【Interop Tokyo 2018】

「5G」っていったい何だ? ドコモの中村5G推進室長が語るその姿とは

 これまで世代を重ねて進化してきた携帯電話の通信方式は、2020年頃、5G(第5世代)になろうとしている。その5Gの標準規格が、6月14日、世界的な通信事業者の団体である3GPPによって正式に策定された。

NTTドコモの中村氏

 では、その5Gとはいったいどれほどのスペックなのか。そして5Gが現実になれば、世界はどう便利になっていくのか。6月15日、幕張メッセで開催されている展示会「Interop Tokyo 2018」の基調講演で、NTTドコモの5G推進室長の中村武宏氏が5Gの特徴やNTTドコモの取り組みを語った。

5Gで目指すスペック

 携帯電話の通信規格は、アナログ方式の第1世代に始まり、デジタル化した2G(海外ではGSM、日本ではPDC、ドコモのサービス名はムーバなど)、2000年頃に実用化された3G、そして現在主流の4Gと徐々に進化してきた。これにあわせ、通信速度が向上し、混雑が緩和され、今ではどこでも高精細な映像を楽しんだり、10メガ以上のカメラで撮影した写真や動画をSNSですぐシェアしたりできるようになった。

高速大容量(eMBB、enhanced Mobile Broadband)
超高信頼・低遅延(URLLC、Ultra-Reliable and Low Latency Communications)
超大量接続(mMTC、massive Machine Type Communication)

 5Gでは、標準仕様を作り上げるため、「高速大容量」「超高信頼・低遅延」「超大量接続」という3つの要素を達成すべき目標として掲げられていた。

 たとえば高速大容量とは、通信速度を下り20Gbps、上り10Gbpsと現在の10倍以上速くすることを目指す。これにより4K/8Kサイズの高精細な映像やVR/AR向けの映像をやり取りできるようにする。これを実現するために、数十以上のアンテナを用いる「Massive MIMO」などの技術が今回定められた。無線フレームでは送信単位を小さくしつつ、利用する周波数を拡げることで、送れる情報量を確保しつつ送信にかかる時間を減らす仕組みが取り入れられた。

 「超高信頼・低遅延」では通信エラーを極力減らし、通信成功率を99.999%と信頼できる形にしつつ、リモート操作して実際に機械が動くまでの時間(遅延)を0.5ミリ秒以下にする。この目標は現在の4Gと比べて、一桁違うスペックだ。この要件は遠隔での手術、自動運転といった用途で活躍する。

 そして最後の「超大量接続」とは、IoT時代が本格化することを見据えたもの。1平方km以内に100万台の端末があっても通信できることを目指している。

Release 15と16
標準化の優先度

 なお、この超大量接続は優先度がやや低く、6月14日に策定された仕様(3GPPのRelease 15という文書)には含まれていない。今後、検討されるRelease 16において、超大量接続を実現するための技術が標準化されていく見込みだ。要件によって優先度の優劣がつけられたのは、標準規格という大枠を定めるためには、ある程度選別しなければなかなか合意に至らないためだという。

6月14日に策定された標準仕様(Release 15)の技術(上)と、今後策定されるRelease 16

 実際に商用サービスでの通信速度は、これから割り当てられるであろう周波数帯などによって異なる。またサービスエリアもキャリアや国によって違う。それでも、現在の10倍以上の速度、遅延を一桁押さえる、といった形で進化していく。

5Gで使う周波数帯

 かつての携帯電話は、国によって利用する電波(周波数帯)が異なることがあった。当初はあまり大きな問題ではなかったが、やがて、グローバルで提供されるスマートフォンも登場し、そのほうが調達しやすいといったメリットがはっきり出てきたことで、国が違っても周波数はできるだけ協調しよう、という動きが出てきた。

世界の動向

 5Gの標準仕様を検討する際にも、そうしたハーモナイゼーション(協調)の動きがきちんとあった。中村氏によれば、3.5GHzは世界のさまざまな地域で5G用として期待できそうになってきたという。ただ日本では3.5GHz帯のうち低い周波数帯は既に4G用で活用しているほか、衛星でも活用しているとのことで、5G用として用いるのは今後、あらためて調整が必要な見通しだ。

世界での5G用周波数の動向

 4.5GHz帯は、世界ではあまり使われず、日本独特の周波数帯になりそう。ただし中国で4.5GHz帯に近い4.8GHz帯を活用する話が出ているとのことで、まったくの独自仕様ということは避けられそうだ。

 26GHz帯と28GHz帯は日米韓で5G向けとして注目されていると中村氏。日本での割当はまだだが、米国と韓国では、既に割当済、あるいは割当予定とのこと。欧州と中国では26GHz帯が5G向けとして検討対象に含まれている。

展開イメージ

 5G用と目されるこれらの周波数帯は、これまでの携帯電話用の電波と比べると数値が大きい。“高い周波数”と表現されることもあるが、数字が大きければ大きいほど、まっすぐ進み、建物の影に回り込みにくくなる。そこで2020年の商用化の段階では、日本における5Gのサービスエリアは、大都市の駅前といった人が多く通信が混み合う場所、あるいはオリンピック・パラリンピックの関連施設付近など、点のように整備される見込み。2020年代になって、徐々に5Gのサービスエリアは全国各地で整備されていき、その頃には5Gを拡張した技術(5G+)の導入も期待されることになる。

ドコモと世界の5G展開スケジュール

 日本では既に4Gのサービスエリアが隅々まで整っており、5Gも当初は4Gと組み合わせて使うことが想定されている。5Gの標準仕様も、単体ではなく4Gとのセットを前提にした“ノンスタンドアローン”が2017年12月に先駆けて策定されていた。6月14日に策定されたバージョンでは、5G単体だけで済む“スタンドアローン”と呼ばれる仕様も含まれているが世界の主流は、日本のようにノンスタンドアローン版。ただし中村氏によれば、中国ではスタンドアローン版5Gで展開するようだ。

さまざまな業界での活用に期待

 国内外の携帯電話サービスでは、2Gから3G、4Gへと進化する中で、たとえばパケット通信の定額制が取り入れられたり、スマートフォンが使いやすくなって映像配信サービスやゲームなどが当たり前のように楽しまれるようになったりしてきた。ビジネスでの利用も当たり前になり、どこに居ても仕事できる、あるいは自動販売機や監視カメラと通信デバイスを繋げて遠隔運用するといった取り組みも普及している。

サービスイメージ

 この流れは5Gになってもさらに広がり、高度な形になっていく。たとえば映像は4K/8Kサイズの高精細なものを扱えるようになる。これに低遅延が加われば、僻地の遠隔医療に活用することで、都市にいる医者が診断したり、はたまたリモート操作で手術したりするといった用途に繋がる。また遠隔操作で建設機械を操作することも可能になると見られる。

時速300kmでの実験。新幹線などへの応用を見据えたテスト

 ドコモでは、一般ユーザーでも5Gの世界を体験できるよう、東京スカイツリーに隣接する商業施設「東京ソラマチ」に常設展示を用意。5Gの「高速大容量」「超高信頼・低遅延」「超大量接続」を実感できるよう、さまざまなサービス例を用意して、体験できるようにしている。中村氏は「多くの業界から5Gへ関心を持っていただいている」と説明。ドコモとしてオープンパートナープログラムも用意しており、5Gの導入当初から積極的に展開する姿勢をあらためて紹介した。