ニュース

公取委、携帯電話市場における市場競争の課題に関する調査結果を公表

代理店の「評価方法」「割賦払い時の価格設定」にも言及

 公正取引委員会は、携帯電話市場における競争政策上の課題に関する2021年度の調査結果を公表した。MNO間およびMNOとMVNO間の競争の活性化などで競争の活性化を図る狙いがある。

2018年調査のフォローアップ

 2018年度調査においては、「通信と端末のセット販売」や「2年契約」「端末購入プログラム」「SIMロック」などを課題として取り上げており、この課題の進捗について調査した。

セット販売と購入プログラム

 通信と端末のセット販売においては、端末値引きの上限が2万円に制限され、大幅な値引きができなくなった。また、端末購入サポートについては、非回線契約者の端末購入でも適用できるが、「通信契約が条件に含まれていない」ことが分かりづらい表示となっているものが多いと指摘。キャリアによっては、非回線契約者が購入プログラムを適用して購入する場合、店頭でしか購入できない場合もあることから、表示の改善や非回線契約者のオンライン購入を解禁し、「通信料金と端末代金の分離を徹底することが競争政策上望ましい」とした。

 なお、購入プログラムに関しては、一部キャリアで「残債免除を受ける場合、端末の再購入を条件に課している」点について、ユーザーの通信契約の変更を妨げる恐れがあると指摘。「ユーザーが契約変更を断念させることで、ユーザーの選択権を事実上奪うものと判断され、ほかの事業者の事業活動を困難にさせる」となった場合、独占禁止法上問題となる恐れがあるという。

期間を定めた料金プラン

 また、「2年契約」については、電気通信事業法改正により期間拘束契約の違約金の上限が1000円に定められたほか、契約期間を定めない料金プランの見直しなど、ユーザーが乗り換えしやすい環境が整備されつつあるとの考えを示した。

SIMロック

 「SIMロック」について、MNO3社は端末購入時に一括払いか信用確認措置に応じた場合、ユーザーから申し出があった場合にSIMロックを解除している一方、ユーザーからは「SIMロックを解除する際に手数料がかかるから乗り換えない」という声もあると現状を分析。

 その上で、「端末購入時以外」に店頭でSIMロックを解除する場合でも手数料を一律無料で対応することが競争政策上望ましいとした。

MVNOの接続料

 総務省では、アクションプランにおいて「接続料の低廉化」を今後の周波数帯割り当ての審査項目としている。また、MNO3社に対して、2021年度以降に適用されるデータ接続料の算定について、より一層精びんな予測に基づく算定を改めて行うよう要請した結果、2020年度の予測値よりもさらなる低廉化が進み、2021年度の予測値は、2019年度の届け出値に比べ半減したという。

 公取委は、接続料に関してMNO3社は将来原価方式による予測値の算定にあたり予測と実測の乖離が小さくなるように努めることが望ましいとし、総務省はMNOがMVNOと積極的に取引/接続するインセンティブを持つような環境整備をすることが競争政策上望ましいとした。

修理業者への純正部品の提供

 現状、端末メーカーは「第三者修理業者から純正部品の供給に関する依頼がない」や「第三者修理業者による修理では、製品の品質や安全性が担保できない懸念がある」などを理由に、第三者業者に純正部品を提供していない。

 一方で、第三者修理業者からは純正部品に関して一定の需要があるほか、米アップル(Apple)は日本を含む多くの国と地域で「独立系修理プロバイダプログラム」を開始することを公表している。

 公取委は、独占禁止法上の観点として、「MNOが端末メーカーに対し『第三者修理業者への部品供給』をさせないようにすること」や「端末メーカーが、自社と競合する修理業者を排除すること」、「第三者修理業者に純正部品を供給しないようにして修理業者の事業活動を困難にさせる」ことは、問題となる恐れがあると指摘。

 公取委は、端末メーカーが「技術面や体制面での基準が担保されていると確認できた第三者修理業者に対し、求めに応じて純正部品を供給すること」が競争政策上望ましいとした。

