特集:5Gでつながる未来

「5G」は本当に世界を変えるのか? クアルコムのキーパーソンが語る未来像に迫る

 日本では2019年秋からプレサービス、2020年春に正式な商用化が予定される「5G」(第5世代のモバイル向け通信規格)は、「これからの社会に大きな変化をもたらす技術」として大きな期待が寄せられている。

 一方で、どうして5Gが社会を変革できるのか、ちょっとわかりづらいかもしれない。

 5月24日、5Gの開発をリードする企業のひとつである米クアルコムのジェネラルマネージャーのドゥルガ・マラーディ(Durga Malladi)氏が来日し、5Gがもたらすインパクトを解説した。マラーディ氏の話をもとに、5Gがもたらす未来の姿に迫る。

マラーディ氏

自動運転、実現する技術はいくつある?

 いよいよ登場する「5G」は、「高速大容量」「超高信頼性・低遅延」「超多数接続」という3つの特徴を備える。だがそれで、何ができるようになるのか。よく紹介される用途のひとつが「自動運転」だ。

 一般的に自動運転と聞けば、「カメラが周囲の状況を捉えて、機械学習で被写体を認識して……」といった形を思い浮かべるかもしれない。そうした仕組みに加えて、クルマ自体が周囲と通信することもまた、自動運転の重要な要素になる。

 たとえばクルマが通信する相手は、周囲のクルマや人、自転車だ。車間距離や位置などをお互いに伝え合い、安全かどうか判断していく。そのためには、通信そのものが高速かつ遅延がなければならないし、信頼性がきわめて高い必要がある。まさに5Gの特徴そのものだ。

製造現場でも5G

 5Gは、産業用途での活用も期待されている……と言われるが、具体的に「高速大容量」「超高信頼性・低遅延」「超多数接続」は、どんな形で役立つのだろうか。

 たとえば従業員が使うヘッドマウントディスプレイは、拡張現実(AR)機能を搭載し、遅延が10ミリ秒以下、信頼性が99.9%、通信速度は数Mbps~1Gbpsは必要だ。手にする端末(ハンドヘルドターミナル)や生産用のアーム型ロボットは通信速度がkbps~Mbpsといった単位で多少遅くとも、99.9999%という信頼性が求められる。アーム型ロボットでは1ミリ秒以下の遅延も必要だ。高速大容量ではなく、高信頼性・低遅延という特徴で、5Gが活躍する場面になるだろう。

一般ユーザーにとっては?

 では、一般ユーザーにとっては、どういった点で5Gが身近なサービスとして便利に感じられるようになるだろうか。

 マラーディ氏は、期待できるユースケースのひとつに動画を挙げる。既に米国シカゴでローンチした5Gを利用し、動画をスピーディに手にできる体験してきた同氏は「今までになかった体験。体験が革新的に変わる」とその圧倒的なパフォーマンスがもたらす興奮を表現する。

 これまでの4Gでも、多少時間をかければ、それなりに高精細な映像コンテンツをスマートフォンで楽しむことは十分に実現している。

 しかし、5Gであればモバイル向けに映像を圧縮する必要はなく、4Kサイズで最大ビットレートという高品質な映像を、いつでもどこでも楽しめるようになる、とマラーディ氏。

 米国のサービスでもまだ、利用できるエリアは限られているがマラーディ氏は「まだ始まったばかり」として、今後改善されることに期待を示しつつ、通信事業者にとっても、5Gを導入することで、平均的な通信スループットが向上し、ネットワーク容量が拡大するという点が大きなメリットになると解説する。

ミリ波とサブ6、より低い周波数帯も活用

 日本における5G向けの周波数は、いわゆるSub6(サブシックス、6GHz帯未満の帯域)の3.7GHz帯と4.5GHz帯、ミリ波帯と呼ばれる28GHz帯となる。

 Sub6とミリ波の活用は、全世界的な取り組み。マラーディ氏は「ミリ波帯は容量で有利となり、(工場内など限られたエリアでの)プライベートネットワークに適している。一方、中間的なバンドはキャパシティとエリアカバーのバランスが取れる」と説明する。

