石野純也の「スマホとお金」
楽天モバイルの巨額赤字、その原因は?
2023年2月24日 00:00
巨額の赤字を計上している楽天モバイルですが、基地局などの設備投資に加え、KDDIに支払うローミング料もその原因の1つです。実際、過去の決算説明会でも、楽天グループの代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、たびたびローミング代が高額であることを指摘してきました。約款では、エンドユーザーへの請求が1GBあたり500円と明記されており、楽天からKDDIへの支払いも、この額から大きな開きはないと言われています。
この具体的な金額を計算するための手がかりになるデータが、2月14日開催された決算説明会で明らかになりました。四半期ごとの平均データ利用量と、ローミング比率がそれです。この数値に基づいて、補足資料として公開されているMNOのユーザー数を掛け合わせると、ザックリではありますが、4半期ごとのローミング費用を算出できます。ここでは、その推移を計算してみました。
増加するデータ量と減少するローミング比率、その金額は?
まずは、直近のデータから分析していきましょう。7月に導入したUN-LIMIT VIIの導入以降、平均データ量は右肩上がりになっており、10月から12月にかけての2022年第4四半期には、18.4GBに達しています。楽天モバイルが比較として挙げていたドコモ、KDDI、ソフトバンクの平均は9.3GBのため、実に2倍程度、データ通信が使われている計算です。
10月は17.3GB、11月は17.2GBだったため、第4四半期をならすと、約17.6GBになります。自社回線とローミングの割合は、四半期ごとに開示されています。自社エリアの拡大に伴い、ローミング比率は徐々に低下傾向にありますが、22年第4四半期時点で5%ほど残っていることが分かります。こちらはあくまで割合ですが、先ほど求めたデータ量と掛け合わせることで、ローミングで流れた実データ量を求められます。
計算式は非常に単純で17.6GB×5%。0.88GBのデータが、KDDIのネットワークで流れていることになります。冒頭で述べたとおり、ローミング料はおおむね1GBあたり500円のため、ユーザー1人あたり、約440円が毎月KDDIに支払われていることが分かります。この数字は、ユーザー1人あたりのため、ここにMNOの契約者数を掛け算することで総額が分かります。
楽天モバイルによると、1GB以下0円を廃止した「UN-LIMIT VII」の導入影響で、11月まではユーザー数が純減していました。10月まで、既存ユーザーへのポイントバックを行っており、それを待ってから解約した人が多かった証拠です。うっかり解約を忘れた人もいたことから、純減は11月まで続きましたが、12月には反転し、再び契約者数は増え始めています。ただ、四半期ベースで見ると純減の影響はカバーしきれず、MNOの契約者数は449万まで落ち込みました。
この449万契約と、先に計算で求めた440円をかけると、1カ月あたりのローミング料を推定できます。合計額は、19億7560万円。四半期に直すと、約59億2680万円になります。楽天モバイルのMNOからの売上は、データ通信、音声通話、オプションサービスを合わせて、22年第4四半期で244億5400万円。売上のうち、1/4弱がローミング料に消えてしまっていることが分かります。資産として残る基地局とは違い、ローミングはあくまで一時的なコスト。楽天モバイル側には何も残りません。これだけ割合が減っても、ローミング費用を何とかして削減したいという楽天モバイルの気持ちは、よく分かります。
データ量やローミング比率から推定した四半期ごとのローミング費用
とは言え、これでもかなりローミング率は減ってきています。先に挙げたデータ使用量を見ると、1年前の21年第4四半期には、実に17%ものデータがローミングに流れていました。同時期のデータ使用量は平均で9.5GB。それ以前のデータ使用量が公開されていないため、3カ月平均は出せませんが、便宜的に9.5GBを先ほどと同じ計算式に当てはめてみると、1人あたり、約1.6GBがローミングだったことが分かります。その際のローミング料は、約800円です。
