【MWC Barcelona 2022】
AIで速度やカバー範囲を上げるモデムを出展したクアルコム、CA、DCの成果も披露
2022年3月4日 00:00
クアルコムは、MWC Barcelona 2022に合わせ、5G対応の最新モデム「Snapdragon X70 5G Modem-RF System」を発表。同社のブースでは、その通信性能をアピールしていた。同モデムRFシステム最大の特徴は、チップにAIを組み込み、5Gでのスループット向上やセルエッジでの電波のつかみをよくしているところにあるという。
たとえば、同社が本社を構える米サンディエゴで行った実験によると、ミリ波(n260:39GHz帯)の受信可能な距離を伸ばすことに成功してるという。具体的には、基地局から約1km離れた場所で、ミリ波による通信ができたという。同モデムRFシステム以外では、ミリ波をつかめず、LTEに切り替わってしまうため、結果としてスループットは10倍以上の差が出ている。ミリ波のビームマネージメントを最適化する機能が、こうしたことを可能にした格好だ。
上記は、屋外でかつ、基地局の見通しがある場所での実験だが、AIの効果は屋内でミリ波の反射波をつかむ際にも効果があったという。以下に掲載したスライドがその実験結果で、AIを有効にした試作機では、ミリ波に接続でき、スループットも1Gbpsを超えた一方で、既存の端末はLTE接続になり100Mbpsを下回ってしまっている。
AIはSub-6の5Gでも効果があり、モデム側からのAIを元にした伝搬路情報(CSI)のフィードバックと最適化を行うことにより、スループットを向上させられたという。特に効果が大きいものとして、セルエッジと呼ばれるエリアの端で最大で76%、通信速度を改善できたというデータが示された。5Gのエリア端で弱い電波をつかんだまま通信不能に近い状態になる“パケ止まり”は日本でも問題視されているが、このモデムRFシステムを使うことで、改善が可能になるかもしれない。
同様に、同じ周波数帯で4Gと5Gを共用して、リソースの配分を動的に変更できるDSS(Dynamic Spectrum Sharing)の環境でも、基地局からの距離によらず、スループットが20%ほど向上したという。同モデムRFシステムは、2022年前半の出荷を予定。2022年後半から2023年には、チップを組み込んだ端末の登場も期待できる。
クアルコムのブースでは、5Gのキャリアアグリゲーション(CA)やデュアルコネクティビティ(DC)の実験結果も展示されていた。まず、5G SA環境でn78(3.5GHz帯)の2波とn1(2GHz帯)の1波の計3波を使い、エリクソンの基地局とシャオミの端末で行った通信実験では、3.2Gbpsの速度を記録。n1は“なんちゃって5G”と揶揄されることもある4Gからの転用周波数帯だが、CAだけで十分な速度に達するのは5G化のメリットと言える。
上記はCAの結果だが、異なる基地局同士の電波を束ねるDCを活用し、Sub-6とミリ波を組み合わせることでスループットの向上も狙えるという。ミリ波はカバーできる範囲が非常に狭いため、単独で運用するのはなかなか難しいが、Sub-6と組み合わせることで局所的に混雑する場所のキャパシティ対策がしやすくなる。こうした用途を提案するのが、実験の目的だ。
クアルコムのブースでは、ZTEの基地局とHonorの端末を使った実験結果が掲示されていたが、n78(3.5GHz帯)とn258(26GHz帯)の計900MHz幅で、8.4Gbpsのスループットを達成できたという。さらにこの状態で5GのデュアルSIMを使い、VoLTEの5G版であるVoNRでの通話も行い、音声通話とデータ通信の同時利用にも成功したという。同社ブースでは、ほかにも上りのCAで通信速度を向上させる実験結果が展示されていた。
クアルコムのブースには、同社のチップセットを採用した端末やリファレンスモデルも展示されていた。製品としては、ミリ波に対応した「ThinkPad X13s」の実機を出展。同機には、パソコン向けのプラットフォームである「Snapdragon 8cx Gen 3」が採用されている。同社は、21年12月に開催されたSnapdragon Tech Summitで、ゲーム機向けのプラットフォーム「Snapdragon G3x Gen 1」も披露していたが、これを使って開発されたRazerの端末も置かれていた。
キャリア向けの展示として、O-RAN向けのアクセラレーターカード「Qualcomm X100 5G RANアクセラレーターカード」も披露していた。これは、O-RANの仮想化DU(Distribution Unit)に使うチップで、O-RANインターフェイスの仕様に準拠。MWCに合わせ、楽天モバイルおよび楽天シンフォニーが、同アクセラレーターカードを用いた技術分野での協業を発表している。