。より多くのメディアに提供することで、繰り返しになりますが、より多くの方とのタッチポイントを増やしていきたいと考えています。
――なるほど。
九鬼氏(NPBエンタープライズ)
データの一般公開については、球団に関係する放映権を持ったメディアさんなどと、これまでお話を進めています。
――ライト層にも、ということですが、2025年10月に提供されたものは、プロ野球ファンの私自身はとても楽しめました。しかしライト層にも楽しめるのか、という点は、ちょっと難しそうにも思えました。
九鬼氏
「NPB+」は確かにコアなファン向けのような印象を持たれるかもしれません。実は設計上、2025年10月に提供したものは、そういうデータをお見せする仕上りにしていました。
ファン層の裾野を広げたいということで、ライト層も含めているのですが、コア層にもきちんと楽しんでいただけるようターゲットに含めています。
そこで、2026年シーズンにあわせて提供する「NPB+」では、10代や20代などSNS世代の皆様へよりアプローチしたいと考えています。そのために、タレントさんにご協力いただいて、野球を楽しんでいただけるような読み物・記事をご用意します。
一方で、コア層に向けてデータ分析記事や専門家のコメント・インタビューなどの提供を考えています。
――試合をデータで見る機能に加えて、ライト層とコア層、それぞれに楽しんでもらえるコンテンツを充実させるわけですか。
九鬼氏
はい、そういった形で、より幅広い層にアプローチできるよう進めていきます。
コア層向けには、結構マニアックな記事もできると思います。私自身も、球団の強化のためのデータ班や、そのサポートとして働いていた経験があります。チームスタッフから見るデータ、といった切り口でもコンテンツをご用意したいです。
「プロ野球スピリッツ」シリーズスタッフも関わる
――では、「NPB+」の演出や表現、つまりはデータの見せ方という点はいかがでしょうか。
田村氏(コナミデジタルエンタテインメント)
私たちは、選手の写真や、アプリの見やすさといったところで工夫を重ねました。
「ホークアイ」で得たトラッキングデータをそのまま画面上に置くと、テキストだらけになってしまいます。文字の多さで圧迫感を与えないよう、ポップな印象を与える作りを意識して開発に取り組んだわけです。
もともと、野球を題材にしたゲームを開発する際も、ゲーム上では選手のステータスとして扱われるものは、選手の能力に興味関心を持ってもらいやすいように表現してきました。「NPB+」ではそういった知見を活かしています。
――実際のところ、「プロスピ」シリーズの関係者は「NPB+」開発にも関与されたのでしょうか。
田村氏
一部、関わっています。
――おおお。
田村氏
見る人が見ればわかるんですけども。そもそも「プロスピ」シリーズの画面の一部を使っているところもあります。そういう点も含め、社内の知見を取り込んだんです。
――そもそもで言うと、コナミデジタルエンタテインメントが関わることになった理由ってあるんでしょうか?
田村氏
KONAMIから声をかけたと言いますか、以前から「プロ野球全体を盛り上げたい」と活動してきたんです。ゲームを提供することでの関わりはありましたが、プロ野球の盛り上がりがもうひとつレベルアップしないといけないよね、という考えが、私たちの根底にずっとあるんです。
で、ゲーム以外の形も含めて何かできないか、プロ野球のファン層の裾野を広げられないかというお話は、NPBEの方々とずっとお話をしていました。
――「NPB+」開発のきっかけというよりも、ずっと前から双方でコミュニケーションしてきたわけですね。
田村氏
そうです、これに限らず。
ユーザーの反響
――昨年10月にテスト版を出してみて、反響はどうでしたか? 新たに見えた課題もあったのでしょうか。
丹羽氏
昨年のクライマックスシリーズ・日本シリーズにあわせてテスト版を提供しましたが、その際、プロモーションは一切しませんでした。関係各社がプレスリリースを出した程度です。
それでも、ダウンロード数は40万件を超えたんです。私たちとしては、非常に驚異的な数と受け止めています。
実際に、利用された方の年齢層を見ると、約8割が10代~30代でした。
