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「契約取らないと居場所ない」、携帯販売スタッフの声――総務省調査の1割近くで違反行為が判明

 総務省は25日、「消費者保護ルールの在り方に関する検討会(第39回)」を開催した。会合の中では、キャリアショップの覆面調査で浮き彫りになった端末販売の実態などが報告された。

1割近くで違反行為

 総務省では、携帯電話4社のショップにおいて全531件の調査を実施。その中で違反または違反が疑われる件数は52件と全体の1割近くで確認されたという。発生件数としてはドコモが8件、KDDIで17件、ソフトバンクで20件、楽天モバイルで7件だった。

 違反や違反が疑われるとされた行為は、非回線契約者への端末単体の販売拒否や購入サポートプログラムの加入拒否、回線契約に付随する2万円以上の割引など。

販売スタッフからの声

 「携帯電話販売代理店に関する情報提供窓口」に寄せられた声からは、携帯電話販売の実態が浮き彫りになっている。

 寄せられた声を見てみると、端末補償サービスの獲得率目標が高く、達成できなければ店舗の成績や代理店の運営資金に影響するとして、同サービスの加入を拒否するユーザーには端末を販売しないといった事例があるともされている。

 このほか、キャリアから求められるユーザー獲得の評価指標が高く、達成しなければショップに入る支援費が減るため、利用者ニーズに合致しない提案をせざるをえないといった声があげられていた。

 こういった実態に対して、キャリア4社は、個別の案件について発生要因を自社で分析した結果を報告。ショップスタッフ向けのシステムを改善やトレーニングの実施、ユーザー周知の徹底などで改善していくとした。

契約を取らなければ居場所がなくなる

 現職または離職後1年以内の携帯電話販売スタッフを対象に行ったアンケートの結果によると、8割の回答者が携帯電話ショップでの仕事に満足していると回答。

 2021年6月以降に、ユーザーの利用実態に合わない高額な料金プランなどを推奨した経験があると回答したのは3割にとどまった。強引な勧誘を行ったことはないと回答したスタッフは4割に満たなかった一方、勤続10年以上の者に限ると、6割にのぼったという。

 こうした営業活動の背景にあるのは、店長など上長からの指示が5割、代理店経営層からの営行目標が6割、キャリアからの営業目標が4割と、ほとんどが上層部から現場への指示とされる。そのうち、自己判断はわずかに1割という結果だった。

 同省では詳細な結果については、販売現場への影響を考慮して詳細な資料の開示は構成員のみに留められたが、アンケートでは「目標を達成しないと給料の減額・降格になる」「毎朝、個人の目標達成具合を読み上げる。契約を取らなければ居場所がない」といった現場からの声がつづられているという。

構造改革が課題か

 構成員からはキャリアがトレーニングなどの指導を実施しているのにも関わらず、違反事例が発生するのは、構造的な問題があるとの指摘もあった。過度なMNPのユーザー獲得の評価になっていないかなど、評価制度が適正かを検証するとともに、効果測定をすべきと訴えた。

 別の構成員からもMNPのユーザー獲得競争があまり緩和されていないという声も聞かれた。すぐに解約される獲得では意味がないとして、ユーザー獲得でのポイントを下げつつ、そのユーザーが長期的に利用することで、販売店へポイントを付けるという方式にはできないのかという疑問が投げかけられた。

 これに対してドコモでは「MNPのユーザー獲得を重視するのは、乗り換え需要の高まりに応じたもので、ドコモとしての営業戦略もあるが、代理店の利益とも合致する。一方で長期利用のユーザーにも適切に案内できるようにしていく」と回答。

 KDDIでは「指摘された部分はしっかりと考えなくてはいけない。端末回線との分離や囲いこみ防止、代理店への奨励金などすべてのバランスをしっかりと組み合わせた見直しを取りたい。今は具体的には言えないがあらためてお話したい」とした。

 ソフトバンクは「MNPでユーザーの望まない形にならないことが一番。今後も色々対策していきたい。構成員の提案の方法もひとつ候補となる」とコメント。一方で、「販売の場面でユーザー獲得のための、代理店の努力が後にならないとその価値が分からないというのも問題」として、どういうことができるのか引き続き考えていくとコメントした。

 楽天モバイルは、MNPによるユーザー獲得による指標を設定していない。これについて同社では「我々は後発企業。MNPに限らず我々のサービスを使いたいという場合、MNPに限らず新規申し込み、楽天モバイル(MVNO)からのプラン変更などに差をつけずに案内してほしいため」と説明した。

 このほか、別の構成員からは「実数で考えるとさらに多くの(違反行為が)頻度で発生していると考えられる。ドコモ以外の事業者は発生率が2桁%ということは考えておかなくてはいけない」としつつ「楽天モバイルはシンプルな料金プランを提供しているにも関わらず、発生率が高い」と指摘。シンプルな商品構成は評価しつつもそれだけでは足りないとも言い「商品構成だけでは解決せず、現場でどう取り組んでいくかがあらためて必要。今後Web契約が主流になる中でダークパターン(利用者を欺くことを企図したUI)などにもつながってくる」とのコメントがあった。

 加えて、アンケートなどはショップスタッフが回答しているが、会合の場で応答するのは電気通信事業者。実際の違反事案がどのようにして発生したかは実際の当事者から回答を得られていないとして、調査から見えた課題などをどう行政から当事者に伝えるかを考える必要があるとした。

 全国携帯電話販売代理店協会(全携協)からは業界団体として、事業法の遵守に向けた対策を実施する旨が語られた。

 人気のスマートフォンなどは転売目的で多数購入する“転売ヤー”に買い占められ、機種変更で訪れたユーザーなど本当に必要な人に端末が届かないといった事態を防ぐため、1人1台という制限が容認されている。

 全携協では、これが非回線契約者への販売拒否事例につながっている可能性を指摘しつつも、必要な人へ端末が行き渡るための施策として理解を求めた。