インタビュー

「ファン∞とく」刷新や通信品質改善の秘密、10周年を迎えるmineoに訊くこれまでとこれから

 オプテージのMVNOサービス「mineo」が2024年6月、10周年を迎える。これに向けて1月30日、新たなキャンペーンやユーザー特典の刷新が発表された。

 mineoでは、新たなスローガン「ずっと、mineoがいい」をかかげ、利用者特典「ファン∞とく」の見直しや通信品質の大幅な改善を実施した。その回線数は2023年12月末時点で126万回線を突破している。

左=オプテージ 田村氏。右=同 松田氏

 mineoのこれまでの歩みとこれからの戦略をオプテージ コンシューマ事業推進本部 モバイル事業戦略部 モバイル事業戦略チーム チームマネージャーの田村慎吾氏とコンシューマ事業推進本部 モバイル事業戦略部長 松田守弘氏に訊いた。聞き手は本誌 編集長の関口聖。

特典刷新の狙い

――今回126万回線とのことでしたが、2023年9月ごろには123万回線を突破したということでした。手応えとしてはどんなものでしょうか?

田村氏
 コンシューマー市場のパイは今後大きく増えることはないでしょう。そのなかでどう誘導していくかということになりますが、流動性が低くなったとは思っていません。一方で法人市場のパイは増えていると感じています。そういうこともあり、今回の発表では法人向けのお話もさせていただきました。

――大手各社からサブブランドが発表されたときには、携帯電話料金は社会的関心事にもなりました。そのころから見ると、今の流動性は低くなったのかなとも思いましたが……。

田村氏
 当時は一気に流動性が上がりました。そこからは上がった流動性のまま推移しているというところです。ですから、流動性が上がる前より落ちているということはないです。

 新たに4社目のMNOが参入されたときの流動性と今を比較すれば、感覚的には下がっているかもしれませんが、それでもまだまだその前の段階から見れば、流動性はあるのかなと。

――スローガンが一新されましたが、実にmineoらしいなと思います。これからは解約率を低減するかがポイントになるのでしょうか?

田村氏
 まさにそうです。これまでもファンの皆さんに向けた施策や独自価値を磨いて、解約率を下げることには取り組んできたつもりでした。それをさらに強化したいという思いがこのスローガンに現れていて、今回の2つのアップデートにも出したつもりです。

――こういった方針の決定には、mineoの皆さんのなかで議論を戦わせたり……ということはあったんでしょうか?

松田氏
 ということはなく、今お使いいただいているお客様にどれだけ長く使ってもらえるか、もっと好きになっていただいて使っていてよかったなと思っていただけるほうがいいよね、という思いです。

田村氏
 これを掲げたからといって、新規のお客様を全く見ていないということではないです。バランス感(が大事になる)かなと。既存のお客様に注力する分、新規の方へのサポートが下がるのではと思われるかもしれませんが、そういった議論はしていません。

通信品質を大幅改善

――「通信品質を5倍改善」はすごいインパクトがあります。独自基準ということですが、どのような考え方なのでしょうか?

田村氏
 我々が測定する通信速度が大部分で、遅延などもありますが。我々が過去から品質維持のために使っている測定方法です。

――キャリアから調達する帯域を5倍にしたのかと思いました。

田村氏
 それはコストがエラいことになってしまいます(笑)。ユーザー数の増加や1人あたりの使用量も増えてきているので、それに従って一定の品質を保つべくずっと増強してきているんです。その増強ペースを今までよりもずっと上げたのが今回です。

 数値は公表できませんが……。今回達成できた数字であれば、普段遣いでほぼストレスがないかなと思っています。

 我々は今まで、(すべての時間帯で)トラフィックを平準化するために「マイそく」や「ゆずるね。」のような取り組みをしてきました。こういった工夫により帯域に使う収支をやりくりして帯域をあげているというイメージです。

 我々の設備としてもトラフィックに応じて増強するなどの対応をしています。そこよりもやはりMNOと接続する部分をいかに拡張していくかです。本当に帯域を5倍にしたらMNO品質になるかもしれませんが……。

――2023年8月ごろから順次改善を図ってきたということでしたが、2024年1月で完了したということでしょうか?

田村氏
 完了というよりも、8月から試行錯誤を重ねてこのタイミングで自信をもって品質が上がりましたと言えるくらいになりました。どれだけ帯域を増やせばどれだけ速度が上がるのかなどバランスが難しく……。実際に思ったとおりにならないこともあったので、チューニングをしていました。

――コストが増えてしまいそうに思えますが……。

田村氏
 間違いなく今までよりもお金はかかります。そこは先ほどお話したようにトラフィックをうまく平準化したことやMNOとの接続料の単価も下がっているということが相まって現状ができているかなと。単価が下がっているのは使用量が上がっていることもあり、単価の値下がりと使用量の上昇でトントンかすこし下がるくらいです。

――これまでのノウハウやMNOへの支払いも下がる見通しもあってmineoとしては、維持しやすい環境ということでしょうか。通信速度をおさえて安くする「マイそく」の施策もとてもユニークです。

田村氏
 マイそくは12万回線まで行きました。昼に(通信速度が低く)使えないのでもともとはもっと低い目標で「どこまで来ていただけるかな?」というやってみないとわからないところがありました。しかし、フタを開けてみれば2回線目の需要や「昼はWi-Fiで」といった使われ方が結構あったようです。

――総務省などでは、通信容量の増え方の予測も出しています。しかし今のお話を踏まえるともっと緩やかに増えるのかなとも思いました。

田村氏
 (通信の)総量が増えるペースはそこまで変わらないです。我々がしているのは(通信の)ピークの位置をずらしているので、もともと昼に使っていた人が夜に使っているということなので面積でいえば……。

