インタビュー

クアルコムが語る「半導体不足」その背景と影響

ソニー協業の狙い、グーグル独自チップへの考えも

 スマートフォンで、映像やゲームなどの処理、そして通信機能などを実現する部品を手掛ける米クアルコムが、12月1日と2日(日本時間)、新製品を発表するプライベートイベント「Snapdragon Tech Summit」を開催した。

 2日には、同社のキーパーソンが日本を含むアジア(中国除く)の報道関係者との会見に応じた。回答したのは、モバイルコンピュート・インフラ部門担当のシニアバイスプレジデントであるアレックス・カトージアン氏(Alex Katouzian)、モバイルハンドセットビジネス担当のシニアバイスプレジデントであるクリストファー・パトリック氏(Christopher Patrick)、5G担当のシニアバイスプレジデントであるドゥルガ・マラーディ氏(Durga Malladi)、XR担当バイスプレジデントのヒューゴ・スワート氏(Hugo Swart)。

左からスワート氏、パトリック氏、カトージアン氏、マラーディ氏

半導体不足の背景

――チップ不足がビジネスに影響を与えていると思う。ベトナムのようないくつかの市場では、クアルコムはスマートフォン用チップ市場での評価を維持していますが、市場シェアは競合他社に抜かれてしまいました。どう対処しますか?

カトージアン氏

 単に「供給不足」というだけではなく、もう少し複雑な問題があります。新型コロナウイルス感染症の影響で、約10ヶ月の間、すべての設備が急速に停止し、供給不足が生じました。

 いくつかの設備拡張を中止し、サプライチェーンがどうやって回復するかを見極めるための待機期間に入りました。一方で、消費者向け電子機器の需要が全体的に高まっていました。

 シャットダウンが発生すると、元に戻るまで時間がかかります。2021年には設備不足の時期がありました。

 少しずつ改善されてきましたが、影響は来年以降も続きます。私達は、ファブレス企業として、製造施設を別の施設へ切り替える能力があります。そうすることでサプライチェーンの問題をいくつか軽減できました。

 2022年には中下位の製品を含めチップ不足は緩和されていくでしょう。

パトリック氏
 クアルコムの使命は、その技術を、すべての地域、すべてのチップに広めることです。市場シェアは当社にとって重要ではなく、技術のインパクトを最大化することに重点を置いています。

――パンデミックによるサプライチェーンの制約と混乱のもとで、クアルコムのファウンドリー(半導体製造を担う企業)戦略はどう変わるのでしょうか。

カトージアン氏
 私たちは世界最大規模で、優れたサービスを提供しており、(ファウンドリーを複数活用するといった意味での)多様化できる事実も好ましく思っています。

 多角化はできますが、老舗の半導体企業とファウンドリーの関係は戦略的なものでなければなりません。パンデミックが深刻化するにつれ、最も強力なパートナーでさえ、お客様に部品を供給するためには「多様性」が必要であることに気づくようになりました。ですから、当社のファウンドリー戦略は変わりません。

Snapdragon 8 Gen 1について

――Snapdragon 8 Gen 1発表ということでしたが、(競合の)メディアテックもハイエンドなチップセットを発表しました。クアルコムでは自社製品の優位性をどう考えていますか。また今回ネーミングが複雑なものから、簡略化されたものへ変化しましたが、今後の戦略や方向性を意味しているのでしょうか。

カトージアン氏
 いくつかの例外を除き、GPU、DSP、ISP(画像処理プロセッサ)など大部分をクアルコム自身で開発しています。3年以上の研究開発をしており、「Snapdragon 8 Gen 1」は、ほかの製品とまったく異なります。

 ネーミングについては、私たちは「Snapdragonプロセッサ」と呼ぶことを避けています。実際には、システムソリューションです。自社で設計されたものが相互に連携して、最高のパフォーマンスとユーザー体験を実現するものなのです。

――(クアルコムは自社工場を持たない、ファブレスのため)サムスンがクアルコム製品の一部を生産しているとのことですが、2020年に経験した熱問題は解決されましたか? またクアルコムではインテルと協力し、28nmプロセスを活用するということですが、スマートフォン向けなのか、パソコン向けになるのかどちらでしょうか。

パトリック氏
 現代のスマートフォンは、小さなボディに大きな能力が搭載されています。パソコンやデジタル一眼レフといった機器でできることを本当に超えています。そこには、トレードオフとバランスがあることは想像できるかと思います。私たちは研究開発に多くのエネルギー、努力を費やしています。

カトージアン氏
 インテルについては、「その時がくればサポートするが、特に時期は決めていない」ということになります。とはいえ、私たちはサポートしていきます。

ミリ波の動向

――(6GHz帯以下の周波数であるサブ6と、高い周波数であるミリ波を用いる)5Gではミリ波が必要ですが、世界各国ではミリ波の採用が遅れているようです。何が問題で、クアルコムとしては何ができるのでしょう。

マラーディ氏
 ミリ波の割当は世界各地で進められています。今年4月には豪州でもオークションを終えました。今後、世界各地でサービスが始まると見ています。すでに日本では、2020年後半にはミリ波サービスが始まりました。

