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楽天グループの2022年度は3700億円超の赤字、携帯事業は「とにかく利益体制を確立」目指す

 楽天グループは14日、2022年12月期第4四半期決算を公表した。売上は通期で1兆9278億7800万円、営業利益は3638億9200万円。損益は3728億8400万円の赤字となった。本稿ではモバイル事業を中心に発表の内容をお伝えする。

楽天 三木谷氏

楽天モバイル(MNO)の契約数は450万超

 楽天グループが注力する携帯電話事業の楽天モバイルは、売上が1910億円、利益は4593億円減で前年同期比でそれぞれ41.5%の増収、55.5%の減益となった。MNOにおける契約回線数は451万8000回線。課金ユーザーベースでは、前年同期比でユーザー数は増加したとされている。一方で、MVNOを含めた契約数は506万件。第1四半期時点では568万件とされており、2022年度としては減少している。

 楽天グループ 代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、2023年を「収益体制を確立する年」と位置づけ、黒字化を急ぐ姿勢を見せる。三木谷氏は「この3年間で基地局は5万2000局。当初計画では4万7000局で5000局上回っており、年末までに追加で8000局を追加する」と、急ピッチで基地局整備を進めていることを説明。「ヘビーユーザーを取り込んだほうが楽天エコシステムへの貢献が大きい」とその狙いを語った。

 人口カバー率としては現時点では98%代半ば。今後、99%以上の達成を目指す。

 KDDIからのローミングによるパートナー回線の使用量が全体の4%ほどあるという。これを12月までに減らしていくことでローミング費用を削減し、コスト削減につなげる。完全仮想化による基地局など、楽天グループ内製ソフトウェアを活用した仕組みにより、他MNOに比べて80%ほど低い費用で全国カバレッジを達成できるとその優位性をアピールした。

 三木谷氏によるとこれまで、楽天モバイルでは、年間3000億円程を設備投資に投じてきた。2023年も同等の投資額を見込んでいるが、そののち2024年以降は1200億~1500億円へ削減できる見込みという。

利益体制を確立

 技術面以外でも、楽天モバイルはさまざまな方策で黒字化へ向けて進む。三木谷氏は、広告宣伝についても、従来のテレビCMなどいわゆるマスマーケティングと呼ばれる手法から「リファラルマーケティング」への転換を進める。これは、楽天モバイルを紹介したユーザー、された新規ユーザーにポイントバックなどの特典を付与するもの。

 三木谷氏は「我々はすでにネット中心に切り替え、プラスになっている」と効果を示す。「2023年はとにかく利益体制を確立する年。そののちに(エリアの)カバー率を向上、他社と遜色なくなったら2024年は加速していきたい」とコメント。「設備投資が一巡してきた。かなり(基地局建設などに)グループ会社の社員を投入していた。そこをもとに戻すことで、外注費用も下がる。ローミングの削減、MVNOからの移行やショップもより効率化する」とした。

 このほか、SPU(楽天スーパーポイントアッププログラム)に楽天モバイルが入ったことで、大きな成長要因となっているとも説明。楽天市場スーパーSALEの流通総額におけるMNOユーザーは23.8%。22%のユーザーがSPUの対象であることを楽天モバイルの魅力と感じているというデータが示された。

エリアカバレッジもさらに強化へ

 コスト削減と並行して、プラチナバンドの獲得に向けても動く。プラチナバンドとは、700MHz~900MHz帯の電波で障害物などが多い環境でもつながりやすく、エリア構築で重要な役割を果たす。

 三木谷氏は今後について「2023年はプラチナバンドを獲得し、2024年以降、全国津々浦々で衛星も含めて地理カバー率100%を達成したい」と意気込む。獲得できれば、楽天モバイルにとって大きなプラスになるとも語り、同社のソフトウェア技術の活用で、導入にかかるコストも大きく下げられるとする。

 1契約あたりの利益を示すモバイルARPUは1805円で、楽天エコシステムの利用も含めると2510円。MNO各社から割安な料金で利用できるサブブランドも登場しているが、それでもヘビーユーザーにとっては楽天モバイルのほうが安くなるという三木谷氏。そうした認知も進んできているとして、主に若年層のヘビーユーザーの獲得を目指し、法人サービスの提供や楽天エコシステムもあわせて連携でその魅力をアピールする。

 2022年12月の楽天モバイルユーザーのデータ利用量は18.4GB。対して他3社の平均は9.3GB。「インターネットをヘビーに使う人が楽天モバイルに集まっている」と三木谷氏はコメントした。

 あわせて三木谷氏は、楽天モバイルユーザーが楽天サービスの成長にも密接に関わっていることを明かす。同氏は、MNO契約で延べ1000万回以上のグループサービス利用増加につながったとしており、楽天モバイルユーザーによる楽天市場流通総額の押上効果は、年平均3万7683円におよぶという。

