法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
2024年のモバイル業界を振り返る
「携帯電話会社や主要メーカーの2024年はどうだったか? 2025年はどうなるのか?」
2024年12月31日 00:00
2024年も終わりが近づき、あと数日で新しい年を迎えることになる。2024年も各社から新製品や新サービス、新しい料金プランなどが発表される一方、1月1日に起きた能登半島地震をはじめとした災害対策がクローズアップされ、各社のモバイルネットワークの強化が注目を集めた。
端末の販売方法や割引規制についても総務省の省令改正により、12月26日から見直される予定で、さらに業界動向から目が離せなくなっている。今回は国内の携帯電話会社及び主要メーカーについて、1年を振り返りながら、筆者独自の視点で、それぞれの評価をまとめてみよう。
AIが注目を集めた2024年だったが……
2024年のモバイル業界ではいろいろなトピックが取り上げられたが、トータルで振り返ってみると、もっとも注目を集めたのは、「生成AI」を置いて、他にはないだろう。もちろん、モバイル業界に限らず、あらゆる産業において、「生成AI」「AI」が活用されるようになってきたが、モバイル業界は利用シーンや利用スタイルに方向性が見えてきた。
たとえば、ここ数年、AIの具体的な活用事例として、Goolgeの「Pixel」シリーズで実現された「消しゴムマジック」や「編集マジック」が注目されてきたが、今年はサムスンが「Galaxy S24」シリーズと「Galaxy Z Flip/Fold」シリーズに「Galaxy AI」を搭載し、音声通話時の通訳機能を実現するなど、音声通話やメッセージ機能などにもAIを活かす事例を示した。
Googleも「Pixel」シリーズで新たに「通話スクリーニング」を実装したり、シャープの「AQUOS R9」や「AQUOS sense9」で「迷惑電話の対策」や「電話アシスタント」を搭載するなど、他社もこの流れに追随している。同様の通話関連の機能では、iPhoneにも「ライブ留守番電話」が搭載され、迷惑電話対策に効果を上げている。
これまで「AI」というと、画像や文章などの生成系が注目を集めるものの、スマートフォンへの搭載については「何ができるの?」といった懐疑的な見方が多かったが、音声通話やメッセージングへの対応を見てもわかるように、より身近な活用例がどれだけ提案できるかがカギを握ることになりそうだ。
端末販売は今ひとつ奮わなかった?
こうしたAIが注目を集める一方、肝心のスマートフォンは数多くの注目製品が投入されたものの、市場全体としては今ひとつ奮わなかったという指摘も少なくない。その背景にはいくつかの要因があるが、昨年に引き続き、スマートフォンを構成する部品や輸送コストなどの高騰に加え、急激な為替レートの変動により、価格が高止まりする傾向にあることが挙げられる。
「iPhone 16」シリーズは「iPhone 15」シリーズから価格が据え置かれたが、元々、ここ数年、高価格路線を続けてきた後なので、価格に対する評価は厳しい。Googleの「Pixel」シリーズも「Pixel 9a」までは何とか受け入れられたものの、「Pixel 9」シリーズは「iPhoneに追随する高価格路線」という評価も聞かれ、あまり反響は芳しくない。
逆に、シャープの「AQUOS R」シリーズのように、『準フラグシップ』で価格を抑えたり、発売時期をずらすことで、少し価格が抑えられるチップセットを搭載することで、価格高騰を抑える動きも見られた。
国内市場は各携帯電話会社が扱う『キャリアモデル』が中心で、端末購入サポートプログラムも受けられているため、あまり価格に対する意識が強くなかったが、現在は各携帯電話会社扱いの価格も高騰し、オープン市場向けの製品も増えてきたことから、各端末メーカーの価格戦略が一段と重要になってきた印象だ。2025年以降の各社の価格設定に注目したい。
