法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「AQUOS sense10」、AIの活用で定番を超える存在へ

 シャープの主力スマートフォン「AQUOS sense」シリーズの2025年モデル「AQUOS sense10」が発表された。国内市場では安定した人気を保ち続ける定番モデルだが、実機を試用することができたので、レポートをお送りしよう。

定番モデルの安心感と実用性を考えたAI機能

 どんなジャンルの商品にも常に安定した人気を得ている定番シリーズが存在する。スマートフォンで言えば、国内市場はiPhoneが半数近いシェアを持つものの、高価格路線やAIなどの新機能への出遅れから、ここ数年は漸減傾向が続いており、今年はeSIMの影響などもあり、例年ほどの勢いが感じられない。

 これに対し、Androidスマートフォンにおいて、常に安定した人気を保ち続けているのがシャープの「AQUOS sense」シリーズだ。2017年に「必要十分」をキーワードに登場した「AQUOS sense」は、世代を重ねるごとに着実に進化を遂げ、「定番」や「国民機」と呼ばれるほど、安定した人気を得ている。

 初代モデルが登場した2017年当時は、まだまだハイエンドモデルやフラッグシップモデルの存在感が強く、「必要十分」というキーワードもすぐには理解されず、スペックを抑えた「廉価モデル」のような捉えられ方もされたが、それぞれの発売時期に合わせた「必要十分なスペック」が吟味され、防水防塵や耐衝撃性能といった耐環境性能に加え、セキュリティパッチの配布やOSのアップデートなど、ユーザーが長く使ううえで必要とされるものを充実させることで、支持を拡大してきた印象だ。

 安定した人気を保ち続けている多くの製品は、できるだけ内容を変えない方向性を選ぶ傾向にあるが、「AQUOS sense」シリーズは昨年の「AQUOS sense9」で、同年発表の上位モデル「AQUOS R9」と共に、背面を中心にデザインを一新している。

 「miyake design」の三宅一成氏によるデザインは、ハイエンドモデルの「AQUOS R9」では個人的にやや違和感を覚えたものの、「AQUOS sense9」は自由曲線で構成されたカメラ部の形状が愛嬌のある表情を演出し、画一的でメカっぽさが強い他製品とはひと味違った存在感のあるデザインに仕上げられ、各方面でも高い評価を得た。

 今回発表された「AQUOS sense10」も従来の「AQUOS sense9」のデザインを継承したものの、内部についてはチップセットの世代を刷新し、AIを活かした新機能を搭載することで、定番を超える進化を実現している。AIについては画像生成などの派手な機能を充実させるのではなく、日常生活や普段の利用に役立つ機能を中心に搭載している。

 ここ1~2年、スマートフォンではAIを活用した機能が注目を集めているが、「AQUOS sense10」の実用面を重視した取り組みは、幅広いユーザーをターゲットにしているモデルならではのアプローチと言えるだろう。

 販売についてはNTTドコモ、au、ソフトバンク、楽天モバイルの4社に加え、オープン市場向けのSIMフリー版も販売される。

 NTTドコモ、au、ソフトバンクについては、端末購入サポートプログラムを利用することで、13カ月後や25カ月後の端末返却を条件に、割安に購入することもできる。

 MVNOについては原稿執筆時点で、IIJmio、mineo、J:COM MOBILE、QTモバイルが取り扱いを明らかにしている。SIMフリー版は家電量販店やECサイトでも予約が開始されており、「定番」の名に相応しく、単一機種ではもっとも広い販路で販売されることになる。

 価格はRAM/ROMの違いで2モデルがラインアップされ、シャープ公式ストアの価格ではRAM 6GB/ROM 128GBモデルが6万2700円、RAM 8GB/ROM 256GBモデルが6万9300円となっている。各販路別の価格は本誌記事でまとめられているので、そちらを参照していただきたい。

 シャープでは発売に合わせ、キャンペーンを実施しており、各携帯電話会社向けモデル及びSIMフリー版の購入者に対し、5000円相当のポイントがプレゼントされる。購入と応募の期間が2026年1月15日まで(一部の販路は1月22日まで)と長いこともユーザーとしてはうれしいところだ。

