石野純也の「スマホとお金」
総務省の新スマホ割引規制は“実質”値上がり? そのカラクリを紐解く
2023年11月24日 00:00
総務省で、「モバイル市場競争促進プラン」が策定されました。キャリア間やキャリアとMVNOの競争を促進するというお題目ですが、この中では、端末購入補助に関する規定も見直されています。
現状、端末購入補助はガイドラインで上限が税込で2万2000円に設定されていますが、12月27日からは、これが端末の価格帯に応じて最大で4万4000円に上がります。また、4万4000円超8万8000円以下の端末に関しては、本体価格の50%が割引の上限になり、2万2000円から4万4000円の範囲まで割引を出すことが可能になります。
シンプルに見ると、ミッドレンジ以上の端末で割引の上限が上がるだけのように見えますが、実はもう1つ、やっかいな制約がついています。それが、 端末単体(白ロム)割引の制限 です。
モバイル市場競争促進プランでは、回線と紐づいて販売する端末の割引は、この上限の内数に含めると規定されています。8万円超のミッドハイからハイエンドモデルの場合、すべての割引を合算して4万4000円までになるというわけです。
現状では、売れ行きを促進する意味合いもあり、発売直後から一定の端末割引を行うケースも見受けられますが、この割引が難しくなったり、割引額が下がってしまったりすることもありえます。さらに 影響が大きそうなのが、各社が実施しているアップグレードプログラム(端末購入プログラム) です。
前半後半で支払額が異なる割賦が登場、発売直後から実質1万円以下も
本連載でも過去に取り上げましたが、一部キャリアでは、割賦の支払額を前半と後半で調整したり、残価の額を上げたりすることで、2年間利用した場合の実質価格を下げる手法が取られています。
以前取り上げたのは、ソフトバンクの「Pixel 8」。このモデルに関しては、前半24回と後半24回の支払額が大きく変わっていました。10月に入り、この価格設定に改定が入った結果、前半24回の金額がさらに下がっています。本誌「みんなのケータイ」でも取り上げたように、筆者もこの仕組みを利用し、毎月917円の支払いでPixel 8を購入しました。
この仕組みでは、後半24回の支払いがかなり重くなっています。上記のPixel 8の場合、25回目から48回目までの支払額は3853円です。ただし、端末を下取りに出せば、この3853円×24回ぶんは免除されます。
うっかり下取りを忘れてしまうと毎月の支払いが一気に上がってしまうものの、 きちんと手続きさえすれば、2年間の総額は917円×24回ぶんだけの支払いで済みます 。端末の下取りを前提にしつつ、2年間、2万2008円だけでPixel 8を利用できるというわけです。また、これとは別に、MNPなどをすればいわゆる端末購入補助の2万2000円割引を受けることが可能。発売されたばかりの端末にも関わらず、2年間利用の実質価格は7円まで下がります。
あくまで下取りは必須ですが、2年ごとに機種変更していけば、大きな負担なく、最新のハイエンドモデルを利用できます。また、Pixel 8に限らず、最新のミッドハイからハイエンドモデルの一部は、同様に 前半24回の支払いが“軽め”に設定されています 。ソフトバンクが戦略的に販売したいモデルを選び、リーズナブルな価格で売り出していることが見て取れます。Pixel 8と近い時期に発売された端末では、OPPOの「OPPO Reno 10 Pro 5G」も同様の価格設定でした。
また、直近では、モトローラの「razr 40s」も、前半24回の支払いがかなり軽めになっています。MNPで新規契約した場合や、5歳から24歳までのユーザーが新規契約した場合の価格は、2万2000円割引が込みで9万9680円。この一括価格に対し、24回目までの支払いはわずか410円に設定されており、約2年間の支払い総額は9840円と1万円を下回ります。
機種変更などの場合は2万2000円割引がなくなるため、毎月の価格は916円ほど上がりますが、それでも1000円ちょっとで最新のフォルダブルスマホが持てるというわけです。
他社も謎の残価引き上げで対抗、2万2000円制限に抵触しない理由とは
ソフトバンクは48回割賦を採用しているのに対し、ドコモやKDDIは端末ごとに設定した残価を割り引く仕組みを採用していますが、基本は同じ。 残価をある程度高く見積もっておく(支払い免除額を増やす)ことで、約2年ぶんの支払い額は抑えられます 。
実際、auのPixel 8は、ソフトバンクに追随して、発売後に残価が上がっています。残価とは、一定期間経過後の残存価値に基づいて設定される金額のため、本来であれば、発売後に下がることはあっても上がることはないような気もしますが……(笑)。
他社との競争に打ち勝つためか、ドコモも11月10日にPixel 8の実質価格を値下げしています。
こちらも、発売当初は5万5440円だった残価がサラッと8万5800円まで上がり、1回目から23回目までの支払い金額が安くなっています。
ドコモの場合、13回目の支払いまでに端末を返却し、早期利用料を支払うと残価に加えて残債まで免除される「いつでもカエドキプログラム+」があり、こちらを利用した13カ月目で利用した場合の価格は2万9898円(12回目までの支払金額と早期利用料の合算)になります。これでも他社よりは割高ですが、残価上昇ぶんだけ手に取りやすくなっています。