 クアルコムはそうした動き、システム全体をサポートします。

ソニーとの協業、その狙いは

――ソニーとジョイントラボを設立するとのことですが、実現したいことは何でしょうか。

パトリック氏
 最近のスマートフォンのカメラの仕組みは、センサーができることと、ISPやISPのアルゴリズムができることの間で、非常に強力になりました。これまでもソニーとは協力していましたが、今回の取り組みで、共同で技術開発を行うことで、よりコストを削減することができます。

グーグルの独自チップについて

――グーグルが「Pixel 6」シリーズで独自チップセットの「Tensor」を採用しました。どう受け止めていますか。

カトージアン氏

 そうした出来事は、携帯電話市場では決して目新しいことではありません。

 一方で、自社技術とクアルコムの技術を用いる例もあります。その典型がサムスンです。

 当社の歴史を振り返ってみると、クアルコムでは、コンピューター、コミュニケーション、マルチメディアに適用可能な一連の技術を提供してきました。過去35年、行ってきたことなのです。モバイル環境に最適で、最高級の技術とシステムソリューションを生み出す。そうした伝統と歴史と能力があります。

  私たちは市場にとって最適と思われるソリューションを提供しますが、彼らには彼らのソリューションを生み出す独自の方法があるでしょう。

パトリック氏
 先端的な半導体の市場は常に競争が激しく、常にダイナミックです。私たちにとっては(グーグルが独自チップを出すといっても)「競争する」ということに変わりありません。市場の多様化をもたらすことも歓迎します。

カトージアン氏
 Androidはエコシステムの大きな部分を占めており、クアルコムはソリューションを提供し、多くのメーカーやパートナーに提供しようとしています。だからこそAndroidというエコシステムは反映し(競争から)生き残っています。今後もそれは続きますし、できるだけ多くのOEMやシステムパートナーにソリューションを広めようとしています。それが、このAndroidシステムの繁栄と存続につながっています。ですから、私たちはそれを続けます。そして、もし競争相手が現れたら、私たちは自分たちの能力を最大限に発揮して競争します。

アップルのM1について

――アップルは「M1」チップの開発に成功しました。

カトージアン氏
 (アップルのM1チップにより)この4、5年の間、私たちが業界に導入しようと努力してきたことが証明されました。そして、ARMベースのマルチメディアベースのコネクテッド・ソリューションが、今後の設計に必要な方法であるという事実が証明されたのです。

 コンシューマー、そして法人ユーザーはより良いもの、より優れたマルチメディア機能を求めています。バッテリー寿命にも注目しています。つまりパフォーマンスとパワーのバランスを求めているのです。

 モバイルの機能や特徴がパソコンに入ってきているのです。私たちは、パソコンとモバイルソリューションの融合を目指しています。私たちは、そのようなニーズに対応するSoCを提供するために、非常に有利な立場にあります。

 今日から始めたとしても、(新たに発表したパソコン向けチップセットである「Snapdragon 8cx Gen 3」と「Snapdragon 7c+ Gen 3」という)第3世代の製品はそうした状況へ非常に適しています。

 今春、NUVIAという企業を買収しました。彼らは、当社の次世代CPUコアを製造しており、今後2~3年のうちに発売されるパソコン向け製品のアーキテクチャーなどにも関わっています。

 当社は、Snapdragonをベースとした、より強固なPCエコシステムの構築を目指しており、今後もこの市場への投資を継続し、導入を進めていく予定です。私たちは、Snapdragonをベースにした、より強力なPCエコシステムの構築を目指しており、今後も継続していきます。

製品の動向について

――5G対応のノートパソコンやタブレットについての見通しは?

カトージアン氏
 東南アジアのような地域では、携帯電話以外の5Gデバイスについても普及すると見ています。ノートパソコンでは、マザーボード上にモジュールを組み込むよりもモジュールを追加できる方がはるかに簡単です。そこで、私たちはお客様にモジュールを追加できるようサポートしてきました。5Gアンテナの配置にあわせて対応できるよう、設計やレイアウトを支援しており、この戦略は非常にうまくいっています。特に5Gモデムの採用が少しずつ増えてきています。

 今後、モバイル化が進み、どこからでも接続でき、働けるようにする状況がますます重要になり、ハイブリッドな働く環境が続くと、ノートパソコンの接続性能はますます大切になります。

――マレーシアでは1、2のノートパソコンブランド程度しかまだ提供されていませんが、Windowsでの普及が遅れている理由は何でしょうか。

カトージアン氏
 既存の企業が多い市場では、新たな変化が広がるまで時間がかかります。クアルコムでは、マイクロソフトと緊密に協力しており、Windowsや開発者、エコシステムが最適化され、SnapdragonベースのソリューションやWindowsベースのデバイスが増えていくと思います。

XRについて

――XRの最新情報を教えてください。

スワート氏
 XRは急激に成長しています。私たちの友人であるMeta社、Facebook(フェイスブック)では、ユーザー数と利用率が驚異的に増加しています。

 VRでは、コンシューマー向けでゲームが主要なアプリケーションになると考えていましたが、フィットネスやソーシャル・インタラクティビティなどのユースケースも見受けられるようになりました。

 企業向けでは、学習、教育、医療、福祉といったあらゆる分野がターゲットです。

 (VRゴーグルは)50以上存在しますが、ゼロから立ち上がった市場です。VRを構築する企業は、XRプラットフォームにSnapdragonを活用しています。

 メタバースにはスマートフォンやパソコンからもアクセスできますし、腕時計やワイヤレスイヤホンといった周辺機器もバーチャル体験に貢献します。