端末デザインについては、フォルダブルの選択肢が増えてきた印象だ。これまではサムスンの「Galaxy Z Flip/Fold」、Googleの「Pixel Fold」シリーズ、モトローラの「motorola razr」シリーズに限られていたが、今年は新たにZTEの「nubia/Libero Flip」が加わり、「motorola razr」シリーズもバリエーションが4機種に増えた。
フォルダブルスマートフォンは一般的なスレート状(板状)のスマートフォンに比べ、価格的に少し高くなる傾向にあるが、「Galaxy Z Flip」や「motorola razr」などの縦折りタイプは若い世代を中心に高い注目を集めており、2025年以降もさらに伸びる可能性を秘めている。
端末の機能面については、前述の生成AIを利用した翻訳や通訳、通話やメッセージをサポートする機能などが充実したが、カメラについてもシャープとXiaomiのLeicaモデルが話題となった。それぞれにLeicaとの関わり方や取り組み方に違いがあり、製品の方向性にも少し違いがあるように見受けられる。
オウガ・ジャパンも「OPPO Find X8」でHasselbladとの協業を実現し、光学機器メーカーによるスマートフォンのカメラチューニングは、今後も拡がることになるかもしれない。
ただ、残念ながら、光学機器では世界的なシェアを持つ日本メーカーは、こうした協業による競争に加わっておらず、αシリーズやCyber-shotシリーズを展開するソニーのみが「Xperia」のカメラ機能の充実に取り組んでいる。しかもその「Xperia」シリーズは、「Xperia 1 VI」での専用カメラアプリ搭載を取りやめたり、「Xperia 5」の新モデル投入も見送るなど、やや後退傾向にある感は否めない。
デジタルカメラを製造するメーカーがかつてほど多いわけではないが、今後、各社がスマートフォンとどのように関わるのかも注目しておいた方が良さそうだ。
総務省の施策はこのままでいいのか?
ところで、端末価格を大きく左右する要因として、総務省の施策についても少し触れておきたい。総務省は2024年12月に電気通信事業法のガイドラインを見直し、ミリ波対応端末の割引額を高く設定したり、各社の端末購入サポートプログラムを利用した「36円端末」などの販売を規制する方針を打ち出した。ここでは詳しい説明を省くが、相変わらずの総務省の不可思議な施策には、首を傾げてしまう。
本来、総務省が管轄しているのは「携帯電話料金」であって、端末の販売価格ではないはず。ここ十数年、何度も割引や販売の規制をくり返してきたが、実質的に携帯電話料金を値下げ効果があったのは、2018年の菅義偉首相(当時)の「4割下げられる」発言による強制的な官製値下げのみで、総務省が打ち出した他の施策による値下げが実現できたとはとても言えない状況にある。
ちなみに、「4割下げられる」発言の根拠となったOECDの統計は、国と地域によって、設定がバラバラのものであり、携帯電話料金を比較する根拠として、まったく適切なものではなかった。
ミリ波対策については、各社に周波数を割り当てた以上、有効活用のために、対応端末を買いやすくすることは望ましいと言えるだろう。
しかし、それ以前に「ミリ波で何をするか」がまったく示せていない現状において、端末の割引だけを先行させる意味がどこにあるのか。端末メーカーの中には普及が進みそうにないミリ波の状況を鑑み、対応を見送った製品もあると言われる中で、こういう施策を打ち出している総務省の姿勢には、いつものことながら、かなりの違和感を覚える。
過去十数年を振り返ってみて、総務省と有識者会議が打ち出してきた施策は、十分な結果が出せているとは言えない状況であり、ユーザーもメディアも政府に対して、もっとシビアに評価するべきではないのだろうか。
料金プランは『金融連動』『ポイ活』が鮮明に
総務省の施策はともかく、各携帯電話会社の料金プランは昨年来、『経済圏』との連動が重視され、今年もNTTドコモの「ahamoポイ活」「eximoポイ活」、auの「auマネ活プラン+」などの新しい料金プランが発表された。
