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KDDI、新本社を初公開 「TAKANAWA GATEWAY CITY」を“未来への実験場”に
2025年7月25日 00:00
KDDIは、JR東日本やローソンなどの共創パートナーと連携し、「TAKANAWA GATEWAY CITY」を未来の実験場と位置づけ、新たな都市体験の創出を目指すと発表した。
KDDIの松田浩路社長は、「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる」というビジョンの実現に向け、22年ぶりに本社を移転する高輪を新たな挑戦の拠点にすると述べた。高輪は、日本で初めて鉄道が開通したイノベーションの発祥の地とされており、KDDIはJR東日本をはじめとする多くのパートナーとともに、新たな価値創造と社会課題の解決に取り組む考えを示した。
KDDIが描く「あなたに気づく街 みんなで築く街」
発表会では、「つなぐチカラ」の進化によって実現するコンセプトとして、「あなたに気づく街 みんなで築く街」が披露された。このコンセプトは、来訪者が足を踏み入れた瞬間から新しい体験のスイッチが入るような、心が躍る空間の提供を目指すもの。
その実現に向けて、街のさまざまな情報を収集・分析し、リアルな街づくりにフィードバックする「デジタルツインプラットフォーム」が構築されている。この仕組みでは、防犯カメラの映像や各種センサー、顧客データ、鉄道データなど多様な情報を活用。KDDIのみならず、JR東日本のデータもAIでリアルタイムに分析することで、街全体が訪問者を理解し、語りかけるようなパーソナルな体験の提供を可能にする。
訪れる人と働く人へ提供される「ハイパー体験」
「TAKANAWA GATEWAY CITY」では、デジタルツインプラットフォームを基盤に、街を訪れる人には「気づく街」というハイパー・パーソナル体験を、街で働く人には「能力を最大限に引き出す」ハイパー・パフォーマンス体験の提供を目指す。
訪れる人には、街が能動的に人にアクセスして提案を行う。たとえば、親子連れが改札を通過すると、カメラ映像の解析によりその状況を検知し、ロボットが子供向けのジュースを持って駆けつけ、ベビーカーのレンタルまで提案する。また、スマートフォンの電池残量低下を検知して充電スポットやクーポンを案内するといった、先回りした対応も可能になる。
働く人には「待ち時間や無駄な時間を排除し、時間を創出することで、最高の集中力と効率を実現し、イノベーションを加速する」ことが掲げられている。一例として、レジのない省人化型の実証店舗「オフィスローソン」が紹介された。ここでは、商品を店内でスキャンするほか、アプリで事前に選んだ商品をチェックイン・決済後に受け取るだけで購入でき、平均滞在時間は約2分。レジ待ちのストレスをなくすスムーズな購買体験を実現している。さらに執務スペースでは販売ロボットが回遊し、チームの生産性向上に寄与する。店舗で働くスタッフには、ライブ開催日の客層や人流データをリアルタイムで可視化し、商品準備や人員配置の最適化によって、顧客満足度や売上向上、そして働きがいの向上を図る。
KDDI新本社が目指すイノベーション創出拠点
KDDIの新本社は、「『つなぐチカラ』を進化させ、ワクワクする未来を発信し続けるコネクタブルシティ」をコンセプトに、KDDIグループの社員1万3000人と多くのパートナーが集まり、イノベーションを生み出す場を目指す。ここでは「コラボレーション強化」と「パフォーマンス向上」の2軸で実験が行われる。
コラボレーション強化では、本社内の「TSUNAGU BASE」がKDDIとパートナー企業の強みを掛け合わせて新たな価値を創出する場として機能する。ショールームやラウンジでは先端技術に触れられるほか、イベントやコワーキングを通じた新たな出会いも提供される。また、KDDI∞Laboによるスタートアップ支援や、JR東日本のビジネス創出施設「TAKANAWA GATEWAY Link Scholars' Hub(LiSH)」との連携を通じて、高輪発のイノベーションを推進。社内では壁のないオープンなオフィス環境や、社員同士の自然な出会いを促すマッチング施策により、部門や役職を超えた協働を促す。
パフォーマンス向上の面では、配送や移動販売を担うロボットの導入により、社員の雑務を軽減し、創造的な業務に集中できる時間を創出。さらに、「グルーブな空間」(議論を活性化する空間)と「チルな空間」(深く思考に没頭できる空間)を使い分ける「ABW(Activity Based Working)」を取り入れ、社員の創造性を高める取り組みも行われる。
JR東日本との共創で描く100年先の未来都市
JR東日本の喜㔟陽一社長は、「TAKANAWA GATEWAY CITY」を「100年先の未来を見据え、心豊かな生活価値を創造する実験場」と位置づけ、KDDIとの共創に期待を寄せた。日本のイノベーションの起点としての歴史を継承し、デジタルとリアルが融合した次世代の街づくりを進める考えを示した。
JR東日本はKDDIと共に、「TAKANAWA INNOVATION PLATFORM」の中核となるデジタル基盤「TAKANAWA GATEWAY URBAN OS」を活用。鉄道の移動データと街の活動データを組み合わせた、国内でも類を見ないスケールの都市OSを構築している。このOSに蓄積されたデータを統合・分析・可視化することで、自律走行ロボットによる移動販売や、街アプリによる情報発信を実現し、快適で利便性の高い都市生活を支えるとした。
また、JR東日本グループは「環境」「モビリティ」「ヘルスケア」の3つを「TAKANAWA GATEWAY CITY」のテーマに掲げ、特にヘルスケアでは未病予防医療に注力。たとえば、常備薬の自動配送ロボット、バイタルデータをもとにした食事や運動のレコメンド、移動履歴とバイタルを掛け合わせた睡眠アドバイスなど、健康的な生活のサポートを行う。さらに通信技術との融合により、国内外の優れた医師による遠隔手術や診療など、「世界水準の医療」を日常的に体験できる環境も整備するという。