 今後、開始予定のサービスとしてダークファイバーを活用した法人向け高速ISPとVNEでフレッツにより接続される楽天ひかりが予定されている。

質疑応答では

楽天モバイル 矢澤氏
楽天シンフォニー タレック氏

――楽天モバイルの現況についての受け止めは

三木谷氏
 解約する人ユーザーの大半が1GB以下のユーザーで、70%くらい。言い方が難しいが(楽天モバイルの戦略上)ポイントではないユーザーが多数いる。ロイヤルカスタマーを狙っていきたい。データARPUも上がって順調に伸びてきている。5Gを使うと上がってもらえるし、第一目標であるARPU3000円に向かって推移している。

 ユーザーの利用動向としては、1GB以上使っている人は純増している。(1GB以下のユーザーとの)血の入れ替えについては順調に進んでいると考えている。去年と遜色のない新規加入をできている。

 今までは大量のTVCMを出していたが、ほぼすべてのサイト・アプリのなかで楽天モバイルの広告を出している。1日で130万人くらいの人が遷移している。15日からは紹介キャンペーンを開始する。モバイルの料金をポイントで払ったらほとんどタダになる、ということが理解されていない。これを口コミで広げるのが重要。オンラインで、ワンクリックでの加入・アクティベーションをできる仕組みを近々発表する。「eSIM」が楽天の武器になる。

――モバイルとエコシステムの連携において、3900万のアクティブユーザーをどうモバイルにつなげていくのか?

三木谷氏
 SPUプログラムに楽天モバイルが入った。これがまだ認知が進んでいないので、楽天モバイルに入るとポイントが増えることをアピールする。従来の携帯電話契約では、ショップで何時間も待たされることもあった。これをオンラインで即時開通のような仕組みを作っていくので、お待ちいただければと思う。

 ポイントで支払う人を増やす、法人向け事業を強化して魅力あるプラン(提供)を行っていきたい。

――2023年中に単月で黒字化を目指す方向性に変わりはないか?

三木谷氏
 売上とコスト削減を随時行ってきた。最終的にはコストはかなりコントロールして劇的な削減を行う。一方で新規加入の増加を図る必要がある。大きな要因はカバー率が更に上がっていくこと、2つ目は楽天エコシステムの活用、100万人以上の人が楽天モバイルのWebサイトを訪れているので(楽天モバイルへの)転換を進める。もう1つはポイントプログラムの強化、リファラルマーケティングに変えてコスト効率を挙げていく。

 かなりの収益改善が行われるのは間違いない。年内になんとか頑張って単月(黒字化)を目指したい。

――携帯大手が障害などに備えたデュアルSIMを用意している。楽天モバイルでの取り組みはあるか?

矢澤氏
 現在、総務省がリードしている災害時の通信環境を保つかという議論に参加しており、それにそって進めたい。1点はまだネットワークを作っている最中なのでまずはそこに集中する。楽天モバイルとしてもさまざまなコミュニケーションを行っており、詳細は控えたいが方向としては同じ。

――コスト削減のなかで店舗の見直しとあるが、今後の計画を教えて欲しい

三木谷氏
 基本的には採算性をみながら考える。ただ、楽天モバイルは70%くらいの方がオンラインでサインアップしている。今後はどちらかというとオンライン重視をしていく。採算が黒字のところは残し、赤字のところはクローズする。

――プラチナバンド割譲でドコモが提示した案の受け止めは

タレック氏
 既存のサイトを再利用しバックホールも再活用する。ロールアウトについては2024年の初頭からできる。

三木谷氏
 他社であれば、新しい周波数に対応するハードウェアが必要になる。楽天モバイルの場合は内製のソフトウェアでやっており、コストはそんなに大きくない。物理的な設置についても既存のバックホールを使おうと考えており、コストはあまりかからないというのが我々の構造的強みと思っている。タイミングについては、楽天モバイルはピーク時に1日350件というアクティベーションを行っている。そういうスピードで進めることも可能と考えている。

 プラチナバンドを導入すれば、さらに良くなる地域については1000~2000局と優先的に設置していく。他社さんが始めたときはキャパシティが必要だった。今は5Gがあるので、そちらでカバーできる。リーチをどうやって増やしていくか。プラチナバンドは倍くらい飛ぶ。これは楽天グループにとって競争的なギャップを埋める手になる。

――新春カンファレンスで店舗運営者に楽天モバイルへの加入を呼びかけていたが反応は?

三木谷氏
 店舗の皆様に申し上げたのは、楽天モバイルが普及していくと店舗の流通総額もおのずと上がっていくというロジック。すでに数百件の申込みをもらっている。非常に好調で、我々としては100万件という法人契約の目標に向かって良いスタートが切れた。