石川温の「スマホ業界 Watch」

「ガイドライン改定」がもたらした影響、日本メーカーがさらに窮地に立たされる理由

 2024年12月26日に、端末の値引きに関連するガイドラインが改定されて1カ月が経過した。スマホ業界にさまざまな影響を及ぼすと言われていた。実際どうだったのか、振り返ってみた。

生き残る月額1円スマホ

 当初、ガイドラインが改定されることで「月額1円スマホが絶滅する」と言われていた。各キャリアが、1年もしくは2年後の下取りを前提とした販売方法を採用するなか、下取り価格の設定が業界団体であるリユース・モバイルジャパンが公表する平均値をベースをせざるを得なくなった。これにより、キャリアが独自に下取り価格を盛ることができなくなり、結果として、月額1円や3円が絶滅するのではないかとみられていたのだ。

 しかし、蓋を開けてみれば、月額1円スマホは生き残った。たとえば、ワイモバイルでは新たな販売方法として「新トクするサポート(A)」でiPhone 14を月額1円で売るようになった。ただ、iPhone 14を月額1円で売るというのは、ワイモバイルだけでなく、先日、街中にあるドコモショップでも同様の売り方をしていた。今後も月額1円スマホは業界的なスタンダードになっていきそうだ。

 特に春商戦に突入したということで、iPhone 14が月額1円で手に入るというのは、スマホデビューするような学生などには手軽な買い方といえるだろう。キャリアとしても、顧客獲得のために月額1円での売り方を訴求していくのも理解できる。ただ、一方で、2年も前の機種が「目玉商品」として、キャリアで売られているという状況に関しては、ちょっと首をかしげたくもなってくる。

 スマホ業界としては、昨今「AIスマホ」が競争軸となっており、これからいかにスマホでAIを活用するかがテーマになりつつある。世間的にAIが注目されているなか、一般のユーザーが最もAIに触れる場所がスマホであり、スマホこそAIへの接点になるのは間違いない。

 しかし、2年も前の機種を手にしたら今後、数年間は「Apple Intelligence」に触れる機会を失うことになる。本当にもったいないことではないだろうか。

 また、iPhoneは15からUSB-Cに切り替わっている。これからiPhone 14を買うとなれば、今後数年間はLightningケーブルが手放させなくなるというのももったいない。USB-Cであれば、高速に充電できるし、ケーブルも安価に、しかも多様なメーカーから購入できる。今後数年間、Lightningケーブルに縛られるとはなんと不幸なことではないか。

ソフトバンクの「Galaxy」復活にガイドライン改定の影響

 ガイドラインの改定は、キャリアの端末ラインアップにも影響を及ぼしつつある。先日、ソフトバンクが10年ぶりにサムスン電子の「Galaxy」を扱うとアナウンスがあった。米国・サンノゼで開催された「Galaxy Unpacked」に来ていたソフトバンクの寺尾洋幸氏は「Galaxyを扱う理由のひとつにガイドラインの改正がある」と語っていた。

 新しいガイドラインでは「いかにリセールバリューのあるスマホを取りそろえるか」が重要になってくる。1年後もしくは2年後のリセールバリューが高ければ、それだけ下取りの価格を高く設定しつつ、月々の支払額をおさえることが可能だ。実際、ソフトバンクはGalaxy S25で月額3円を実現してしまった。

 iPhoneのリセールバリューが高いのは、やはりグローバルで流通しており、さらにOSのアップデートの寿命が長いという点にあるだろう。その点、Androidにおいては、Galaxyもグローバルで流通しており、リセールバリューが高いということで、ソフトバンクとして10年ぶりに採用に踏み切ったという理由があるようだ。

 つまり、2024年末のガイドライン改定によって、キャリアは端末調達の考え方を見直す必要が出てきたことになる。

 ハイエンドのスマートフォンはiPhoneやGalaxy、さらにPixelなど、グローバルで流通しているものが中心になっていくということだ。一方で、ガイドラインで許されている割引額を一気に適用できる安価なスマホもいままで以上に求められてくるだろう。XiaomiやOPPO、ZTEなど、2万円程度のエントリーモデルの調達が増えることが予想される。

追い込まれる日本メーカー勢、世界から取り残される日本

 そんななか、厳しくなってくるのが日本メーカーかもしれない。やはり、グローバルで流通していないことにはリセールバリューは上がっていかない。その点、シャープなどはシンガポールやインドネシアに販路を広げているが、アップルやサムスン電子のような世界規模には遠く及ばない。

 ただ、一方で、シャープはフォックスコン、FCNTはレノボ傘下となっている。グローバルで展開する外資のなかに入ったことで、部材の調達における競争力は上がっていくことだろう。

 ガイドライン改正によって、多くのユーザーは型落ち機種やスペックの低い機種、または中古品を選ぶのが前提になりつつある。一方で、世界に目を向ければ、中国はスマートフォンの買い換えを促進させようと、国から補助金が出るようになった。ガイドライン改正によって、日本のスマホ市場は世界からさらに取り残されていくことになりそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。

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