石野純也の「スマホとお金」

12月27日にせまる「スマホ割引規制改正」でMVNOはどう変化するのか

 12月27日の電気通信事業法施行規則等の改正に合わせ、その細かなルールを定めたガイドラインの中身も変わります。これに伴い、端末購入補助の上限が最大で4万4000円に拡大するほか、前々回の本連載で紹介したように、端末と回線をセット販売する際の割引にも法の網の目がかかるようになります。端末の種類や現在の価格、販売方法によるところはありますが、年末年始に、それが変わる可能性が高まっています。

 上記は主に、自ら基地局などの通信設備を持つMNO(自前で基地局などの設備を持つ携帯電話会社)が対象です。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社が、ここに該当します。

 こうした事業者にとっては、割引の上限が上がる一方で、制約も増える格好。 一方で、事業者によっては、大幅に規制が緩和されるケースもあります。MVNOです 。現行の制度では、一部のMVNOに大手キャリアと同等の規制がかかっていましたが、改正施行規則では、それが外れる見通し。端末の売り方などが、これによって変わる可能性があります。

電気通信事業法の施行規則改正で、一部MVNOが規制の対象から外れる見込みだ

現状は100万契約超のMVNOが規制対象、IIJmioやmineoは割引控え目

 現行の省令では、一部のMVNOに対し、大手キャリアと同等の規制がかかっていました。その条件は次のとおり。

 1つが契約者数で、その閾値は0.7%。契約数にすると、約100万契約に定められています。この対象になるのは、大手のMVNO。トップシェアのIIJmioはもちろんのこと、シェア3位でオプテージの運営するmineoも、規制の対象になっています。いずれのMVNOも、100万契約を超えているからです。

現状のガイドラインでは、シェア0.7%を超えるMVNOが規制の対象になっている。画像はガイドラインの12ページ

 もう1つの条件が、大手キャリア傘下やグループであること。ドコモに吸収されたOCN モバイル ONEは、100万契約を超えていたうえにNTTグループだったこともあり、両方の条件に当てはまっていました。一方で、ビッグローブの運営するBIGLOBEモバイルや、J:COMのMVNOであるJ:COM MOBILEは、どちらも100万契約は超えていませんが、KDDI傘下ということで規制の対象になっています。

MNOの特定関係法人に指定された事業者は、MVNOでかつ100万契約以下でも規制の対象になる。大手キャリアが、抜け穴として使う可能性があるためだ

 これに対し、ドコモのエコノミーMVNOではありますが、資本関係のないフリービット傘下のTONEモバイルや、TOKAIコミュニケーションズの運営するLIBMOなどは、規制の対象外。日本通信、HISモバイル、NUROモバイル、イオンモバイルなどなど、比較的著名なMVNOも、100万回線を超えていないため、ガイドラインを遵守する必要はありません。

 MVNOであっても、対象になる際には、大手キャリアと同様、端末の割引が2万2000円に上限になるほか、長期契約の優遇などにも制限がかかっています。あくまで現行のルールですが、一定以上の規模があるMVNOや、大手キャリアの影響が色濃いMVNOに関しては、大手キャリアとほぼ同じ条件で戦っていかなければならないというわけです。ただ、10倍以上規模が違うなかで、条件をそろえて規制するのはやや厳しすぎるきらいもあります。そのため、後述するように、次の省令改正では規制の対象外になります。

画像は21年3月に特定関係法人が見直されたときのもの。MNOから独立しているMVNOでは、IIJmioのIIJとmineoのオプテージが指定されていることが分かる。この枠組みは現在も変わっていない

 実際、IIJmioやmineoの端末販売方法を見ても、上記のルールがきちんと守られていることが分かります。モトローラの「razr 40」やシャオミの「Xiaomi 13T Pro」といった話題性のある端末をいち早く取り扱い、しかも価格を抑えて販売することで注目を集めているIIJmioですが、よくよく見ると、その割引の仕方は2段階になっています。

 たとえば、razr 40の場合、割引をすべて適用すると7万9800円ですが、MNPを条件にしたぶんは、1万6000円に抑えられています。本体価格は11万2000円のため、差し引きした残りの1万6200円に関しては、本体からの直接値引きという形になっています。合計で3万2000円の割引になっていますが、現行ルールでは、回線契約に紐づかない限り、割引は自由。単体購入でも適用される後者の1万6200円は、規制の条件に含まれないということになります。

IIJmioのrazr 40は、通常価格からの割引と、MNPでの乗り換え割引の2つに分かれている。前者は端末を購入するユーザーに等しく提供されるため、現時点では規制の対象外になる

 IIJmioは端末の単体販売も行っていますが、もし契約者だけに限ってしまうと、端末購入補助のガイドラインに違反してしまう可能性があります。後者の端末そのものに出している期間限定の割引である1万6200円が、回線に紐づいた割引と見なされるからです。他の端末も同様ですが、こうした形で、IIJmioの端末販売はきちんとルールが守られていることが分かります。

改正で500万契約超のMVNOが規制対象に、独立系はすべて規制対象外

 一方で、規制がかかっていないMVNOでは、2万2000円上限を超えた割引やキャッシュバックをしていることもあります。たとえば、NUROモバイルは、以下のように40GBプランの「NEOプランW」に対し、1万5000円のキャッシュバックを行っています。さらに、これと併用する形で「Xperia 10 IV」を購入した際に1万円のキャッシュバックを受けることができます。

 NEOプランWでキャッシュバックを受ける条件は、新規契約かMNP。Xperia 10 IVのキャッシュバックキャンペーンも、NUROモバイルの展開している料金プランへの加入が必須になっているため、どちらの割引も回線に紐づいたものと見なすことが可能。合計額が2万5000円になってしまうため、大手キャリアやIIJmio、mineoのような100万契約越えのMVNOだと、アウトになってしまうおそれがあります。実際、これに近いケースはガイドラインに例示されており、「禁止行為の対象となる」と明示されています。

ガイドラインの38ページには、NUROモバイルのキャンペーンに近い例が掲載されている

 繰り返しになりますが、ソニーネットワークコミュニケーションズは同ガイドラインの適用対象外のため、こうしたキャンペーンが悪いというわけではありません。競争環境に違いがあるため、ユーザー獲得のために認められている手段。規制を受けていないMVNOの方がこうしたキャンペーンを展開しやすくなるのは、競争環境を整備するという法律の趣旨にも則っていると思います。

 この規制が、12月27日に改正される電気通信事業法施行規則で大きく変わります。枠組み自体は残っているものの、規制対象のシェアが0.7%から4%に増加するからです。契約数に直すと、100万契約→500万契約への大幅増になり、現状では、シェア規制を受けるMVNOがゼロになります。

MVNOの相対的な競争力が低下していることに鑑み、規制対象のシェアが0.7%から4%へと上がった。これにより、独立系のMVNOはすべて対象外になる

 ただし、MNOの特定関係法人に指定されているMVNOは、現状のまま。ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの傘下と見なされるMVNOは、規制の対象になります。コンシューマー向けのいわゆる格安SIMを展開しているMVNOでは、先に挙げたBIGLOBEモバイルやJ:COM MOBILEなどがここに当てはまります。端的に言えば、IIJmioとmineoが指定対象事業者から外れるというわけです。これによって、 今までは難しかった端末割引やキャッシュバックが増加する可能性 があります。

MVNOの大幅割引はあるか? 宣伝的なキャンペーンが加速する可能性も

 ただ、指定対象外のMVNOが展開する端末割引やキャッシュバックを見ていくと、制限を超えているところは少ないのが現状です。新規契約を促進する目的で、1万円程度の端末値引きを行っているケースはありますが、2万円を超えることは少ないと言えるでしょう。かつて大手キャリアが行っていたような、数万円単位の盛大な割引やキャッシュバックは見たことがありません。上記のNUROモバイルは、規制範囲を超えているものの、超えているのはわずか5000円です。

画像はイオンモバイルの端末販売ページ。現状でも規制対象外だが、ポイントバックは2万2000円を下回っている

 実際問題として、低料金でサービスを提供しているMVNOが、大幅な割引をするのはビジネスモデル上、難しいところです。NUROモバイルのNEOプランWのように、データ容量が比較的大きく、月額料金も3980円する料金プランであれば、それなりに原資は捻出できそうですが、1000円以下でそこそこ使う人にとっては十分な料金プランの方が一般的。たとえば、IIJmioの料金で言えば、ギガプランの5GBはわずか990円です。

 このプランを契約している人が2年間料金を支払ったとしても、総額は2万3760円にしかなりません。その倍の4年間使ったとしても、支払う金額は4万7520円。違約金等の縛りもないため、ユーザーがいつ解約するかも読み切れません。そんな契約を獲得するために現行のガイドラインを大幅に超えるキャッシュバックをしてしまったら、事業が成り立たないというわけです。新規制の割引上限いっぱいの4万4000円を値引くのは、ビジネスモデル上なかなか難しいはずです。

IIJmioの料金。大手キャリアに比べ、通信料が安いこともあり、端末割引の原資は捻出しづらい

 一方で、その割引方法が変わる可能性は大いにあると見ていいでしょう。たとえば、上記で例として挙げたrazr 40の場合、現在は端末そのものを1万6200円割り引いていますが、これを IIJmioユーザー限定にすることは可能 になります。現状のままだと、誰もが購入でき、割引の恩恵を受けられますが、これをIIJmioユーザーのために限定することはできるでしょう。その方が、契約を維持してもらうモチベーションにもなるため、モバイル事業にとってはプラスになるはずです。

 また、宣伝を兼ねて台数や期間を限定したうえで、これまでのガイドラインを超える大幅な割引をするといった手も考えられます。データ容量が大きいプランに加入するほど、割引を積み増すといった手法も取りやすくなるでしょう。このように、ガイドラインの枠組みから外れることで、割引施策に柔軟性を持たせることが可能になります。規制の足かせが外れたIIJmioやmineoが、どのような手を打ってくるのかには注目しておきたいところです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya