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NTT・KDDI・ソフトバンクの担当者が語る「宇宙ビジネス」と「LEO衛星/HAPS」の未来とは、宇宙ビジネスイベント「NIHONBASHI SPACE WEEK 2025」で講演
2025年10月31日 20:29
宇宙ビジネスイベント「NIHONBASHI SPACE WEEK 2025」が、東京・日本橋地区で10月28日~31日に開催された。
31日には、NTTとKDDI、ソフトバンクの非地上系ネットワーク(NTN)担当者が登壇した講演「Beyond Terrestrial 2025 — 宇宙×通信がつくる新しい公共」が開催され、各社と講演を主催するセックの4社による、宇宙と通信が作る未来が語られた。
光通信で宇宙にネットワークを広げるNTT
NTT研究開発マーケティング本部・統括部長の木村吾郎氏は、同社が目指す宇宙ビジネスのビジョンを説明する。光通信の普及により宇宙コンピューティングのインフラを構築することを目指すとし、設立した宇宙ビジネスのブランドについて「グループの技術者を集めて取り組んでいる」と全社を挙げたプロジェクトであることを強調した。
同社では、成層圏を飛行するプラットフォーム「HAPS」によるモバイル通信サービスの実現に向けて取り組んでいるが、これ以外にも衛星による観測ビジネスにも力を入れている。木村氏は「自前で衛星を打ち上げてサービスを提供する」点を強調する。このほかにも、宇宙にある衛星同士の通信を「電波」から「光」による通信に転換することで、観測したデータをすぐに地上に伝送できるようになると考え、同社の光通信技術を含めた技術群「IOWN」の技術開発と普及を進めているという。
同社が宇宙ビジネスを目指す理由について木村氏は「日本のレジリエンスの強化」とコメント。これまでの地上や海底といった場所でのネットワークに、あらたに宇宙を加えることで冗長性を確保できると指摘。さらに、観測サービスを普及させていくことで、さまざまな産業のDXが進むという。さまざまなユーザーに、いかに使いやすい形で普及させていくかが重要になると話す。
先述のIOWN技術にあたっては「ゲームチェンジをしていきたい」と語気を強める。通信で使用する電力は、電波より光の方が少なく、これをCPUやサーバーなどデバイスの内部にまで拡大することで、デバイスの消費電力自体が削減される。木村氏は「初めて公開するスライド」とし、より低消費電力が求められる宇宙環境でも高速通信が期待できる新しいチップを公開。これらのIOWN技術を海外にも売り込むことで、「技術」を持って宇宙に売り込んでいく姿勢を示した。
いち早く衛星と直接接続、月面5Gを目指すKDDI
KDDIコア技術統括本部技術企画本部技術企画部通信プラットフォームグループグループリーダーの志田裕紀氏は、日本ではじめてスマートフォンと衛星が直接通信できる商用サービスとなった「au Starlink Direct」にも携わったといい、Starlinkの可用性について説明する。
au Starlink Directは、Starlinkの通信衛星とスマートフォンが直接接続することで、圏外でも通信できるサービス。テキストメッセージだけでなく、画像の送受信や対応アプリでのデータ通信も利用できる。
そのStarlinkだが、災害時にも活躍を見せる。大規模災害で通信路が寸断されている場所でも、Starlinkの機材を持って行くだけで、すぐに通信を提供できる。志田氏は特にStarlinkの「手軽さ」を強調する。志田氏は、実際に能登半島地震でStarlinkによる通信の提供現場に立ち会ったといい「キットを持って行って、すぐにアンテナを立ち上げて、通信サービスを提供できた」と、機動力の高さを指摘した。
Starlinkでは、このほかにも山小屋Wi-FiやフェリーWi-Fiなど、平時からサービスエリア外となる場所への通信サービスも提供している。山小屋Wi-Fiでは延べ4万人、フェリーWi-Fiも1万人以上が利用したほか、災害時に山小屋Wi-Fiを災害時に無料開放するなど、災害時の備えとしても有用に機能している。
一方、同社の宇宙ビジネスについては、今後「月と地球間の通信」を3年後に実現すると説明。2030年には、月面にタワーを建てて5Gエリア化する計画を立てており、月面での活動時に通信を提供できるよう取り組みを進めていく。
衛星とHAPSを組み合わせたAI・モビリティ社会を目指すソフトバンク
ソフトバンクプロダクト技術本部ユビキタスネットワーク企画統括部衛星ビジネス開発ディレクターの砂川雅彦氏は、ソフトバンクグループ全体で取り組んでいる“AI”について、そのAIが動く基盤への投資を進めていると話す。その基盤の中で、HAPSや衛星を上手く組み合わせて、次世代社会インフラとして開発していくという。地上系ネットワークによる圏内と圏外だったエリアがHAPSや衛星で結ばれることで「コンシューマーだけでなく、産業そのものにイノベーションが起こる」と指摘し、社会全体のインフラとして重要な立ち位置にあると砂川氏は説明する。
