インタビュー
京セラが「あんしんスマホ」をドコモから発売する意義とは? 京セラ/ドコモ担当者インタビュー
2021年11月22日 00:00
NTTドコモから京セラ製のAndroidスマートフォン「あんしんスマホ KY-51B」が、2022年2月以降に発売される。
シニア層をターゲットとした製品で、京セラのシニア向け端末の長い歴史では初のドコモ向けスマートフォンとなる。
ドコモではすでにFCNT製の「らくらくスマートフォン」シリーズが展開されているが、「あんしんスマホ」としてのアピールポイントや京セラとドコモ双方の今後のシニアユーザーへの取り組みはどのようなものか。
今回、京セラ 通信機器事業本部 通信事業戦略部 シニア・ビジネスユニット部責任者の伊東 恭弘氏とNTTドコモ プロダクト部 第二商品企画担当部長の長沢 秀之氏に「あんしんスマホ KY-51B」の開発経緯や特徴を聞いた。
フィーチャーフォン→スマホに移行するユーザー
「あんしんスマホ KY-51B」は、6.1インチの大画面ディスプレイを搭載した5G対応Androidスマートフォン。生体認証は、背面の指紋センサーによる指紋認証と顔認証に対応する。
画面の下部には「電話キー」と「ホームキー」、「メールキー」と3つの物理キーが用意されている。普段の操作でもホーム画面を表示する際などで利用できるが、ポイントは「電話がかかってきたとき」などに光で操作をアシストしてくれる機能だ。
電話がかかってきたとき、多くのスマートフォンでは画面上に現れる応答ボタン(おおむね緑色の丸い電話アイコン)をタップすることで、電話をとれる。
同機では、「画面をタップする」以外にも「物理キー(電話キー)を押下する」方法でも電話をとれる。また、電話がかかってきたとき、キー部分光って「ユーザーに電話を取る方法」をアシストしてくれる。これまでフィーチャーフォンでの物理キー操作に慣れ親しんでいたユーザーでも、基本操作しやすいように考えられた機能だという。
京セラ伊東氏によると「説明書がなくても使いやすい」を目標に開発されたという。「日本国内で60~80代の人口はおよそ3400万人で、このうち93%は何らかの通信機器を持っています。このうち8割がすでにスマートフォンを持っていますが、まだスマートフォンを使っていないユーザーが2割いらっしゃる」(京セラ担当者)といい、この2割のスマートフォン移行を目指し開発された。
同機には、このほか基本的な使い方や、スマホ決済サービスなどスマートフォンの便利な使い方を紹介するアプリ「使い方ナビ」を用意しているほか、ドコモショップなどで開催されている「スマホ教室」や京セラが開催している教室など通じて、初歩的なものからレクチャーしフォローアップを図るという。
シニアスマホに5Gは必要なのか?
5G通信サービスがスタートした2020年において、5G対応スマートフォンはハイエンドモデルが中心で、ミドルレンジ以下では4Gスマートフォンが中心のラインアップだった。
2021年に入ってからはエントリーモデルの5Gスマートフォンが登場しており、「あんしんスマホ KY-51B」が発表されたドコモの冬春モデルからはすべてのスマートフォンが5G対応となった。
5G通信では、超高速低遅延の通信が提供される一方で、4Gと比べて消費電力が高い傾向にある。フィーチャーフォンからスマートフォンへ移行するユーザーの中には、電池持ちを気にするユーザーもいる中、今回5G対応となった理由を京セラ伊東氏に聞くと「5Gを使える環境になってきた」と「買い換えサイクルの長期化」の2つのポイントがあるという。
まず、「シニアに5Gは必要なのか」という議論は1年前からあったと指摘。この1年の間にデジタル庁の発足やオンライン診療、オンラインミーティングが叫ばれており、シニア層でもデジタル化が進んでいる。オンライン診療では、スピードだけでなく低遅延性も求められるなかで、「シニアだけ4Gでいいのか」という話があったとコメント。
また、料金プランも世相に合わせて5G化されてくるなど、5Gが利用できる環境が着々と用意されている点についても指摘し、シニア世代でも5Gを利用できる環境、利用できるサービスがあることがポイントだと説明した。
「買い換えサイクルの長期化」については、世の中の買い替えサイクルが近年2年→4年程度と長期化してきたことに加え、シニア世代では5年程度利用するユーザーが多いという。
次の端末まで3年~5年となる中で、「5年後まで4G端末のままでいいのか」という指摘や、買い換えのタイミングで新しい通信方式に対応した端末をユーザーに持ってもらった方が安心できるとした。
一方、バッテリー持ちについては、バッテリー容量自体の大容量化で不安点を解消している。
ほかのシニア向けスマホとは共存共栄を図る
ドコモの冬春モデルとして展開する「あんしんスマホ KY-51B」だが、同じ冬春モデルのラインアップには、FCNT製の「らくらくスマホ」が登場している。
「らくらくスマホ」はドコモのシニア向けスマートフォンとして、長きにわたり続いてきたシリーズだ。
その「らくらくスマホ」と近い役割や価値を提供しようとする「あんしんスマホ KY-51B」だが、京セラ伊東氏によると、「『らくらくスマホ』のシェアを奪うのではなく、カバーしきれていないユーザーに向けた端末」を目指したと語る。
伊東氏は「ラインアップ発表まで『らくらくスマホ』と並ぶことは知らなかった」としながらも、「らくらくスマホ」に根強いファンが多いことは認知しているという。
一方で、京セラはこれまでほかの通信事業者向け端末などで培ってきた経験を活かし、シニアの多様性に向けて先を見据えたときに「支持するユーザーが多いらくらくスマホでも、カバーしきれないユーザー層がいるのではないか」とし、ドコモと議論を交わし、「あんしんスマホ KY-51B」を提案したと説明。
「あんしんスマホ KY-51B」では、6.1インチの⼤画⾯ディスプレイの搭載や、ユーザーインターフェース(UI)、アクティブなシニア層に向けた端末デザインなどで特徴を打ち出すことになった。
ドコモ長沢氏も、シニア層をらくらくスマホとあんしんスマホの両方でユーザーニーズを踏まえカバーしていくことを示した。
また、筆者が「らくらくスマホの『牙城を崩す』ことを目指しているか?」と質問したところ、京セラ伊東氏は「全体としてWinを目指すこと」を目指していると回答。
伊東氏は、ドコモとユーザー、そして京セラ3方が「Win-Win-Win」の関係にならないといけないと指摘。その上で、らくらくスマホの牙城を崩してしまうことは、ドコモとしてメリットではないとし、ドコモの事業として、そして京セラの事業として全体としてのWinを目指していると説明した。
「あんしんスマホ」の展開についても、ほかのキャリアへの展開は予定されておらず、今後も継続して「らくらくスマホ」と「あんしんスマホ」が総合カタログに継続して掲載していけるようにしたいとした。
京セラでは、シニア向け携帯端末を2005年から、スマートフォンは2015年から手がけているが、まだまだ一般に認知されていないと指摘。また、デジタルシフトの波が来ている中、デジタルデバイドを埋める必要があるという社会的意義からも引き続き取り組んでいくとしている。
シニア向けの取り組み
最後に、ドコモと京セラ双方のシニアに向けた取り組みについて話を聞いた。
ドコモ 長沢氏
日本全国で28~29%がシニアと言われており、年数がたてばたつほど(この数字は)増えていくと思っています。
そういった中で、ラインアップの考え方を含め、多くのシニアユーザーに何がよいのか、どんなことを求められているのかといった「お客様の声」をしっかり聞きながら、メーカー様ともお話をしながら商品企画および開発、ご提案を継続していきたいと考えています。
それに加え、当然デジタルシフトのなかで「すでに波に乗っているシニアの方々」がおられる中で「『(デジタルは)かなり難しい』と思っているシニアの方々」もまだまだ多いと言うことも事実だと思っております。こういった面は端末そのもののUIやUXの改善を図っていきます。また、ソフト面では「スマホ教室」を通じ、かなりの回数を重ね多くの方に利用いただいおります。
こういった取り組みを継続することで、日本のデジタル化に今後も尽力していきたいと考えています。
京セラ 伊東氏
シニアに向けたところとして「あんしんスマホ」という形で端末を出させていただいています。(シニアユーザーの)リテラシーの向上や価値観の多様性といった部分は、今後どんどん広がってくると思います。
我々としては、端末に限らず、サービスなどさまざまな方向で世の中に提供させていただきたいと思います。
【訂正】
一部スペックに誤りがありました。訂正いたします。