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「空飛ぶ基地局」実現に向けた全樹脂電池開発へ
ソフトバンク系のHAPSモバイルと三洋化成工業系のAPBが基本合意
2020年12月24日 16:27
飛び続けるために必要なバッテリー
ソフトバンク子会社のHAPSモバイルは、通信装置を搭載する無人航空機を成層圏で長期間、滞空させ、携帯電話の基地局にする計画を進めている。2023年の商用化を目指しており、今秋には5時間以上、成層圏を飛行して地上とLTEで通信できることに成功している。
HAPSモバイルの構想では、無人航空機を数カ月~半年程度、滞空させることを目指している。実現に向けた大きな課題のひとつはバッテリーだ。
HAPSモバイルの無人航空機は、昼の間は太陽光発電で駆動し、夜は太陽光で充電したバッテリーで動くという構想。“エネルギー収支”で消費が多ければ、短期間で着陸せざるを得なくなる。飛び続けることへ大きく影響する要素が「機体の重さ」であり、バッテリーがキーパーツになる。
無人航空機は複数、製造・運用される予定で、1機が着陸することになれば、別の機体でカバーするといった形になるとのことだが、それでも軽く、それでいてエネルギーをたくさん詰め込めるバッテリーが求められている。
APBの全樹脂電池
三洋化成工業が筆頭株主となるAPBは、2018年に創業したスタートアップ企業。代表の堀江英明氏は、国内大手自動車メーカーでEV(電気自動車)向け電源システムの研究開発に取り組んだ経歴を持つ。三洋化成工業と共同で2012年ごろから全樹脂電池の開発が進められ、APB設立に至った。今年4月には、日産自動車とAPBとの間で、全樹脂電池のライセンス供与も発表されている。
全樹脂電池は、その名の通り、構成する素材の多くが樹脂で形作られるリチウムイオン電池。セル内部には金属製の正極(プラス)とハードカーボンの負極(マイナス)があり、内部はゲル状になった電解質がある。
さらにバイポーラ構造と呼ばれる特徴により、配線をせずにセルを積み重ねるだけで、ひとつのまとまった電池(組電池)となり、シンプルな構造のまま高電圧な電源にできるという特徴がある。2021年には、福井県武生に建設中のAPBの工場で生産が始まる予定。
限られたスペースでエネルギー密度高める
HAPSモバイルでは、ほかの電池技術の採用も視野に入れつつ、今回、有力な選択肢のひとつとして、APBとの協業に至った。重量を軽く、それでいて、より多くの電力を詰め込めることを目指す。
APBのバッテリーは、起業からまだ2年ということやまだ製品化されていないこともあって、あくまで研究上のデータとして、これまで1000サイクルのデータがあるという。それをもとにした概算では、数万サイクルで70%の容量をキープできる見込みで、耐久性は問題ないと見通されている。
一方、さらなる軽量化とエネルギーの高密度化を実現させるため、設計面での改善が図られるほか、採用する正極・負極の活物質の素材でも、次世代材料の開発を進め、5年以内には、競合の4倍以上のエネルギー密度達成を目指す。