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無線でワイヤレス電力伝送する「AirPlug」が法人向けに4月1日発売、その仕組みは?

エイターリンクの岩佐CEO(左)と田邉CTO(右)

 スタートアップ企業のAETERLINK(エイターリンク)は、ワイヤレス給電ソリューション「AirPlug」を4月1日に発売する。主にオフィス向けで、コンシューマー向けには販売されない。

AirPlugのシステム構成機器

 AirPlugの最初のプロダクトは、オフィスの空調を効率化させるソリューションになっている。専用の送電機と受電機を内蔵する各種センサーデバイス、それらを制御するサーバーから構成される。温度センサーをオフィスフロアの各所に配置し、そのデータをもとに空調を効率化させる。大まかな導入コストは550平方mで300万円程度。

実証実験結果。設定温度と室温のギャップを減らし、快適さを向上させつつ、消費電力を減らしている
普通の空調は天井などの室内機に温度センサーを内蔵するが、AirPlugであれば人間のいる場所の近くに室温センサーを配置できる

 一般的なビルの空調システムでは、温度センサーがエアコン室内機やリモコン部に装着されているため、実際に人間がいる場所を冷やせていない、冷やしすぎるといったことが起きうる。

 AirPlugは人間がいるところに室温センサーを設置し、そのデータを元に空調をコントロールする。

 実証実験では空調の電気使用量を約26%低減させたという。オフィスビルにおける空調の消費電力は膨大なので、数年で導入コストの元が取れるとしている。

AirPlugの送電機

 AirPlugを実際のオフィスビルに導入しやすくなるよう、送電機は天井に埋め込むタイプの「PowerTx-C」に加え、照明機器設置などに使われるダクトレール向けの「PowerTx-D」も製品化されている。

AirPlugの受電デバイス

 受電側のデバイスとしては、温度・湿度センサーだけでなく、人感センサーやCO2センサー、紛失防止タグのように位置情報を検出するためのビーコンも開発されている。さまざまなソリューションに応用展開できるようになっている。

AirPlugのワイヤレス給電の大まかな仕組み

 AirPlugは920MHzの電波を使って電力を伝送する。

 この周波数帯は4G/5Gのバンド8に隣接するが、RFIDなどにも使われる構内無線局向けの帯域で、1Wまでの出力が可能となっている。AirPlugではこの帯域の2チャンネルを使うという。

AirPlugの送電機は照明機器のように部屋の天井に均等に配置する

 到達距離としては、実測で17m程度まで伝送できることが確認できているとのことだが、例えば広いオフィスフロアを全体を給電エリア化する場合、その天井に3~6mおきに送電機を設置する形となる。大雑把に2~4mくらいの距離で電力を伝送するイメージだ。

AirPlugの送電機と受電デバイス

 受電デバイスはそのエリア内であれば好きな場所に設置できる。方向なども自由だ。920MHzの電波は障害物を回り込みやすい特性もあるが、金属の机に置いたりすることはできない。

 AirPlugはこの種のワイヤレス給電としてはシンプルな仕組みを採用している。まず、送電機は通信をせず、受電するデバイスが範囲内に居るかどうかは関係なく、電源が入っていれば、ただ継続的に送電の電波を発し続ける。

ダクトレール型の送電機

 送電する電波はビームフォーミングなどはされず、普通の通信・放送の電波同様、広い範囲に向けて放射状に放出される。

 受電機はこの電波をアンテナで受け、そこに発生する電力を整流して利用する。ゲルマニウムラジオや鉱石ラジオなどの電源を使わないラジオ受信機と似ているが、送電機が発するのは単純な正弦波で、情報伝達はしない。

 ビームフォーミングしないとなると、効率の面でも、周囲の電子機器や人体への影響の面でも、出力は小さくならざるを得ないが、AirPlugはそれを良しとするデザインだ。

受電デバイスの底面。四隅にアンテナらしき線が見える

 受電する側は、放射状に広がっていく電波をたくさん捕まえた方が電力を得られるので、受電アンテナは大きい方が良いし、送電機から遠くなると得られる電力は少なくなる。

 送電機は、約1Wを出力する。簡略化して例えると、送電機が6m四方の床面に対して電波を出力すると、床面に置かれた6cm四方のアンテナは、電波の投影される面積の0.01%となり、最大効率であっても0.1mWの電力しか得られない。これはスマートフォンなどにとっては小さな電力だが、センサーデバイスにとっては十分な電力だ。

