石野純也の「スマホとお金」

いよいよ発売「AQUOS sense10」のお得度は? 見た目はキープ・価格は据え置き、でも中身はAIで大幅進化

 シャープスマホの代名詞ともなっているミッドレンジモデルの「AQUOS sense10」が、11月13日に発売されます。同シリーズはかつて“国民機”をうたっていたほどで、必要十分なスペックを備えているのが特徴。

 それでいて、価格を抑えて比較的買いやすいこともあり、ヒット商品に成長しました。シャープの高いシェアを支える一角になっているのも、AQUOS senseシリーズです。

 一方で、AQUOS sense10を見ると、そのデザインは24年に発売された「AQUOS sense9」と大きく変わっていないようにも見えます。

 むしろ、ケースをそのまま流用できるなど、カラーリング以外の寸法などは完全に同じ。パッと見では新モデルと見分けがつかないおそれもあります。

 では、AQUOS sense10はどこが新しいのでしょうか。実機を元にその性能を見ていくとともに、同機のお得度を検証します。

11月13日に発売されるシャープのAQUOS sense10

デザインキープで寸法も前モデルと同一、スペックアップも価格はほぼ据え置きに

 まず、本体設計を含めたデザインは、先代のAQUOS sense9を踏襲しています。縦横厚さなどのサイズはまったく同じ。ボディに使われている素材もアルミニウムから変更されていないので、手に取ったときの印象も変わっていません。

 こう書くとデメリットのようにも聞こえてしまいますが、AQUOS sense9用に発売されたケースをそのまま使えるのは、あえてデザインを変えていないメリットと言えるでしょう。

カラーリングは変えている一方で、本体のデザインはそのまま

 特に、AQUOS senseシリーズのような端末では、デザインを変えないことのメリットが大きくなります。同モデルも台湾やシンガポール、インドネシアといったアジア圏では販売されますが、米中などを含めた全世界展開している端末と比べると総台数は少なめ。ゆえに、ケースメーカー、特に海外のケースメーカーのターゲットにはなりにくくなります。

 iPhoneやGalaxyのケースがバリエーションに富んでいるのは、そのためです。とは言え、AQUOS senseはシリーズ累計で1000万台以上を出荷している端末。2機種連続で同じ形状であれば台数も見込めるため、ケースを作ろうと思うメーカーも増えるはずです。ユーザーにとっては、AQUOS sense9用に制作されたケースから選択できるメリットも生まれます。

 さらに、AQUOS sense9のユーザーがAQUOS sense10用のケースを選んで模様替えをするといったことも可能。目新しさよりも、ユーザーの実利を取った選択と言えます。

発表会で展示されていたAQUOS sense10用のケース。AQUOS sense9のユーザーが使うこともできる

 メーカーにとっては、デザインを新規で起こしたり、金型を作り直したりする必要がなくなるため、コストを削減できる効果があります。

 実際、シャープが自身で販売するオープンマーケットモデルでの価格は、AQUOS sense9が6万940円(発売時、いずれも128GB版)だったのに対し、AQUOS sense10は6万2700円とやや値上がりはしているものの、スペックアップしている一方で価格はほぼ据え置きに近い形です。

価格はシャープ直販のオープンマーケットモデルが6万2700円から。前モデルよりも、わずかながら値段が上がっている

 なお、キャリアによってはオープンマーケット版よりも安く本体価格が設定されていることもあります。例えば、楽天モバイルは一括支払いの価格が5万9900円。IIJmioも6万1000円からとなっており、シャープからよりも安く購入できます。

 ドコモ、au、ソフトバンクは7万円前後とやや高めですが、割引や端末購入プログラムを組み合わせることで、実質価格を抑えることができます。

プロセッサーの処理能力が大きく向上、カメラ画質にも好影響

 では、どのような点がスペックアップしているのでしょうか。大きいところとして最初に挙げたいのが、チップセットです。AQUOS sense9が、クアルコムの「Snapdragon 7s Gen 2」だったのに対し、AQUOS sense10では同じクアルコムの「Snapdragon 7s Gen 3」が採用されています。

 Snapdragon 7s Gen 3は、Gen 2までとは異なり、2.5GHzのプライムコアを搭載。CPUの処理能力が高くなっています。

 GPUやNPUも強化されており、グラフィックスの処理は40%、AIのパフォーマンスは30%以上高速化されているといいます。先代のGen 2はどちらかと言えばSnapdragon 6シリーズに近い性能と言われていたのに対し、Snapdragon 7s Gen 3は大きくパフォーマンスが上がっています。

Geekbench 6で測定したCPU、GPUのスコア。特にCPUのシングルコアや、GPUの処理能力が大きく向上している

 通常操作のいわゆるサクサク感のようなところには大きな違いはないものの、アプリを使い込んでいった際には処理能力の差が効いてきます。

 また、写真や動画などの撮影時に使うISPも改善されているため、仕上がりがよくなるのも新しいチップセットを搭載するメリットと言えます。実際、AQUOS sense10で撮った写真は以下のとおり。特に夜景の写真が、ミドルレンジ機とは思えないレベルでクッキリしていてノイズが少なくなっています。

夜景はコントラストがきれいで、空の黒もしっかりしまっている。上位モデルでライカと協業した成果が生かされていると言えそうだ
料理も暖かみのある写真に仕上がった

 ただし、センサーなど、カメラのスペックに関してはAQUOS sense9から変わっていません。メインカメラのセンサーサイズは、1/1.55インチで、ミッドレンジモデルで一般的になりつつあるやや大型のもの。

 AQUOS sense10よりも少し高めのミッドハイモデルに搭載されることも多いため、その点ではコスパがいいと言えます。画素数は5030万画素。通常はピクセルビニングでピクセルピッチを大きくしていますが、それを解除して切り出しを行う2倍相当のズームもできます。

 ディスプレイは6.1インチ。この点はAQUOS sense9から変わっていないものの、ミッドレンジスマホも含めて大型化が進む中、ややコンパクトに思えます。

 実際、シャープのAQUOSシリーズは、エントリーモデルのAQUOS wishシリーズの大画面化が進んでおり、6月に発売された「AQUOS wish5」は6.6インチになっています。コンパクトなサイズ感を維持したままのミッドレンジモデルとして、ラインナップの中で差別化を図っていると言えるでしょう。

ディスプレイは最大240Hz駆動。ハイエンドモデルでもまだ珍しい仕様だ

 また、リフレッシュレートは1Hzから240Hzに可変し、省電力と映像の滑らかさを両立させています。ただし、240Hzは1フレームごとに黒い映像を挟んで残像感を減らし、より滑らかに見せるという仕掛け。実際の映像が映っているフレームだけを抜き出すと120Hzになります。

 とは言え、こうした機能は一般的なハイエンドモデルにもないもの。ミッドレンジモデルでこれに対応しているのは、AQUOS sense10の優位性と言えそうです。

処理能力を生かしたAIの新機能も注目、キャリアから買うと格安になるケースも

 刷新したチップセットの処理能力を生かし、AIを使った機能も複数搭載されています。まず、カメラには料理やテキストの影の除去に対応します。しかも、撮影後にユーザー自らが編集するのではなく、処理は自動で行われます。この機能は、上位モデルの「AQUOS R10」にも搭載されていましたが、AQUOS senseシリーズでは初対応になります。

印刷物を撮影した際の影が自動で除去される。料理にも適用可能

 また、影だけでなく、ガラスの映り込みを除去する機能も搭載しています。筆者の場合、発表会や展示会などで参考出品された製品がガラスケースに入っていて、映り込みを減らすように苦労しながら撮影するといった経験がありますが、この機能を使えば一発でそれを除去できます。より一般に近いユースケースでは、ガラス越しの撮影に重宝する機能と言えるでしょう。

 AIを活用したもう1つの機能が、音声通話などに適用できる「Vocalist」という機能。こちらは、あらかじめ登録した自分の声だけをAIでリアルタイムに識別して、相手に届けるというもの。登録作業は必要になりますが、そのぶん精度が高く、電車のホームのようなかなり騒音が多い場所でも音声がしっかり相手に伝わるようになります。

周囲の騒音を完璧にカットできるVocalist。あらかじめ、自分の声を登録しておき、それだけを通す仕組みだ

 この機能は、通常の電話だけでなく、LINEやZoomといったアプリにも適用可能。iPhoneにも、AIを使って自分の声だけを届ける「声を分離」という機能がありますが、AQUOS sense10のVocalistはあらかじめ声を登録するぶん、周囲の音がまったくしなくなるほどで、効果は絶大。電話を頻繁にする人はもちろん、スマホでビデオ会議に参加する人にも重宝しそうな機能です。

 処理能力を向上させたことで、カメラやAI関連に新機能が加わった格好のAQUOS sense10ですが、先に述べたように、価格面もスマホのど真ん中と言える6万円台前半。キャリアの割引やアップグレードプログラムを駆使すれば、2年間での実質価格は5万円を下回ります。

 中でもauの場合、機種変更や乗り換え(MNP)で「auバリューリンクプラン」などに加入すると、2万2000円の割引が受けられます。

キャリアの中では、auが積極的に割引を行っており、スマホトクするプログラムを併用すると実質価格は2万円を下回る

 さらに、「スマホトクするプログラム」で端末を下取りに出し、24回目の残価が免除されると実質価格は1万9800円まで下がります。1カ月の支払いは860円(初回のみ880円)。必要十分なスマホを、負担感なく使いたい人にはいい選択肢になりそうです。

 また、大手キャリアだけでなくMVNOの取り扱いも多いため、販路も広く、買いやすい端末であることも間違いないでしょう。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya