ケータイ用語の基礎知識

第659回:キャリアアグリゲーションとは

 キャリアアグリゲーションとは、複数のLTE搬送波を同時に用いて通信を行う技術のことです。LTEで使われている搬送波を1つの搬送波コンポーネント単位として扱い、連続、あるいはバラバラの周波数帯でもこれらを複数同時に利用する技術です。

搬送波を束ねることで通信が高速化・安定化

 キャリアアグリゲーションでは、10MHz幅や20MHz幅など、現在普通に使われているバージョンのLTEでサポートされている帯域幅を基本単位として、同時に複数のLTE搬送波を用いて通信を行います。

 このおかげでキャリアアグリゲーションを利用すれば、基地局などの機器が従来のLTEとの後方互換性を保ったまま、従来のLTEを上回るデータ通信速度を可能にします。また、ひとつの基地局でLTEのみを使った通信と、キャリアアグリゲーションを利用した通信のどちらも可能になります。

 端末側は、キャリアアグリゲーションを利用するには対応した端末が必要です。2014年4月現在、まだキャリアアグリゲーションに対応した携帯電話・スマートフォンは日本国内で発売されていません。なお、キャリアアグリゲーション対応エリアでは従来のLTEや3Gの通信をすることは可能です。

 キャリアアグリゲーションを利用するメリットのひとつは、「通信速度の向上」です。

 例えば、2014年4月にKDDI(au)が提供開始時期を発表したキャリアアグリゲーション技術では、現在はLTE通信サービスで使われている「下り最大75Mbps」の800MHz帯(Band8)と「下り最大75Mbps」の2GHz帯(Band1)の両方を、同時に通信に使うことで、「下り最大150Mbps」の通信を可能にします。

auが示したキャリアアグリゲーションの図。auが利用する800MHz帯と2.1GHz帯から10MHz幅ずつ利用する

 次に、キャリアアグリゲーションによって「安定した高速通信の実現」も可能になります。

 「周波数ダイバーシティ効果」と呼ばれ、複数の周波数帯のうち、電波状況のよい周波数帯の通信を優先的に行ったり、受信した信号を合成してノイズを除去したりすることで、通信の質や信頼性の向上を図ることができるのです。

 また、「統計多重効果」によるネットワーク全体の効率化を図ることができます。

 統計多重効果とは、通信する端末数が多くなれば多くなる程、全ての端末が同時に最大速度で通信する確率は低くなるという考え方で、単純に言うと、より効率的に混雑を分散させることが可能になる=通信速度低下の要因を減らすことができるという効果です。

次世代規格「LTE-Advanced」の要素技術のひとつ

 本連載の第500回:LTE-Advancedとはでも解説したように、キャリアアグリゲーションは、LTEの次の世代の通信規格「LTE-Advanced」を構成する要素のひとつです。

 現在、各事業者の提供しているLTEでは最大で20MHz幅の帯域までしか利用できません。LTE-Advancedでは、このキャリアアグリゲーションを利用することで100MHz幅まで利用することが規格上可能になっています。

 LTE-Advancedは、LTE規格を標準化しているプロジェクト「3GPP」がLTE規格の第10版(Release10)、そして11版以降として準備されている規格を指します。

 その名前からもわかるようにLTE-Advancedは、LTEをより高度化し、MIMO技術の利用と、より広帯域な電波を使って、データ通信速度を高速化させた規格です。最大でデータ通信速度1Gpps以上をめざしています。

 LTE-Advancedの規格では、帯域として、LTEの最大20MHzの5倍にあたる100MHzまでの帯域をスケーラブルに利用できるようになっていますが、100MHzという大きな幅ともなると、連続した周波数として確保できる国はほとんどないと見られています。

 そこで、利用されるのが、今回解説している「キャリアアグリゲーション」です。

 LTE-Advancedでは、最大100MHzの帯域を端末の能力によって、たとえばLTE Release8対応端末であれば1単位の20MHz幅、標準的なLTE-Advanced端末では3単位で60MHz幅、フルパフォーマンスを目指したLTE-Advanced端末では100MHz幅で使うことを可能にします。

 この方式であれば、既存のLTE端末は新しいLTE-Advanced対応基地局に接続でき、LTE-Advance端末はLTE基地局しか存在しない場所でも、旧来のLTE端末としては使えるわけです。

 LTE-Advancedでは「キャリアアグリゲーション」のほかに、「8×8 MIMO」「CoMP」といった技術でもって通信を高速化します。2014年の現在では、このうちのひとつでも使っていれば「LTE-Advancedを導入」などと呼ぶ傾向にあります。

 実際、2014年夏からキャリアアグリゲーション技術を導入すると発表したKDDIも、4月の発表資料では「日本初のLTE-Advancedの導入開始」を謳っています。

ソフトバンクモバイルがLTE-Advancedの公開実験で示した概要。ここでは3.5GHz帯にて連続した80MHz幅を用いているが、20MHz幅×4というキャリアアグリゲーションで構成している

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)