この時期は、1GB以下0円を売りにしたUN-LIMIT VIで急速にユーザー数が伸びていたため、契約者数は22年第4四半期とほぼ同じ450万。毎月、36億円程度のローミング料を支払っていた計算になります。四半期単位にすると、108億円です。ただ、1GB以下で無料になっているユーザーや、キャンペーンの無料期間中のユーザーもいたため、MNOの売上は四半期でわずか79億2600万円。1年前は、MNOの売上を超えるローミング料を支払っていたことが見て取れます。
これでは、KDDIのためにユーザーを獲得していたようなもの。エリアを拡大しつつ、ローミングエリアを急ピッチで縮小してきたのも納得できます。もちろん、基地局の設置にもお金はかかりますが、こちらはあくまで設備投資。費用は減価償却で長期に渡って計上されるものの、一度作ってしまえばよく、ローミングのように都度都度発生するコストとは異なります。ダラダラと他社に払い続けるより、自社設備を充実させた方が得策だと判断したことがうかがえます。
以下は、楽天モバイルが公開した月間データ使用量とローミング比率から求めた、ローミングデータ量の推移です。22年は、全体のデータ量は増加傾向にありますが、割合が低下していることもあり、実データ量は徐々に下がっている傾向が見て取れます。また、この数値にローミング単価とユーザー数を掛け算した四半期ごとのローミング費用も、徐々に低下しています。
カウンターパートであるKDDI側の決算を見ても、ローミング収入は徐々に低下していることが分かります。KDDIは、グループMVNOの収入やローミング収入をまとめて計上しているため、少々実態が分かりづらいのが難点ですが、23年度第3四半期(22年10月から12月)の連結営業利益の増減要因を見ると、その合計でマイナス200億円ほど減収しています。これは、楽天モバイル側の数値がおおむね正確であることを裏づけるものです。
ローミング費には定額部分もあり、実態はデータ量ベースの推計より高額か
ただし、上記の金額はあくまでデータ使用量に基づく従量部分の話です。19年11月に開催されたKDDIの決算説明会で、代表取締役社長の高橋誠氏は「ローミング料金については、定額部分と従量部分の2つがある」と明かしています。そのため、実際に楽天モバイルからKDDIへ支払われているローミング費用は、計算よりも高くなっている可能性があります。
例えば、約1年前の22年1月に開催された決算説明会で、KDDIはグループMVNO収入とローミング収入の合計が3四半期合計で634億円の増益になっていることを明かしています。KDDIグループのMVNOである「J:COM MOBILE」や「BIGLOBE」モバイルも徐々に伸びているとはいえ、ここまで収入が急増したのは、ほかならぬ楽天効果と言えるでしょう。
22年度通期(21年4月から22年3月)では、モバイル通信料収入全体からau、UQ mobile、povoといったKDDI直下のブランドからの収入である「マルチブランド通信ARPU収入」を除くと、その差額は1429億900万円にもなります。楽天モバイルが新規参入を果たした21年度(20年4月から21年3月)は、同収入が672億3900万円だったことを踏まえると、1年間で756億7000万円も増収している計算になります。
指標の集計方法が変更されているため、それ以前とは厳密な比較ができませんが、楽天モバイル本格参入前の20年度(19年4月から20年3月)は、UQ mobileとMVNOを合算した収入が660億1500万円。UQ mobileは、20年1月に200万契約を突破しているため、この多くがUQコミュニケーションズ(当時)由来と見ていいでしょう。逆に言えば、MVNOからの収入は限定的です。これらの情報を踏まえると、ローミング収入は、楽天モバイル本格参入の1年目から数百億円規模で発生していたことがうかがえます。
KDDIの23年度第3四半期では、モバイル通信料収入全体からマルチブランドARPU収入を除いた金額は、269億3600円になります。先に挙げた楽天モバイルのデータ量から推察した59億2680万円とは開きがありますが、KDDI側はMVNOからの収入を含んでいる一方で、楽天モバイル側の数字には低額分の支払いが含まれていないため、実際の金額はこの間のどこかに収まるはずです。
いずれにしても、このローミング費用を抑えないことには、楽天モバイルの黒字化を実現するのが難しくなります。急ピッチで基地局を建て、人口カバー率を上げているのはそのためです。楽天モバイルのコスト削減計画を見ても、ローミング費用やMVNO費用の圧縮幅が大きく、重要性が高い項目と言えるでしょう。その成否に注目が集まります。