私だけかもしれませんが、「野球ファンと言えば50代以上」なんてイメージを持っていたところもありましたので、「8割が10代~30代」にはとても驚きました。
特に10代、20代の方に多くご利用いただいて、デジタルネイティブな世代に受け入れていただいた。若い方でも野球好きがものすごくいらっしゃることも実感できました。さらに「ホークアイ」のデータに対して、「こんなことまで出してくれるんだ」といった声もありました。
私たちからすると、これまでアプローチしづらいと思っていた層ですし、そうした方々にこれほど突き刺さるとも思っていなかったというのが、本当に正直なところです。
――嬉しい反響ですねえ、それは。
田村氏
KONAMIとしては、ゲームアプリには10代、20代、30代のお客さまが多くいらっしゃいます。「NPB+」もご利用いただける潜在的な可能性はあると信じてはいました。そして、ちゃんと結果として、実際にご利用いただけたと感じています。
ご利用の反響を見ると、「ここまで数字(データ)を見せてくれるんだ」と、お客さまが驚いてくれていました。3社で描いた方向感が間違っていなかったんだ……と確信できたとも思っています。
――取材しているこちらまで、ちょっと感動しちゃいました。そんな反響を得るに至った「NPB+」開発時のエピソードも聞いてみたいところです。たとえば、NPB+というアプリで提供したいこと、実現したいことという方向性自体は12球団からすぐ同意を得られたんでしょうか。
丹羽氏
12球団とお話しして否定的な意見はありませんでした。先述したように、各球団だけではアプローチしきれない層やコンテンツ・企画に取り組みたいという点ですとか、データの民主化を進めて市場を形成したいという点ですね。そういう意味では、各球団から応援いただいています。
とはいえ、「ホークアイ」のトラッキングデータをどう活用するか、ということに関しては、本当にもう喧々諤々、議論を重ねましたね(笑)。
田村氏
ゲームを手掛けてきた私たちですが、情報サービスや情報アプリについての知見が必ずしも十分とは言えなかったと思います。初めて経験することや、事前に見えていなかった点にも取り組んだのは苦労した点のひとつです。
それから、アプリとしては「リリース」はゴールではなくスタートです。どう運用していくかは、これからの取り組みですね。
小沢氏(ソニー)
ソニーとしては、「ホークアイ」のトラッキングデータの提供という、縁の下の力持ちに徹していますので、常日頃の努力はあります(笑)。
実は、「NPB+」には、トラッキングデータだけではなく、3D CG化したコンテンツも提供しているんですよ。
――え、そうなんですか!?
小沢氏
たとえばホームランの場面で、飛距離や打球の角度をビジュアライズして、わかりやすく見せるという3D CGをソニー側が生成しているわけです。
ホームランでの動画(2025年秋バージョンでのもの)
ですので、「ホークアイ」のデータをいかに「すごいね」と思っていただけるようにデザインするか。ソニーのデザインセンターのスタッフにも関わってもらって、試行錯誤して開発したんです。
――てっきり、そのあたりはKONAMI側が全て担っていると思い込んでいました。
小沢氏
ホークアイのデータの見える化、ビジュアライゼーションのコンテンツ化は、ソニーが担当しています。
――例としてホームランを挙げていただきましたが、ピッチングも?
小沢氏
はい、そうです。一球速報はKONAMIさんが担当し、データを活用するビジュアライゼーションコンテンツはソニーが担っています。
丹羽氏
データをもとに、打球・投球の軌跡をわかりやすいビジュアルにすることで、ライブ感や臨場感を演出し、結果的に「ライト層も楽しめるアプリ」としての役割を果たせているかなとも考えています。データ(数字)だけではなく、選手の動きを想像させるグラフィックで楽しんでいただけるかなと思っています。
たとえば各ランナーの動き、守備の動きも見えるようにしていて、「打球を捕ったあと、一塁への送球時には、別の選手が一塁の後ろへ回り込んでフォローしているんだ」ということまでわかるんです。
――嬉しいです、これは。
ホークアイのデータも一歩一歩
――そもそもで言うと、ホークアイで取得できるデータはどれくらいあって、どう「NPB+」へ活用されているんですか?
