石野純也の「スマホとお金」

「iPhone 16」シリーズをレビュー、“お得感”が増したモデルはどれ?

 9月20日に、iPhone 16シリーズが発売されます。4機種とも、「Apple Intelligenceのために設計された」とうたわれているように、プロセッサーやメモリなどのベースとも言える機能が底上げされ、バッテリー容量も増加しています。この恩恵にあずかっているのが、いわゆる“無印”と呼ばれることもある、ProのつかないiPhoneです。

9月20日に発売されるiPhone 16シリーズ。写真は、左上が「iPhone 16 Pro」、左下が「iPhone 16 Pro Max」、右上が「iPhone 16」、右下が「iPhone 16 Plus」

 iPhone 14シリーズ以降、最新のプロセッサーはプロモデルに搭載され、ノーマルモデルはそれを1年遅れで踏襲する傾向がありました。

 ところが、iPhone 16シリーズでは、ベースが同じ「A18」に。プロモデルには、これに拡張を施した「A18 Pro」が搭載されています。処理能力だけがスマホのすべてではないものの、プロに近いノーマルとして、そのお得感が増している印象も受けます。

 では、そのファーストインプレッションは本当なのでしょうか。ここでは、iPhone 16を中心に、シリーズ全体の実力値を見ていきます。

Apple Intelligence対応で処理能力の差が縮まる

 Apple Intelligenceのためにいちから設計されたiPhoneですが、ノーマルモデルとプロモデルという2段構えなのはこれまでと同じ。それぞれに、画面サイズの大小があり、iPhone 16にはiPhone 16 Plusが、iPhone 16 ProにはiPhone 16 Pro Maxがラインアップされています。

ノーマルモデルのiPhone 16
ノーマルモデルの大画面版にあたるiPhone 16 Plus
プロモデルのiPhone 16 Pro。このモデルから、画面サイズが0.2インチ拡大している
プロモデルの大画面版となるiPhone 16 Pro Max。本シリーズは機能差がないため、純粋にサイズやバッテリー容量の違いで選べるようになった

 フレームの素材に関しては前者がアルミニウム、後者がチタニウムで、これに関してはiPhone 15シリーズと同じ。背面の処理も、ノーマルモデルの方がよりカジュアルな形で、すりガラスのような仕上げになっています。

 どちらも高級感はありますが、プロモデルは上品なゴージャスさ、ノーマルモデルは上質ながらもカジュアルさを出してきています。

ノーマルモデルは、アルミを採用
プロモデルはiPhone 15 Pro/15 Pro Maxと同様、チタニウムを使用している

 ただし、プロモデルはカラーリングの傾向が昨年と似ているのに対し、ノーマルモデルの一部カラーは挿し色にもなりそうなビビッドな色合いになっています。特に試用した新色のウルトラマリンとピンクは、その傾向が顕著に出ています。

 iPhone 15シリーズは薄めのペールカラーが中心でしたが、より主張が強くなっている印象を受けます。

ノーマルモデルの一部は、本体の彩度がより上がり、ポップな仕上がりになった

 性能面に関しては、冒頭で述べたようにA18、A18 Proを採用したことで処理能力が底上げされています。4機種まとめてApple Intelligenceに対応できたのも、そのためです。

 ノーマルモデルとプロモデルの差はiPhone 15シリーズのころより縮まり、CPUは同じになっています。また、GPUに関しても1コアの差しかありません。ベンチマークを取ってみると、その差が小さいことが分かります。

 また、これもApple Intelligenceに対応するためか、両シリーズとも、メモリが8GBになっています。

 iPhone 15シリーズで8GBだったのは、プロモデルだけ。どちらも高性能であることは間違いないのですが、より進化したのはノーマルモデルと言えるでしょう。

 4機種とも、価格は日本円でも据え置きのため、お得感が高いのはノーマルモデルと言えそうです。

「Geekbench 6」で計測したiPhone 16(左)とiPhone 16 Pro(右)のスコア。ほぼほぼ差はないが、わずかにiPhone 16 Proの方がハイスコアだ
同じくiPhone 16(左)とiPhone 16 Pro(右)のGPUを比較した。1コアぶんの差が出ている

 もっとも、現状でこの性能を引き出すには、動画処理をバリバリこなしたり、AAAクラスのグラフィックスに凝ったゲームをする必要があります。

 この性能の恩恵にあずかれるのは、一部のユーザーにとどまります。一般的なユースケースであれば、価格を引き下げ継続販売している過去のiPhoneでも十分だからです。

 その意味では、早くApple Intelligenceに対応してほしいところ。 ユースケースで差を出すことができれば、端末の魅力もより高まるでしょう。

アクションボタンがノーマルモデルにも、カメラコントロールなど共通項は多い

 iPhone 15シリーズでは、プロモデルにのみ「アクションボタン」が搭載されましたが、iPhone 16シリーズではノーマルモデルもこれを継承。消音、集中モード、カメラ、ライトなどのほか、ショートカットを直接ここから呼び出すこともできます。

 PayPayなどの決済アプリを一発で呼び出したり、デュアルSIMを切り替えるショートカットを設定したりと、使い方に合わせたカスタマイズができるのはうれしいポイントです。

