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少ない「ギガ」でも動画を楽しめるようになる?――KDDI総研が「H.266/VVC」の実証実験

 KDDI総合研究所(KDDI総研)は、「H.266/VVC」方式を用いたリアルタイムコーデックを用いた伝送の実証実験に成功した。商用サービスで採用されれば、従来の半分程度のビットレートで高品質な映像サービスの提供が可能になる見込み。

半分のビットレートで画質は維持

 VVC(Versatile Video Coding)は最新の映像符号化方式。現在、4K/8K放送やインターネットの映像配信サービスで広く使われている「H.265/HEVC」と比較して、2倍の映像圧縮性能を持つという。

 これにより、H.265/HEVC方式を用いて25Mbpsで実現できる画質を、H.266/VVCであれば12Mbps程度のビットレートで同等の品質を担保できる。従来は30fpsの映像までに限られていたが、KDDI総合研究所 先端技術研究所 メディア ICT部門 超臨場感通信グループ グループリーダーの河村圭氏によれば、リアルタイムで行われる独自の画像解析処理を見直し、60fpsを考慮した工夫により実現できたものという。

従来方式(左)と遜色ない画質(ブレは撮影によるもの)
下はKDDI総研(埼玉県ふじみ野市)から伝送されている様子

 これにより、高速で動く物体もよりはっきりと描画できるため、スポーツの放送などで高い品質の映像を実現できる。同規格は、総務省が将来的に地デジの8K放送などの高度化のための映像符号化方式のひとつとして採用が検討されている。

 データ容量の軽量化によりテレビ放送では、一定の帯域により多くの番組を流すなどの効率化が期待できる。さらに、ネットフリックスをはじめとした動画配信サービスでは、データ容量は小さくなる一方で画質は維持できるため、小容量帯のMVNO契約や僻地など電波が届きにくくなる場所でも安定して高品質な動画の再生が期待できる。

大型のコンピューターは必要なくシンプルな構成で取り扱えるという

 実証では、KDDI総研が開発したシステムを用いて、大阪府大阪市の関西テレビ放送から東京都港区のKDDI research atelierにネットワーク回線を経由して映像を伝送。12Mbps、60fpsという現行の放送で用いられるものの半分以下にしても、映像品質を維持することに成功した。

 河村氏によれば、関西テレビにより60fpsをしっかりと再現できていることを確認できたという。

 KDDI総研では、今後は8Kや120fps対応などよりフレームレートの高い映像の対応を目指してさらなる改善を進めるとしている。

ユーザーセントリックな体験の実現に向けて

 この取組みは、「KDDI Accelerate 5.0」のうちXR分野のうち「高効率・超低遅延空間伝送」に位置づけられる。

 河村氏は、KDDIが目指す世界観として「ユーザーセントリックな2D映像・3D空間データ伝送の実現」を挙げる。ユーザーセントリックとは、スマートフォンなどを使うエンドユーザーが意識せずに、最適なコンテンツを楽しむ環境が得られることを指しており、サービスを使う側から見ると、限りなくシンプルでありながら、その裏側ではネットワーク環境やコンテンツに応じて、さまざまな伝送手段の選択がなされ我々の手元に届く。

 今回、公開された圧縮技術も、その選択肢のひとつとなるもの「無線通信など、狭い帯域の中で良い体験を得るのは難しい。そこで圧縮技術が必須になってくる」と語る。

 従来のH.265/HEVCでは映像を正方形に分割していたところを、H.266/VVCは分割形状が長方形などを含めたかたちに最適化しているところが特長という。分析時の選択肢が増えた分、どれが最適化を探す時間が必要になるが、それをどこまで短時間にできるかがエンコーダーにかかっていると河村氏は説明した。

 動画向け圧縮技術の規格は、おおむね10年周期程度で世代交代を続けており、H.266/VVCは、2013年に登場した「H.265/HEVC」以来の新規格。KDDIでは、VVCの国際標準化に参画、17の特許技術が採用されており、2020年9月には、世界初というVVC対応4Kリアルタイムエンコーダーを開発した。

3D動画でも取組み

 映像の技術は2D動画のためだけでなく、3Dの分野でも研究開発が進められている。

 3Dに用いられるのが、点群(Point Cloud)と呼ばれるデータ。規則正しく画素が並ぶ2Dの動画データとはことなり、点が不規則に並び、ところによっては点がない空間も存在する。

 XRのアバターや3Dの建物の外観、地図情報などにもこの仕組みが用いられているが、いずれの場合でも大容量なデータで圧縮技術なくして扱うことは困難という。点群データの標準化動向としては、2020年7月に標準規格化された「V-PCC」がある。点群データを2D映像にして2D映像の圧縮技術を適用したもの。スマートフォンなどにも処理する仕組みが備わっており、早い展開が見込める。

 一方で、2022年1月にも標準規格化が見込まれるのが「G-PCC」。点群データをそのまま圧縮するもので、圧縮の性能を高めているという。KDDI総研による特許技術が7件採用されており、空間中に点が存在する領域のみを細分化、点座標を高精度かつ高効率に符号化できる。

 V-PCCは点の密度が高い、エンターテイメント要素に向いており、G-PCCは地理情報や建物の3D化に活用しやすい。こうした3D映像に向けた規格が標準化されたことにより、今後はXR関連のコンテンツのさらなる拡充が期待される。