通信と叡智、通信とSuicaといった技術の融合によって、空間や時間の制約を超えた交流、マイナンバーカードと連携した行政サービス、移動と購買を結びつけた新たなビジネスモデルの構築、既存事業の高度化などを加速。こうした先進的なソリューションは、都市課題の解決にとどまらず、地方の持続的発展にも寄与するとしており、過疎化が進む地域における遠隔医療、ドローン物流支援、AIによる公共交通の最適化など、日本全体の課題解決と地域活性化を目指すと述べた。
個人情報保護への配慮や全国展開の展望
質疑応答では、個人情報の取り扱いや、高輪での取り組みを全国へ展開する可能性について、具体的な説明がなされた。
――個人情報やプライバシーの取り扱いについて教えてください。
松田社長
このような街での取り組みを進める上で、プライバシーへの配慮と先端テクノロジーの適切な導入は、極めて重要なポイントだと考えています。
KDDI ビジネス事業本部 ビジネスデザイン本部 ビジネスイノベーション推進2部長 保科康弘氏(以下 保科氏)
カメラ映像を活用した体験価値の提供においても、カメラには個人が映りますが、個人を特定する情報はすべて除去したうえで、活用可能な形式に変換して保存しています。元データは不要なため、即座に廃棄することで、個人情報の保護を徹底しています。
データの分析も、敷地内に設置されたインターネット非接続の安全なサーバー環境で行っており、JR東日本がデータ保持者となっています。そのため、JR東日本から来場者や住民の皆さまに対して、データの取り扱い内容をきちんとご案内いただいています。
松田社長
KDDIとしても、個人情報の取り扱いやデータガバナンスについては、これまでも細心の注意を払って対応しており、今後も引き続き万全を期してまいります。
――全国展開にあたって対象となる街の条件について教えてください。
松田社長
高輪で展開しているモデルが、そのまま全国に適用されるわけではありません。今回のポイントは、デジタルツインプラットフォームと、そこに組み込む複数の「モジュール」の柔軟な組み合わせです。高輪では、これを一つの大きなパッケージとして提供していますが、「オフィスローソン」のようなモジュールは、単体でも他の地域に導入できると考えており、今年度からの横展開を想定しています。
新たに設備をすべて導入する必要はなく、既存のカメラを活用してAI分析を行うことが可能なため、すでにカメラを保有している自治体や施設であれば、ロボットと連携させる形での導入も現実的です。地域特性に応じて、パッケージとモジュールを組み合わせながら提供できる設計としており、JR東日本様との連携のもと、この高輪モデルを他の街へ展開することも視野に入れています。
――回遊ロボットが扱う商品の種類、運用フローについて教えてください。
保科氏
回遊ロボットについては、まず協賛企業から提供されるサンプル品を活用し、マーケティング用途から始めます。将来的には決済機能を搭載し、「TAKANAWA GATEWAY CITY」内の多様な商業店舗の商品へと展開していく計画です。
商品の補充は基本的に売り手側(店舗側)が、デジタルツインプラットフォーム上の人流データなどをもとに需要を予測し、該当商品をロボットに搭載。その後、想定されるニーズに合わせて、適切な時間帯・場所にロボットを移動させます。
松田社長
回遊ロボットには2種類あります。1つは街中を回遊するタイプで、サンプル配布や子ども向けのジュース提供など、デジタルツインと連携したパーソナルな提案を行います。
もう1つはオフィス内を回遊するタイプで、ローソンの移動店舗モデルです。エレベーターも自動で利用しながらオフィスを巡回し、スナックなどを販売することで、チームのパフォーマンス向上に貢献します。なお、ロボットは人との共存を意識した「親しみやすいデザイン」にも配慮しています。
――他地域展開におけるビジネスモデルと、高輪での経験を活かす際に特に重視する点は何ですか。
松田社長
「オフィスローソン」のようなモジュール型のサービスは、都市型・オフィス型・地域型など、さまざまな街に応じて柔軟に導入できると考えています。現在は6階と17階のローソンでさまざまなトライアルを進めており、それらをもとに、全国でも展開可能なモデルへと育てていきます。
なかでも特に重要だと考えているのは、「街がどのように人に気づくか」という点です。センサーやカメラとAIの組み合わせによって、街ごとの条件に応じた柔軟な応用が可能です。現段階では、あらかじめ決められた条件で判別を行っていますが、将来的には、「こういう条件で」と指定すれば、その条件で画像を検出できるようなAIの開発を進めています。これが実現すれば、より多様な地域への展開が可能になると考えています。
――今回の実験結果について、将来的に成果を公表する予定はありますか。
松田社長
多くのパートナー企業の皆様と協力しながら取り組んでいきますので、何がうまくいったか、何が課題だったかについては、随時、発表や報告という形で公表していく予定です。単なる実証で終わらせるのではなく、実用化・展開に至るものが出てくることも、「成功」の一つの形として捉えていただければと思います。
――新たな実験サービスの対象者はau契約者に限定されるのか。他社携帯ユーザーやSuicaだけでなくPASMO利用者も含まれるのか、利用対象の範囲を教えてください。
松田社長
基本的には、街に来場されるすべての方が対象です。そのうえで、ユーザー属性によって得られる情報の「解像度」には違いが生じる可能性があります。交通系ICカードについては、Suicaに限らず他の交通系ICカードも対象としており、一部ではすでに対応済みです。




































