 電波は周波数が高いほどあまり使われておらず、広い帯域を確保できる一方で、直進性が高まり、広いエリアをカバーしづらい。その一方で低い周波数帯は多く利用され広い帯域は確保できないが、壁などを回り込んで届き、より広いエリアをカバーしやすいといった特徴がある。これまでの携帯電話向けサービスでは、800MHz帯などが“プラチナバンド”と名付けられるほど、使い勝手の良い周波数帯とされてきた。

 そうした点を踏まえ、マラーディ氏は「1GHz帯より低いところはカバレッジに有利」と指摘する。低い周波数でも、高速性より広範囲なエリアカバーに役立てられるというわけだ。

ミリ波帯に向けたアンテナ開発、ラインアップ拡充に一役

 これまでの携帯電話向け通信規格では、高いといっても、利用する周波数帯は3GHz帯~4GHz帯程度。かつては2GHz帯でも“高い”と言われていたが、5Gでは28GHz帯などミリ波帯まで活用する。

 あまり利用されていなかったミリ波帯は、かなり広い帯域を確保できる。たとえば日本では1枠で400MHz幅も使える形だ。

 一方、これまで携帯電話向けサービスで活用されている周波数帯を見ると、たとえば800MHz帯は15MHz幅×2、2GHz帯は20MHz幅×2であり、ミリ波帯はまさに桁違いの広さとなる。

 その分、使いづらさへの懸念はあり、「たとえば固定(自宅)向けなら良いが、モバイルは厳しいのではという声は多かった。モバイルで使うにしても、見通しが効かないところでは通じないのではないかという指摘もあった」とマラーディ氏。

 しかし米クアルコムは、そうした課題に対して技術の開発を進めた。その結果、「モデムだけではなく部品の提供が重要だとわかった」(マラーディ氏)として、クアルコムからはベースバンドチップ(モデム)に加えて、ミリ波対応のアンテナ部品まで提供されることになった。

 そうしたアンテナなどを含め、一般的なスマートフォンサイズのリファレンスモデル(開発用の参照端末)を提供し、各メーカーで活用されることになった。その結果、5G対応をうたうスマートフォンが、現時点で75機種以上となり、豊富なラインアップが揃う。

5Gのすごさを体験できるのはいつから?

 高速大容量、高信頼性・低遅延、そして超多数接続という3つの特徴を実現させようとしている5Gだが、このうち超多数接続の詳細なスペックはまだ検討中。マラーディ氏は「(業界団体の)3GPPではRelease 17になるだろう。展開は数年先になる」との見通しを示す。

 5Gスマートフォンはある程度ラインアップが用意されるとはいえ、5Gのサービスエリアは、当初用いる周波数からさほど広くないことが予想される。5Gをビジネスに活用することへの期待は膨らむ一方だが、消費者にとっては少し縁遠い話も少なくない。

 そうした中で、5Gは、まず4Gと設備を共用するノンスタンドアローン(NSA)という仕組みが商用化され、2020年以降から5Gだけの設備で動くスタンドアローン(SA)型が増える見込み。つまり、4Gで繋がりながら、場所によっては5Gという使い方になると見られる。それでもマラーディ氏は「使い放題にあることを期待している、そういう料金で使い方も大きく変わる」とコメント。

 徐々に5Gエリアが広がれば、4G以前の方式で使われてきた低い周波数などの電波を、5G向けに転用できる可能性が高まる。時期はまだ見えないが、SAタイプの5Gへの移行が加速し、その性能をフルに発揮することになっていく見通しだ。

 5Gは、主に法人での活用がもっとも期待されるところで、本誌でもこれまで全国各地の取り組みを紹介してきた。今後も、引き続き各地のチャレンジをレポートするとともに、コンシューマーがワクワクする事例もご紹介していく。