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KDDI総研と極地研、世界初の南極からの8K映像リアルタイム伝送に成功――低ビットレートで高精細映像を送信
2022年12月16日 00:03
KDDI総合研究所と情報・システム研究機構 国立極地研究所(極地研)は12月15日、昭和基地と極地研立川キャンパスを結ぶ衛星通信回線を用い、8K映像のリアルタイム伝送実証実験に成功したと発表した。
実験は11月11日に実施された。今回の回線は最大7Mbpsと狭帯域なもので、南極域では世界初の試みだとしている。
映像を送る南極側では、市中に供給されているスマートフォンで専用アプリを立ち上げるだけで映像を配信できる。スマートフォンの内蔵カメラを使い、映像を受け取る側で配信の開始/終了、配信側カメラのズーム機能を操作できる。
8K画質でより正確な遠隔支援が可能に
これまでもHD画質(HDTV)による配信が行われてきたが、高解像度の8K映像をリアルタイム伝送することで、昭和基地の自然や環境の調査に加え、昭和基地にいる隊員の健康状態や生活の様子をより確認できるようになったという。
たとえば、観測隊ではさまざまな観測機器を運用しているが、この機器の点検や修理に、日本にいるエンジニアが精細な映像を見て助言するほか、隊員の健康状態を日本の医師が映像をもとに昭和基地にいる医師に助言する遠隔医療支援、昭和基地にいる“学校の先生”と日本の学校をつなぎ遠隔授業を行うなどさまざまな用途に利用される。
高画質で手軽な送信システムの実現
今回のシステムでは、KDDI総研が2021年3月に発表した遠隔作業支援システム「VistaFinder Mx」を活用し、8K対応のスマートフォンを使って映像を伝送した。
南極の8K対応スマートフォンから昭和基地のルーターと衛星アンテナを通じ、山口県の衛星アンテナと衛星通信(最大7Mbps)を実施。山口のアンテナからは、ネットワークを介し映像を受信するパソコンを経由して8K映像が届けられる。
8K映像のメリットとして、現行よりも高い臨場感が得られ、文字や模様を明瞭に表現できる。俯瞰した映像の場合、遠くのものを拡大させると、現行システムではドットが目立つのに対し、8Kシステムではより鮮明に状況を確認できる。
また、衛星回線の最大帯域7Mbps以下で伝送できるようにするため、より狭い帯域での映像伝送の実現に向け、平均5Mbpsのビットレートで8K映像を伝送するようにしている。たとえば、BS 8K放送では、80Mbpsのビットレートで放送されており、今回のシステムではこの1/16のデータ量で伝送されている。低ビットレートでの伝送にあたっては、南極での撮影に特有の映像特徴が考慮され、エンコーダーの制御を最適化したという。
そのため、俯瞰した映像や風景など定点観測や遠目の被写体に対してチューニングを実施しており、スポーツや大勢の人々のような動きがあるものでは若干クオリティが落ちてしまうとしている。
これまでの8K映像の配信には、高価な機材やその準備、持ち運びが手間になる特徴があったが、今回のシステムでは、「VistaFinder Mx」アプリをダウンロードした8K対応スマートフォンがあれば、いつでもどこでも安定して8K映像を配信できるようにされている。
これらの「8K画質」「低ビットレートでの伝送」「スマートフォンで送信」の要件がすべて満たされたもので、今回の試験運用を開始できたとアピールする。
KDDI総研の映像圧縮への取り組み
KDDI総研では、30年以上映像圧縮の国際標準化に参画し牽引してきたとし、2020年7月に標準化された最新規格「H.266|VVC」規格を活用すれば、さらに高いクオリティの8K画像伝送ができるようになるとしている。
今回の8Kシステムでは「H.265|HEVC」規格を用いたが、最新規格「H.266|VVC」では必要な帯域を半分にでき、「同じ帯域でより高いクオリティの映像配信」や「狭い帯域でも同じクオリティの映像配信」ができるようになるという。
今後は、極地研の地球環境に関わる研究や教育の高度化を支援すべく、今回のシステムの課題を抽出したり、改善を支援したりするとともに、手軽な8K伝送システムにより、過酷な現場作業のDX化を支援していく。
【お詫びと訂正】
最初の写真について、右端の極地研担当者の名前に誤りがありました。お詫びして修正いたします。