2024年1月から利用が開始された『新NISA』は、各社の証券会社やクレジットカードとの組み合わせで連動させる施策が増え、それに伴って、NTTドコモの「dカードPLATINUM」発行開始のように、クレジットカードそのものにもテコ入れが図られるケースが増えてきている。
クレジットカードという点では、これまで各携帯電話会社のクレジットカードは、主に各社の利用料金を支払うために使われてきたが、ここに来て、料金プランとの連動によるポイント付与をトリガーに、電気、ガス、水道をはじめ、日常生活の支払い全般をカバーする『メインカード』への格上げを狙う姿勢を鮮明にしている。
これは各社が発行する航空会社系マイレージカードをはじめ、銀行系やショッピングモール系など、さまざまなクレジットカードと競合することになるため、2025年はクレジットカードやコード決済などを含めた『決済競争』が一段と激化することが予想される。
話を料金プランに戻すと、『ポイ活』『マネ活』以外の動きでは、今年後半、各社の「データ通信量20~30GBプラン」の競争が激しくなった印象だ。NTTドコモはahamoを「月額2970円でデータ通信量20GB」という設定で提供していたが、10月1日からデータ通信量を30GBに増量し、値段を据え置くという施策を打ち出した。
これに対抗する形で、ワイモバイルやLINEMO、UQモバイルなどが相次いで新料金プランを発表した。
ソフトバンク代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏が第2四半期決算会見で、ワイモバイルとLINEMOの料金プランのテコ入れについて、「売られた喧嘩を買ったということ」と評したが、ahamoは海外でのデータ通信も月額2970円の範囲内で利用できるなどのアドバンテージを評価する声も多く、今後、こうした周辺部分を含めた各社の料金プランの『競争』が活性化することを期待したい。
少し違った視点では、サブ回線についての動向も注目を集めている。2022年のKDDIの大規模障害や一連の災害を受け、ビジネスユーザーを中心にサブ回線を用意する動向が顕著になっている。
従来はいわゆる『2台持ち』が中心だったが、最近はデュアルSIM対応端末が普及してきたことで、メイン回線のほかに、2枚目のSIM/eSIMにサブ回線を登録するユーザーが増えてきた。
そのサブ回線のターゲットとしては、従来は料金的に割安なMVNO各社が支持されていたが、月額0円で回線を契約できるpovoも需要を伸ばす一方、最低でも月額1078円(税込)がかかるものの、楽天モバイルの最強プランもサブ回線としての契約を伸ばしているとされる。
楽天モバイルとしては、そこから『経済圏競争』に持ち込めれば、メイン/サブ回線の逆転も狙えるという考えのようで、携帯電話会社とMVNO各社を巻き込んだ『サブ回線競争』も注目される。
災害と携帯電話
2024年のモバイル業界において、もうひとつ注目すべきことは、1月の能登半島地震と9月の奥能登集中豪雨などに代表される災害対策だろう。本誌でも各社の災害対策に対する取り組みについて、報じてきたが、一連の災害対策の流れを受け、今年12月にはNTTグループ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルが共同で災害対策に連携しながら取り組むことが発表された。
改めて説明するまでもないが、日本は地震が多く、近年は集中豪雨や猛暑などにより、自然災害が多く発生するため、人々の活動に欠かせない通信インフラをどのように維持し、災害の対策をするのかは、非常に重要なテーマになっている。
こうした状況に対し、各通信事業者が対策に取り組むことは高く評価されるものであり、ここで培われたノウハウを国内外の災害対策に活かしていくことも期待される。もちろん、利用者である私たちもこうした動きをしっかりと認識し、周囲に周知しながら、募金やボランティアなどの形でバックアップできるようになれば、なおベターだろう。
2024年の携帯電話各社はどうだったか?
