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アニメ版「Ingress」試写会参戦、虚実の交錯を体験する

 2018年10月から、フジテレビの新たなアニメ放送枠「+Ultra」で、「INGRESS THE ANIMATION」が放送される。米ナイアンティックによるスマートフォンゲーム「Ingress」を原作とし、Netflixを通じてグローバルでも配信される。

キービジュアル。左から、マコト、サラ、ジャックの3人

 放送まであと1カ月あまりの今回、筆者は試写会に参加する機会に恵まれた。

「INGRESS THE ANIMATION」ストーリー

翠川誠は幼い頃から、触れた物の記憶を読む、奇妙な力を持っていた。

制御できないその力を隠しながら警察の特殊捜査官として働く彼は、

未知の物質「XM」の研究所爆発事故現場で不可解な記憶を見る。

事故の唯一の生存者、サラの指環に残されていた記憶。

それは人が赤い光に飲み込まれ、消失する光景だった。

巨大な陰謀に巻き込まれていく誠。

人間の精神に影響する物質「XM」を巡る戦いが、始まる――。

「世界はその目で見たままとは限らない」

 登場から5年を経たスマートフォンゲーム「Ingress」は、「あなたを取り巻く世界はその目で見たままとは限らない(The world around you is not what it seems)」というテーマを掲げている。

INGRESS THE ANIMATIONのロゴマーク

 ユーザー(ゲーム中ではエージェントと呼ばれる)は人類に影響を与えるという架空の物質「エキゾチックマター(XM)」を巡り、2つの陣営(青のレジスタンスと、緑のエンライテンド)に分かれ、現実世界で陣取りゲームをする。

 街中にあるアート、公園、お地蔵さんや庚申塔が、ユーザーの申請によってゲーム内のスポットとして登録されており、プレイしているとそれまでの生活のなかでは訪れなかった場所まで足を伸ばすようになり、いつのまにか自宅や勤務先の周囲にある歴史的な場所に気づくこともある。

現行のIngress(左)と次期バージョンのIngress Prime。昨年12月公開のもの

 知っていたつもりの世界が、実は戦いの場だったというゲーム上の設定のみならず、各地に根付く積み重ねられてきた歴史に触れられるなど、ゲームをプレイしているうちに、いくつもの意味で「あなたを取り巻く世界はその目で見たままとは限らない」ことを実感できる、というのは、現実世界を舞台に遊ぶ「Ingress」の特徴であり、それは、同じくナイアンティックがポケモン社とともに提供する「Pokémon GO」を通じても味わえる楽しみの1つだ。

ゲームの世界観が随所に反映

 アニメ「INGRESS THE ANIMATION」では、「世界はその目で見たままとは限らない」という世界観を冒頭から実感させてくれる。たとえば「Ingress」のもっとも基本的で、重要な概念、存在でもある「XM」をどう表現するのか。そして触れた物の記憶を読み取れる力があるというマコトなど、登場人物が体験し、行動していくさまを、どう描いていくのか、このあたりは見所の1つ。

マコト
サラ
ジャック
マコト
サラ
ジャック

 放送時期は、「Ingress」の次期バージョンである「Ingress Prime」がそろそろ登場してもおかしくないタイミング。今回、鑑賞した第4話までの場面でのXMやコントロールフィールド(3カ所のポータルを接続して生成されるフィールド)やポータルの演出は、これまでに予告されている「Ingress Prime」のビジュアルにそっくり。放送日までにプレイできるようになるかどうかわからないが、エージェント(Ingressのプレイヤーのこと)にとっては、これまでのIngressからブラッシュアップされ、新たな表現に踏み出す「Ingress Prime」とアニメの世界が重なり合い、思わず興奮してしまうはずだ。

ポータルを示す場面のようだ

 さらにゲーム側のこれまでのストーリーや、イベントを追いかけ、参加してきた人であれば、劇中で描かれるシーンの数々(ほんの一瞬のものを含め)に、「あれはそういうことだったか!」と驚き、楽しめることは間違いない。ユーザーコミュニティにも参加する筆者にとっては、「Ingress」をモチーフに生み出された、さまざまな創作物をつい思い出す場面まであった。オープニングやエンディングも1コマずつ確認したくなるかもしれない。個人的にはエージェント同士で集まって、ぜひ一緒に鑑賞したい。

ストーリーの進捗がゲームにも?