従来モデルと同サイズのボディ

 まず、外観からチェックしてみよう。ボディはここ数年の「AQUOS sense」シリーズのコンセプトを継承し、アルミ製のバスタブ構造を採用する。ボディ幅は約73mm、重さが約166gと軽量コンパクトに仕上げられている。手にしたときのサイズ感は「iPhone 17」などに近いが、重さは「AQUOS sense10」の方が10g以上、軽い。

シャープ「AQUOS sense10」、大きさ:149mm(高さ)×73mm(幅)×8.9mm(厚さ)、166g(重さ)、カラー:デニムネイビー(写真)、カーキグリーン、ペールピンク、ペールミント、フルブラック、ライトシルバー

 「AQUOS sense10」のボディサイズは前モデルの「AQUOS sense9」と同じで、端子やボタン類の位置も共通。そのため、外観だけでは見分けがつきにくいが、「AQUOS sense10」の背面は自由曲線で構成されたカメラ部のフチに色が付けられており、端末を並べると、判別ができる。

背面は従来モデルのデザインを踏襲。自由曲線で描かれたカメラ部に太めの縁取りが追加された
右側面には上部側にSIMカードスロットを備える。SIMカードトレイは爪の先で引っかけて取り出すことができる
右側面は指紋センサー内蔵の電源ボタンとシーソー式の音量キーを備える。カメラ部の突起は実測で約1.4mm程度
本体下部にはUSB Type-C外部接続端子を備える
本体左側面のSIMカードスロットに爪を引っかけると、SIMカードトレイを取り出せる。前面側にnanoSIMカードを装着し、背面側にmicroSDメモリーカードを装着できる
本体右側面に備えられた電源キーには指紋センサーが内蔵される
「AQUOS sense10」(左)と「AQUOS sense9」(右)の前面。本体の幅や高さはまったく同じ。ディスプレイサイズも同じ6.1インチ
「AQUOS sense10」(左)と「AQUOS sense9」(右)の背面。自由曲線で描かれたカメラ部の縁取りが変更されたほか、カメラ部にあったおサイフケータイのマークがなくなっている

 ボディが同サイズで、端子やボタン類の位置も共通なので、ケースも同じモノが利用できる。ケースについては純正品として、全6色のシリコンケースが販売されるが、これに加え、他ブランドとのコラボケースが販売される。

発表会では純正品とサードパーティ品のコラボケースが展示されていた。今まであまりなかった取り組みとして、注目される

 発表会でも展示されていたが、今回はスニーカーブランド「SPINGLE」をはじめ、岡山のデニムブランド「児島ジーンズ」と「BLUE SAKURA」とのコラボによって制作されており、デザインもそれぞれに個性があり、完成度が高い。

スニーカーブランド「SPINGLE」とのコラボレーションしたケースを装着。純正品として販売される

 特に、デニムを利用したケースは使い込んでいくほどに、生地の風合いも変化するため、ユーザーが長く使うことを考えた「AQUOS sense」シリーズらしいコラボと言えそうだ。ちなみに、コラボケースは、Impress Watch Video「法林岳之のケータイしようぜ!!」のニュースのコーナーで紹介しているので、ご覧いただきたい。

安心して利用できる耐環境性能

 耐環境性能は従来モデルに引き続き、IPX6/IPX8の防水、IP6Xの防塵のほかに、MIL-STD-810G準拠の耐衝撃(落下)性能、MIL-STD-810H準拠の15項目を加えた全16項目の試験をクリアしており、お風呂での利用にも対応する。

 MIL規格準拠などによる高耐久性を謳うスマートフォンは他にも販売されているが、この価格帯で温湿度や寒暖差、高低気圧、耐振動など、幅広い環境で十分な性能を保てる製品は多くなく、ユーザーとしても安心感が大きい。

 このほかにも泡ハンドソープでの洗浄やアルコール除菌シートでのふき取りも可能で、医療機関や介護施設など、クリーンな状態が求められる環境でも安心して利用できる。

 バッテリーは前モデルと同じく5000mAhで、最大36Wでの充電が可能で、USB PD3.0の急速充電にも対応する。ワイヤレス充電には対応しない。搭載するバッテリー容量は変わらないものの、後述するチップセットがより上位のものに変更されたにも関わらず、連続通話時間は約20%、連続待受時間も約15%以上、それぞれ延びている。

 バッテリーを過充電から保護する「インテリジェントチャージ」、充電器接続時にバッテリー残量に応じて、端末に直接、給電する「ダイレクト給電」など、バッテリーへの負荷を抑え、劣化を防ぐしくみも継続して、搭載されており、長く使い続けたいユーザーのニーズにも応える。