さて、ここからは2024年のNTTドコモ、au、ソフトバンク、楽天モバイルについて、評価してみよう。国内に端末を供給する主要メーカーについても触れたい。ユーザーによって、見方が異なるかもしれないが、ここでの評価はあくまでも筆者独自の視点と考えに基づくものなので、その点はご理解いただきたい。
NTTドコモ
2024年のNTTドコモで、もっとも大きなトピックと言えば、やはり、代表取締役社長が井伊基之氏から前田義晃氏に交代したことだろう。2000年にリクルートからNTTドコモの転職したという経歴も注目されたが、NTTドコモではiモード時代からスマートライフをはじめとする事業に携わってきた実績があり、幅広い事業への理解が高いとされる。
就任会見では、まず、2023年以来、続いているネットワーク品質に対する不満を解消し、英Opensignalでの評価をトップに引き上げたいという方針を打ち出していた。
ただ、携帯電話ネットワークの品質は、一朝一夕に改善されるものではなく、まだまだNTTドコモのネットワーク品質に対する不満は数多く聞かれる。資金も技術もふんだんに注ぎ込み、かなり積極的に取り組んでいるが、かつての「ドコモ品質」を取り戻すには、もう少し時間がかかりそうだ。
一方、携帯電話サービスそのもの以外では、やはり、ポイ活への取り組みが顕著だった。料金プランとして、「ahamoポイ活」「eximoポイ活」を追加し、dポイントを貯めやすい環境を整えたが、これらと連動するマネックス証券の「dカード積立」では、当初、三井住友カード発行のdカードが使えず、みずほ銀行及びUC提携カード発行のdカードのみで対応していた。
ところが、ユーザーからの不満が多かったのか、12月19日に「12月20日からすべてのdカードに対応する」と発表。しかし、サービス開始当日の午前中に急遽、延期を発表するという混乱ぶりを見せた。
NTTドコモはライバル各社に対し、金融サービスの出遅れが指摘されていたが、クレジットカードと証券サービスというもっとも旬な話題で、こんな右往左往を見せているようでは、ユーザーとして、とても安心して、お付き合いができそうにない印象だ。
ネットワーク品質にしろ、金融サービスにしろ、「NTTドコモ」にもっとも求められるであろう「信頼」というキーワードが成り立っておらず、2025年はすべての分野において、巻き返しに全力で取り組んでほしいところだ。
KDDI(au、UQモバイル、povo)
2024年のKDDIで、もっとも大きなトピックと言えば、本業の携帯電話サービスそのものではなく、三菱商事と共にローソンを傘下に収めたことだろう。
通信業界とコンビニエンスストアはそれほど関係性が高くないように受け取られ、発表会では「ローソンでスマートフォンを売るのか?」といった的外れな質問も飛び出したが、元々、コンビニエンスストアは一般的な商店などに比べ、調達や配送、決済などで効率化が進められてきており、今後、デジタル化を進めていくうえで、通信を組み合わせることで「未来のコンビニエンスストアを作りたい」という方向性から提携に結び付いている。
具体的には「auスマートパス」を「Pontaパス」に変更し、クーポン配布を強化したり、povoでもローソン来店時にデータ通信量がもらえる「povo Data Oasis」を開始するなどの施策も発表された。コンビニエンスストアは幅広い顧客が対象となるため、今まで以上にキャリアを超えたビジネスが求められるが、今後、どのような展開を見せるのかが注目される。
同じく通信以外の分野では、金融サービスに動きは見られた。
KDDIは2008年にじぶん銀行(現在のauじぶん銀行)を設立し、2019年からはカブコム証券(現在のauカブコム証券)を傘下に収め、2023年からはこれらを活かした「auマネ活プラン」を開始するなど、金融サービスに積極的に取り組んできたが、今年11月には三菱UFJグループ(MUFG)との間で、資本関係の見直しを発表し、auじぶん銀行をKDDIフィナンシャルホールディングスの傘下に、auカブコム証券をMUFG傘下にすることが発表された。
auカブコム証券は2025年2月に「三菱UFJ eスマート証券」に名称が変更される。KDDIはこれまでauカブコム証券とPontaポイントでの投資やau PAYカードでの積立など、かなり強い連携を実現してきたが、これだけ大きな変更でありながら、発表はプレスリリースのみで記者説明会も発表会もなかった。