HAPSへの取り組みについては、飛行機型のHAPSに必要な要素技術の開発を進めたほか、HAPSで使える周波数の拡大への取り組みも並行して実施。そして、2026年のサービス開始を目指す“飛行船型”のHAPSでは、地上面で直径200kmのカバレッジでサービスを提供する。離島などのデジタルデバイド解消のほか、圏外になることを避けたいドローンの飛行などでHAPSによる通信を提供していく。
砂川氏は、災害時にもHAPSが有用に活用できると指摘する。日本の上空を飛行し続けるHAPSをリモートで調整できるようになれば、被災地を中心とした通信の提供ができるほか、観測機器を搭載すれば被災状況をいち早く確認できるようになる。画像データを解析するソリューションと組み合わせれば、被災地の災害対策班などにわかりやすく情報を提供できるようになると話した。
また、コネクティッドカー向けのビジネスについても言及する。自動車の世界では、近年通信性能を持つコネクティッドカーが増加傾向にある。自動車の高度化がソフトウェアによってなされる時代になってきており、リモートで機能が拡充されたり、遠隔監視、自動運転支援など、通信により可用性は広がってきている。同社では、グローバルで展開するコネクティッドカー向けプラットフォームを開発する「キュービック」を連結子会社とし、取り組みを強化。これに、HAPSをはじめとしたNTNを組み合わせることで、常時繋がるプラットフォームをグローバルで展開できるようになる。
さまざまな分野でソフトウェアを開発するセック
講演を主催したセックは、リアルタイムソフトウェアに強みを持ち、人工衛星など即時判断が要求されるものに搭載されるソフトウェアを開発している。執行役員(宇宙ビジネス推進担当)開発本部研究企画室長松久孝志氏は「通常起こらない事象を想定し、しっかりと自動制御で動き続けるようにリアルタイムで制御するもの」と説明する。
ダムなどの公共施設のソフトウェアなど、宇宙以外にもさまざまな分野のソフト開発を手がけており、「圧倒的な開発実績」を持つのも同社の特徴の1つ。宇宙以外で培った技術を宇宙に転用することもあるといい、宇宙にある多くの衛星のソフトウェアを手がけている。そんな、宇宙にあるソフトウェアをアップデートするとなった際にも、宇宙での高速通信は欠かせず、同社は宇宙での通信の高度化に期待する企業の1つ、とも言える。
トークセッション
後半には、NTT木村氏とKDDI志田氏、ソフトバンク砂川氏によるトークセッションが行われた。モデレーターは、セックの松久氏が務めた。
国土強靱化や災害に対する有用性
NTT木村氏は、国土強靱化の観点で防災について「いかに準備をしておくかが重要」と指摘する。宇宙ネットワークを整備しておくことで、よりつながる手段を用意しておくことや、データセンターの分散化においてもエネルギー問題だけでなく、バックアップとしての分散化も重要になると話す。IOWNは、このデータセンターの分散化や災害時の電力問題にも有効となるといい、災害時にも少ない電力で運用できる面で、国土強靱化にも貢献できると語った。
KDDI志田氏は、「au Starlink Direct」商用化についての苦労話を語った。地上の基地局より広い範囲をカバーするStarlinkの衛星では、多くのユーザーで帯域幅を共有するため、通信量が多いとそれだけ帯域を圧迫してしまう。端末メーカーやアプリベンダーと協力して、「衛星通信に最適化したモード」を用意してもらい、商用化することができたとし、今後のアプリ拡充にも期待して欲しいとした。
一方、衛星よりも地面に近いHAPSの開発を進めるソフトバンク砂川氏は、「低遅延性」を挙げ、災害時にもドローンなどで被災状況をすぐに確認できる点を指摘。衛星よりも近いため、アップロードも早く、低遅延でドローンのコントロールもしやすくなると、HAPSならではのメリットを説明した。
めまぐるしく進化する通信技術と宇宙開発
講演の終盤、宇宙事業に携わってよかったことを問われたNTT木村氏は、「人生の中で宇宙はすごく遠いものだと考えていた」としたが、「LEO衛星の高度500km、東京と大阪の間と同じくらい」という木村氏の上司の言葉を挙げ、そこまで遠い存在ではないと感じたとコメント。特に、au Starlink Directによる直接通信が個人でもできるようになり「サービスとして実感すると、非常に身近なモノに感じるのではないか」と、ぐっと宇宙が近くになったものと指摘する。
KDDI志田氏は、SpaceXとの付き合いの中で、ものの向き合い方に感じるものがあると話す。携帯通信の業界では「すごくレガシー。保守的に検証しながら、時間を掛けて進めていっている」一方、SpaceXでは「未知のものに向かっていくときに、最低限の機能から出す」ようにし、最低限から徐々に磨きをかけているという。小さいことから早く展開していく考え方に、発想を変えていかなければいけないと語る。
ソフトバンク砂川氏は、通信技術の発展の速度にも目を向け「昔は電話だったものが、インターネットの接続にも、ダイヤルアップ接続からADSL、光ファイバーと進化してきた」と言及。衛星による高速通信も、できると想像していた人は多くなかったと語り、宇宙ビジネスに参画することで、最新技術にいち早く触れる機会ができたと宇宙開発技術の展開速度を指摘した。





































