 例えばCR2032規格のボタン電池は、約0.6mWの出力と約660mWhの容量しかない。こうした小型電池で数カ月稼働するようなセンサーデバイスであれば、AirPlugでも十分に動かせる。

こちらは天井埋め込み型の送電機。天井パネルに穴を開けてはめ込む

 実際にはAirPlugの受電デバイス側には充電池が搭載され、常時降り注ぐ電波から電力を蓄え、その蓄えた電力で間欠的にセンサーを動かしたり通信したりする。間欠動作するのであれば、AirPlugの出力が小さくても、そこそこのことができる。

 送電は全方位(といっても天井の送電機からは床面方向にしか電波は吹かれないが)に出力されるので、エリア内にいくつの受電機があっても構わない。AirPlugの仕組みだと、受電機がとらえなかった電波は建物や家具、人体などに反射したり、吸収されたりするだけなので、むしろ受電機が大量にあったほうが電力の有効利用になる、とすら言える。

 実際のAirPlugの送電機では、6W程度の消費電力で1W程度の電力を出力する。

 6Wというと小さめのLED電球程度、オフィス照明に使われる直管型LEDの数分の1だ。送電機の消費電力も設置場所も設置間隔も照明に似ているので、照明向けの配線を流用しやすく、ダクトレールに設置できる送電機も用意されている。

オフィスでの実証実験環境。ここでは500平方mに21台の送電機が設置された

 AirPlugは現状、主にオフィスビルや工場といった環境向けで、家庭向けには使えない。

 家庭向けで使えない理由の一つは、現行の法制度で920MHz帯は建物外に漏洩する環境では使えないからだという。

 例えば、Low-Eとも呼ばれる金属薄膜が使われている遮熱ガラスであれば、1GHz前後の電波を反射して透過させないが、木造や鉄骨造の一般的な戸建では、壁面を貫通する可能性がある。現行法では、壁式RC造や鋼板外壁で、遮熱ガラスを採用する建物、つまりオフィスや工場向けというわけだ。

風船にAirPlugの受電機とLEDを貼り付けたデモンストレーション
LED付きの整流回路はセロハンテープの幅の1/3くらいとかなり小さい

 AirPlugの特徴の一つとして、受電装置の仕組みがシンプルなため、受電装置もシンプルということも挙げられる。今回の記者説明会では、風船に貼り付けた受電アンテナと小さな整流回路でLEDを光らせるというデモンストレーションも行われていた。

 このように簡易な受電デバイスを作れるのもAirPlugの特徴だ。送電範囲内にどれだけの受電デバイスがあっても関係ない送電システムとの相性も良い。

国際標準化も目指す

同社の事業

 AirPlugを開発するエイターリンクは、今回製品化したビルマネジメントシステムを事業領域の三本柱のひとつと位置づける。ファクトリーオートメーション分野では、大手センサーメーカーOEMをパートナーとし、世界で展開している。メディカル分野では、医療機器メーカーをパートナーとし、米国から展開する。今回のビルディングマネジメント分野は、大手のゼネコンや不動産会社をパートナーとし、2025年には100棟以上で導入を予定しているという。

国際標準化への取り組み

 同社は海外展開にも積極的で、国際標準化へも積極的に取り組んでいる。昨年11~12月にかけてドバイで開催された国際電気通信連合(ITU)の世界無線通信会議(WRC-23)では、同社の提案もあり、無線電力伝送(WPT)の周波数確保について次々期会議(WRC-31)の暫定議題とすることが採択されている。

宇宙からの給電構想

 記者説明会においてイーターリンクの岩佐凌CEOは、「ワイヤレス給電は面取りゲームだと思っている。自宅にソフトバンクのWi-Fiがあって、フレッツのWi-Fiを追加する人はいない」と語り、先行することの重要さを強調する。

 その上で、「宇宙からの給電」についても考えていると明かす。宇宙からの給電については中長期的な計画としつつも、「ニコラ・テスラが100年前に掲げた夢(World Wireless System=世界システムと呼ばれた構想)も、私どもであれば解決できると考えている」と語った。