ソフトバンクのPixel 8場合、端末の下取りで割り引かれるのは3853円×24回ぶん。手元に端末は残りませんが、9万2472円も割安になることになります。MNPなどの場合、ここに2万2000円の割引が加わるため、端末購入補助のガイドラインで定められた2万2000円を大幅にオーバーしているようにも見えます。ただし、 実は下取りでの残債免除は、現状だと、端末購入補助とは見なされません 。
その理由は主に2つ。
1つは、回線契約と紐づいておらず、他社回線を契約するユーザーにも提供されているためです。各社とも、他社回線でもこうしたアップグレードプログラムが利用できることを不自然なほどアピールしているのは、回線契約に基づく割引ではないことを明確にする意図があります。まれに一括で端末を大幅に値引いているケースがありますが、それと同様、端末単体の割引になるためおとがめなしというわけです。
また、仮にこれらのアップグレードプログラムが回線契約と紐づいていたとしても、免除される残債や残価のすべてが割引になるわけではありません。キャリア側が、対価として端末を引き取っているからです。
ご存じのように、中古市場に下取りに出せば、ユーザーはお金を支払われることになります。それと同様のことで、ユーザー側が端末という現物をキャリアに買い取ってもらっているため、単なる割引ではないという理屈です。これが、2つ目の理由です。
ただし、この場合、抜け穴として、不自然に高い価格で端末を引き取ることで、いくらでも割引ができてしまいます。
実際、ソフトバンクのPixel 8の場合、11万4480円の本体価格に対し、2年後にも関わらず、その8割程度の価格で下取りをしています。
こうした事態を防ぐ意味もあり、ガイドラインでは一般的な下取り額との差分は割引と見なすというルールも設けられています。1つ目の理由ですべてのユーザーに提供される仕組みのため、現状では問題がありませんが、自社回線のユーザーのみに提供条件を変更した場合、こうした販売方法はアウトになってしまうおそれが高くなります。
盛り盛りの残価に制限がつく可能性も、買い時は年内か?
ここで冒頭のモバイル市場競争促進プランに話を戻すと、これによって、 後半24回ぶんの支払いや、高すぎる残価に制約がつく可能性が濃厚 になってきました。回線と紐づけて販売する際の割引にも、最大で4万4000円までの上限が設けられるからです。
端末単体の値引きであっても、新規契約や機種変更などの手続きを踏む限り、割引上限の制約を受けるというのが新ルールの主な変更点。いわゆる「白ロム割規制」と呼ばれるもので、下取り価格があまりに高すぎると、これに抵触するおそれがあります。
現行のガイドラインでは端末購入補助の定義として、以下のような文言が並んでいます。
「スマートフォンの購入を条件として事業者が利用者に対して提供する携帯電話の電気通信役務の料金又はスマートフォンの購入代金の割引(当該電気通信役務と併せて提供される役務の料金や物品の購入代金の割引を含む。)及び金銭その他の物品又は役務の代価とすることができる経済上の利益並びに事業者が販売店に対して支払う金銭であって販売店によるスマートフォンの販売に応じて支払うもの又はスマートフォンの購入者にその購入を条件として提供する経済上の利益のために使うことを事業者が販売店に対して実質的に指示するもの」(原文ママ、以下引用部分は同様)
一般的な原稿では悪文と言われそうなほど長い一文ですが、要するに、 キャリアや事実上キャリアの指示で動く代理店が限度を超えた端末の割引を提供したり、それに類するキャッシュバックなどなどを行ってはいけない といった趣旨のことが厳密に書かれています。
一方で、注として「端末の引取りを条件としたスマートフォンの購入代金の割引等」は含まないとしています。
ただし、これも「中古市場における一般的な買取価格を著しく超える場合は、当該一般的な買取価格を超える部分を除く」とあり、下取り価格が高すぎる場合の差額は割引になることも明記されています。
どのように中古市場の買い取り相場を定義するのかが明確ではありませんが、2年前に同レベルの端末が存在していた場合、中古価格には一定の“相場”があります。例えばPixel 8は、2年前に「Pixel 6」が存在するため、買い取り価格を予測する際の参考になります。ただし、Pixel 6発売時は今よりも円高で、本体価格もグーグル直販で8万5680円と安かったため、2年後の買い取り価格の下落率を求める方がより正確でしょう。
店舗にもよりますが、Pixel 6の128GB版は、中古品の場合、3万円~3万5000円程度の買い取り価格がつくようです。3万円だとすると、 発売時の約35%の価格で買い取られている ことになります。
これの下落率をPixel 8に当てはめると、約4万円。9万円強を免除するプログラムの場合、差額は5万円になってしまうため、上限をぶっちぎっています。MNPの2万2000円割引を加えると、完全にアウト。 割賦の後半や残価を“盛る”方式は、取りづらくなる可能性 があります。
こうした仕組みがあるため、モバイル競争促進プランに基づいたガイドラインが出てきた場合、割賦の後半や残価を極端に“盛った”アップグレードプログラムは改定される可能性もあります。
Pixel 8の場合、各社が発売当初提示していた割賦や残価であれば、下取り価格との差額は1万円程度になるためセーフですが、現状の価格設定は許容されないはず。今のような“残価盛り盛り”の価格競争に対する、抑止力になるというわけです。 ユーザー視点で言えば、お得な実質価格で買えるのはガイドライン改定まで 。ほしい端末が安価に販売されていたら、遅くとも年内には飛びついた方がいいかもしれません。