インタビュー
本格カメラ体験を実現した5Gスマホ「Xperia 1 II」開発者インタビュー
2020年5月21日 06:00
ソニーモバイルコミュニケーションズは、NTTドコモとau向けに、5G対応のAndroidスマートフォン「Xperia 1 II(エクスペリア ワン マークツー)」を2020年5月に発売する。
Xperiaのフラッグシップモデルである、Xperia 1の次世代機となる同機は、「ZEISS Lens(ツァイスレンズ)」を採用したトリプルレンズカメラを採用し、写真や動画撮影に力を入れているスマートフォン。写真と動画それぞれに専用の撮影アプリ「Photography Pro」「Cinematography Pro」を用意している。
また、ハイレゾ音源をサポートする3.5mmのイヤホンジャック、90Hz相当の残像低減技術を搭載した6.5インチ21:9の4K HDR対応有機ELディスプレイを搭載。ソニーの技術がつまった機種になっている。
同機の特徴について、ソニーモバイルコミュニケーションズの企画部の渡邊 浩彰氏、ソフトウェア技術部門 SW開発4部の三森 亮氏、商品設計部門 商品部の和久 健二氏にお話を伺った。
Xperia 1から設計をゼロベースでスタート
――Xperia 1からXperia 1 IIへ、コンセプトを定める段階でどのような形で議論が進んでいったのでしょうか。
渡邊氏
Xperia 1で好評をいただいていた、21:9のディスプレイや3つのカメラレンズは踏襲し、一方でユーザーから要望を頂いていたワイヤレス充電の実装や、オーディオジャックの復活などを盛り込みたいという形で進めていきました。
ただ、ハードウェアを増やすとサイズ感が課題になりました。そこで、Xperia 1のサイズ感は変えることなく実装するため、本体の設計に関しては、ゼロベースで設計しなおすことになったんです。
スマホの本体デザインについては、近年コモディティ化してきているところはありますが、Xperia 1 IIに関しては、ソニーが好きなユーザーに向け、Xperia Zシリーズの原点に立ち返ったデザインを目指しました。
また、電池容量が3200mAhから4000mAhに容量を増やしました。5G通信は4G通信と比べて電力を消費することや近年のトレンドを踏まえ、容量を増やしています。
――Xperia 1では、好きを極めたい人々に送るというコンセプトでしたが。
渡邊氏
Xperia 1 IIも、引き続き好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスをお届けするというコンセプトで取り組んでいます。実際に、Xperia 1では好きを極めた人たちに好評でした。これを受け継ぎながら、Xperia 1 IIでは5GやXperia 1を上回るさまざまな機能で、一段上の体験をしてもらいたいとしています。
――カメラの性能向上やオーディオジャックの復活などは、足りなかった部分を補ったかたちになるのでしょうか。
和久氏
Xperia 1のときは、ソニーモバイルの経営体制が変わり、好きを極める人たちに送るという新しいビジョンのもと進めてきました。過去、オーディオジャックは、搭載しないという明確な意思をもって外しました。
今回のオーディオジャック搭載は、単純に戻すという形ではなく、チャンネルセパレーションなどの音質にこだわり、部品1つ1つの配置にもこだわり設計しています。好きを極める人に納得してもらうため、新しく追加する形で設計しました。
また、カメラセンサーの大型化など部品の数や大きさも、Xperia 1から大きく変わっています。しかし、21:9の6.5インチディスプレイとスリムボディであることは絶対命題でしたので、時間をかけ、何度もスタックアップをシミュレーションしてきました。中身の設計は、Xperia 1以上に高密度になっています。
Xperiaシリーズの新ネーミングルール
――Xperia 1 IIのネーミングルールについては、すんなり決まっていたのでしょうか。
渡邊氏
Xperia 1の計画時点で、シリーズを表す算用数字、世代を表すローマ数字という命名ルールにする案はありました。その中でも、Xperia 1はXperiaシリーズのフラッグシップモデルとしてシリーズ化していること、またその2世代目ということで、今回のXperia 1 IIとなりました。
命名ルールを変更したばかりのため、ユーザーへの浸透には少し時間がかかるかもしれませんが、引き続きブランディングしていきます。
ソニーの技術がふんだんに使われたカメラ機能
――Xperia 1 IIでは、カメラ部分に特にこだわりを感じました。カメラレンズの位置が背面中央からサイドに移動しましたが、使い勝手を意識してのことでしょうか。
渡邊氏
