石野純也の「スマホとお金」
12月26日に「実質24円/36円」なスマホはなくなる? 総務省の新たな規制からiPhoneとAndroidの実質価格の変化を予想する
2024年12月19日 00:00
昨年末から約1年、再びスマホの価格が変わる可能性が高まっています。「電気通信事業法第27条の3」などで定められたガイドラインが、12月26日に改定されるからです。
8万円(税抜き)を超える端末で、最大4万円(同)までという大枠の制限はそのままに、ミリ波対応端末の割引拡大などが盛り込まれます。これだけ読むと、すわ割引拡大かと思われがちですが、アメとムチのごとく、 規制が強化される部分もあります 。
アップグレードプログラムなどで下取りを行う際の基準が厳格化されるのが、それに当たります。
下取りは、ユーザーから対価である端末を回収しているため、割引にはならないと見なされていました。一方で、それだけだと割引の抜け穴になってしまうおそれもあり、基準が設けられていました。今回改定されるのは、この部分です。
ただ、これによって、一部アグレッシブな実質価格が見直されるおそれも出てきています。 下取り価格をある程度盛ることで実現できていて割安な価格が、ふさがれてしまうおそれが出てきた と言えるでしょう。
中でも影響が大きく出そうなのが、「実質月3円」「実質月1円」などインパクトのある価格を設定してきたソフトバンクです。では、何がダメで、どのように変わっていくのでしょうか。具体的な機種で、それを確かめてみました。
買い取り価格を独自予想からRMJの実績値に、残価の盛りすぎがNGに
ガイドラインの改定によって、新たに規定されたのが、「いくらまでなら端末の買い取り価格と見なされるのか」という基準です。現状のルールでも、一般的な中古市場の価格を参考にすることは明記されていたものの、“何が一般的な中古市場のか”までは細かく指定されていませんでした。この部分は、キャリアごとの裁量に委ねられていると言えるでしょう。結果として、同じ機種でも各社の買い取りの予想価格は異なっていました。
例えば、3キャリア共通で発売している「Pixel 9(128GB版)」の場合、25カ月後の予想価格として、ドコモは6万5147円、KDDIは7万200円、ソフトバンクは6万6551円をつけており、最高値のKDDIと最安値のドコモには5000円程度の開きがあります。また、13カ月目で比較すると、ドコモは7万2550円なのに対し、ソフトバンクは9万1597円とその差がさらに大きくなります。
中古店だけのデータでは、ここまでの差がつかないようにも思えますが、世の中には様々な形態の中古スマホが出回っています。一部のキャリアが、比較的買い取り価格が高くつく傾向があるメルカリやヤフオクなどの個人間売買を参照した結果、そうしたサービスの価格を参照していないところとの差がはっきり出たと話す関係者もいました。この予想価格を高く設定できると、販売時に示せる実質価格を下げることが可能になります。
一方で、あるようなないような中途半端な基準だったこともあり、12月26日からの新ガイドラインでは、ここがより明確になりました。 中古携帯電話販売事業者の業界団体であるリユースモバイルジャパン(RMJ)の平均値を用いよ というのが、それです。同団体は、この法令改正に合わせ、12月5日に「平均買取額推移」というデータを公開。未使用品である「S」と、ジャンク品である「J」を除いた「A」から「C」ランクの買い取り価格を平均し、機種ごとに公開しています。
こちらの数値は、予測ではなく実績値。期間も2024年6月までとなっているため、先に挙げた「Pixel 9」は数値がありません。そこで、類似の先行機として「Pixel 8」(128GB版)を見てみると、9カ月目にあたる2024年6月の最新値でも4万8010円と、 キャリア各社の挙げた予想価格よりも低め の金額が出ています。
「Pixel 9」は「Pixel 8」から値上げされているため、これがそのまま当てはまるわけではありませんが、ソフトバンクの9万1597円はもちろん、ドコモの7万2550円という金額も、買い取り価格として高すぎると判断される可能性があると言えるでしょう。
