石野純也の「スマホとお金」
“ミリ波割引”解禁、スマホはどこまで安くなる?
2025年1月9日 00:00
既報のように、12月26日に改定されたガイドラインによって、一部スマホの実質価格が上がる結果になりました。詳細は本連載でも取り上げたように、残価の算定方法が厳格化されたからです。
一方で、新しいガイドラインにはこれまで4万4000円が上限だった割引を、部分的に引き上げるルールも定められています。ミリ波対応端末の特例がそれです。
まさにアメとムチのようなガイドラインの改定ですが、具体的にミリ波対応端末はどこまで値引くことが可能になるのでしょうか。ここでは、その狙いを解説するとともに、恩恵を受けそうな端末を実際に複数ピックアップしながら、“ミリ波割引”の効果を予測していきます。
エリアが先か、端末が先か――端末の普及を促すための割引増額
ミリ波は、帯域幅が広く、5Gの超速通信を支える周波数帯として期待されています。実際、対応端末がミリ波に接続すると、スループットは爆速になることが多々あります。一方で、周波数が非常に高く、電波が回り込まないのが難点。基地局1つでカバーできる範囲が限られていることもあり、ミリ波で面的なエリアを作ろうと思うと、莫大な数の基地局が必要になってきます。
そのエリアの狭さから、端末がミリ波に対応していたとしても、利用できる場面は限定的になります。対応周波数を増やすとそのぶんコストも上昇するため、現状のエリアだと、メーカー側が二の足を踏む状況は理解できます。一方で、いくらキャリアがエリアを整備しても対応端末がなければ周波数のムダ使いになってしまいます。ユーザーがいないのであれば、エリアを整備する必要もないのでは……という悪循環に陥ってしまう可能性もあります。
エリアが先か、端末が先か――まさに鶏と卵のような話ですが、これを解決するにはどちらかに普及のためのインセンティブを乗せる必要があります。ガイドラインの改正でミリ波対応端末への割引緩和が盛り込まれた背景には、こうした事情があります。周波数対応のコスト上昇分を割引で吸収しつつ、端末を普及させ、ミリ波の利用シーン拡大につなげたい思惑があるというわけです。
ガイドラインで定められた上乗せできる割引は、税抜きで最大1万5000円。消費税を含めると1万6500円になります。現状では8万8000円を超える端末に4万4000円までの端末割引が認められていますが、ミリ波対応端末のみ6万500円まで許容範囲が引き上げられる形です。
ただし、同時にその割引額は50%を超えない範囲でというルールも設けられています。8万8000円ピッタリの端末がミリ波に対応しても、割引額は1円も引き上げられないことになります。また、10万円の場合も、ミリ波対応の特例として認められるのは6000円だけ。上限いっぱいにあたる1万6500円の割引が認められるのは、税込みで12万1000円以上の端末ということになります。
最上位モデルが中心のミリ波対応、キャリア版のみのメーカーも
とは言え、現状を踏まえると、ほとんどのミリ波対応端末は上限である6万500円割引の対象になりそうです。ミリ波に対応しているのが、ハイエンドモデルの中でも上位のモデルに限定されているためです。ハイエンドモデルはおおむね10万円以上、最上位モデルであれば20万円前後まで価格が上がっていることもあり、端末価格の50%までというルールは考慮しなくても済んでしまいます。
分かりやすい事例が、サムスン電子のGalaxyシリーズです。同社は、フラッグシップモデルをGalaxy Sシリーズ、フォルダブルスマホをGalaxy Zシリーズとして展開していますが、前者のSシリーズはその中でノーマルモデルとUltraに枝分かれしています。Zシリーズも、横折りのGalaxy Z Foldと縦折りのGalaxy Z Flipの2種類が存在します。
24年モデルでは、「Galaxy S24」がミリ波非対応なのに対し、最上位モデルに位置づけられる「Galaxy S24 Ultra」はミリ波対応。フォルダブルモデルも「Galaxy Z Fold6」はミリ波に対応している一方で、よりカジュアルに使える「Galaxy Z Flip6」はミリ波を利用できません。以前は最上位モデル以外もミリ波に対応していましたが、最上位モデルのみに限定し、それ以外のハイエンドモデルはコストを引き下げる方向に転換したことがうかがえます。
Galaxy S24 Ultraは、サムスン電子自身が販売するオープンマーケット版の価格が18万9700円から。Galaxy Z Fold6は、24万9800円になります。いずれも、12万1000円を超えているため、ミリ波対応の割引の上乗せは、満額である1万6500円まで許容される形になります。
グーグルのPixel 9シリーズも状況は近く、ミリ波に対応しているのはフォルダブルスマホの「Pixel 9 Pro Fold」のみ。シリーズ最安のノーマルモデルとして販売されている「Pixel 9」はもちろん、上位モデルの「Pixel 9 Pro」や「Pixel 9 Pro XL」もミリ波には非対応です。また、ソニーの「Xperia 1 VI」のように、キャリア版のみミリ波に対応しているケースもあります。いずれにしても、ミリ波対応端末は価格の高い最上モデルに集中していることが分かります。
特例活用の実例も? 約6万円割引される端末が登場
このミリ波対応特例を、すでに利用していると見られるキャリアや端末もあります。その1つが、ソフトバンクの販売するPixel 9 Pro Fold。同モデルにソフトバンクがつけている本体価格は、オンラインストアで30万6000円です。Pixel 9 Pro Foldは、13回目から48回目までの残債を免除する「新トクするサポート(プレミアム)」の対象。1年で下取りに出すと、「早トクオプション利用料」を含めた実質価格は10万9620円まで下がります。
差し引きすると、19万6380円もの金額が免除されていることが分かります。一方で、ソフトバンクが公開している「買取等予想価格」を見ると、Pixel 9 Pro Foldには13カ月目で13万7303円という価格がつけられています。割引と見なされない、端末を引き取った対価がこの金額。逆に言えば、19万6380円と13万7303円の差分が割引ということになります。
その金額は5万9077円。通常の端末につけられる割引上限の4万4000円を1万5077円超えていることが分かります。そのため、同モデルに関してはミリ波対応端末の特例を利用している可能性が高いと言えます。割引の上乗せによって、毎月1000円以上の支払額を抑えられている格好です。
同様に、ソフトバンクのXperia 1 VIもミリ波対応端末の特例を利用しているように見えます。同機の本体価格は21万960円、新トクするサポート(プレミアム)利用時の実質価格は7万2040円のため、13万8920円の支払いが免除されます。これに対し、同機の買取等予想価格は7万9362円。割引と見なされる金額は5万9558円にのぼります。こちらも同様に、通常の端末の上限である4万4000円の割引を超えており、ミリ波対応の特例を利用した可能性があります。
とは言え、いずれも本体価格が20万円を超えている超高額なスマホ。その価格から1万6500円が値引かれても、一気に普及が進むようには思えません。割引の総額が決められてしまっているため、端末の本体価格が高ければ高いほど、割引率が下がってしまうからです。
一方で、仮に13万円程度の端末が6万500円引きで購入できるとなれば、ここで挙げた2モデルよりはそのインパクトが大きくなるかもしれません。米国では、「iPhone 15」や「iPhone 16」といったノーマルモデルもミリ波に対応しており、価格はまさに10万円台前半。25年は、特例を生かすため、あえて最上位モデル以外のハイエンド端末をミリ波対応にするといった動きが顕在化する可能性もありそうです。