KDDIとMUFGでは今回の資本関係見直しを「協業2.0」に位置付け、今後も協業を続けていくとしているものの、ユーザーへの説明が不十分である感は否めない。
また、本業の通信分野については、昨年に引き続き、「ずっと、もっと、つなぐぞ。」のスローガンを体現するようなネットワーク全般に対する取り組みが注目を集めた。なかでも能登半島地震や奥能登豪雨での災害復旧と災害対策では、KDDIがいち早く取り組んできたスペースXのStarlinkが積極的に活用されたことが注目を集めた。
Starlinkとは10月に沖縄・久米島でスマートフォンと衛星の直接通信の実証実験が行なわれ、12月には総務省からの免許交付を受け、いよいよ2025年春頃から本格的なサービス提供が開始されることも明らかなった。料金など、サービスの詳細は未定だが、日本国内において「空が見えれば、どこでもつながる」を実現できることは、ユーザーとしても非常に心強い取り組みと言えそうだ。
ネットワークの強化が進む一方、携帯電話サービスで気になるのは、端末の取り扱いだ。auはここ数年、取り扱い端末を減らし、一部の端末はオンライン販売限定にするなど、端末の取り扱いを抑えてきた。
その背景には、auショップなどでの店頭販売の落ち込みが関係しているとされる。auと言えば、かつては「au design project」をはじめ、端末ラインアップに独自性も打ち出してきたが、今や独自の取り組みもほとんどなく、販売力も低下しているように見受けられる。
少し救いがあるのは、au +1 collectionでオープン市場向けの端末を積極的に取り扱っていることくらいだろうか。ローソンとの提携や金融サービスの再編に取り組むことは、今後のKDDIの成長に不可欠なのだろうが、携帯電話サービスの根幹である「つなぐ」を重要視するのであれば、つなぐための道具である「端末」にもしっかりと注力して欲しいところだ。
ソフトバンク
ソフトバンクは2023年に開始した新しい料金プラン「ペイトク」を拡販する一方、前述のように、ワイモバイルやLINEMOでNTTドコモのahamo対抗のためのテコ入れを図るなど、かなり積極的に取り組んできた印象だ。
こうした柔軟かつ迅速な対応ぶりは、ソフトバンクらしいと言えるが、料金プランについては、契約者が変更しない限り、効果が発揮されない。
他社と違い、記者説明会を開催するなど、周知にも積極的に取り組んでいるが、かつてのように、ユーザーとキャリアショップの距離感が近くない(遠のいている)とされている状況を鑑みると、さらなる工夫が求められるかもしれない。
もちろん、これはソフトバンクだけでなく、各社共、同じ課題を抱えていることになる。
端末についてもソフトバンクでモトローラの「motorola razr 50s」、ワイモバイルでZTEの「Libero Flip」を採用するなど、フォルダブルなどの新しいフォームファクターにも積極的にアプローチしつつ、ライカの「Leitz Phone 3」、Xiaomiの「Xiaomi 14T Pro」など、ユーザーの関心が高いカメラが特徴的な端末も積極的に採用している。
総務省に対策されてしまったものの、端末購入サポートプログラムを活用した「36円端末」なども積極的に投入し、端末需要の活性化を図ろうとするなど、ユーザーの関心を引く施策も注目を集めた。
携帯電話サービスを提供するソフトバンク自身の話題ではないが、少し触れておきたいのは「LINE」についてだ。国内で利用されるSNSとしては、最大規模を誇るLINEだが、12月にはLINEのアルバム機能に見ず知らずの人の写真が掲載される不具合が発生したことが報じられた。
これはパーソナルなサービスとして、本来、もっともあってはならない障害だが、あまり厳しく報じられておらず、メディアも含め、非常に対応に甘さが感じられる。
また、異なるプラットフォーム間での機種変更時、LINEのトークの移行は、かつての『非対応』から、14日分での移行が可能になったが、サムスンがGalaxy向けに提供する移行アプリ[Smart Switch]ではすべてのトークが移行できるなど、サードパーティ製品の方が移行環境が整っている。
LINEが手軽で使いやすいサービスであるのは確かだが、セキュリティ面も含め、さまざまな問題を抱えていることはユーザーとしても認識すべきであり、特に公的サービスなどでの利用は、控えることを検討すべきなのかもしれない。
楽天モバイル
2023年にKDDIとのローミング協定を見直し、2024年からはプラチナバンドでの商用サービスを開始した楽天モバイル。
