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ソフトバンクの災害対策訓練、テーマは「多様化&深化」

 ソフトバンクは17日、大規模な自然災害への対応力を強化する目的で、関東総合防災訓練を実施した。訓練では、新型の可搬型基地局の設置や有線ドローンの操作などが行われた。

進化する災害対策、大規模災害への備え

 昨今、東日本大震災や能登半島地震といった大規模地震、毎年の台風、さらには線状降水帯による集中豪雨など自然災害が相次ぐ中、同社は災害対策の強化を進めている。同社エリア建設本部本部長の柴田克彦氏は、能登半島地震や大船渡市の山林火災、八潮市の道路陥没事故など、最近の災害対応の事例を紹介。とくに山林火災では、入場規制の厳しい現場で消防隊と連携し、ドローンを活用して立ち入り困難なエリアを上空から広範囲に確認でき、大きな効果を発揮したと説明した。

ソフトバンク エリア建設本部 本部長 柴田克彦氏

 将来予測される南海トラフ地震や首都直下地震のような、これまでにない規模の甚大な災害を想定し、同社は復旧に要するサイト数が能登半島地震の約10倍以上になると見込む。これに対応するためには、使用するソリューションやツールの性能を向上させる必要がある。

 将来的に想定される南海トラフ地震や首都直下地震では、復旧対象となる基地局の数が能登半島地震の10倍以上に達する見込みであり、それに備え、ソリューションやツールの性能向上が求められている。従来、通信ケーブル断線時に基地局の通信経路を確保するために用いていた「MP-100」に加え、設置が容易で軽量な「Starlink」を導入。状況に応じて両者を使い分ける運用も始まっている。MP-100は引き続き高い品質を維持していることから、現場の状況に応じた柔軟な選択が可能となった。

MP-100
ケースも新しくなっている
重さは約30kg

 新型の可搬型基地局も投入され、従来262kgあったものが95kgへと軽量化。設置時間も120分以上から60分以内に短縮され、空気ポンプでアンテナを立ち上げる仕様となり、力に不安のある作業員でも簡単に設営できるようになった。

展開前
空気ポンプを踏んで上へ伸ばす

 災害発生時には、DXシステムを活用し、作業班の位置・走行経路・発電機や衛星ソリューションの所在をリアルタイムで把握。従来はコントローラー班からの一方通行だった通信も、アプリ化により現場からの情報や写真のアップロード、班同士の情報共有、双方向通信が可能になった。さらに、平常時・災害時を問わず、人流データや通信接続率、スループットといったビッグデータを活用し、優先復旧エリアの判断や復旧後の通信品質確認に役立てている。今後は、基地局の被災状況やエリアの人口、作業班の位置・スキル・装備などの情報をAIが集約・分析し、最終的にはAIが作業員に直接指示を出す運用も構想されており、近い将来の実現を目指しているという。

連携強化と後方支援で災害現場を支える

 さらに、災害時の迅速な復旧を図るため、通信事業者間の連携も強化。能登半島地震以降、各社が所有する給油拠点や仮設基地局を共同で利用する取り組みが進んでおり、1月と3月には4社合同の共同利用訓練も実施された。

NTTの船舶に搭載したソフトバンクの基地局

実践的な訓練で「人」の対応力を高める

 訓練では、人の対応力向上も重視され、昨年度は全国で144回の訓練を実施。国や自治体、自衛隊との合同訓練も行い、今回の関東総合防災訓練は「備えよ大規模災害 多様化&深化」をテーマに、約160人規模で実動形式で実施された。実際の訓練内容には、新可搬型基地局の設置、有線給電ドローンの運用、ベースキャンプ開設、移動電源車の運用など、6つの実動訓練が含まれている。

 同社の災害対応設備は多様で、移動電源車や移動基地局車、全国に約1400台配備された可搬型発電機をはじめ、発電機には「インテリジェントタンク」を導入し、給電時間を3.5時間から24時間に延長。

インテリジェントタンク。従来は約8時間毎に発電機に給油が必要だったが、自動で給油してくれるようになった

 また、有線給電ドローンは最大100m上空まで上昇し、半径3~5kmのエリアをカバー。障害物や立ち入り困難な場所での通信確保にも効果を発揮する。

白い棒がアンテナとなっており、2.1GHzの電波を放出する
繋がっているケーブルはドローンへ給電するためのもの

 避難支援用品としては、空気ポンプで簡単に設営できる災害テント、悪路対応バイク、会議室機能を備えた移動型拠点車両「MONET」なども用意。MONETはStarlinkによる通信機能とソーラーパネルも装備し、停電時でも通信・拠点機能を維持できる。

災害テント
5分ほどで膨らむ
中もしっかりとしている
MONET
車内には座席や机があり、会議室のようになるという
通信はStarlinkを使用
ガソリンがなくなっても続けられるようにソーラーパネルを装備
悪路を走行できるバイク
「MP-100」などをまとめて運搬する際に使用する

 今後の取り組みとして、地上設備に依存しない広域カバーを目的とした「空からの対策」となるNTN(非地上系ネットワーク)にも期待が寄せられている。すでにEutelsat OneWebについてはアンテナ包括免許と地球局免許の取得を完了しており、早期運用を目指す。HAPSについても商用化に向けた技術検証が進んでおり、近い将来のサービス化が視野に入ってきた。

 ソフトバンクは、これら先進技術の導入と実践訓練、事業者間の連携を通じて「そのとき、つながるということ」を実現するべく、災害対策への取り組みを今後も継続的に強化していく。

その他の展示
避難所向け小型通信システム。手前のStarlinkを屋外に設置し、隣のシステムを屋内に設置する。ここからはソフトバンクの5G/LTEと無料Wi-Fiが出る
手前のアンテナは、屋外向け。また隣の小さく丸いものはGPSシステム
移動型基地局
指向性アンテナは向きの変更が可能
移動時など使用しないときは、車内に収納され、アンテナ部分はたたまれてコンパクトになる