充電時にバッテリー残量が90%に達すると、充電を停止し、直接、端末に給電する「ダイレクト給電」に切り替わる

 生体認証は本体右側面の電源ボタンに内蔵された指紋センサーによる指紋認証、インカメラによる顔認証に対応する。前述のケース類は指紋センサーにタッチするため、電源ボタン部分が空いたデザインを採用する。

 電源ボタン内蔵の指紋センサーは端末を持ったとき、誤って指紋センサーに触れてしまい、ロックが解除されてしまうことがあるが、「AQUOS sense10」ではその点を考慮し、指紋センサーの設定画面に「画面消灯時のロック解除を防ぐ」という項目が用意されており、これをオンにしておくことで、誤操作を防ぐことができる。

 顔認証についても「マスクをしたまま顔認証」という設定が用意されており、マスクを着けたままの季節でもストレスなく、利用できる。

従来モデルを継承した約6.1インチPro IGZO OLED

 ディスプレイは従来モデルに引き続き、フルHD+(1080×2340ドット表示)対応の約6.1インチPro IGZO OLEDを搭載する。

 一昨年の「AQUOS sense8」まではIGZO OLEDが採用され、昨年の「AQUOS sense9」からフラッグシップモデルと同等のPro IGZO OLEDが採用され、今回も同じモノが引き継がれた形だ。輝度やコントラスト比の仕様も共通で、リフレッシュレートも1~240Hzの可変駆動に対応する。

 「AQUOS sense10」の最大240Hzの表示は、「設定」アプリの「AQUOSトリック」-「なめらかハイスピード」をオンにした状態で、120Hz駆動時に黒画面を挿入することで、網膜残像を軽減し、一段となめらかな表示を可能にする。

シャープ製端末ではおなじみの「AQUOSトリック」には、独自の便利機能が登録されている
ホーム画面は最下段に検索ボックス、その上にDockが並ぶ標準的なレイアウト。上方向にスワイプすると、アプリ一覧が表示される
アプリ一覧画面には最上段にアプリの検索ボックス、その下に最近起動したアプリが並ぶ。アプリ一覧にはフォルダーを作成でき、アプリをまとめておくことが可能

 「AQUOS R」シリーズをはじめ、シャープ製スマートフォンではおなじみの機能だが、実際にブラウザーやSNS、「フォト」アプリなどをすばやくスクロールしてみると、他製品とは違ったスムーズかつクッキリした表示を体感できる。「なめらかハイスピード」は、利用するアプリを個別に設定することも可能だ。

SIMフリー版ではシャープ製のホームアプリとして、標準的な「AQUOS Home」、はじめてのユーザーにもわかりやすい「AQUOSかんたんホーム」、中高生などに適した「AQUOSジュニアホーム」の3種類が用意される
画面を下方向にスワイプすると、クイック設定パネルが表示される。Androidプラットフォーム標準のレイアウトを採用しているため、シンプルでわかりやすい

 ブルーライトを抑制する「リラックスビュー」も搭載されているが、多くの機種のブルーライトカットが黄みがかった表示になってしまうのに対し、「AQUOS sense10」は黄みの強さを調整したり、時間帯によって、ON/OFFする機能を備える。

 スケジュールに合わせた動作については、ディスプレイを暗くする「ダークモード」も同様で、指定した時間帯に合わせてONにしたり、日の入りから日の出までをONにする設定も選べる。

 ちなみに、ディスプレイには出荷時に保護フィルムが貼られていないが、市販の保護フィルムや保護ガラスを貼付したときのタッチ感度を向上させる「タッチ感度アップ」という設定も従来に引き続き、用意されている。

 本体内蔵のスピーカーは、受話口側と送話口側の両方がBOXスピーカーになり、体感音量が約1.3倍、低音域の音圧も2倍に向上している。

 外出時のゲームや動画再生ではワイヤレスイヤホンを利用することが多いが、室内での利用やスピーカーホンでの通話などでは内蔵スピーカーを利用することが多く、内蔵スピーカーの性能向上はうれしい。

 従来モデルは送話口側のみがBOX構造だったが、「AQUOS sense10」は双方をBOX構造にしたことで、端末を横向きに構えたときのステレオ再生のバランスも向上した印象だ。