ノーマルモデルにアクションボタンが搭載されるようになった
好きな機能を割り当てられる。ショートカットを駆使すれば、カスタマイズの幅が広がる

 ただし、iPhone 16シリーズでは、アクションボタンにカメラを設定する必要性が薄くなっています。4機種共通で、「カメラコントロール」が搭載されたからです。

 これは、いわゆるシャッターキーに近いボタンですが、感圧式と静電容量式のセンサーを組み合わせているのが一般的なそれとの違い。半押しや押し込む動作以外に、左右のフリックで機能を切り替えられるのが特徴です。

プロモデル、ノーマルモデルのどちらにもカメラコントロールが搭載された

 本体を横にしたとき、ちょうど人差し指が当たりやすい場所にあり、これで写真を撮っているとあたかもiPhoneがデジカメになったかのよう。本体を両手でしっかり持てるため、安定した撮影が楽しめます。

 スマホでの撮影でおなじみの縦撮影には使いづらいものの、カメラコントロールが普及すれば、横長の写真が増えるかもしれません。本格的に撮影したときには、便利なボタンと言えるでしょう。

 少々気になったのは、半押しでフォーカスロックをかけるのができないこと。これは、一般的なデジカメでは当たり前の挙動です。その操作方法に慣れていると、半押しでズームなどの機能が表示されるのに違和感を覚えます。

 フォーカスロックに関してはアップデートでの対応になり、すぐに使えない点には注意が必要です。

半押しすると、ズームなどの機能が有効になる仕組み。一般的なデジカメとは作法が少々異なる

 アクションボタンが初めて採用されたiPhone 15シリーズでは、プロモデルのみの対応になっていましたが、カメラコントロールは一気に4機種対応になりました。これも、iPhone 16シリーズのノーマルモデルが魅力的な理由。

 ほかにも、新しくなったフォトグラフスタイルが使えたり、動画のオーディオミックに対応していたりと、意外なほどノーマルモデルとプロモデルの共通項が多くなっています。

 差分が減ったことで、より価格がリーズナブルなノーマルモデルのお得感が際立っていると言えるでしょう。

フォトグラフスタイルも4機種対応。スキントーンを変えて、映える写真が作れる

望遠の有無が決定的な差か、プロモデルのプロ志向が高まりお得感が増したノーマルモデル

 決定的な違いもあります。ノーマルモデルには引き続き、望遠カメラが搭載されていません。これに対し、プロモデルはMaxがつかない通常のiPhone 16 Proも、5倍ズームを搭載するようになりました。

 ノーマルモデルも48メガピクセルのピクセルビニングを解除し、一部を切り出すことで2倍まで劣化がほぼないズームをすることは可能ですが、もっと被写体に寄ろうとするとデジタルズームになってしまいます。

5倍望遠カメラを搭載しているのは、プロモデルだけ

 プロモデルだとデジタルズームをまったく使わない5倍の画角だと、その差が特に大きい印象。やはり、画像を引き延ばしているぶん、ノーマルモデルの写真の仕上がりは甘めになります。

 また、プロモデルは5倍ズームに5倍のデジタルズームを加えて、最大で25倍までのズーム撮影が可能。画質は劣化するものの、iPhoneの画面に等倍表示するのであればギリギリ許容できるクオリティで撮影できます。

プロモデルで撮った写真。それぞれ1倍、2倍、5倍とデジタルズームを組み合わせた25倍

 ほかにも、ProMotionの有無は大きな違いと言えるでしょう。iPhoneで最大120Hzまでリフレッシュレートを上げられるのは、プロモデルだけ。ノーマルモデルは60Hzまでとなっており、高価格帯のスマホとしてはかなり低めのスペックです。

 さすがに、普段120Hzのプロモデルを使っていると、スクロールなどがややカクカクしているように見えます。とは言え、この画面サイズだと、そこまで気にならないのも事実。

 同じアップル製品で例えると、iPad ProとiPad Airで感じたほどの差はなく、これも目をつぶれるところです。

 4K、120fpsでの動画撮影ができるのも、プロモデルだけ。ただし、このフレームレートで撮影するのは、もっぱらスローモーション動画を撮影するためでしょう。

 確かに、撮れればうれしい機能な反面、日常的に使う機能かというと、そこには疑問符もつきます。プロ向けをうたうモデルにはあってほしい機能ではあるものの、ノーマルモデルにはやや過剰な印象もあります。

動画は4K、120fpsに対応している。これができるのも、プロモデルだけだ

 同様に、USB-Cの転送速度もプロモデルは10Gbpsなのに対し、ノーマルモデルは480Mbpsにとどまりますが、そもそも日常的にPCに画像や動画を転送するユーザーがどれだけいるのかを考えると、決定的な差別化要因にはならない気がします。

 ちなみに、120HzのディスプレイやUSB-Cの転送速度は、A18 ProのProたる部分でサポートしている機能。こうした機能を実現するため、コントローラーを別途搭載しており、プロセッサーレベルでの差別化を図っています。

 こうした機能差は、価格にも表れています。iPhone 16は12万4800円からなのに対し、iPhone 16 Proは15万9800円から。その差は3万5000円にもなります。

 キャリアだと、ソフトバンクが1年実質36円でiPhone 16を販売しているケースもあり、より差が開くこともあります。機能差が少なくなり、しかも決定的とも言える違いが望遠カメラの有無だけになっているため、iPhone 16シリーズはかつてないほどノーマルモデルを選びやすい状況と言えそうです。

 実際に使っていても不満を覚えることは少なかっただけに、「スマホは高くなりすぎた」と思っている人にも、オススメできる1台です。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya