石野純也の「スマホとお金」

ahamoが料金据え置きで30GBに増量、「ahamoショック」に揺れる通信市場を料金プランで見る

 NTTドコモは、オンライン専用料金プランのahamoのデータ容量を10月1日から、30GBに増量します。料金は据え置きで、5分間の音声通話定額がついて2970円。

 ahamoは、2021年3月に20GBプランとして登場し、中容量のスタンダード的な存在として価格をリードしてきました。大手キャリアだけでなく、MVNO各社も対抗を余儀なくされ、各社の料金プランが大きく動いたことは記憶に新しいところ。こうした一連の動きを指し、業界では“ahamoショック”と呼ばれることもあります。

ahamoが、10月1日からデータ容量を30GBに増量する

 今回の改定は料金ではなく、あくまでデータ容量の増量ですが、50%アップはなかなか衝撃的。元々データ容量が足りなかったユーザーにとっては、追加でデータ容量を購入したり、月末まで低速で我慢する必要がなくなります。また、一段データ容量が増えたことで、30GBプランを安価に提供していたMVNOにも対抗できるようになりました。その影響を見ていきたいと思います。

料金据え置きでデータ容量を10GBアップ、競合他社よりGB単価が安い

 10月1日から、ahamoのデータ容量が30GBに増量されます。これは、一時的なものではなく、恒常的な措置。元々、20GBプランの代名詞的な存在だったahamoですが、10月以降は30GBプランになると言えるでしょう。料金は据え置きの2970円。大手キャリアが提供する料金プランで、かつ5分間の音声通話定額がついていることを踏まえると破格の安さと言えそうです。

 ahamoは、20GBの範囲内であれば国際ローミングも無料で利用できましたが、その際のデータ容量も30GBに増量されます。海外利用分も普段のデータ容量から減っていくため、海外だからといって極端な使い方はできませんが、旅行先、出張先で追加料金を気にせず利用できるのは大きなポイント。ここまでの容量の国際ローミングを無料で提供しているキャリアはほかになく、ahamoの隠れた魅力になっています。

ahamoの新たな料金体系。データ容量が増えるだけで、金額やオプションは変わらないため分かりやすい

 そのほかのオプションには特に変化がなく、「大盛りオプション」は80GB追加のまま。オプション料は1980円で、ahamoの基本料と合わせると4950円の110GBプランになります。ベースのデータ容量が上がっているぶん、ahamo大盛り契約時の容量も10GBアップするというわけです。

 現状では、ahamoに近い立ち位置のサブブランドやオンライン専用ブランドは、このデータ容量増加に対抗ができていません。たとえば、ahamo対抗で導入された「UQ mobile」の「コミコミプラン」は、データ容量が20GBで3278円。データ容量に10GBもの差がつき、しかも価格はahamoより割高になっています。

UQ mobileは、ahamo対抗の「コミコミプラン」を用意している。10月にahamoのデータ容量が改定されると、差が広がってしまう。キャンペーンで契約当初は30GBまでデータ容量が増えるものの、恒常的な対応策も必要になりそうだ

 ソフトバンクの「LINEMO」も、7月に「LINEMOベストプランV」を導入したばかりですが、この料金プランは20GBまでが2970円で、それを超えると30GBまで3960円になります。ahamoとは、990円の差がついてしまったというわけです。LINEMOは、20GBを超えた際の料金を30GBまで2970円で据え置きにするキャンペーンを実施していますが、こちらはあくまで6カ月間限定。段階制の料金プランを導入した直後に、ahamoにお株を奪われてしまう形になりました。

LINEMOは、20GBプランと30GBプランを1つにまとめた「LINEMOベストプランV」を導入したばかり。いきなり出鼻をくじかれた格好だが、キャンペーンでahamoに対抗している

 同じオンライン専用ブランドでは、KDDIの「povo2.0」が20GBトッピングを2700円で提供しており、ahamoより割安なものの、こちらは音声通話定額がつきません。また、ahamoの容量改定によってデータ容量にも10GBの差がついてしまいます。270円差で10GB多く、5分間の通話定額がつくなら、ahamoの方がいいというユーザーも多いでしょう。

povo2.0の20GBトッピングは2700円。こちらもahamoと比べると、やや割高感が出てしまった

中容量帯を攻めるMVNOともバッティングか、巻き起こるahamoショックの第2波

 一方で、povo2.0には「データ使い放題(7日間)12回分」があり、こちらは9834円で提供されています。1カ月(4週間)にならすと、3278円。1カ月平均100GBの大容量トッピングとなる「データ追加300GB(90日間)」も、同じく9834円。1カ月(30日間)にならすと3278円です。

 ahamoで近いデータ容量になるのは「大盛りオプション」を足した「ahamo大盛り」ですが、こちらは10月以降、110GBで4950円。3カ月間のまとめ買いをするという条件付きではありますが、povo2.0はahamoに対抗できるデータ容量を備えていると言えそうです。

povo2.0には使い放題や大容量のトッピングもある。元々楽天モバイル対抗として導入されたものだが、データ容量増加後のahamoとも戦えるトッピングになっている

 また、楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」も、無制限の料金は3278円。20GB以降、30GBまではahamoの方がわずかに割安なものの、それを超えると楽天モバイルの安さに軍配が上がります。とはいえ、ahamoが10GBの増量で、多くのサブブランドやオンライン専用ブランドと比較した際に優位になっているのも事実。大手キャリアは、何らかの対抗策を打ち出す必要もありそうです。