専用のカメラキーを使用し、本体を横にして撮影する機会が増えることから、左指がカメラにかからないようにしました。また、スロー動画の撮影やシャッタースピードを変更して撮影する場面などで、本体をしっかりホールドできるようにカメラ位置を移しました。
――カメラが縦一列に配置されています。他社ではスクエア型に配置するなどがありますが、縦配置にする上でどのような考えがありますか。
渡邊氏
デザインとユーザビリティを考えました。3D iToFセンサーについては、標準レンズと望遠レンズの間に配置することで、あらゆるシーンでの性能を最大限に発揮します。フラッシュの位置は、通常のカメラと同様、レンズの上から発光するように配置することで、より通常のカメラと変わらない写真を撮影することができると考えています。
――今回、ZEISS(ツァイス)のレンズに「T*(ティースター)」コーティングが施されています。試してみると暗い夜間で街灯がぽつんとある場面の撮影でも、確かに光の反射が抑えられていると感じました。このあたりの選定はどのような流れで決まったのでしょうか。
渡邊氏
クリアな描画性能があり、光のノイズを防ぐ効果があるレンズを採用しました。ZEISSのレンズは、長年に渡り写真を趣味にしているユーザーの信頼や憧れの的になっています。交換式レンズを普段から使用しているユーザーに対して、満足させるようなレンズをZEISSと共同開発しました。
――広角・超広角・望遠のレンズの搭載は、近年のハイエンド端末では当たり前に搭載されているものになってきました。Xperia 1 IIでは、他のレンズの選択肢はあったのでしょうか。
渡邊氏
交換式レンズを普段から使用するユーザーに、交換式レンズを使用したカメラと同じような撮影体験をしてもらいたいという思いから、一般的に使用される、16-35mm、24-70mm、70-200mmの焦点距離に合わせる形でレンズを選定しました。本体設計では、スリムボディであることも要求されていますので、サイズやF値などの性能バランスを考慮した結果、Xperia 1から、標準レンズを26mmから24mmに、ズームレンズを52mmから70mmにそれぞれ変更しています。
――他社では、100mmを超えるズームレンズを搭載した機種が出てきています。
渡邊氏
高い基準を満たす画質と、使われる頻度・使いやすさを踏まえたレンズ選びを行いました。高倍率ズームレンズについては、市場の動向を踏まえながら、慎重に検討していきたいと思います。
――画素数については、1200万画素となっています。他社にはもっと高画素なセンサーを搭載するものもあります。3つのカメラを1200万画素で統一した狙い、メリットをあらためて教えてください。
渡邊氏
Xperia 1 IIでは、超高速でAF機能を使用する機能があります。画素数をこれ以上高くしてしまうと、高速撮影や高速AF性能に影響が出てきてしまい、強みを活かすことができません。1200万画素あれば、一般的なディスプレイやA4サイズの用紙への出力に十分対応できると判断し、バランスをとった画素数にしています。
――カメラアプリ「Photography Pro」はいくつかの特徴があります。ただオートで、1枚だけ撮るといった場合は、通常のカメラアプリと違いがあるのでしょうか。
渡邊氏
Photography Proのオート撮影と通常のカメラアプリでは、画質面においては大きな違いはありませんが、機能やUIが異なります。Photography Proでは、ソニーのαシリーズの技術を使い、レンズ交換式カメラと同じようにパラメータをユーザー自身でカスタマイズできる、本格的な撮影体験を実現しました。
難易度が高い開発でしたが、最高20コマ/秒のAF/AE追従高速連写も可能です。
和久氏
赤ちゃんや子供など動く人物や、犬が飛んでくる瞬間など躍動感のある写真が撮影できます。従来一眼レフカメラでしか撮れなかったような写真が、ポケットからさっと取り出してすぐに被写体を収めることができると思いますね。ぜひ、通常のカメラアプリと比べていただけると、違いがわかるかと思います。
三森氏
Photography Proでは、一眼レフカメラと同じようにシャッタースピード、ISO感度やホワイトバランスをマニュアル設定やモード設定で自分好みに設定することができます。また、主要被写体認識の搭載により草木の手前にある花にピントを合わせやすかったり、AF-Sの際にはタッチAFを組み合わせることもできるなど、スマートフォンであるXperia 1 IIならではの強みもあります。
セルフタイマーとAF-SでのタッチAFを組み合わせて、これまでのスマートフォンカメラで難しかった物撮りなども楽しめると思います。
――新型コロナウイルスの影響で外出自粛のこの時期に、お家でも楽しめるようなおすすめの被写体はありますか。
三森氏
