レビュー

「AQUOS sense9」レビュー 全部がとにかく「ちょうどいい」スマートフォン

 高性能化に加え、円安などの影響もあり、スマートフォンはハイエンドだと20万円超え、30万円に迫る製品も珍しくなくなってきている。もちろんハイエンドモデルには、カメラや処理性能など、モデルによってさまざまな魅力がある一方で、分割払いの設定をしても、家計の負担になる点は、無視できない。

 一方、ハイエンドスマートフォンの性能が上がっているのと同時に、相対的にミッドレンジ、エントリークラスのスマートフォンの性能も上がっている点も無視できない。「とにかく綺麗な写真を撮影したい」「サクサクとヘビーなゲームをこなしたい」といったニーズでない限り、ハイエンドモデルを手にしなくても、満足いく場合も多いだろう。

 本記事では、そんな大衆のニーズを満たすスマートフォンとして、シャープのAQUOS sense9のレビューをお届けしていく。AQUOS sense9は、「ちょっとアガる どまんなかスマホ」というコンセプトを持ち、4キャリア、オープン市場向けモデルがそれぞれ6万円台で販売される。ハイエンドスマートフォンと比べるものではないが、優秀なディスプレイ性能やカメラ性能を備え、AQUOS senseシリーズらしい使いやすさを突き詰めた製品に仕上がっているため、価格と性能のバランスに優れた端末を探しているという人は、ぜひ注目してもらいたい。

10月に開催されたメディア向け説明会の様子

ハイエンドモデル顔負けのディスプレイ性能

 AQUOSシリーズの魅力の1つにディスプレイ性能がある。独自のIGZO OLEDの発色の良さ、滑らかさが病みつきになり、AQUOSシリーズを愛用してきたという人もいるのではないだろうか。

 AQUOS sense9は、スタンダードモデルながら、Pro IGZO OLEDディスプレイを搭載。AQUOS senseシリーズとしては初の採用となっている。発色に優れているのはもちろん、画質設定に、アプリによって適した画質に切り替わる「おススメ」という項目が用意されているのも特徴。画質表現に一貫性を持たせたい場合は、標準やダイナミック、ナチュラルといった項目を任意に選択すればいい。

 何より魅力的なのが、最大120Hz、擬似的に最大240Hzの再現ができる点だ。スクロールの“ぬるぬる感”がたまらなく気持ちいい。WebやSNSのスクロール、ゲームプレイ時など、リフレッシュレートの高さが活きるシーンは多岐にわたるため、Pro IGZO OLEDの搭載は、かなり有意義なアップデートだと実感できる。

 加えて、リフレッシュレートは最小1Hzまでコントロールできるため、バッテリーの消耗を抑えられるのも特徴だ。AQUOS senseシリーズは従来よりバッテリー持ちに優れていることで知られているが、AQUOS sense9の場合、公表地では通常使用でもおよそ2日間は持続する。

 今回はレビューのためにゲームアプリなどもある程度プレイして試しているが、1日の中でバッテリーが切れそうになるシーンはなかった。ゲームなどをしないライトなユーザーであれば、もう少し電池は持つだろう。小さな筐体に5000mAhの大容量を搭載している点にも、シャープの本気度をひしひしと感じる。

 また、前モデルのAQUOS sense8の約4倍である、1500nitの画面輝度、2000nitのピーク輝度に対応しているのも、注目のポイントだろう。実際に「これだけ明るくなった」という体感はなかなか難しいが、屋外で画面が見にくいといった不満は感じない。

 ディスプレイは約6.1インチで、従来モデルから変更なし。これはAQUOS senseシリーズを愛用しているファンのために、あえて変更が加えられなかったとのことだ。

AQUOS sense9(左)とiPhone 16 Pro(右)

 スマートフォンのディスプレイは大型化が進んでおり、エントリーモデル、ミッドレンジモデルにおいても、片手での操作が難しい機種が増えている。大画面には、コンテンツに迫力が出るといった魅力があるのはもちろんだが、サクッと片手で操作できることこそ、AQUOS senseユーザーが求めていることなのかもしれない。折りたたみ機種は別として、他のスマートフォンと比較し、極端に表示領域の狭さを難点に感じることもなかった。画面サイズの小ささよりも、筐体サイズがゆえの扱いやすさの恩恵がでかい印象だ。

随所に見られるユーザーファーストの姿勢

 AQUOS senseシリーズといえば、ここ数年はカメラユニットが背面中央に配置されていたが、AQUOS sense9は背面左上に変更されている。夏頃に発売されたAQUOS R9、AQUOS wish4と同じコンセプトで、いずれもmiyake design監修となっている。

 デザイン変更については賛否あるだろう。特に曲線を貴重としたカメラユニット周りは、スマートフォンらしいデジタルデバイス感こそ薄れるものの、他機種にないかわいらしさを感じる。カメラレンズが極端に出っ張っていないため、デスク上に置いた際などにも安定するのが、個人的には好印象だ。

 本体サイズは約149mm×約73mm×約8.9mm(突起部除く)で、質量は約166g。近年のスマートフォンとしてはかなりのコンパクトサイズで、とにかく持ちやすいのが特徴となる。背面が側面にかけて微妙に湾曲していることもあり、フィット感に優れている。

 ボタン類は右側面に集約されており、上部に音量調節ボタン、その下に指紋認証センサー搭載の電源ボタンと並んでいる。音量調節ボタンと電源ボタンの位置が若干遠く、少し押しにくく感じているが、押し間違いを減らすためにあえてこの配置なのかもしれない。電源ボタンでは、長く指を置いておくことで、任意のアプリを起動するショートカット機能も、使い始めると手放せない、便利な機能だ。

 SIMスロットは本体左側面で、SIMピンがなくてもトレイが取り出せるようになっている。最大1TBのmicroSDXCカードも挿入できる。

 使えば使うほど、本体サイズやボタンの配置、SIMスロットの設計など、さまざまな要素から、AQUOS sense9がユーザーライクに設計されていることをひしひしと感じる。「ちょうどいい」「しっくりくる」といった抽象的な表現になってしまうが、この感覚的なツボを押さえていることこそ、AQUOS senseシリーズが長く愛されている所以なのかもしれない。

広角+超広角カメラは弱点こそあれど完成度の高い仕上がり

 アウトカメラは約5030万画素、F値1.9、1/1.55インチセンサーの広角カメラと、約5030万画素、F値2.2、1./2.5インチセンサーの超広角となる。広角カメラは電子式と光学式のハイブリッド手ぶれ補正、超広角カメラは電子式手ぶれ補正を備える。

 AQUOS R6以降、シャープが長らく協業を続けるライカ監修カメラではないものの、画質処理のノウハウはしっかりと活かされており、ポートレート撮影やナイトモードでの撮影も、パキッと綺麗な写真に仕上がる。

 超広角カメラは若干ぼけっとする部分も見られるが、使っていて明らかに不自然に感じるほどではない。メインは広角カメラであることや、価格を踏まえれば、十分な性能だろう。超広角カメラでは、約2.5cmまで近寄れるマクロ撮影に対応しており、撮影の幅が広がっているのも魅力だ。

超広角撮影

 一方、上位モデルとの明確な違いを感じるのが、ズーム撮影。AQUOS sense9に望遠レンズは備えられておらず、ズームはデジタルで最大8倍となるが、画質の劣化はやはり目に付く。ズーム撮影は、人によって重要視する度合いが変わるだろうが、広角カメラとの画質の違いがはっきりと現れ、長距離の撮影には不向き。また、使用するカメラの切り替え、ズームの動作にもたつくシーンも見られた。

等倍
8倍デジタルズーム

 処理性能的なパワー不足か、ポートレート撮影、ナイトモードでの撮影時などは特に、プレビュー画面でぼやけた写真が表示されることがある。撮影後、バックグラウンドで画像処理を行っているため、数秒後に写真を確認すると、綺麗に仕上がっていることがほとんどなので、使用上問題はない。

日常的なタスクをしっかりとこなす性能を搭載

 搭載CPUはSnapdragon 7s Gen 2、メモリは6GBないし8GB、ストレージは128GBないし256GBとなる。ストレージの一部を仮想的にメモリとして使う機能は、最大6GBまで対応する。

 今回はメモリ6GB、ストレージ128GBのモデルで、仮想メモリは標準のまま4GBに設定し使用しているが、Web閲覧やチャットのやり取り、動画視聴といったシーンで、もたつくことは基本的になかった。それよりも、ディスプレイ性能の高さによる快適さが圧倒的に上回る印象だ。

 アプリゲームをプレイするとなると、流石にパワー不足を感じることも多く、もたつき、映像の乱れが散見されるが、価格を踏まえれば、当たり前とも言えるだろう。スタンダードモデルに何を求めるのかという話になってくるが、個人的には「これだけ動けば十分」という印象だ。ストレージ容量も、物足りなければ、microSDXCカードを使用すればいい。

 そのほか、おサイフケータイ機能や、指紋と顔を使った2種類の生体認証、MILスペックに準拠した耐衝撃性なども備えており、まさに盤石と言える仕上がり。もちろん、ハイエンドスマートフォンには及ばない部分もないとは言わないが、価格も含めて見ると、「これくらいがちょうどいい」と思わされる1台に仕上がっている。