実際にはRMJのデータは直接参照するわけではなく、残価率の算出に用います。例えば発売から15カ月目であれば、「15カ月目の平均額÷キャリアごとの発売時の価格」という式でこれを求めます。上記の場合、9カ月目は4万8010円ですが、これをキャリア各社の発売時の本体価格で割ると、残価率が出る仕掛けです。Pixel 9は発売時点でドコモが14万8060円、ソフトバンクが15万1200円だったので、9カ月目の残価率は前者が0.32、後者が0.31となります。
これを発売当初の価格にかけたのが残価になるため、新機種の場合、実質的にはRMJの数値とほぼイコールになります。ただし、12月25日以前に販売された端末は、残価率の算出時にメーカー直販価格を用いることができる特例もあります。Pixel 9(128GB)の場合、グーグルの12万8900円がそれに該当。残価率は0.37になります。これを掛けると、ドコモ版の残価は5万5078円、ソフトバンクは5万6246円に。元々が高かったぶんだけ、RMJの数値よりやや大きめの残価が導き出されます。
実質価格が1000倍に? ソフトバンクは割安販売を維持できるのか
この改定が「ソフトバンクつぶしでは?」と言われているのは、同社が高めの残価を設定し、ハイエンドモデルの一部を2年実質24円や1年実質36円といった破格の値段で販売しているから です。では、ガイドラインの改定でどの程度、実質24円や実質36円がふさがれてしまうのでしょうか。ここからは、いくつかの端末を例に取りながら値段の変化を予想していきます。なお、数値の算出は単純化している部分もあるため、実際のものとは異なる可能性があることは念頭に置いておいてください。
Pixel 9の場合
まずはPixel 9(128GB)から。
ソフトバンクは、Pixel 9(128GB)を「新トクするサポート(スタンダード)」の対象にしています。価格は24回目まで月1円。25回目以降の支払いを迎える前に端末を下取りに出せば、残りの4589円×24回ぶんが免除されます。これは、端末を11万136円で引き取っていることを意味します。現状、同社の買い取り予想は24カ月目が6万6551円になっているため、差額は4万3585円。かなりギリギリではありますが、割引の上限は超えていません。
一方で、12月26日以降は6万8638円という買い取り価格が認められない可能性が高くなります。RMJのデータを見ると、2年前の22年に発売されたPixel 7(128GB)の買い取り価格が、6月時点(21カ月目)で3万1483円になっているからです。メーカーの発売時点での価格は8万2500円、残価率は0.38になります。この残価率をかけた残価は4万1860円ですが、割引の上限である4万4000円を足しても、8万5860円までしか支払いを免除できません。
そのため、 2万4000円程度の支払いが増える形になります。現状のように、2年で実質24円で販売するのが不可能 になってしまうと言えるでしょう。これを緩和するには本体価格そのものを改定する必要があります。
ソフトバンクがどのような手を打ってくるかは未知数ですが、12月26日以降、価格が上がってしまうおそれがあることは念頭に置いておいた方がいいでしょう。もちろん、これはPixelに限った話ではありません。一般論で言えば、中古市場でのリセールバリューが低めの端末ほど、その影響を大きく受けることになるからです。
Xiaomi 14T Proの場合
その証拠に、ソフトバンクが発売したばかりの「Xiaomi 14T Pro」を例に価格を見ていきます。こちらは、「新トクするサポート(プレミアム)」の対象になっており、12回目までの金額が毎月3円に抑えられています。約1年後に下取りに出せば、支払額が36円で済んでしまうというわけで、これにはライカもビックリ(?)。あくまで実質価格ではありますが、ライカブランドを冠したカメラをこの値段で使えるというのは衝撃的です。
これが可能なのは、13カ月目の買い取り予想価格が7万5458円に設定されているため。割引上限の4万4000円を足すと11万9458円になり、本体価格の12万4560円をほぼほぼ相殺するところまで割り引くことができます。一方で、約2年前に発売されたXiaomi 12T Proは、RMJの買い取り価格が13カ月目時点で4万7519円まで低下しており、ソフトバンクがXiaomi 14T Proにつけた予想とは3万円程度の乖離があります。Xiaomi 12T Proはメーカー版の発売時には10万9800円だったので、残価率は0.43。これを Xiaomi 14T Proのソフトバンク版の価格に当てはめると、5万3560円が約1年後の残価 になります。