カメラに「PHOTO STYLEフィルター」を追加

 カメラについては、本体背面の自由曲線で描かれたカメラ部に標準カメラと広角カメラ、ディスプレイの上部パンチホール内にインカメラを内蔵する。

背面には標準カメラと広角カメラのデュアルカメラを搭載。カメラ部にロゴのプリントはなくなったが、おサイフケータイのスイートスポットは2つのカメラのやや下に位置する

 背面のデュアルカメラは基本的に「AQUOS sense9」と共通で、1/1.55インチの5030万画素イメージセンサー/F1.9の標準カメラ(焦点距離23mm)、1/2.5インチの5030万画素イメージセンサー/F2.2の広角カメラ(焦点距離13mm相当)で構成される。

 標準カメラは電子/光学手ぶれ補正、広角カメラは電子手ぶれ補正にそれぞれ対応する。インカメラは3200万画素イメージセンサー/F2.2(焦点距離25mm)で、電子手ぶれ補正に対応する。

 背面のデュアルカメラのスペックは、昨年の「AQUOS sense9」だけでなく、今夏に発売された「AQUOS R10」と比べても基本仕様はほぼ同じで、標準カメラのレンズに「HEKTORレンズ」の名が冠されているか否かなどの違いに留まる。スペックがすべてではないが、シャープが「ハイエンド級のカメラシステム」と謳う理由のひとつでもある。

 「AQUOS sense10」のカメラが従来モデルから変更されたのは、「PHOTO STYLEフィルター」と呼ばれるフィルターが追加されたことが挙げられる。

11種類のフィルターが用意されている「PHOTO STYLEフィルター」

 これまでもスマートフォンのカメラにはフィルター機能が搭載されてきたが、「AQUOS sense10」ではプロのフォトグラファーによって監修された11種類のフィルターを搭載し、それぞれに「夕映え」、「クールナイト」、「カフェ&バー」、「夏色」、「シネマフィルム」、「グレースケール」、「モノクローム」、「平成POP」、「昭和レトロ」、「セピア」といった名前を付け、ユーザーが撮影するときの効果をイメージしやすくしている。

「PHOTO STYLEフィルター」の「グレースケール」で撮影
「PHOTO STYLEフィルター」の「昭和レトロ」で撮影。少し黄みがかった仕上がり
「PHOTO STYLEフィルター」の「夕映え」で撮影。建物などに少し夕景の赤味が加えられた仕上がり

 Googleフォトの「フォト」アプリで利用できる「消しゴムマジック」などは、どちらかと言えば、写真を「整える」ための機能だったが、「PHOTO STYLEフィルター」は撮る写真のテイストを変え、「撮る楽しみを拡げる」機能と言えそうだ。

 ただ、惜しむらくは撮った写真を「フォト」アプリで表示したとき、その写真がどのフィルターが適用されたのかがわからないため、ユーザーはいくつかのフィルターで撮り比べながら、効果を覚えていくしかなさそうだ。

 ちなみに、オープン市場向けのSIMフリー版は「AQUOS R9 pro」などと同様に、撮影時の周囲への影響を考慮し、シャッター音を消すことができる。

 撮影モードは標準で「ビデオ」、「写真」、「ポートレート」、「ナイト」、「マニュアル」、「その他」が用意されており、「その他」では「タイムラプス」、「スロービデオ」、「vHDRビデオ」が選べる。

 画質エンジンは従来モデルに引き続き、シャープ独自の「ProPix」が搭載される。「AQUOS R」シリーズのようなLeica監修ではないものの、そこで培われた画像処理のノウハウも活かされているとのことで、写真のクオリティは高い。

 ただ、一部のシーンでは暗く映ってしまうことがあり、やや気になった。この傾向は「AQUOS sense10」に限らず、筆者が普段利用している「AQUOS R9 pro」でも見られる。

 たとえば、筆者がよくレビューで掲載している薄暗いバーでは、きれいに撮影できるが、屋外で逆光のシーンや明暗差のある室内で人物を撮影するとき、主たる被写体(人物や物体)に十分な光量が当たっていないと、暗いまま、撮影されてしまうことがある。

 「カメラ」アプリの「設定」-「オートHDR」を有効にしても同様で、被写体をタップして露出の自動調整をしても変化はあまり大きくない。結局、主な被写体をタップ後、ファインダー内で明るさのスライダーを変化させるしかないのだが、明暗差のあるシーンについては、もう少し調整を期待したいところだ。

 「AQUOS sense10」のカメラには、AIを活かした機能が搭載されている。たとえば、食事などを撮影するとき、照明の向きによって、影ができてしまうが、「カメラ」アプリの「設定」で「料理・テキストの影を消す」をオンにしておけば、影を消すことができる。

「影を消す」は意図的に作り出した影も消すことが可能

 同様の機能はGalaxy AIをはじめ、他機種にも搭載されているが、他機種が撮影後の写真の編集で影を消しているのに対し、「AQUOS sense10」は撮影時に機能を有効にして、撮影直後に自動的に影が消される。

 ただ、影の消去は料理や書類などを撮影するシーンに効果を発揮するようで、シーンによってはうまく影が消えないこともあった。たとえば、撮影時に意図的に手をかざし、影を作り出したようなシーンでも影を消すことはできている。ちなみに、影の消去が有効な状態で撮影すると、影を消した写真のみが保存され、影が残っている写真は保存されない。

 書類やホワイトボードなどを撮影したときは、「正面から見たような写真へ補正しますか?」と表示され、「補正する」を選べば、正対した状態の写真を撮ることもできる。同様の写真はGoogleドライブの「ドライブ」アプリで「カメラ」を選んだときも撮影可能で、影も「補正」で消去される。

書類やホワイトボードなどを撮影すると、補正するかどうかのダイアログが表示される
影を消し、補正した写真の仕上がり。やや黄みがかった部分も残っているが、歪みも補正され、書類らしくなった

 もうひとつのAIを活かした機能としては、「ショーケースモード」が挙げられる。街中のショーケースや水槽などを撮影したとき、ガラスが反射して、撮影者やスマートフォンなどが映り込んでしまうケースがあるが、「ショーケースモード」をオンにして撮影することで、映り込みを軽減することができる。

 実際に、店舗のショーケースやポスターなどの掲示枠も撮ってみたところ、人物の映り込みや反射などを消せるシーンもあったが、ショーケース内の光量や周囲の明るさによっては、うまく映り込みが消えないこともあった。

薄暗いバーで撮影。クリアなガラスとカクテルの鮮やかな赤が再現されている
「ショーケースモード」を利用し、水槽内を撮影。映り込みもなく、きれいな仕上がり

クリアな音声通話を実現する通話AI「Vocalist」

 チップセットは4nmプロセスルールで製造された米Qualcomm製Snapdragon 7s Gen3を採用する。前モデルの「AQUOS sense9」ではSnapdragon 7s Gen2が搭載されており、ひとつ新しい世代に進んだことになる。

 Snapdragon 7s Gen3はミッドレンジ向けのチップセットで、昨年モデルに搭載のSnapdragon 7s Gen2に比べ、CPU性能が20%、GPU性能が40%、AI性能(NPU性能)が30%、それぞれ向上し、省電力性能も12%向上している。国内向けスマートフォンでは採用例が少なく、今年4月発表のNothing Technologyの「Nothing Phone (3a)」に搭載されている。

 チップセットの世代がひとつ進み、NPU性能が向上したことで、クリアな音声通話を可能にする通話AI「Vocalist」(ボーカリスト)が新たに搭載された。音声通話は周囲の騒音などの影響で、相手にこちらの声が伝わりにくい(聞こえにくい)といったことがおきる。

「Vocalist」は「設定」アプリの「AQUOSトリック」-「Vocalist」で設定する
「Vocalist」では登録しておいた自分の声を抽出して、通話ができる。アプリ内のデモもわかりやすい

 そこで、あらかじめ自分の声をAIに学習させておき、音声通話時には周囲の騒音を抑え、登録した声を抽出して伝えるしくみになる。「設定」アプリの「AQUOSトリック」-「Vocalist」で事前に設定する必要があるが、表示された文章を読み上げるだけなので、購入後に静かな場所で設定しておくことをおすすめしたい。

 実際に試した印象では、通話相手から「余計な騒音がなく、聞きやすかった」という評価が得られ、筆者自身もクリアな音声通話が実現できる印象を得た。Vocalistによる通話は本体の通話時のみに機能するものだが、Androidプラットフォームの「電話」アプリに組み込んでいるわけではないため、通話アプリでも効果が得られる。

表示された文章をひと通り読むと、声が登録される
実際の通話時は左上に表示された「自分の声だけ届ける」をタップすると、切り替わる

 また、通話関連では従来モデルに引き続き、「AQUOSトリック」に「迷惑電話の対策」が搭載される。連絡先に登録されていない相手からの着信には、自動音声で応答したり、注意喚起の表示したり、不審な会話が疑われる通話には音とバイブで知らせるなどの機能が利用できる。

 最近、詐欺電話やアンケートの自動音声の着信が社会問題になっているが、「AQUOS sense10」であれば、見知らぬ相手からの着信時に「代わりに聞いときます」ボタンをタップするだけで代理応答ができ、相手が残した録音メッセージも自動的に文字起こしされる。

「設定」アプリの「AQUOSトリック」-「迷惑電話の対策」では、未登録の電話番号からの着信に警告を出すなどの設定ができる
未登録の電話番号から着信すると、このように表示される。左下の「代わりに聞いときます」ボタンをタップすれば、自動音声で応答する

 この機能は他のAQUOSスマートフォンでも利用しているが、非常に便利で、迷惑電話のストレスから開放される印象だ。今後、可能であれば、最近の詐欺電話に多い「+xx」などの国番号が付加された国際電話番号の着信を拒否する対策などを期待したい。

 プラットフォームはAndroid 16がプリインストールされており、発売日から最大3回のOSバージョンアップと5年間のセキュリティアップデートに対応する。日本語入力システムはAndroidプラットフォーム標準の「Gboard」が搭載される。

 ユーザーインターフェイスはシャープ製の「AQUOS UX」が採用されているが、実際の使い勝手はAndroidプラットフォーム標準をベースにしており、他機種からの移行でもあまり戸惑うことなく、操作できるだろう。

「テザリングオート」や「Payトリガー」を搭載

 メモリーとストレージはRAM 6GB/ROM 128GBとRAM 8GB/ROM 256GBの2つのモデルがラインアップされ、各携帯電話会社ではRAM 6GB/ROM 128GB、オープン市場向けやMVNO各社向けはRAM 8GB/ROM 256GBとRAM 6GB/ROM 128GBの両方のモデルが選べる。最大2TBのmicroSDメモリーカードにも対応する。

 メモリーカードは対応機種が少なくなる傾向にあるが、かつてのケータイ(フィーチャーフォン)からの移行をはじめ、より多くのデータを持ち歩きたいユーザーには有用だ。

 ネットワークは国内が5G/4G/3G(W-CDMA)、海外が5G NR/4G LTE(TDD/FDD)/3G(W-CDMA)/2G(GSM)に対応する。5GはSub6のみの対応で、ミリ波には対応しない。

 国内の3Gサービスはすでにauとソフトバンクが停波しており、NTTドコモが2026年3月31日をもって、iモード共にサービスを終了する。SIMカードはnanoSIM/eSIMのデュアルSIM対応で、副回線サービスや他社回線との組み合わせも利用しやすい。

 Wi-FiはIEEE802.11a/b/g/n/ac/ax準拠、Wi-Fiテザリングは最大10台の端末を接続できる。テザリングについては、シャープ独自の機能として、位置情報に基づいた「テザリングオート」が利用でき、特定の場所に移動したときやその場所を離れたときなどに自動的にテザリングのON/OFFが利用できる。

「テザリングオート」はあらかじめ設定した場所に移動したときや離れたときに、自動的にテザリングをオンにできる

 Bluetooth 5.2に対応し、Bluetoothコーデックは米QualcommのaptX/aptX HDにも対応する。衛星による位置情報の測位機能は、米GPS、露GLONASS、中国BeiDou、欧州Galileo、日本QZSS(みちびき)に対応するが、「AQUOS R10」などと違い、デュアルバンド対応ではない。

 FeliCaを搭載し、おサイフケータイの各サービスが利用可能で、マイナンバーカードの「スマホ用電子証明書搭載サービス」もすでにデジタル庁の対応機種一覧に掲載されている。

 決済関連では従来モデルから好評を得ている「Payトリガー」も利用できる。「Payトリガー」は画面ロック解除時、指紋センサーに指先を当てたままにしておくと、特定のアプリを起動できる機能で、各社のコード決済アプリを登録しておくと、支払い時に慌てずに済む。

「Payトリガー」は「設定」アプリの「AQUOSトリック」-「Payトリガー」で設定が可能

 「ホーム画面でもPayトリガーを使う」をオンにしておくと、ホーム画面を表示した状態から指紋センサーの長押しで起動できる。決済アプリだけでなく、お店のアプリなども利用したいときは、「Payトリガー」フォルダーに登録しておけば、指紋センサーの長押し後、フォルダーが表示され、すぐに起動することが可能だ。

複数のアプリを利用したいときは、「Payトリガーフォルダ」を有効にして、アプリを登録しておく

AIを活かした機能を追加して、さらなる定番を超える存在へ

 国内で販売されるAndroidスマートフォンで、常に安定した人気を得ている「AQUOS sense」シリーズ。その最新モデルとなる「AQUOS sense10」はこれまでのモデルで積み上げられてきた機能や仕様をしっかりと継承しながら、AIを活かした実用的な新機能を追加し、さらに完成度を高めている。多くのユーザーにとって、必要十分な条件を満たす端末であることは間違いないと言えるだろう。

 今回の「AQUOS sense10」をはじめて実機を見たとき、個人的にはディスプレイサイズが変わらなかったことが少し意外だった。というのもシャープは昨年7月に発売したエントリーモデル「AQUOS wish4」において、ディスプレイを前モデルの「AQUOS wish3」までの5.7インチから6.6インチに大型化し、「AQUOS wish」シリーズとしては最大のヒットを記録していたからだ。その流れは今年6月発売の「AQUOS wish5」にも継承され、同じく6.6インチの大画面ディスプレイを搭載し、好評を得ている。

 ディスプレイの大型化はボディサイズにも影響するが、普及モデルやエントリーモデルを購入するユーザー層には、視認性を重視するユーザーも少なくないうえ、バッテリーの大型化などのメリットもあり、それらのアドバンテージが受け入れられ、支持につながったと推察される。

 そんな流れもあり、「もしかすると、今年のAQUOS senseでも……」と予想していたが、残念ながら、ディスプレイの大型化は見送られる形になった。

 シャープは数年前から海外市場にも端末を展開しているが、関係者によれば、海外では「AQUOS wish4」などのディスプレイサイズが大きいモデルが高評価を得ていて、「AQUOS sense」シリーズなどのコンパクトなモデルはディスプレイサイズがマイナスに捉えられることが少なくないという(それでも6.1インチだが……)。

 これに対し、国内市場では「AQUOS sense」シリーズのコンパクトで持ちやすいサイズ感が評価を得ているため、今回の「AQUOS sense10」でのディスプレイの大型化は見送られたようだ。

 ここ数年、スマートフォンではAIを活かした機能が次々と搭載され、翻訳や通訳、写真や動画の編集、文章の要約、画像やテキストとの生成など、さまざまな機能が多くのモデルで利用できるようになってきた。

 スマートフォンの可能性が広がるという意味ではAIの活用が注目されるが、「AQUOS sense10」はシャープらしく、同じAIを活かした機能でも実用面を重視した機能を搭載してきた。

 「カメラ」アプリの「影を消す」や「ショーケースモード」をはじめ、クリアな音声通話を可能にする「Vocalist」や通話録音の「自動文字起こし」など、いずれも多くのユーザーの日常的な利用シーンですぐに役立つ機能を揃えている。

 デザイン面では昨年の「AQUOS sense9」から採用した愛嬌のある背面デザインを継承するだけでなく、純正品やサードバーティ製のケースでもファッション性を重視した取り組みを実現し、端末を構成するハードウェアやソフトウェア以外の部分においてもユーザーが長く使っていく楽しみを演出している印象だ。

 販売価格も6~7万円程度と購入しやすい価格帯に抑えられており、ハードウェアのスペックや利用できる機能を考えれば、コストパフォーマンスも優れている。

 各携帯電話会社の端末購入サポートプログラムを利用すれば、月々3000円以下の負担で購入することが可能だ。この価格帯にはライバル製品も増えつつあるが、幅広いユーザーが安心して購入できる「定番」の名に相応しいモデルと言えるだろう。

パッケージにはクイックスタート(取扱説明書)とクイックスイッチアダプターが同梱される。クイックスイッチアダプターはUSBケーブルを接続して、データを移行するときに利用する。iPhoneからの移行にも利用可能