長期利用特典が刷新

――ユーザー特典も刷新されました。これまでのユーザーのコイン保有数は平均どのくらいなんでしょう? 新規の方だけでは6年待たないと10枚貯まらないということに……。

田村氏
 そこは我々もこだわりました。今、旧王国コインを貯めていただいている方に特典を出さないのはちょっと違うと。王国コイン1枚=mineoコイン1枚に変わります。王国コインは年数ではなく活動量に応じるというのに(途中で)法改正もあり変わっていましたが、今回、また元に戻るかたちになりました。

――コインの特典は意外性がありました。1枚あたり500円で10枚集めるとそれが700円になると。端末を4万円まで割り引ける仕組みなどがあるとなお面白そうです。

田村氏
 お得になるようにしました。端末(の値引き)はわかりやすく人気が出るかなと。今回はオプション系もいくつか特典に入っています。我々は他社にないような独自のサービスをやっておりまして、そこをまずは気軽にお試しいただきたいと思っています。

 手数料関係も特典に入っています。お客様からは、eSIMなど含めて再発行手数料についてどうにかならないかという声もいただいておりました。コイン1枚でeSIM再発行手数料に充てられるほか、回線変更(3300円)を無料にできるなど強みのひとつかなと思っています。

――「マイピタ」が6カ月間、990円というのもインパクトが強いですね。みんな20GBプランを選ぶんじゃないでしょうか?

田村氏
 だいたいの方が20GBプランを選ばれるのかなと思っていますが……。実際にお客様がどう動かれるのかは我々も注視したいところですね。

――990円という金額はどういう考えで設定されましたか?

田村氏
 1000円を割る、990円はインパクトがあるということが一番大きいです。他社さんのサービスを見ても20GBというのがひとつの標準的容量にもなってきていると思いますので、(キャンペーンでmineoを試して)他社さんと比較してもらえればと思います。990円というのはかなり勝負できる(金額)なんじゃないかなと。

料金プランにテコ入れは? 端末値引きへの考え方は

――料金プランについても教えてください。たとえば他社さんでは段階制であったり、もっと大容量のプランがあったりということもあります。そういう施策は今回のタイミングでは用意されないんでしょうか?

田村氏
 なかなか難しいですが、これまで独自価値で戦ってきました。基本容量や基本料金を変える選択肢もあることはあります。容量を増やすということもありますが、どんどん複雑になっていきます。

 我々はただでさえ、と言うとなんですがいろいろなサービスを導入していてちょっと分かりづらくなってきているかなというのが正直なところです。これ以上、さらに幅を増やすのは厳しいなかで、現在のラインアップ4種類があれば大多数のニーズは満たせるだろうと。さらにオプションサービスを組み合わせればほとんどのニーズはカバーできると考えています。

 そのうえで、今のサービスをより深く知っていただいて長期的につかってもらいたいと思っています。

――通信容量の増加やMNOの卸料金の低廉化などで料金値下げはやはりユーザーとしても期待するところがあると思います。ユーザーに寄り添うという意味では、ギガ単価を安くするということもあると思いますが、どのような捉え方をされているのでしょうか?

田村氏
 今回は20GBプランをプッシュしていますが、現状では1GB~5GBの低容量帯のお客様が大半です。確かに今後、使う容量が増えてくるだろうということでも20GBまであればまずは大丈夫かなと思っています。

 料金を重視される方もいる一方で通信品質を重視する方も同じくらいいらっしゃいます。そこで通信品質を上げるということにしました。安くしすぎても、帯域確保に回す原資の確保も難しくなってきます。安すぎると、お客様の評価でも「大丈夫か?」ということにもなるかもしれませんし、この辺のバランスは悩んでいますが、今回は品質を増強しました。

――電気通信事業法が改正されて端末の値引きルールも変わりました。端末の最大2万6400円割引もこれを受けたものということでしょうか?

田村氏
 事業法の改正で規制対象外になったことで割引額に幅が出ました。ファン∞とくでの長期利用者特典もそのひとつです。

――MNOでは端末値引きルール変更後も、月1円端末が登場していますがMVNOとしてはどんな受け止め方をされていますか?

松田氏
 (MNOと)真っ向勝負となると提供している基本料金などからすると難しいです。(mineoの割引施策として)そのままということはまずないだろうと思っています。端末は通信契約を変えるときなど、いろいろなタイミングで買われるものでもありますので、そこになんとか関係するところということで、今回のかたちになりました。

田村氏
 1円端末などでは短期解約も出てきてしまう可能性があるのかなと。

法人向けは好調……共同での事業創造も

――法人ユーザーは1万社にのぼるということですが、利用形態としてはどういったものがあるのでしょうか?

田村氏
 なかなかそこまで細かく分類しきれていないというのが実態です。ひとつ明確なのは音声通話なしの方が8割~9割です。スマートフォン需要というよりは、IoT系のデータだけの方が増えています。

――業務用スマホなどのニーズもありそうですが……IoT系が大半というのは大きいですね。そうしたプランをしっかり用意していることなどが大きいように思えます。

田村氏
 スマートフォンでは競合のMNOさんが強いです。大企業さんほど「端末セットでかけ放題もつけて〇〇円」と(いうものを求められる)。

――法人との新たな取組は気になるところです。トイレ×通信……空いている個室がわかるとか?

田村氏
 いやあ、ちょっと違うんですよねえ。

――世に出てくるのを楽しみにしています。本日はありがとうございました。