石野純也の「スマホとお金」

ファンクラブがMVNOに? ミークモバイルが実現する“MVNO as a Service”とは

 ソニーネットワークコミュニケーションズのNUROモバイルや、ZOZOの創業者である前澤友作氏が設立したKABU&が展開するKABU&モバイルをMVNEとして支援していることで有名なミークが、子会社として新たなMVNOを設立しました。新社名は、ミークモバイル。一般コンシューマーに直接回線を提供していないミークとは異なり、ミークモバイルはコンシューマー向けのサービスになります。

 一方で、ミークモバイルはあくまでホワイトレーベルという位置づけ。同社ではこれを、「MVNO as a Service」と呼んでいます。ユーザーが契約するのはミークモバイルですが、実際のサービス名称はさまざま。ユーザーから見ると、提携先が冠した「○○モバイル」というサービスを利用している形になります。ちょうど、ネット銀行がBaaS(Banking as a Service)として提供している「○○Bank」に近い形と言えるでしょう。

MVNO as a Serviceをうたうミークモバイルが始動した

 サービス開始は、提携先の企業が〇〇モバイルを立ち上げたときになります。ただし、すでにミークモバイル側から料金プランは発表されており、どのようなMVNOになるのかは現時点でも知ることができます。ホワイトレーベル的なMVNOは今後急成長する兆しもあるため、今から注目しておいてもいいでしょう。ここでは、大手キャリアや一般的なMVNOとの比較で同社の特徴を読み解いていきます。

パッケージ化した料金プランを提携先に提供、料金は4GB、980円から

 実際には、提携先のブランドを冠した〇〇モバイルのような名称で提供されることになるミークモバイルですが、料金プラン自体はすでにパッケージ化されています。ミークモバイルの代表取締役社長を務める小林敏範氏によると、「基本的に料金プランは(提供する企業ごとには)変えず、弊社で用意した仕組みの中でやっていただく」といいます。これは、複数の○○モバイルが登場した場合でも、同じ料金プランになるということです。

ミークモバイルの小林社長によると、各社に提供される料金プランは基本的に同一のものになるという

 ホワイトレーベル的な仕組みを用意しているMVNOの中には、相手先ブランドによって、データ容量や料金プランを大きく変えているところもあります。代表的なのは、エックスモバイル。起業家の堀江貴文氏を起用した「HORIE MOBILE」とパン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングスの「マジモバ」では、特典だけでなく料金プランもまったく異なりますが、ミークモバイルでは、このようなカスタマイズはしない方針とのことです。

 ただし、例外的に、「料金プランについては話し合いの中で、このプランがいらないということがあれば、消していくことも視野に入れている」(同)としています。カスタマイズはしないものの、シンプルに見せるために中容量プランに一本化したり、より還元を強くするために小容量プランをやめたりといったことはありえるかもしれません。

 ミークモバイルの提供する料金プランは、一般的なMVNOのそれに近く、容量別に分かれた料金体系になっています。10GB以下は小容量プランとカテゴライズしており、4GBプランを提供。10GBから30GBを中容量と定めて、このカテゴリーでは12GBと22GBを用意しています。30GB超は大容量プランという位置づけになり、こちらは37GBと57GBの2つに分かれています。

ミークモバイルの料金プラン。データ容量は4GBから57GBまで、幅が広い

 金額は、4GBが980円、12GBが1780円、22GBが1980円、37GBが2580円、57GBが3980円になります。回線については、ミークが提供するドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社に対応しており、どれを選んでも料金は変わらないように設定されています。現在使っている大元の回線を変更せず、そのまま移れるようにしている点は、3キャリア対応のミークの特徴を生かしていると言えそうです。

3キャリア対応のミークをMVNEとするため、ミークモバイルも基本的にはドコモ、KDDI、ソフトバンクから回線を選択できるようになる

MNOより安く、MVNOより高い料金体系

 一般的には「格安スマホ」や「格安SIM」と呼ばれるMVNOですが、ミークモバイルでは、そこまで格安を意識していないとのこと。むしろ、あまり料金を気にせず、一般的な大手キャリアから経済圏目当てで移ってくることを想定しているようです。とは言え、MNOである大手キャリアと比べると、ある程度料金は安くなります。

 例えば、ミークモバイルの4GBプランはドコモの「ドコモmini」と同容量ですが、1回線目から980円で提供されます。対するドコモminiは、「ドコモ光セット割」と「ドコモでんきセット割」、さらには「dカードお支払割」でdカードGOLDの場合は880円まで料金が下がるものの、割引適用前は2750円。割引が1つ欠けただけでミークモバイルと同じか、それ以上の料金になります。

