石野純也の「スマホとお金」
「ワイモバイル」「UQ mobile」はなぜ人気? その料金プランのメリットは
2022年5月12日 00:00
鳴り物入りで登場したオンライン専用プラン/ブランドが注目を集めた21年でしたが、ふたを開けてみると、各社とも伸びていたのはいわゆる“サブブランド”でした。それは、KDDIのUQ mobile、ソフトバンクのワイモバイルです。
2社とも、明確にはサブブランドと呼んでいるわけではなく、低料金ブランドなどと位置づけていますが、ここではもともとメインで展開していたauやソフトバンクに対するサブとしてのブランドとして、サブブランドと呼称することにします。
契約数の伸びの勢いが高いことは、各社幹部の発言からも読み解けます。
たとえば、ソフトバンクの代表取締役社長兼CEOの宮川潤一氏は、ワイモバイルがソフトバンク全体の「増加のけん引役になっている」と発言。「他社からの流入が好調」(同)だとしています。対するKDDIも「UQ mobileやpovo2.0は非常に好調」(代表取締役社長、高橋誠氏)としていますが、実契約者が400万を超えたUQ mobileがその大半を占めています。
では、なぜ今、サブブランドはここまで勢いを伸ばしているのでしょうか。その理由を、2ブランドの料金プランやオンライン専用プラン/ブランドとの比較からひも解いていくとともに、自身でサブブランドを持たないドコモの動向についても紹介していきます。
3本立ての料金プランで低容量から中容量をカバーするワイモバイルとUQ mobile、割引には違いも
日本でサブブランドの先駆けとなったのは、ワイモバイルであることに異論がある人は少ないでしょう。同ブランドは、ソフトバンクが傘下に収めたイー・アクセスとウィルコムを母体として14年に誕生。翌15年にはソフトバンクに吸収され、低料金やシンプルな料金体系を売りにユーザー数を伸ばしています。現時点での正確な契約者数は明かされていませんが、約1年前に700万契約を突破しています。
現在、勢いづいているのは、21年2月に改訂された料金プランが好調だからです。オンライン専用料金プランの導入と前後する形で、ソフトバンクはワイモバイルの料金プランも改定。もともとはセットになっていた10分の音声通話定額を外して、料金を値下げしています。料金プランに含まれる要素が減ったことを受け、プラン名も「シンプルS/M/L」に改定されています。
松竹梅という言葉があるように、選択肢が3つというのはユーザーにとって選びやすいのかもしれません。シンプルS/M/Lでも、この骨格は維持しています。もっとも安いシンプルSは2178円でデータ容量は3GB。シンプルMはデータ容量が一気に3倍の15GBに上がりますが料金は3278円で、お得感が演出されていることが分かります。もっとも高いシンプルLは4158円で、データ容量は25GBです。
KDDIのUQ mobileも料金体系は非常に近くなっています。同社の「くりこしプラン +5G」も選択肢は3つで、ワイモバイルと同様、S/M/Lに分かれています。データ容量は下から3GB、15GB、25GBでこちらもワイモバイルと同じ。一方で料金は1628円、2728円、3828円と、ワイモバイルより一段安く設定されています。先行するワイモバイルに対して、勝負を挑む立場のため、攻めた料金設定になっていることがうかがえます。
メインブランドほどではありませんが、2社ともに割引サービスも用意されています。ワイモバイルは「家族」、UQ mobileは「自宅」がキーワード。ワイモバイルは、家族契約がある場合、2回線目から1188円の割引を受けられます。これによって、シンプルSの場合、2回線目以降は990円まで料金が下がります。ただし、1回線目の料金はそのまま。回線数が多い方が割引額は多くなりますが、1人当たりの金額が少々分かりづらいのは難点です。
これに対し、UQ mobileは電気サービスや固定回線とのセット割りを提供しています。くりこしプラン +5Gが対応しているのは、「自宅セット割」。「auでんき」や「UQでんき」が対象の「でんきコース」に加えて、「auひかり」などの固定回線や「auホームルーター5G」などの固定回線に近い形で利用できるWi-Fiルーターを対象にした「インターネットコース」を選択できます。こちらは、1回線目から割引がされ、SとMは638円、Lは858円、料金が安くなります。
割引後の料金は、くりこしプランS +5Gが990円、同Mが2090円、同Lが2970円です。1回線目から割引になるため、一人暮らしのユーザーでもお得になるのがこの仕組みのメリット。しかも、電気サービスは地域電力会社から切り替えるだけでよく、やはり1人でも気軽に利用できます。2回線目以降で家族契約に重きを置いているワイモバイルに対し、UQ mobileは1回線目で単身世帯のユーザーでも契約しやすいため、間口が広い料金プランに仕上がっていると言えそうです。
オンライン専用プラン/ブランドとの違いは? ショップやお得なオプションサービスに要注目
20GBで破格の値段を実現したオンライン専用プラン/ブランドですが、UQ mobileやワイモバイルの値下げをした結果、その差は小さくなっています。
たとえば、UQ mobileのくりこしプランM +5Gは料金が2728円で、データ容量は15GBですが、同じKDDIのpovo2.0は20GBのトッピングが2700円で提供されています。割引適用前の正価ではpovo2.0の方がわずかに割安で、かつデータ容量も5GB多くなりますが、そのぶん、 UQ mobileはショップで契約できたり、サポートを受けられたりといったサービスが充実 しています。
別の見方をすると、ほぼ同額で5GB多いのを取るか、サポートを取るかを選べると言えるかもしれません。
また、先に挙げた自宅セット割を適用できれば、料金は2090円になり、povo2.0の20GBトッピングより割安になります。UQ mobileには、データ容量を月5GB追加する「増量オプションII」があり、これを適用するとくりこしプランM +5Gは20GB、2640円になります。あくまで割引前提の金額ではありますが、オンライン専用プラン/ブランドとそん色ないレベルのデータ容量、金額になるというわけです。
これはワイモバイルも同じです。ソフトバンクのLINEMOは、「ミニプラン」が3GB、990円、「スマホプラン」が20GB、2728円で提供されています。ワイモバイルで近いのは、シンプルSやシンプルM。前者は1628円、後者は2728円です。
シンプルSはさすがにLINEMOより割高ですが、シンプルMは同額。データ容量は5GB少ないものの、UQ mobileと同様、店舗での契約やサポートに対応しています。20GB前後のデータ容量が必要な場合、5GBを取るか、店舗での安心感を取るかという選択肢になっていることがお分かりいただけると思います。
また、ワイモバイルにもUQ mobileの増量オプションIIと同じ仕組みの「データ増量オプション」があり、シンプルMは550円追加すると20GBになります。料金は550円高くなりますが、この差額であればこれまでと同様、店舗で契約や機種変更ができたり、サポートを受けやすいサブブランドの方が魅力的に感じる人は多いでしょう。結果として、オンライン専用プラン/ブランド登場以降もUQ mobileやワイモバイルが伸び続けているのは、こうした点が評価されている可能性が高そうです。
加えて、ワイモバイルの場合、グループ企業であるYahoo!との連携が魅力的です。契約者は月額508円の「Yahoo!プレミアム」を無料で利用できます。これだけで、「Yahoo!ショッピング」や「PayPayモール」などの還元率が2%上がるほか、PayPayクーポンも付与されるようになります。 これらを使いこなせば、毎月の料金の元を取れてしまうほどお得 になります。
さらに、月額550円のオプションサービス「Enjoyパック」を契約すると、Yahoo!ショッピングやPayPayモールで利用できる500円ぶんのクーポンが付与され、還元率も上限1000円まで5%アップします。クーポンを使うだけでほぼ元を取れるうえに、Yahoo!ショッピングやPayPayモールで2万円ぶんの買い物をすれば1000円の還元が受けられるので、上手に活用すればかなりお得なオプションと言えます。データ容量が0.5GBぶんついてくるのも、Enjoyパックの特典です。
かく言う筆者も、Enjoyパックを毎月から隔月ぐらいのペースで契約しており、1000円ぶんのPayPayポイント還元を受けています。ここまで加味すると、あえてオンライン専用プラン/ブランドを選ぶ理由は薄くなるのではないでしょうか。あくまでPayPayポイントとしての還元のため、値引きではありませんが、実質的に料金プランが1000円安くなると考えれば、インパクトが大きいはずです。キャリアの経済圏に乗っかればお得になりやすいのも、サブブランドのメリットです。
サブブランドがないドコモ、鍵を握るのがOCNモバイルONE
これに対し、NTTドコモは、ドコモ自身が展開するサブブランドがありません。ただし、NTTコミュニケーションズが展開するOCNモバイルONEは、位置づけ的には非常に近い存在と言えます。同ブランドは7月にNTTレゾナントに移管されますが、いずれにしてもドコモの完全子会社だからです。ワイモバイルやUQ mobileも元々は関連会社や子会社を母体としていた経緯を踏まえると、事実上、ドコモのサブブランドに近い存在と言えるでしょう。
OCNモバイルONEは「ドコモのエコノミーMVNO」の1社で、ドコモショップで契約できるのもサブブランド的です。ただし、サブブランドとは異なり、 ショップが利用できるのはあくまで契約時のみ 。料金プラン変更や機種変更などの手続きには対応していないため、その性格はオンライン専用プラン/ブランド寄り。ドコモ自身が運営しているわけではなく、あくまでドコモから回線を借りるMVNOのため、ドコモと通信品質が完全に同じではない点にも注意が必要です。
このような位置づけの違いもあり、料金面はサブブランドというより、MVNOに近い印象があります。現行の料金プランはデータ容量が500MB、1GB、3GB、6GB、10GBの5段階に分かれており、10GB以下の低容量に特化しています。15GBや25GBといった中容量から大容量にあたる選択肢を設けているサブブランドとは、やや性質が異なるというわけです。金額面でもMVNOの相場に近く、一例を挙げると、「3GB/月コース」は990円。サブブランドとは違い、上記のような制約はありますが、1回線目から割引なしでこの価格を打ち出せているのはMVNOならではでしょう。
とは言え、OCNモバイルONEが他社のサブブランドに対抗しきれているかというと、必ずしもそうではありません。総務省が四半期ごとに公開しているMVNOのシェアでは、21年末時点で12.8%と2位につけているものの、SIMカード型のMVNOが全体で1516万契約のため、実数では200万契約に満たない規模感です。MVNOの中では大きな事業者ではありますが、UQ mobileやワイモバイルとは大差がついていることもあり、ドコモの子会社として巻き返しに期待したいところです。
ドコモ自身は、現時点でサブブランドを展開する予定はないといい、代表取締役社長の井伊基之氏もたびたびそのような発言をしています。OCNモバイルONEをドコモ本体に取り込み、サブブランドにする計画もないようです。井伊氏は、21年10月に開催された中期経営戦略の説明会で、「本当にサブブランドが必要なら、それ(OCNモバイルONE)とは関係なく作っていけばいい」とコメントしています。今は、エコノミーMVNOに注力し、MVNO市場の競争を加速させるのが大切だと考えている点は、他社とスタンスが大きく異なると言えそうです。