 それ以上に厳しくなりそうなのが、MVNOです。元々、MVNOは中容量帯以下のデータ容量が主戦場になっていましたが、ここ1、2年は徐々に料金プランを拡充し、中容量帯以上の料金プランを売りにすることも増えていました。

 たとえば、MVNO最大手の「IIJmio」は、3月に30GB、40GB、50GBを追加。「イオンモバイル」も、4月に60GB以上のデータ容量を追加しつつ、30GB以上の料金プランを値下げしています。

 ただ、IIJmioは30GBプランが2700円、イオンモバイルも2508円。ahamoよりは安いものの、20GBプランとの比較になっていた従来より、競争力は落ちています。5分の音声通話定額をつけた場合には、2社とも料金がahamoを上回ってしまいます。

IIJmioは3月に30GB以上の大容量プランを導入した。家族でのシェアが主な用途だが、金額だけを見るとahamoとバッティングしている

 直近では、「HISモバイル」が「自由自在2.0プラン」として、10GBプランや30GBプランを新設。ahamoやLINEMOに対抗することをうたっていました。しかし、ahamoのデータ容量が30GBとなったことで、30GBプランの中身がahamoとほぼ変わらなくなってしまいました。元々は20GBプランを2090円に設定し、金額の安さと音声通話定額が1分長いことで差別化を図っていましたが、ahamoが大容量化したことで比較対象が1つ上のプランになってしまい、お得感が失われてしまった格好です。

9月にHISモバイルは自由自在2.0プランを発表。20GBは金額で、30GBプランは容量でahamoに対抗していたが……

 ahamoが発表された際にはMVNOの割安感が薄れ、獲得ペースが鈍るといった事態も起こりました。こうした状況を、業界関係者は“ahamoショック”と呼んでいます。一方で、その後、MVNOに帯域を貸し出す際の接続料や基本料が値下げされ、中容量でもahamoより安かったり、ahamoと同程度でもデータ容量が多かったりといった料金プランが出そろってきました。

 今回のデータ容量増量は、そのショックを再び引き起こす“第2波”になりうるものと言えるでしょう。

素早く対抗する日本通信、料金競争は再び起こるか

 すかさず、ahamoに対抗してきたMVNOもいます。「日本通信」です。

 同社は、データ容量30GBで5分間の音声通話定額がついた「合理的30GBプラン」を2178円で提供していましたが、このデータ容量を9月30日に50GBへと増量します。データ容量を変えずとも、ahamoより割安ではありましたが、それだけではインパクトが足りないと判断したことがうかがえます。

 合わせて、元々10GBだった「合理的みんなのプラン」のデータ容量を、20GBへと倍増させます。こちらの料金も1390円で据え置き。9月30日までのahamoと同容量でよければ1000円以上、料金が安くなる形です。これまでの合理的みんなのプランは、ahamoユーザーにとってはデータ容量が少なかった印象もありますが、この改定によって20GBで十分だったahamoユーザーもターゲットになりました。ahamoと同じくデータ容量を引き上げることで、料金プランごと魅力が増したと言えるでしょう。

日本通信はすかさずahamoへの対抗策を発表。9月30日から、合理的みんなのプランを20GBに、合理的30GBプランを50GBに増量する

 日本通信は非常に素早く動き、その料金が目立っていますが、今後、MVNO各社がどのように新ahamoに対抗していくかは要注目と言えます。

 単なる値下げだと収入減にもつながってしまうため、日本通信のようにデータ容量を増やすのが正攻法と言えるでしょう。ahamo登場後にMVNOが値下げしたことからも分かるように、大手キャリアがデータ容量を増やせば、MVNOもそれに追随しやすくなるからです。

 理由は、ネットワークを貸し出す際の接続料の算出方法にあります。現状、これはネットワークにかかるコストを総トラフィックで割る形で導き出しており、分子であるコストが下がったり、分母であるトラフィックが増えたりすれば、接続料もそれに連動して下がります。ahamoのデータ容量アップは、後者の分母の増加につながる動き。ahamoユーザーのトラフィックが大きく増えていけば、MVNO側もデータ容量増加や値下げの原資が作りやすくなるというわけです。

5月10日に開催された総務省の有識者会議での資料。中段が接続料の算出式で、トラフィックが増えれば、分母が大きくなるため、貸し出す際の単価は下がる

 こうした数値が反映されるまでには時差もありますが、先々の接続料値下げを見込んでデータ容量を増やすといった対応は取れるはず。日本通信の動きも、それをにらんでのものでしょう。実際、ユーザーのデータ容量は年々増加しているため、料金据え置きのまま実態に合わせていく措置は必要になるはずです。

 ある意味20GBプランで中容量の“基準”にもなっていたahamoが動いたことで、今後、キャリア各社やMVNOの料金改定が活発化しそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya