【MWC Barcelona 2022】

AIで速度やカバー範囲を上げるモデムを出展したクアルコム、CA、DCの成果も披露

 クアルコムは、MWC Barcelona 2022に合わせ、5G対応の最新モデム「Snapdragon X70 5G Modem-RF System」を発表。同社のブースでは、その通信性能をアピールしていた。同モデムRFシステム最大の特徴は、チップにAIを組み込み、5Gでのスループット向上やセルエッジでの電波のつかみをよくしているところにあるという。

MWC会場の“一等地”ともいえるホール3入り口にブースを構えるクアルコム
MWCに合わせて発表されたSnapdragon X70 5G Modem-RF System

 たとえば、同社が本社を構える米サンディエゴで行った実験によると、ミリ波(n260:39GHz帯)の受信可能な距離を伸ばすことに成功してるという。具体的には、基地局から約1km離れた場所で、ミリ波による通信ができたという。同モデムRFシステム以外では、ミリ波をつかめず、LTEに切り替わってしまうため、結果としてスループットは10倍以上の差が出ている。ミリ波のビームマネージメントを最適化する機能が、こうしたことを可能にした格好だ。

1km離れた場所で、ミリ波をつかみ、速度が大きく向上した

 上記は、屋外でかつ、基地局の見通しがある場所での実験だが、AIの効果は屋内でミリ波の反射波をつかむ際にも効果があったという。以下に掲載したスライドがその実験結果で、AIを有効にした試作機では、ミリ波に接続でき、スループットも1Gbpsを超えた一方で、既存の端末はLTE接続になり100Mbpsを下回ってしまっている。

屋内でも上と同様の結果に。ミリ波がつかめたことで、LTEとはケタが2つ違う速度が出ている

 AIはSub-6の5Gでも効果があり、モデム側からのAIを元にした伝搬路情報(CSI)のフィードバックと最適化を行うことにより、スループットを向上させられたという。特に効果が大きいものとして、セルエッジと呼ばれるエリアの端で最大で76%、通信速度を改善できたというデータが示された。5Gのエリア端で弱い電波をつかんだまま通信不能に近い状態になる“パケ止まり”は日本でも問題視されているが、このモデムRFシステムを使うことで、改善が可能になるかもしれない。

ミリ波のときと理屈は少々異なるが、Sub-6では、特にエリア端での改善効果が目立つ

 同様に、同じ周波数帯で4Gと5Gを共用して、リソースの配分を動的に変更できるDSS(Dynamic Spectrum Sharing)の環境でも、基地局からの距離によらず、スループットが20%ほど向上したという。同モデムRFシステムは、2022年前半の出荷を予定。2022年後半から2023年には、チップを組み込んだ端末の登場も期待できる。

DSSでのスループット改善も見込める結果が出た

 クアルコムのブースでは、5Gのキャリアアグリゲーション(CA)やデュアルコネクティビティ(DC)の実験結果も展示されていた。まず、5G SA環境でn78(3.5GHz帯)の2波とn1(2GHz帯)の1波の計3波を使い、エリクソンの基地局とシャオミの端末で行った通信実験では、3.2Gbpsの速度を記録。n1は“なんちゃって5G”と揶揄されることもある4Gからの転用周波数帯だが、CAだけで十分な速度に達するのは5G化のメリットと言える。

4Gからの転用周波数帯とn78を組み合わせて、3.2Gbpsを実現

 上記はCAの結果だが、異なる基地局同士の電波を束ねるDCを活用し、Sub-6とミリ波を組み合わせることでスループットの向上も狙えるという。ミリ波はカバーできる範囲が非常に狭いため、単独で運用するのはなかなか難しいが、Sub-6と組み合わせることで局所的に混雑する場所のキャパシティ対策がしやすくなる。こうした用途を提案するのが、実験の目的だ。

DCでミリ波を組み合わせると、8.4Gbpsまで速度が上がる

 クアルコムのブースでは、ZTEの基地局とHonorの端末を使った実験結果が掲示されていたが、n78(3.5GHz帯)とn258(26GHz帯)の計900MHz幅で、8.4Gbpsのスループットを達成できたという。さらにこの状態で5GのデュアルSIMを使い、VoLTEの5G版であるVoNRでの通話も行い、音声通話とデータ通信の同時利用にも成功したという。同社ブースでは、ほかにも上りのCAで通信速度を向上させる実験結果が展示されていた。

上りの速度も、CAなどで向上することが示された

 クアルコムのブースには、同社のチップセットを採用した端末やリファレンスモデルも展示されていた。製品としては、ミリ波に対応した「ThinkPad X13s」の実機を出展。同機には、パソコン向けのプラットフォームである「Snapdragon 8cx Gen 3」が採用されている。同社は、21年12月に開催されたSnapdragon Tech Summitで、ゲーム機向けのプラットフォーム「Snapdragon G3x Gen 1」も披露していたが、これを使って開発されたRazerの端末も置かれていた。

ミリ波対応のThinkPad X13s
ゲーム機向けのプラットフォームを使って開発された試作モデル。Razer製だという

 キャリア向けの展示として、O-RAN向けのアクセラレーターカード「Qualcomm X100 5G RANアクセラレーターカード」も披露していた。これは、O-RANの仮想化DU(Distribution Unit)に使うチップで、O-RANインターフェイスの仕様に準拠。MWCに合わせ、楽天モバイルおよび楽天シンフォニーが、同アクセラレーターカードを用いた技術分野での協業を発表している。

Qualcomm X100 5G RANアクセラレーターカードも展示していた