小沢氏
「ホークアイ」でのトラッキングデータは、ありとあらゆると言いますか、かなりの種類があります。
ただ、「NPB+」開発にあたっては、ファンの皆さんに喜んでいただけるだろうデータを、NPBさん、KONAMIさんとお話しながら取捨選択していきましたね。
やっぱり「プロ野球選手の凄さをどれだけ伝えられるか」という点が一番の肝です。そのコンセプトに基づいたデータが活用されていまして、たとえば投手では投球の回転数、変化球での縦横の変化量です。シュートやカーブがどれだけ曲がっているか、データで示せますので。
一方、打者では、スイングスピードや打球の角度などです。大谷翔平選手の活躍もあって「バレルゾーン」(長打の可能性が高まる打球速度と打球角度の組み合わせ)という言葉が知られるようになり、打球の角度や飛距離への関心が高まりましたので、「NPB+」でも含むようにしました。
それ以外ですと、ホームランの打球の高さも表示しています。繰り返しになりますが、プロ野球選手がいかにすごいか、ということを中心に考えましたね。
とはいえ、たとえば「球の回転数ってどういう意味があるの?」と疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょう。そのあたりをどう表現して、お伝えしていくかは今後の課題です。
また、データを3D CGにして見せていく点も、いかに工夫していくかという点も引き続き取り組むべき課題です。「データの意味の伝え方」「データの見せ方」という2本立てで取り組んでいきます。
――昨秋の「NPB+」テスト版で十分興奮した身からすると、「ライブ感・臨場感をもたらしたい」という目標は達成できたように思えます。そうした活用するデータの項目自体は、異論なく進んだのでしょうか。
小沢氏
プロ野球関連データの解釈という点は、日本ではこれからもっと盛り上がっていく分野だと思います。「データの民主化」というワードもありましたが、投球の回転数、スイングスピードなどのデータだけではなく、「こういう要素を組み合わせるから、こうなるんだね」と理解していただけるようなところも目指したいですし、ソニーとしてもご一緒したいです。
九鬼氏
私はもともと、球団で戦略にも関わってきたところがあります。そこでさまざまなデータを見てきました。たとえば「投球の回転数が高い(多い)と何がいいのか」を理解しながらデータを読み解くことができる方が多くはないとも思います。
そう考えると、回転数は(多いほど落下しづらく“伸びる”とされるので)わかりやすい数字です。アマチュアの選手たちにも影響があることを想像していまして、どのデータを見せるか見せないか、結構、選び抜いています。
まだ「NPB+」アプリでは出していませんが、外野手のルート効率化みたいな話もあったりとか面白い話が裏にいっぱい控えています。現時点では、キャッチーな見せ方を優先したとイメージしていただければ。
――外野手のルート効率化! すごい……拝見してみたいです。何をクリアしたら、そうしたデータの採用にいたるんでしょうね。
九鬼氏
本音としては、ファンの皆様の理解と私たちの出し方、一歩一歩、息を合わせながら進んでいきたいです。データを通じて、野球の楽しみ方、新しい発見といったものをお伝えして、ステップバイステップでいきたい。うまく行けば「来年はバッティングに特化した話を広げましょうか」といった話に進展するかもしれません。そういう“ネタ”はいっぱいあります(笑)。
――本当もう楽しみです。
九鬼氏
そういう意味では、世界的なイベントについても頑張りたいなと思っています。
――まもなく始まる世界的な野球イベント――期待しています……!
SNSでの共有
――そうしたデータで示される選手の動きは、SNSへ投稿できますよね。このあたりの扱いはやはり課題だったんでしょうか。
丹羽氏
NPBとしては、一般に公開してファンの皆様に楽しんでいただけるデータとして加工してご提供しています。現状、ご提供しているものは、センシティブなデータというわけではなく、SNSでもご活用いただけるものと考えてご提供しています。
そのため、シェア機能もご用意しました。データの民主化、データを通じた新しいプロ野球の楽しみ方と選手のすごさを伝えたい……ということを踏まえると、SNSでのシェアはありだろうと。
一方で、「データはあくまで参考」と示しており、選手や審判に対して誹謗中傷はやめてほしいとお伝えしています。
――ああ、確かにそうですね、審判が判断を下すものですし。
いざ2026年シーズン、「NPB+」の新機能
――さて、2026年シーズンでは、どういった機能が盛り込まれるのか。先に記事などのコンテンツの拡充という話がありましたが……。
九鬼氏
テスト版との差分という意味では、12球団の各選手の成績について、深いところまで情報を掲載するようにします。ぱっと見た印象も昨秋版と比べてだいぶ変わったと感じていただけるでしょう。
それからニュースも掲載しますし、先にお伝えした記事ではコラムや解説記事を予定しています。
お気に入りの選手も登録できるようになります。これは、「球団ファンにはなっていないけど、この選手は気になる」という方も多くいらっしゃるんですよね。
田村氏
これは、私たちのゲームアプリを楽しんでいただいている方で特に多い印象です。「この選手は強いから、いつも使っている」と。
九鬼氏
その選手しか知らないという方には、まず選手をお気に入りに登録していただいて、どう活躍しているかわかるようにします。
田村氏
細かいところでは、テスト版で一球速報をご提供していましたが、今回は大きくチューニングして、「この細かいところまでわかるのか」とブラッシュアップしています。
――これからの進化も期待しております。ありがとうございました!






