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楽天の三木谷氏が語る、2030年の展望とモバイル事業に見出す未来
2022年4月15日 02:37
14日夜、楽天グループの創業25周年レセプションが開催された。
創業25周年となった楽天グループを引き続きリードする三木谷氏は、レセプション後の記者会見で、まず「現在、中期経営計画を策定しているところ。(その計画の達成時期である)2030年に向けて、どういったことを考えるか話したい」と説明をスタート。
25年前の楽天市場創業以降、楽天トラベル、楽天カードなどを多岐にわたる分野に展開し、さらには最近では携帯電話事業への参入と「”世の中の非常識”として、リスクをとって進んできた」(三木谷氏)ことで、グローバルでの流通額が27兆円という規模にまで成長した。楽天経済圏を代表する存在であるポイントの発行額は2.5兆円分に達しており、まもなく年間発行額が1兆円に達する。
今後は、サステナビリティ、環境保護を意識した経営を目指すとのことで、コーポレートカラーのクリムゾンレッドから「赤から緑に変わる」とする。その上で、2030年の具体的な目標として、利益率を現状の13.5%→20%へ拡大する方針を示す。
この収益拡大を支える一例として紹介されたのは、三木谷氏が今、業務の大半を費やすというモバイル事業だ。それは、国内で携帯電話事業を展開する楽天モバイルであり、もうひとつが、楽天モバイルの完全仮想化ネットワークをソリューションとして、海外事業者へ外販する楽天シンフォニーということになる。
携帯電話事業は、ゼロから基地局を展開するという巨額の投資が必要なことから、楽天グループの決算では、これまで巨額の赤字を積み重ねてきた。自社でカバーできない場所は、KDDIの携帯電話ネットワークをローミングとして利用するかたちだが、このローミング費用も巨額なものと見られている。それでも、今年2月、人口カバー率が96%に達した楽天モバイルは、これからローミング費用が減少する見通し。この第1四半期(2022年1月~3月)で赤字のピークを迎え、これからは徐々に損失を圧縮し、黒字化へ向かっていく、と楽天ではすでに予測している。
三木谷氏は「損益分岐点を超えると大きな収益を得られる。そこで得た利益でインフラへ投資し、更に加入を促進させる。楽天モバイルへ加入すると、楽天グループ内のサービス利用も増える。たとえば楽天市場の利用額は70%増える」と述べ、「2030年に利益率20%」という目標も十分達成できるものとした。
三木谷氏のリソース、大半はモバイル事業に
――これからの楽天に向けて、今のまま伸ばしたほうがいいところ、逆に課題となっているところはどこか。また三木谷氏の後継者については、どう考えているか。
三木谷氏
まず後継者の話から。ハイレベルな戦略、あるいはUX(ユーザー体験)などでは私が携わるところもありますが、すでに楽天市場や楽天カードは、職掌する役員がリードしており、私の手を離れている。いま、私のリソースの大半が携帯電話事業になっています。
そういう意味では、かなり権限委譲は進んでいます。また楽天グループには、本当に優秀な人達が入ってきていますが、さらなる若い人たちの活用が重要です。
楽天グループ全体では、ショッピングモールから、金融、携帯電話事業と幅広い分野で事業を展開していますので、ひとりでまとめるのはなかなか難しい。ガバナンス(企業統治)をしっかり考える必要があります。
今後の事業については、いくつかピボット(軸となる事業の変化)が出てくるだろうと思っています。ビジネスモデルの進化もそうでしょうし、携帯電話事業もそのひとつです。
NFTを含めたブロックチェーンも、今、国内で想定されている以上のものがあるでしょう。そうしたなか、楽天シンフォニーを中心に、海外へ進出する必要があります。
それから、現在の海外事業、たとえば(電子書籍の)楽天Koboは、Amazonさんがシェア7割で、残り3割といったかたち。Rakuten TVも欧州で広がっている。(メッセージングアプリの)Viberは黒字化していたが、ロシア問題で赤字になっているが、ここまで順調に進んでいた。
また海外の携帯電話事業者との連携もあります。1&1というドイツの事業者のほか、スペインで最大の携帯電話会社であるOrange(テレフォニカのことと思われる)とのコラボ、パートナーシップを展開しています。
海外キャリアから「楽天のECと会員システムをくれ」
――プラットフォームとして、海外の携帯電話事業者に展開するとのことだが、もう少し具体的な話を教えてほしい。Web3への見通しもあれば。
三木谷氏
プラットフォームということであれば、ポイントシステムを欧州で展開しています。
東欧やベトナムなどでViberのユーザーも多い。これをショッピングなどに拡大していくことは進めていきます。
楽天シンフォニーを軸にする場合、これまでは携帯電話会社がサービスレイヤーに進出しようとしてきましたが、楽天はその逆です。
(海外の通信事業者へ)楽天シンフォニーの営業へ行くと、「ショッピングとか、会員サービスとか一緒にやってくれないのか」というリクエストがほとんど(の営業先で)あります。
携帯電話事業者にとっては、アップル(Apple)やグーグル(Google)といった存在に、いわば挟まれる状況です。そうしたなかで、新しい事業を開発しなきゃいけない。
(将来的な展望として)楽天が、日本で展開してきたところを、海外の携帯電話事業者と連携しながら展開することを考えています。
黒字化、法人市場も寄与見込む
――以前から、2023年にモバイル事業の単月黒字化と表明されている。2023年中の予定に変わりはないのか、秘策はあるのか。
三木谷氏
秘策は喋ってしまうと秘策でなくなりますので(笑)。
楽天モバイルは基地局ゼロからスタートして、現在、5万局までになりました。街でも「楽天モバイルが本当に安いよね」と噂されるようになってきています。カバー率が高まれば、自然と加入件数も増えるでしょう。
5Gでは、データ通信量が増えます。
すでに、今の段階で、KDDIさんのローミングエリア内で通信される場合と、楽天モバイル自社エリアだけで使われる方では、データ利用量が倍ほど違います。
それから法人営業についても、訪問してみると1/4ほどは、楽天モバイルに切り替えてくださるというお声をいただきます。2023年に実現できるとは思っていませんが、いずれ、法人市場のシェアも25%、かなり大きなシェアが見込めるのではないかと。
楽天モバイルは仮想化技術で固定費が安い。ほぼ利益で入ってくると思っています。
インフラシェアリングを求める
――これまでネットの世界で自由に戦ってきたと思うが、携帯電話事業は規制が多い。撤廃を望む規制はあるか。また、先日、総務省の議論で楽天モバイルの料金が「価格圧搾ではないか」とNTTドコモを中心に指摘が挙がっていたがどう受け止めているか。
三木谷氏
(総務省での議論は)初めて聞いた。すいません、もっと勉強しなきゃいけません。
ただ、基本的には、「使わない人は(支払いは)いいですよ、というのは当初の発想でやってきたということです。
一方、規制については、これまで意図がいろいろあったと思う。
とはいえ、たとえばMNPを例にすると、米国ですとワンストップで(A社からB社への乗り換えの手間が軽減されている)できる。ところが日本では、いろんな理由を付けてできないとされてきた。
競争促進という意味では、ローミングの常識がある。3社の寡占体制によって、国際標準から、だいぶかけ離れている現状がある。そこに「なにくそ」と思って凄まじい勢いで、基地局を立てています。
都市部を除く、人口が密集していない場所については、国民から見ると、四重の投資(サービスエリア構築で4社がそれぞれ投資している)になっている。
協力体制をしっかりやることで、全体的なコストがダウンして、それがユーザーに反映される。
これは、かなり海外の政府が指導している。それは日本にはない。そこは、ちょっと残念かなと。4社の競争でもそういった配慮があってもいいかなと思います。
ECでの消費者保護について
――楽天市場について、消費者保護について教えてほしい。来月、新たな取引デジタルプラットフォーム(DPF)消費者保護法が施行される。また15日、Amazonを相手取った、モバイルバッテリー関連の訴訟判決がある。
三木谷氏
他社さんのことについては発言を控えたい。
ただ、楽天として、消費者保護の取り組みは、私が担当していた頃から積極的に進めています。偽造品なども、世界中のブランドと提携して防止に取り組んでいます。消費者に対して、保護というか、不利益にならないようにします。信用第一の商売ですので。
円安の影響
――円安について、楽天への影響と、長期化した場合の国内経済への影響について教えてほしい。
三木谷氏
マクロ経済学者ではないので、そうしたインパクトへのコメントができないのですが……楽天については話しますと、楽天はたとえば、外出できない時期にはトラベルがマイナスになるものの、ショッピングが伸びました。いろんな意味で中和されます。
楽天グループへの影響としては、プラスとマイナス、両方あるでしょう。プラス面としては、金融事業があります。逆に楽天市場の店舗さんには負担が増えるかもしれません。日本全体で見ると、輸出企業にはプラスで、消費者にはマイナスがあるでしょう。
ただ、私が昔、米国にいたとき、(ガソリンは)1ガロンがだいたい96セントでした。それが今は6ドル。毎年3%程度、物価が上がっていたからです。その一方で、日本はインフレがゼロでした。それで為替が変わらないのもおかしい話だなと感じています。
日本の国際競争力向上に
――楽天の歴史は、日本にとって「失われた30年」と重複する。今後、日本の国際競争力についてどう考えているのか。
三木谷氏
10年前、新経済連盟という団体を設立しました。我々としては、楽天があることで、地方も中央も経済が活性化されることを目指してきました。
(14日夜のレセプションに登壇した)岸田総理の話にもありましたが、スタートアップがとても重要です。
一方で、日本の税制がひどいことになっています。たとえばNFTが、かなりコンテンツ流通などで重要になると見ていますが、他国はひとまず課税せず、という方針。しかし日本は硬直的です。まずはそのあたりの制度改革が必要です。
それから税率の高さも挙げられます。
米国では、シリコンバレー、サンフランシスコ、世界の技術の中心になるということでしたが、コロナ禍で、アメリカでももっとも危険な都市になりつつあります。なぜかというと、税金が高いから人が去っていくのです。カリフォルニア州の税金を見ると、人口の1%が税収の50%を払っている。半分が去ると税収は25%失われます。そうなるとまた税金が高くなる。負のスパイラルです。
世界のイノベーションの中心になるなら、世界から人が集まる税体系にするとよいのでしょう。楽天にも多くのスタッフが海外から入ってきています。日本には魅力があるんですよね。まだ日本の可能性はあります。
2030年の楽天モバイル事業の構造は
――モバイル事業は、MNO事業、楽天エコシステムとの連携、グローバル展開のトライアングル戦略とのことだが、2030年の比率はどうなるか。またプラチナバンド要望についての意見を聞かせて欲しい。
三木谷氏
国内事業である楽天モバイルでは、すでに事実として楽天市場の利用が70%増えています。楽天モバイルユーザーが2000万人、3000万人になると、流通総額は8兆円、9兆円になります。そこからの利益が爆発的なものだと思う。
金融、保険などでも新しい仕組みでシナジーを作っていきます。エコシステムが大きくなっていきます。
たとえば金融では、楽天カードが業界ナンバーワンです。その立ち上がりよりも、楽天モバイルは早いスピードで加入者が増えています。(現状は)あくまでもちょびちょび利益が出ている第4のキャリアなのであって、圧倒的なモバイルカンパニーを日本で作ることが目標です。