 近年のアニメ作品では、現実にある街を舞台にすることが少なからずある。その結果、「聖地巡礼」として舞台となった場所を訪れる楽しみ方もずいぶん広がってきたことはみなさんご存じだろう。では、「INGRESS THE ANIMATION」はどうなるのか。

 そもそも「Ingress」世界の根幹であるXMが見つかったとされるのは、スイスにある研究機関とされ、そのことはアニメ版の公式サイトで紹介されている。そして登場人物の「マコト」は警視庁の嘱託特殊捜査員。ここだけでも、日本とスイスという2つの国が関わっていることになるわけで、全ての国とはいかずとも「INGRESS THE ANIMATION」のキャラクターたちが、世界をまたにかけることをついつい期待してしまう。

 試写会で披露された第1話~第4話でも、いくつかの地名や、現実に存在する施設が登場する。人によってはメモを片手に鑑賞し、放映後、ゲーム上でも何かあるのか確認したくなるはず。

 アニメの内容からゲームへ影響するのか、そもそもこのアニメで描かれる世界はいつの時代のことなのか、ナイアンティックの川島優志氏へ質問したところ、「(アニメ世界の時間軸は)現在です。(ゲームへのアクションは)いろいろ考えています。ゲームにもアニメをフィーチャーするものができるよう、Ingress Primeのプロダクト責任者レベルで計画を立てている。何かが起こってくれるんじゃないかなと」とコメントしてくれた。

全てが「聖地」だ

 一方、筆者が感じたのは、「本作品で『聖地』とされるのは、劇中に登場する場所だけではない、この世界の全てが本作の『聖地』ではないか」ということだった。

 試写会で披露された第4話までのストーリーそのものは明らかにできないが、その内容は普段、エージェントが体験する世界とは異質のものだ。だが、劇中でどのようなシーン、場所が描かれたとしても、それは、私たちが暮らすこの世界と繋がっている。遠く離れた海外であっても、「INGRESS THE ANIMATION」の出来事は、この世界のどこかで発生しており、キャラクターたちが僕たちのすぐそばをひた走っているのではないか。あの場面のあのリンク、あのフィールドは、もしかしたら筆者がアクセスした場所が基点になり、筆者の知っている人が作り上げたものではないか――。

 Ingressが現実世界を舞台にしたゲームであること、その世界をもとにしたストーリーであることが、視覚や聴覚だけでなく、肌で感じ取れる臨場感をもたらした。ちょっと大げさに思えるかもしれないが、試写会の途中、筆者は、そんな感覚に襲われたのだ。

ゲームを体験していない人にも

 川島氏によれば、制作に携わったクラフターのスタッフには、レベル16の撮影監督も居れば、プレイしたことがない人もいるという。また2015年6月に開催された「ペルセポリス仙台」のころから参加している人や、本作品の制作がきっかけでプレイし始めたところハマってしまい、2017年11月のイベント「エクソファイブ大阪」にがっつり参加した人もいる。

 Ingressの熱心なファンもいれば、そうではない人もいて、さまざまな視点を踏まえて制作が進められており、その世界観がゲームを体験していない人にも伝わるよう配慮されている。

 もし放送開始後、ゲームとしての「Ingress」をこれから初めてプレイしようとする場合は、今回筆者が楽しんだ第4話まで鑑賞し終えてからインストールすることをオススメしたい。とは言いつつも、イチオシなのは、今すぐゲームをプレイすることだ。2つの陣営のどちらかを選び、周囲の人々との触れあいを楽しみつつ、本放送を迎えると、さらに楽しめる。

現実とフィクションが交わる

 ゲームのIngressをプレイしはじめると、その直後、「これはゲームではない」といった趣旨のテキストを目にする場面がある。約2年かけて制作された「INGRESS THE ANIMATION」は、どうやら単なるアニメではないようだ。

川島氏

 川島氏は、「こういう風にきたかという感じでやりたい。まだ言えないが、エージェントが起こす何がしかがどこかに反映される。どういう形なのかは控えたいが、何らかの形で影響を及ぼす」とコメント。人々を外へ連れ出すことを社是に掲げ、ARとリアルワールドゲームをリードするナイアンティックらしく、現実と虚構を巧みに組みあわせ、新たな体験の提供を試みる作品と言える。

 アニメの公式サイトでは、既に「リアルタイムストーリー」と銘打って前日譚と言えるエピソードの掲載を始めている。そのエピソードも「Ingress」のエージェントたちがプレイすることでアンロックするという流れ。

 ここまでの「リアルタイムストーリー」は、ちょっとヒントが大まかで、一般的なユーザーにとってはアンロックのためにどうしたらいいのか、わからないところがあるのは否めないが、「リアルタイムストーリー」で公開された内容はまだ序盤でありながらも、本編の内容を強く示唆する情報が多く詰め込まれている。アニメ版を観る前には、そちらもぜひ楽しんで欲しい。

放送開始日決定、新キャラ解禁(8月31日18時追記)

 「INGRESS THE ANIMATION」の放送開始日が、10月17日24時55分になることが明らかにされた。日付としては木曜だが、水曜から日付が変わってすぐ、という時間帯で毎週放送される。

 あわせて本作に登場する、新たなキャラクターとキャストも明らかにされた。

 明らかにされたのは、総合科学者というクリストファー・ブラント(CV:新垣樽助)、Ingressの世界に存在する組織であるヒューロンの警備部門責任者という劉天華(CV:鳥海浩輔)、マコトの仲間で公文書偽造などを手がける国木田慈恩(くにきだ じおん、CV:利根健太朗)の3人。また以前から登場自体は予告されていたハンク・ジョンソンのCVは佐々木啓夫が担当する。

クリストファー・ブラント
劉天華
国木田慈恩
ゲーム世界では以前より登場していた主要キャラクターでもあるハンク・ジョンソン