例えば、蛇口から出てくる水道水はどうでしょう。シャッタースピードを変えることで、はっきりと写すことができたり、流れる躍動感を感じられる写真にもすることができます。
本来であれば、外に出て撮影を楽しんでほしいところではありますが、自粛生活の中でいままで本格的なカメラで撮影したことがない方であれば、さまざまな設定をじっくり勉強してもらえる機会になるのではないかと思います。
――他に、注目してほしいマニュアル設定はありますか。
三森氏
色温度設定をうまく使えば、日陰の場面などで青っぽく撮れてしまったりといったことを防げます。
また、白を限りなく白で撮影したいウエディングの場面では、カスタムホワイトバランスを調整することで、ウエディングドレスの白を忠実に撮影することができます。
――今回のカメラのさまざまな機能は実際にソニーのカメラαシリーズのチームと共有しながらアイデア出しを行ったのでしょうか。
三森氏
私自身も以前は一眼カメラのチームにいたので、αシリーズのチームと密に話し合いを行ってきました。また、Xperia 1 IIの設計にあたり、どういうワークフローでどういうふうに撮影するのかを、約1年間何度もインタビューを重ねていきました。
撮影する人によって、撮影の方法や好みの設定が違うために意見がぶつかることもありましたが、さまざまな意見を吸収し、よりよいものができあがっていると思います。
タッチ操作前提というスマートフォンならではのUI(ユーザーインターフェイス)・操作性には特に苦労しました。さまざまな画面の案を出しては、それを実際のスマートフォンの画面に表示させてみたり試行を重ねました。親指でよく使用する部分をタッチしやすく、画面にボタンを詰め込みすぎて誤動作を発生させないようなUIを目指しました。操作性をできるだけαシリーズに近づけ、慣れれば見ずにでも操作できるようなものになっていると思います。
物理キーを持たないスマートフォンの強みを発揮できるようなUIにこだわりました。
――操作性にあたっては、Cinema Proを意識してのものだったのでしょうか。
三森氏
操作性に関して、相互に影響していることはありません。Xperiaシリーズにおいて、Cinema Proは先にリリースしているものでしたので、どうやっていたかを参考にした部分はありますが、動画撮影と写真撮影では、ディスプレイにタッチする回数も違うため、あくまでPhotography Proのみに向けて、UI設計を行いました。
――今後のソフトウェアアップデートで実装される機能はありますでしょうか。
渡邊氏
Photography Proについては、国内ではソフトウェアアップデートにてリリースします。ユーザーの要求レベルも高いため、品質を妥協せずに、クオリティを優先しました。実際に市場に出てからのリリースでも満足していただけるはずです。
Cinematography Proでは、120fpsのスロー撮影機能を実装予定です。
ディスプレイや生体認証・マルチウインドウ機能について
――ディスプレイについて、残像低減技術で90Hzディスプレイ相当のリフレッシュレートを実現しています。
渡邊氏
90Hz以上の高リフレッシュレートは、近年のトレンドになってきており、ソニーモバイルとしても高リフレッシュレートを採用したい思いはありました。ただ、現在4Kの120fps動画のように、高リフレッシュレートの実力を発揮できるコンテンツが少ないということや、90Hzのディスプレイよりも残像低減技術を使用したほうがバッテリーにも有利である点を考慮して、選定しました。
和久氏
残像低減技術自体はオーバードライブ技術という既存の技術を活用しています。4Kディスプレイでリフレッシュレートを上げていくには、技術的に課題がありました。4Kのコンテンツがまだ出揃っていない現状ではありますが、スマホゲームなどで高レートを求められている部分も出てきていたため、今回の選定となりました。
将来の機種についても、市場の動向を探りながら、高レートの実現方法は検討していきます。
――生体認証は今回指紋認証を採用していますが、顔認証については今後実装される計画はありますか。
渡邊氏
顔認証については、暗闇での使用やマスクを着用しているときに対応できないデメリットがあります。指紋認証はこの点をカバーできているため、利便性では指紋認証が上回っていると思います。
今後の顔認証の採用については、市場ニーズをふまえながら判断していきます。
――その他、アプリなどこだわりの機能はありますでしょうか。
渡邊氏
Xperia 1で好評だったマルチウィンドウ機能をさらに進化させました。アプリを選択する手間の軽減や、履歴から切り替えできるマルチウィンドウスイッチという機能を追加しています。21:9のディスプレイを生かして、動画を見ながらSNSの閲覧・投稿を行うなど、さまざまな使い方ができるようになっています。
――本日はありがとうございました。