特に、プラチナバンド(700MHz帯)の割り当てを裏付けに、「つながる」ことをかなり積極的にアピールしているが、割り当てられたプラチナバンドの帯域は、3MHz幅しかなく、まだ基地局もかなり少ないため、エリア的なアドバンテージはまったく不足している状況にある。
つまり、現状ではマーケティング戦略や販促キーワードとしての「プラチナバンド」という意味合いが強い。これに対し、他社同様の対応になるが、衛星通信局の移転に伴い、5GのSub6のエリアが拡大できたことで、都市部を中心に5Gで利用できる場所は、確実に拡がっている印象だ。
ただ、それ以外の場所ではKDDIとのローミングが欠かせないのも事実であり、本来の1.7GHz、割り当てられたプラチナバンドの700MHz帯のエリアもしっかり拡げて行かなければならない状況にある。KDDIとのローミングも2026年には終了するため、2025年はエリア的にも勝負の一年になりそうだ。
一方、料金プランは従来に引き続き、「Rakuten最強プラン」のみのシンプルな展開だが、今年は「最強家族プログラム」「最強シニアプログラム」「最強青春プログラム」「最強子どもプログラム」を相次いで発表し、オプションプログラムや割引サービスという形で、幅広い年代別にサポートする体制を整えた。
年齢的に見ると、22歳~64歳までは直接的な恩恵を受けないが、実働世代は各社の獲得競争がもっとも激しいため、それ以外の部分をしっかりとフォローした形になる。
楽天モバイルは「データ通信量無制限」などの施策で、どちらかと言えば、通信品質やエリアに厳しいヘビーユーザーに期待されがちな状況が続いていたが、こうした幅広い世代を取り込む施策を打ち出すことで、ライトなユーザーも広く獲得できる。
同時に、冒頭でも触れたように、データ通信量が3GBなら、月額1078円でも利用できるため、サブ回線としても契約しやすくなっている。
楽天モバイルで気になるのは、やはり、端末ラインアップだろう。アップルの「iPhone」シリーズを扱い、各携帯電話会社扱いではもっとも価格を抑えて販売しているものの、Androidスマートフォンはバリエーションが少なく、これまで採用した端末の売れ行きも芳しくないとされる。
その一方で、楽天市場にはXiaomiやOPPOなどの公式店も出店しているので、こちらとうまく連携を取りながら、端末販売にも工夫を凝らして欲しいところだ。
2024年の端末メーカーはどうだったか?
次に、2024年の主要メーカーについて、注目機種を挙げながら、評価をしてみよう。これも筆者独自の視点と考えに基づく評価なので、その点はご理解いただきたい。
Apple
国内で半数近いシェアを持つアップル。今年も「iPhone 16」シリーズが価格据え置きで発売されたが、数年前から価格高騰が続いていたため、あまり値頃感はなく、ユーザーは「Phone 15」シリーズ以前の旧機種に流れている。
また、アップルは各社の生成AIの競争に明らかに出遅れたうえ、日本語対応も2025年春と遅い。マイナンバーカード対応の件も含め、やや日本市場を軽視しているような印象も見受けられるのが残念だ。
サムスン
2024年には独自の生成AI「Galaxy AI」で、音声通話やメッセージアプリでの通訳機能を実現するなど、ライバル製品を機能面でも大きくリードした印象が強い。
端末も「Galaxy S24」シリーズ、「Galaxy Z Flip6/Fold6」共に、非常に完成度が高く、満足感の高いモデルに仕上げられている。
ただ、その勢いが今ひとつミッドレンジ以下に波及していない印象もあり、12月に発売された「Galaxy S24 FE」などの反響にも期待がかかる。
シャープ
2024年度は上半期に「AQUOS R9」と「AQUOS wish4」、下半期に「AQUOS R9 pro」と「AQUOS Sense9」と、ラインアップを分けてきたのがシャープだ。
端末デザインは従来から一新し、miyake designによる新しい『顔』を創り出すことで、イメージを大きく変えることに成功した。
なかでも「AQUOS sense9」は上位モデルで培われたカメラ機能のノウハウを活かしつつ、ディスプレイの滑らかでサクサク使える操作感を実現し、全メーカーを通して、『2024年のベストバイ』と言える一台に仕上げられている印象だ。
「Googleが作ったスマートフォン」としておなじみの「Pixel」シリーズは、「Pixel 8a」がベストセラーを記録するほどの勢いを見せるものの、8月から順次発売された「Pixel 9」シリーズは為替レートの影響もあり、全体的に価格が高く、やや買いにくくなってしまった感も残った。
ラインアップがフォルダブルを含め、4機種構成になったことで、ユーザーが少し選びにくさを感じた部分もあるようだ。
同時に「Pixel Watch 3」「Pixel Buds 3 Pro」も発表され、一気に新製品が展開されたことが必ずしもプラス要因につながってないように見受けられる。
ソニー
2024年のソニーはひとつの転換期を迎えた印象だ。「Xperia 1 VI」は4Kシネマディスプレイの採用をやめ、独自アプリの「Photography Pro」などもプリインストールされなくなった。
バッテリー駆動時間は延ばすことはできたが、「Xperia 1」シリーズで訴え続けられてきた「好きを極める」ための機能が削除され、独自のアドバンテージを失ってしまった格好だ。
これに加え、例年秋に発表されていた「Xperia 5」の新モデル投入も見送られた。2025年は「Xperia」シリーズ存続を賭け、巻き返しを期待したい。
シャオミ
スマートフォンのRedmiシリーズ、Xiaomiシリーズに加え、IoT機器やテレビ、家電製品、文房具に至るまで、次々と新製品を国内市場に投入し、存在感を増しているのがシャオミだ。
スマートフォンではグローバル発表からあまり間を置かず、「Xiaomi 14 Ultra」を国内に投入。秋には同じくLeicaと共同で開発したカメラを搭載した「Xiaomi 14T Pro」「Xiaomi 14T」を投入し、着実にラインアップを拡充している。
スマートフォン以外ではやはり、コストパフォーマンスの高いチューナーレステレビが人気だが、実物を見てみたいという声も多い。今年は東京・渋谷のPARCOに11月4日まで「Xiaomi POP-UP Store」を出店し、公表を得たが、海外で展開する「Xiaomi Store」のようなリアル店舗の常設店が欲しいところ。
スマートフォンやIoT製品だけでなく、幅広い製品を体験できる店舗の展開を期待したい。
OPPO
ここ数年、ミッドレンジの「OPPO Reno A」シリーズやエントリーの「OPPO A」シリーズに絞り込んで展開してきたオウガ・ジャパンは、3年ぶりにフラッグシップモデル「OPPO Find X8」を投入し、コロナ禍からの巻き返しを狙う。
ただ、この数年間で国内における海外メーカーの勢力図は大きく変わった印象もあり、ライバルメーカーにどこまで対抗できるかが注目される。そのためには、ユーザーに対しての継続的なアピールが必要になってくるかもしれない。
モトローラ
「moto g」シリーズや「motorola edge」シリーズなど、一般的なスレート状(板状)の端末で着実に支持を得てきたモトローラだが、2024年はフォルダブルスマートフォン「motorola razr 50」シリーズをオープン市場向けとソフトバンク向けに加え、ついにNTTドコモ向けにも供給を開始。
イメージキャラクターに人気の目黒蓮を起用するなど、並々ならぬ意気込みを感じさせるが、製品としてのアピールや浸透はまだこれから。注目度は高いので、ライバルメーカーのような常設の体験エリアが欲しいところ。
FCNT
2023年にLenovo傘下となり、再スタートを切ったFCNT。2024年はarrows We2シリーズに加え、らくらくスマートフォンも投入。しかもらくらくシリーズとしては初のSIMフリー版も発売し、ワイモバイルへの供給も開始するなど、着実に復活への道を進みはじめている。
ただ、期待されたarrows We2シリーズはなかなか露出が少なく、存在感を示すことができていない。安定かつ根強い人気のらくらくシリーズをベースにしつつ、どこまで新しいモデルを展開できるかが今後のカギになりそうだ。
ZTE
国内市場では古くから各携帯電話会社向けの特定用途モデルなどを中心に、しっかりと端末を供給してきたZTEだが、今年はフォルダブルスマートフォンとして、ワイモバイル向けに「Libero Flip」、オープン市場向けに「nubia Flip」にそれぞれ供給し、注目を集めた。
しかもライバル機種に比べ、グッと価格が抑えられており、フォルダブルスマートフォンにデビューしたいユーザーから関心を集めた。こうした注目を2025年以降の製品にも活かせるかどうかが気になるところだ。
2025年のモバイル業界はどうなる?
さて、最後に2025年のモバイル業界はどうなるのかを考えてみよう。基本的には2025年の流れを継承する形になりそうだが、個人的に気になっていることを3つのキーワードとして挙げて、説明したい。
まず、最初に挙げるのは「決済」だ。今年までも「経済圏」や「金融」をキーワードに挙げてきたうえ、すでに各社の「コード決済」も十分に普及しているが、ここで挙げる「決済」はクレジットカードや引き落としなどを含めた「決済全般」を想定している。
これまで各社の経済圏競争は、携帯電話料金からコンビニエンスストアなどの身近で手軽な決済に拡がり、電気、ガス、水道などの公共料金にも利用されるようになってきた。
公共料金は世帯の人数によって、数万円以上になることもあるが、コンビニエンスストアなどは基本的に少額決済が中心で、ポイント還元をするといっても数十ポイント程度に留まっていた。
これに対し、今後は本稿でも触れたように、日々の生活のあらゆる決済を各携帯電話会社のコード決済やクレジットカードでカバーしようという姿勢を見せている。
これは当然、他のクレジットカードなどとも競争が激化することが予想される。ポイント付与などの条件も厳しくなることが予想されるため、ユーザーとしてはしっかりと情報を把握できるようにしたいところだが、裏を返せば、こうした部分を如何にわかりやすく示していけるかが各社の腕の見せどころとも言える。
その意味からも各社の「説明」「解説」は、非常に重要なテーマになってくると予想される。
次なるキーワードは、やはり、「AI」だ。これまで2024年に注目されたもので、本稿でも説明したように、今年は音声通話やメッセージングにもAIを活かした機能が実装された。
この流れは2025年も継続することが予想されるが、今後は単純に音声通話をテキスト化といった手法ではなく、それを要約して、スマートウォッチやイヤホンなどの機器と連携しながら使えるようになりそうだ。
スマートフォンのエージェントが音声通話に応答し、内容を録音し、要約したことをスマートウォッチに表示し、タップすれば、耳に装着しているワイヤレスイヤホンに内容が流れるといった使い方もできそうだ。
これはコミュニケーションの効率化にもなる一方、今年、注目を集めたように、迷惑電話や詐欺電話などの対策にも有効であると考えられる。私たちユーザーも「えー、AIはちょっと……」と敬遠するのではなく、積極的に使ってみて、AIの新しい機能が創造される手助けもしたいところだ。
そして、最後のキーワードは「販売」だ。前述のように、各社はコード決済やクレジットカードを強化し、「ポイ活」や「マネ活」という形で料金プランとも連動させる環境を整えてきた。
しかし、その一方で各携帯電話会社は自らのお膝元である『販売』が著しく低下しており、今後は大きなテコ入れが求められることになりそうだ。
かつてコロナ禍の真っ只中には、契約手続きなどのために、各社のキャリアショップ(系列店)に来店するには予約が必要だったが、その影響が出ているのか、最近、各社のショップを窓越しに見てみると、街中は賑わっているのに、キャリアショップの店内には誰もお客さんがまったく居ないというシーンをよく見かける。
もちろん、地域や携帯電話会社によって、差はあるが、コロナ禍の対応の影響で、多くの人がキャリアショップに足を向けなくなってしまったように見受けられる。そのことがキャリアショップの不振につながり、各携帯電話会社の販売が行き詰まってきたのかもしれない。
その一方で、サムスンの「Galaxy Harajuku」や「Galaxy Studio Osaka」、シャオミの「Xiaomi POP-UP Store」(期間限定で現在は終了)のように、メーカーによる体験コーナーなどは増えてきており、製品をその場で購入できる場所も増えている。
こうした取り組みはアップルの「Apple Store」が成功例だが、今後、スマートフォンにさまざまな機能が搭載され、スマートウォッチやワイヤレスイヤホン、IoT製品と連携する方向に進化を続けるのであれば、さまざまな製品が体験でき、実際に購入できるスペースが一段と重要になりそうだ。
今年も例年通り、長々と書いてしまったが、2025年のモバイル業界は、もっとユーザーをワクワクさせる楽しい製品や機能、サービスが展開されることを期待したい。