【CES 2016】
無線で“どこでも充電”を実現、KDDI出資の無線送電システム「Cota」
(2016/1/8 17:46)
KDDIと資本提携したOssiaは、同社の無線送電システム「Cota」のデモを「CES 2016」の同社ブース内にて行っている。今回はKDDIとOssia共同で日本のプレス向けのブースツアーが行なわれたので、実機によるデモやCotaの仕組み、特徴をレポートする。
まずCotaを大まかに説明すると、数メートル離れた場所にも電力を供給できるという無線の送電システムだ。Wi-Fiと同じ2.4GHz帯の電波を使い、受電側のデバイスの位置や方向は問わない。送電側からは、複数の受電デバイスに対し同時に送電することや、指定した受電デバイスだけに送電することもできる。
このため、「Qi」などの近接の非接触充電方式と異なり、Wi-FiやBluetoothで正常に通信できるような環境であれば、「充電台の上に置く」といったことは不要で、数メートル離れているような場合でも送電できる。
電波の逆行性を使い、受電デバイスで焦点を結ぶ
Cotaの仕組みを説明すると、以下のようになる。
まず受電デバイスが2.4GHz帯の電波で信号を発信する。この信号は周囲の環境に反射・回折しつつ、送電ステーションに到達する。反射・回折しているので、信号はさまざまな方向から送電ステーションに伝わるが、送電ステーションはその方向に対し、送電用電波を出力する。
一般的に、光を含む電波には、必ず経路を逆行できる性質がある。送電用電波は、最初の信号とまったく同じ経路を逆にたどり、受電デバイスに到達する。送電ステーションからさまざまな方向に放たれた送電用電波は、受電デバイスのアンテナで焦点を結び、最大出力となる。
焦点となる受電デバイスの近くであっても、数センチ離れれば健康被害などのないレベルにまで落ち込むという。基本的には2.4GHz帯の電波を使うだけなので、Wi-FiやBluetoothと同じ環境で使え、かつチャンネルさえ別になっていれば、通信への影響もないという。
送電ステーション側にはさまざまな方向を向いた多数のアンテナが内蔵されており、それらで信号の受信と電波による送電を行なう。内蔵アンテナ数が多いこともあり、デモに利用されている送電ステーションは家庭用のごみ箱くらいの大きさとなっていた。
一方の受電デバイス側はシンプルで、専用の処理チップに加えパワーマネージメント回路、送受信アンテナがあるだけで済む。こちらのサイズはすでにかなり小さく、単三電池サイズの中にリチウムバッテリーとともに実装したものが開発されている。
たとえばデバイスの設計にCotaを追加する場合、処理チップを追加する必要があるが、パワーマネージメント回路については、そのデバイスがもともと持っているパワーマネージメント回路をCota対応のものに置き換えるだけでも良い。
アンテナに関しても、Wi-FiやBluetoothなど、2.4GHz帯の通信アンテナと共用できるという。ただし通信と送電は特性が違うので、筐体内のアンテナ配置や数は、送電に適したものに変更した方が良いとのことだ。
いずれにせよ、明確に追加が必要なのは処理チップだけになるので、実装面積は少なく済み、小型機器にも内蔵しやすい。コスト面でも有利で、専用チップは現状では高価なものの、量産体制に入れば1ドルや2ドルといった単位で供給できるという。
ちなみにCota上では、電力とは別に1Mbps程度の双方向通信が可能だという。これを利用し、電池の残量など各機器の状況を送電ステーションに送り、クラウド上で管理するといったことも想定されている。
現在開発されている送電ステーションの能力では、単三電池型の受電デバイスならば、同時に20本を充電できるという。Cotaでは時分割で複数台への送電を行うので、台数の増加には柔軟に対応できる。
機器の中で充電され続ける単三電池
ブースではまず、Cotaの受電ジャケットを装着したスマートフォン(INFOBAR)に送電するデモンストレーションが行われた。デモにおけるCotaの送電能力だと、スリープ状態ならば充電が可能だが、たとえば動画のストリーミング再生時のような消費電力には追いつかないという。
現状のスペックでは1Wの送電が可能としているが、これはUSBなら5Vで0.2Aを流したときに相当し、1A以上で充電できる機種も多くなっているスマートフォンにとっては、少々小さめと言える。イメージとしては、スリープ状態なら1時間で10%を充電できるといった程度になる。
Cotaの本領が発揮されるのは、消費電力の小さな家電製品や、IoT機器で使ったときだ。
続いてのデモでは、Cotaを内蔵した単三電池型受電デバイスを2本、ドア用のスマートロックデバイスに装着し、それぞれへの給電オン・オフを切り替えるデモが行なわれた。双方向通信できるので、各電池の残量を確認したり、認証された機器にのみ充電したりするといった使い方が可能なわけだ。
Cotaの送電能力は決して高くないが、たとえばテレビのリモコン、マウスやキーボード、センサーデバイスなど、数カ月や数年に一度しか電池を交換しないような機器であれば、Cotaの給電能力でもお釣りがくることになる。
毎日充電が必要なウェアラブルデバイスも、サイズの制約からバッテリー容量が極端に小さいことが直接の原因であり、電力消費自体は非常に小さいため、Cotaの給電能力でも対応できるデバイスは多いはずだ。
Cotaは現在、アメリカにおいて開発中で、FCCに準拠した設計で、試験も行ない、あとは試験結果をFCCに提出して認可を得るという段階に来ているという。今年度中には、アメリカで使えるチップの出荷が開始される予定とのこと。実際にコンシューマ向けデバイスに搭載されるかは、メーカーがCotaを採用するかどうかにかかっている。
日本においては、2.4GHz帯で送電することが法的に考慮されていないため、まず法整備が必要だという。KDDIはいますぐにCotaの国内導入を目指しているわけではないが、いずれ法整備が終わり、日本で導入できるような環境が整ったとき、Cotaを使ったIoTデバイスとともにプラットフォームとしてCotaを提供することを狙っている。