新たな競争政策上の課題

 公取委は、新たな競争政策上の課題として「条件付き最安値広告の表示方法」「乗り換え促進について」「販売代理店の評価/割賦払い時の価格設定」などについて言及した。

条件付き最安値広告

 消費者庁は、割引などを含めた最安値、いわゆる「条件付き最安値」の広告について、条件といくらずつ値下げされるのかを明瞭に表示することなどをMNOに求めた。

 実際にユーザーへのアンケートでは、条件付き最安値が強調された表示を見た時、実際の料金よりも安い方向に間違える傾向があったという。

 これをふまえ、事業者は条件付きの最安値を強調せずに、消費者が料金計算しやすい表示を行うことが望ましいとした。

MNO3社からの乗り換えが進まない

 MNOからMVNOなどへの乗り換えが進まない原因について、公取委は「MNOへの信頼性・満足性・愛着性」が最も大きな要因だと分析。

 そのうえで、「端末メーカーは、新規参入MNOの周波数帯にも対応する端末の製造」「セルラーモデルのウェアラブル端末について、MNO3社以外でも利用できるようにする」「接続料の低廉化」「RSP機能の開放とeSIMの導入」「音声卸料金の適正性の確保」「MNOがMVNOに5Gサービス機能を開放すること」が、競争政策上望ましいとした。

 また、独占禁止法上の観点から、MNO3社が「新規参入事業者では使えない端末をメーカーに対し要望すること」「キャリア版とSIMフリー版がある端末で、SIMフリー版がキャリア版と同じタイミングで購入できないようにすること」「MVNOが支払う接続料などを下回る料金プランを設定したり、卸料金をMVNOに不利な扱いにすること」は問題になるとの考えを示した。

販売代理店の評価制度

 公取委の報告には、MNO3社の販売代理店に対する評価制度にも言及している。

 現状の評価制度では、一定期間ごとの評価に応じてMNOが代理店に支払う手数料のランクなどを決定している。一部のMNOについては、最低評価を複数回受け続け、改善が見られない店舗との契約を解除する仕組みが存在しているという。

 これらの仕組みについて公取委は、MNO3社の取引上の地位が、販売代理店に対し優越している場合があるという。また、その地位を利用して、限度を超えて代理店との契約条件にかかわる交渉を十分に行うことなく契約内容を一方的に変更すること、特に販売店に対し不利益を与える場合は、独占禁止法上問題となる恐れがあると分析。

 評価基準についても、「ユーザーが必要としない大容量プランなどの販売契約数」などを過度に重点的な項目とすることは、代理店がユーザーに大容量プランを過度に勧誘してしまう恐れがあり、「ユーザーが最適な料金プランを選びやすい競争環境を整備する」という観点から望ましくないと結論づけている。

代理店での分割払いの価格設定

 代理店での端末購入価格について、通常は代理店が端末の販売価格を決定する。

 しかし、端末を割賦払い(いわゆる分割払い)で販売する際、割賦払いの上限額の決定は、「個別信用購入あっせん契約」(分割払いに関係する契約)を提供する通信事業者が決めることが一般的になっている。

 この割賦払いについて、MNOが代理店に定めた上限額とMNOのオンライン直販価格、販売代理店の仕入れ価格の3つを同額としたうえで、端末をMNOが定めた上限額を上回る金額で販売しないよう要請している場合がある。

 代理店側は、「仕入れ値」と「販売価格」が同額であるため、MNOからの支援金などがないとMNOの直販価格を下回る価格で販売することは難しい。このため、公取委は後日支払われる支援金などの金額が予測できない場合、直販価格を下回る価格設定ができないことが多いと考えられるという。

 また、これらの取引方法は、「実質的にMNOが代理店の販売価格を拘束している」と判断され、独占禁止法上問題がある恐れがある。

 これらをふまえ、公取委はMNOに対し「端末の販売価格は代理店が自由に決められる」ことの周知や、これらの「代理店の販売価格を拘束する恐れがある取引方法」の見直しをすることが、独占禁止法違反を未然に防ぐことにつながるとした。

 このほか公取委は、「代理店が端末以外の商材をMNOを通さずに独自に仕入れ販売する」ことについて、MNOが合理的な理由なく商材を制限することは独占禁止法違反の恐れがあることや、「電波を割り当てる通信事業者の数を増やしていくこと」が競争政策上望ましいなどを取り上げている。

 公取委は今後、「携帯電話市場における公正かつ自由な競争を促進するため、独占禁止法違反行為には厳正に対処していく」とともに、総務省、消費者庁と連携し、料金の低廉化やサービス向上に向け携帯電話市場における競争環境の整備に取り組んでいくとしている。