インタビュー
KDDI自身がフランチャイズオーナーで得た知見をどう生かす? 担当者が語る「オフィスローソン」の今後
2025年12月17日 00:00
KDDIは16日、KDDI大阪第2ビルの社員専用フロアに「ローソン S KDDI大阪第2ビル店」をオープンした。6月と7月に開業した高輪ゲートウェイシティの店舗で得られた知見を活かし、企業の社内コンビニ「オフィスローソン」の実証を行う。
同日、執行役員パーソナル事業本部パートナーグロース本部長の久木浩樹氏と、事業創造本部副本部長兼LXビジネス企画部長の鶴田悟史氏が、今後の展開や高輪で得られた知見について語った。
――「高輪ゲートウェイシティ店」と「KDDI高輪本社店」のオープンから数カ月経ちましたが、得られた知見や課題はありますか。
久木氏
運用面と技術面の両方で、重要な知見が得られました。実際の運用では、例えば人員の最適化といった計画が、オープン前に想定していたものと大きく異なっていました。
特に直面したのは、朝の人員が圧倒的に不足していた点です。
労働力が最も必要になるのはランチタイムだと考えていましたが、実際には朝の出勤ラッシュのほうが、はるかにコストがかかることが分かりました。これは、高輪の約1万3000人の社員が一斉に出勤し、2時間ほどの間にコンビニに立ち寄る際、ランチは購入しなくても、ペットボトルの水などをローソンで購入する需要が高まるためです。
こうした状況を踏まえ、ロボットの稼働を最大限に生かしつつ、品切れを起こさず、かつ人員を最小限に抑える運営を目指しました。この知見は「KDDI大阪第2ビル店」の人員配置を検討する際にも生かされています。先行して実施してきたロボット活用や、店内での人の動きを含むデータを蓄積できており、これらをパッケージ化して社内で水平展開し、将来的には商品化していきたいと考えています。
鶴田氏
技術面では、省人化を目指してロボットやデジタル技術をオペレーションに組み込んでも、それだけで能力を最大限に発揮できるわけではないことが分かりました。周辺のオペレーションも、それに合わせて最適化していかないと、導入した技術を十分に使いきれずに終わってしまいます。
高輪では、店舗とオフィスが連動して商品を販売するロボット配送にも取り組んでいます。回遊式ロボットの設置場所を切り替えながら検証した結果、想定していたオフィス内の通路ではなく、エレベーターホールに設置した場合が最も売上につながるという知見が得られました。
――第2号店を大阪に決めた理由と、高輪店との具体的な違いを教えてください。
久木氏
大阪を選定したのは、日本の第2の都市であり、今後パッケージ化して他企業のオフィスへ展開していく際に、ショールーム的な役割を担う場所として適していると判断したためです。東京以外で次に展開する場所として、大阪が最適だと考えました。
また、高輪で多くの技術要素を導入する中から、汎用性が高そうな課題を抽出し、パッケージ化に適した要素を選んでいるという背景もあります。
「KDDI高輪本社店」は完全レジレスですが、「KDDI大阪第2ビル店」は1店舗での運営が前提となるため、完全レジレスにはしていません。その代わり、高輪では扱っていないアルコールやタバコを、大阪店では販売できるようにしています。
一方で、「高輪ゲートウェイシティ店」にある、一般客の動きを検知してサイネージにレコメンドを表示する機能など、一般客向けの仕組みについては、今回は社員向け店舗であるため省略しています。
――サイネージシステムとレコメンド機能について、どのようにデータや技術を活用していますか。
久木氏
サイネージの配信システムはKDDIが提供しており、コンテンツはローソンと連携して制作しています。大阪でも高輪でも同じ情報を表示できるほか、大阪のみのキャンペーンを実施することも可能です。このシステムは、店舗内での商品ポップ作業などを削減することを目的としており、KDDIとしてはローソン向けにとどまらず、その先の広告ビジネスなどへの展開も見据えています。
レコメンド機能には、「今日一番売れている商品」を紹介するものと、「これを購入した人は、こちらも購入しています」といった商品の組み合わせを提示するものの、主に2種類があります。今後はカロリーなどの情報も活用し、よりパーソナルなレコメンドを目指していきます。
例えば、購入履歴から「最近ビタミンが不足しているので、こちらはどうか」といった健康面を意識した提案や、上司が部下にコーヒーの無料クーポンを送るなど、社員間のコミュニケーション活性化にも活用したいと考えています。
――社員ID連携の現状と、ダイナミックプライシングなどの施策について教えてください。
久木氏
高輪では社員IDとの連携を行っていますが、これは強制ではなく、主に食事補助クーポン利用時に、どの社員が使用したかをひも付ける目的で実施しています。計画していたダイナミックプライシングや食事補助クーポン、ID連携の仕組み自体は、すでに提供可能な状態です。ただし、それぞれの施策の効果を検証するため、段階的に実施していく予定です。
――オフィスローソンとしての商用展開の時期や、その定義について教えてください。
久木氏
正式な展開、いわゆる商用展開については、来年度中の実現を目指して計画しています。オフィスローソンとして展開する場合、KDDIの直営に限らず、ローソンの直営店や、周辺のFCオーナーが運営する形も想定しています。明確な定義を設けているわけではありませんが、基本的には、そのオフィスで働く従業員が利用できることを前提としています。
――「KDDI大阪第2ビル店」の規模感と、今後の小規模展開の可能性について教えてください。
久木氏
大阪のビルに常駐する社員数は、高輪のおよそ4分の1程度です。売上規模についても、高輪本社店に対して、その人数比に近い水準を見込んでいます。
鶴田氏
オフィスローソンとしては、この規模に限らず、より小規模な形でのパッケージ化も可能だと考えています。コストを抑えるには、ロボットの活用に加え、利用する従業員の協力も重要になります。
久木氏
具体的な取り組みとして、第1ビルにスイーツやお菓子を扱うサテライトゴンドラ(小型店舗)を、2026年1月ごろに設置する予定です。本店舗のスタッフが補充を行い、少ない人数でも運営が成り立つかを検証します。
――オフィス以外のロケーションへの展開は視野に入っていますか。
久木氏
ローソンでは「ホスピタルローソン」なども展開していますが、今回のオフィスローソンのパッケージについても、工場や大学といったロケーションに一定のニーズがあると考えています。場所ごとのニーズに応じて、最適なコンビニの形をローソンと共同で目指していきたいと思います。
オフィスローソンでは、コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスを重視し、昼休みなどの時間を有効に使える仕組みを取り入れました。一方で、オフィスローソンのアプリ自体が、すべてのロケーションに適しているとは限らないとも考えています。
――AIは今後、店舗運営のどのような業務を担うことを目指していますか。
鶴田氏
「Real×Tech LAWSON」は、完全無人店舗を目指しているわけではなく、人が関わり、接客を行う店舗を志向しています。AIについては、データを基に「翌日に必要な人員配置」や「この時間帯に適したオペレーション」といった内容をレコメンドし、発注や店舗運営において店長を補佐する役割を担うことを想定しています。
――運営をローソンに委託した場合、KDDIはどのように収益を上げていくのでしょうか。
鶴田氏
オフィスローソンは、KDDIとローソンが協業で作り上げていく店舗です。運営を委託する場合には、KDDIがオペレーションや技術を提供し、その対価についてローソンと協議していくことになります。システムの利用料など、さまざまな形が考えられますが、基本的には協業という形で進めていく方針です。