ここに割引上限の4万4000円を足しても、9万7560円にしかなりません。Xiaomi 14T Proの本体価格は12万4560円のため、もし新トクするサポート(プレミアム)を適用したとしても、12回目までの価格を毎月3円にするのは困難です。
ただし、新トクするサポート(プレミアム)の場合、13回目以降の支払いを免除してもらうには、「早トクオプション」が必要になります。この利用料を事実上の端末代だと見なせば、値上げ幅を抑えることは可能になります。上記の例だと、下取りと割引で引ききれないのは約2万7000円。このほとんどを早トクオプションにしてしまえば月3円は維持できます。とは言え、1万9800円だった早トクオプションが値上げになってしまうことに変わりはありません。一括で3万円近いオプションというのも、ハードルが高いため、仕組みに対して何らかの見直しが必要になりそうです。
iPhoneは値上げ幅が小さい? 有利になるリセールバリューの高さ
では、リセールバリューが高めのiPhoneはどうでしょうか。
ソフトバンクは、9月に発売されたばかりのiPhone 16(128GB)も、新トクするサポート(バリュー)で、12回目までの支払いを月3円に抑えています。早トクオプションは、Xiaomi 14T Proと同じ1万9800円です。これに対し、同社が予想している13カ月目の買い取り価格は、9万6100円です。
iPhone 16(128GB)の本体価格は14万5440円。ここから買い取り価格を引くと、4万9340円になります。割引を上限までつけると、5500円になります。これより低い36円で販売できているのは、やはり早トクオプションの1万9800円を端末代と見なしているからでしょう。一方、RMJの買い取り価格は、2年前のiPhone 14(128GB)が13カ月目で7万5523円になっており、ソフトバンクの予想値との差は2万円程度にとどまります。
iPhone 14(128GB)は、発売時のアップル直販価格が11万9800円だったので、残価率は0.63。先に挙げたXiaomi 14T Proより0.2以上数値が高くなっており、リセールバリューの高さを裏付けています。この残価率を、ソフトバンクのiPhone 16(128GB)に当てはめると、「14万5440円×0.63」で9万1627円という残価が導き出されます。ソフトバンクの予想値と近似しているため、割引を満額までつけるなり、多少本体価格を調整するなりすれば、 月額3円を維持できる 計算になります。
iPhone SEの場合
安さが売りのiPhone SE(第3世代/64GB)も見ていきましょう。こちらは、新トクするサポート(スタンダード)の対象で、2年実質24円。ソフトバンクは4万3900円の買い取り予想価格をつけています。本体価格は7万3440円のため、約3万円を割引として補っていると言えるでしょう。
これに対し、RMJの買い取り価格は3万916円。発売時のアップル直販価格は5万7800円で、残価率を計算すると0.53です。2年経っても半分以上の残価が残っているのは、さすがiPhoneといったところでしょうか。ソフトバンク価格の7万3440円に掛けると、3万8923円という残価が算出できます。iPhone SE(第3世代/64GB)は、本体価格の半分が割引上限になるため、3万6720円までがガイドラインの許容範囲。残価とこの割引を足すと7万5643円になり、本体価格を上回るため、 実質24円は維持できる 形になります。
このように、実質価格を維持できる端末もある一方で、残念ながらAndroidスマホには少々厳しい結果になることが多そうです。Androidスマホは、ソフトバンクの予想値とRMJの実績値の差が大きいため、販売手法に何らかの対策が必要になると言えるでしょう。iPhoneですら、一部は本体価格の調整や割引の増額などをしなければ、実質価格の現状維持が困難になります。制度改正が“ソフトバンクつぶし”とささやかれるのは、こうした事情を踏まえてのことです。
また、中古市場で人気の低い端末や、評価が定まっていない端末だと、さらにハードルが上がる可能性もあります。ソフトバンクがどのような手を打ってくるのかは明らかになっていませんが、価格改定が行われることは間違いないでしょう。ほしい端末が実質36円なり実質24円なりで販売されているのであれば、今のうちに駆け込み購入しておいた方がよさそうです。