ドコモminiとミークモバイルの4GBプラン。ドコモの割引適用後よりは高いが、割引適用前と比べると大幅に安い。1回線から気軽に利用できるプランと言えそうだ

 また、10GBの場合、ドコモminiの割引適用後の料金は1980円ですが、ミークモバイルでは同額で22GBの利用が可能。12GBプランを選択すると1780円になり、割引適用後のドコモminiよりもさらに200円安く利用できます。安さを最大の武器にしているわけではない一方で、MNOよりは条件が緩く、安価に利用できると言えるでしょう。

10GB超の比較だと、よりミークモバイルの安さが明確になる

 逆に、MVNOと比較すると、各容量帯がやや高めの料金設定になっていることが分かります。分かりやすいのが、同じミークが支援するNUROモバイル。ミークは、同サービスを運営するソニーネットワークコミュニケーションズからスピンアウトした企業で、かつ料金の安さを志向しているため、その価格設定は参考になります。

 NUROモバイルは、主に低容量から中容量帯の「バリュープラス」と、より高品質な中容量から大容量の「NEOプラン」を分けて展開しています。前者は3GBが792円、5GBが990円、10GBが1485円、15GBが1790円です。この中で、5GBの「VMプラン」はミークモバイルの4GBプランと同額。逆に言えば、ミークモバイルの方が同額で1GB少ないことになります。

 また、15GBの「VLLプラン」は1790円ですが、ミークモバイルでは12GBプランを1780円と、かなり近い金額で提供しています。こちらに関しても、ミークモバイルの方が3GB少なくなっています。データ容量と料金のコストパフォーマンスを取るなら、同じミークが支援するMVNOでも、NUROモバイルに軍配が上がると言えるでしょう。

同じミークが支援するMVNOのNUROモバイルは、ミークモバイルよりやや安めの料金設定だ

提携先への手数料がコストに、経済圏の魅力に左右されるサービスか

 ただし、大容量の37GBプランは2580円で、2699円で35GBのNEOプランより安め。同様に57GBプランも3980円に設定されており、55GBで3980円のNEOプランWと同額ながらも、データ容量は2GB多くなっています。NUROモバイルのNEOプランは、より通信速度が出やすいよう専用帯域を用いているため、運用コストが高くなっています。また、アップロード無制限の「あげ放題」などの特徴もあります。こうした違いもあり、価格が逆転しているのかもしれません。

 一般的なMVNOと比べるとやや高めの料金設定になっているミークモバイルですが、背景には、コスト構造の違いもあります。実際に○○モバイルを提供する提携先の企業には、手数料が支払われるからです。手数料の内訳は開示されていませんが、ミークモバイルでは、これを原資にポイント還元やクーポンにすることが可能としています。

ミークモバイルから提携先企業に手数料が支払われる。料金には、そのぶんのコストが乗っていると見ていいだろう

 手数料という料金体系だと、提携先の○○モバイルを運用する企業にとっては微々たる利益になりますが、MVNOを新たに始めるよりも初期費用が安く、運用のノウハウも必要ありません。モバイルサービスで大きな利益を上げるのではなく、経済圏にとどめておくためのいちアイテムとして捉えるのであれば、それで十分との見方もできます。別にある本業にユーザーを囲い込むためのツールとして、MVNOを使えるというわけです。

 逆の見方をすると、そのぶんのコストが料金プランに乗っていることになります。通信料を抑えたいユーザーにとって、必ずしもベストな選択肢になるわけではないと言えるでしょう。もっとも、上乗せされたぶんがポイントなりクーポンなりになって回収できるのであれば、大きく損をするわけではありません。むしろ、毎月ポイントなりクーポンなりが付与されることに、魅力を感じる向きもありそうです。

提携先企業は、手数料を原資にポイントやクーポンを発行できる。この魅力次第で、モバイルサービスにどの程度獲得できるかが変わってくる

 その意味で、ミークモバイルの価格設定は絶妙なところを突いていると言えそうです。MNOよりは安く、MVNOよりはやや高い一方で、ポイント還元などを受けられるからです。提携先の実力に左右される側面はありますが、○○モバイルの○○次第では大化けするMVNOになるかもしれません。参入も手軽で、BaaSを利用した銀行サービスを提供している企業であれば、検討の余地は十分ありそうです。BaaSと同様、MVNO as a Serviceも今後、業界のトレンドになっていく可能性がありそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya