法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
「HUAWEI P40 Pro」は日本上陸なるか? 最強のカメラに磨きをかけた新モデル
2020年4月21日 06:00
3月26日、ファーウェイはグローバル向けに同社の「HUAWEI P」シリーズの2020年モデル「HUAWEI P40」シリーズを発表した。
当初、発表イベントはフランス・パリで開催される予定だったが、新型コロナウイルスの影響でオンラインイベントとして開催されることになった。日本市場向けに供給されるかどうかはまだわからないが、グローバル版の実機を試すことができたので、レポートをお送りしよう。
パリからオンラインへ
ここ数年、春と秋にイベントを開催し、グローバル向けに新製品を発表してきたファーウェイ。
2019年秋には大画面ディスプレイを搭載したモデルとして、高い人気のフラッグシップモデル「HUAWEI Mate30」シリーズを発表した。米中貿易摩擦の影響で、2019年5月以降にグローバル向けに発表されたモデルは、GMS(Google Mobile Services)が利用できなくなり、GoogleマップやGoogleカレンダー、Gmailなどのアプリが利用できなくなったが、HUAWEI Mate30シリーズの発表を機に、ファーウェイが開発したコアアプリ「HMS(Huawei Mobile Services)」を搭載した環境をメインに据え、これまで同社製端末に搭載されてきたアプリストア「AppGallery」を通じて、アプリを配信する方針を打ち出した。
昨年、日本市場向けではNTTドコモ向けの「HUAWEI P30 Pro HW-02L」、au向けの「HUAWEI P30lite Premium」、オープン市場向けのSIMフリー端末「HUAWEI P30」や「HUAWEI P30lite」、「HUAWEI nova 5T」などがリリースされた。これらのモデルは現在でもGoogleの各サービスが問題なく利用できる。
これに対し、今年3月に日本のオープン市場向けに発表された初の5G対応端末「HUAWEI Mate30 Pro 5G」はHMSを搭載しており、Googleが提供するアプリの利用は制限されている。これまでのファーウェイ製スマートフォンに比べ、アプリなどの利用環境はかなりマイナスになってしまったが、すでにいくつかの著名なアプリをAppGalleryからダウンロードできるようにしたり、各ソフトウェアベンダーに開発を働きかけたりするなど、徐々に利用できる環境を整えはじめている。ただ、実際の利用にある程度のリテラシーが必要とされる点は変わりない。
ファーウェイは春に「HUAWEI P」シリーズ、秋に「HUAWEI Mate」シリーズを発表してきた。大画面&大容量バッテリーを中心に進化を遂げてきた「HUAWEI Mate」シリーズに対し、「HUAWEI P」シリーズは持ちやすい標準サイズのボディに最先端のカメラ機能を搭載し、市場で高い支持を集めてきた。なかでも一昨年の「HUAWEI P20 Pro」、昨年の「HUAWEI P30 Pro」は圧倒的なカメラ性能を実現し、カメラ業界のメディアからも高い評価を受けるなど、スマートフォンのカメラ開発競争で他社を大きくリードした。
今回発表された「HUAWEI P40シリーズ」は、当初、3月26日にフランス・パリで開催する予定のイベントで、お披露目される予定だった。今年2月に同社のコンシューマ・ビジネスグループCEOのRichard Yu氏にインタビューしたときも「次回はパリでお会いしましょう」と固く握手していたが、3月に入ってから新型コロナウイルスが全世界へ拡大したこともあり、パリでの開催は見送られ、オンラインで開催されることになった。
オンラインで発表されたイベントでは、「HUAWEI P40」「HUAWEI P40 Pro」「HUAWEI P40 Pro+」の3機種で、いずれも「HUAWEI Mate30 Pro 5G」同様、GMSを搭載せず、HMSを搭載したスマートフォンになる。
今回は発表された3機種のうち、主力モデルになると期待される「HUAWEI P40 Pro」を試用した。ただし、グローバル版のモデルであるため、通信周りの確認はしておらず、基本的には外観やユーザーインターフェイス、カメラなどをチェックした。HUAWEI P40 Proが日本市場に投入されるかどうかは未定だが、もし、国内向けに発売されるようであれば、また別の機会に通信周りを含めた環境を確認したいところだ。
画面があふれる「Quad-Curve Overflow Display」を搭載
まず、外観からチェックしてみよう。ファーウェイのフラッグシップモデルは前述のように、HUAWEI PシリーズとHUAWEI Mateシリーズの2ラインが存在するが、デザイン的にはHUAWEI Mateシリーズがややスクエアなデザインを採用しているのに対し、HUAWEI Pシリーズは少し角を丸めたスタンダードなデザインを採用してきた。今回のモデルも基本的にはその流れを継承しているが、搭載されるディスプレイのデザインが変わってきたことにより、その印象は大きく変わっている。
フラッグシップモデルでは2017年発売の「HUAWEI Mate10 Pro」、2018年発売の「HUAWEI P20 Pro」まで、フラットなディスプレイを搭載したデザインを採用していたため、本体の周囲と背面の仕上がりがデザインに大きく影響していたが、2018年秋発表の「HUAWEI Mate20 Pro」で、はじめてディスプレイの両側面を湾曲したデザインを採用し、その流れは2019年春発表の「HUAWEI P30 Pro」にも継承された。
2019年秋に発表され、先日、本コラムで取り上げた「HUAWEI Mate30 Pro 5G」では、いよいよ両側面の湾曲部分を88度という直角に近い角度で曲げたデザインを採用し、業界を驚かせたが、今回のHUAWEI P40 Proは本体の両側面を湾曲させるだけでなく、上下も湾曲させた「Quad-Curve Overflow Display」と呼ばれるデザインを採用する。簡単に言ってしまえば、本体の4つの角でディスプレイを支えるような形になり、その名の通り、本体から画面があふれるようなデザインに仕上げられている。
ディスプレイを湾曲させたデザインについては、もともとサムスンがGalaxy Note Edgeで採用し、今やGalaxy SシリーズやGalaxy Noteシリーズの十八番となっているが、HUAWEI P40 ProやHUAWEI Mate30 Pro 5Gは同シリーズに真っ向勝負を挑むデザインとなっている。
ただ、HUAWEI P40 ProはHUAWEI Mate30 Pro 5Gの両側面ほどの湾曲ではなく、左右はHUAWEI P30 Proとほぼ同等、上下は控えめに湾曲しており、デザイン的には自然にまとまっている。HUAWEI Mate30 Pro 5Gでは音量キーをなくし、画面内での操作に切り替えていたが、HUAWEI P40 Proは従来モデル同様、右側面に電源キーと音量キーを備える。ボディはIP68準拠の防水防塵にも対応し、パッケージにはクリアタイプのカバーも同梱される。
ディスプレイは2640×1200ドット表示が可能な6.58インチのフルHD+対応Flex OLEDを搭載する。画面の縦横比は19.8:9となっており、Xperia 1ほどではないものの、縦方向に持ったときは縦長になった印象を受ける。従来モデルに比べ、約30%のブルーライトを軽減したほか、90Hz駆動によるなめらかな表示、DCI-P3による高彩度&高コントラスト表示にも対応する。
従来のHUAWEI P30 Proではディスプレイ上部の半円のノッチにインカメラを内蔵していたが、HUAWEI P40 Proではディスプレイ左上の楕円パンチホールにインカメラを内蔵する。
セキュリティは従来モデルに引き続き、画面内指紋認証と3D顔認証に対応する。画面内指紋認証については新しい世代のものを採用しているとのことで、従来モデルに比べ、解除速度も30%アップしているという。実際に試用した印象も少しレスポンスが良くなったように感じられた。
バッテリーは4200mAhの大容量バッテリーを搭載する。付属のACアダプタにより、40WのHUAWEI SuperCharge(急速充電)に対応し、ワイヤレス充電も27Wの急速充電に対応する。27Wのワイヤレス充電対応製品は充電器も少ないが、ファーウェイではすでに日本市場向けにも最大27W対応の「HUAWEI SuperCharge Wireless Charger」も発売している。他のワイヤレス機器に給電できるワイヤレス給電にも対応する。
チップセットはHUAWEI Mate30 Pro 5Gに引き続き、Kirin 990 5Gを採用する。7nmプロセスで製造されたチップセットで、5Gモデムを内蔵する。HUAWEI P30 Proなどに搭載されたKirin 980に比べ、CPUで23%、GPUで39%の性能向上が図られているほか、NPUは460%の向上が図られており、ファーウェイによれば、AIパフォーマンスは米QualcommのSnapdragon 865を大きく上回るという。
メモリーとストレージは8GB RAMと256GB ROMを搭載し、メモリーカードはファーウェイ独自のNMカードに対応する。NMカードはnanoSIMカードと同サイズのメモリーカードで、デュアルSIMの2枚目のnanoSIMカードと排他利用になるが、eSIMにも対応する。デュアルSIMはどちらのスロットも5Gに対応し、eSIMでも5Gを利用できる仕様となっている。デュアルSIMの動作については、1枚目のSIMカードでVoLTEによる通話中、もう片方のSIMカードで着信を受けるなど、柔軟な運用を可能にしている。ただし、デュアルSIM及びeSIMの仕様は端末が発売される国と地域によって、変わってくる。
Wi-Fiについては最新のIEEE 802.11axに対応する。3.5mmイヤホンマイク端子はないため、音楽などのサウンドは内蔵スピーカーか、Bluetooth 5.1対応のワイヤレスイヤホンなどを利用する。USB Type-Cはアナログ信号の出力に対応しているため、DACのないUSB Type-Cイヤホンでもそのまま、利用することができる。
プラットフォームはAndroid 10ベースのEMUI 10.1を搭載する。基本的な部分はAndroidプラットフォームを搭載した同社製スマートフォンと共通で、基本的な使い勝手も大きく変わらない。新しいところでは、HUAWEI Mate30 Pro 5Gにも搭載されていたマルチウィンドウ機能が搭載されている。ホーム画面で側面の湾曲部を内側にスワイプして、止めた時にメニューが表示され、アプリのアイコンをタップすると、アプリがウィンドウで表示される。
また、アプリについては冒頭でも触れたように、Googleが提供するGMSには対応しておらず、ファーウェイが開発したHMSを搭載する。今回はグローバル版のため、一部しか試すことができなかったが、Gmailなどはメールアプリなどで何とかなるものの、他の一般的なアプリなどがまだ不足している状況で、ユーザーが積極的にアプリを探したり、解決策を見つけるようにしなければ、実用はまだまだ従来環境に及ばない。今後のHMSとAppGalleryの拡充が期待される。
Leicaと協業した「Ultra Vision Leica Quad Camera」
カメラについては今回もドイツの老舗光学機器メーカー「Leica」との協業によるマルチカメラを搭載する。
今回試用したHUAWEI P40 Proは、背面に40MPイメージセンサーにF1.8のレンズを組み合わせた18mmのUltra Wide Cineカメラ、50MPイメージセンサーにF1.9のレンズと光学手ぶれ補正を組み合わせた23mmのUltra Vision Wideカメラ、12MPイメージセンサーにF3.4のレンズと光学手ぶれ補正を組み合わせたペリスコープ方式による125mmの光学5倍望遠カメラ、被写界深度を測るToFカメラという4つのカメラを搭載する。背面のカメラ部には、この他に8チャンネル色温度センサーも組み込まれており、撮影環境に合わせて、最適な色合いで写真や動画を撮影できるようにしている。
4つのカメラの内、Ultra Vision Wideカメラと光学5倍望遠カメラには、HUAWEI P30 Proにも搭載され、話題となったRYYB配列のイメージセンサーを採用する。一般的なRGGB配列のイメージセンサーに比べ、40%以上、多くの光を取り込むことができ、暗いところでも明るく撮影することができる。
また、イメージセンサーのサイズのそのものもライバル機種比べ、かなり大きくなっているのも注目される。昨年のHUAWEI P30 Proは1/1.7インチのイメージセンサーを搭載していたが、今回のHUAWEI P40 Proの50MPイメージセンサーは1/1.28インチというスマートフォンのカメラのイメージセンサーとしては最大級のものを搭載する。ちなみに、このイメージセンサーはHUAWEI P40 Proだけでなく、HUAWEI P40とHUAWEI P40+のカメラにも採用されている。ライバル製品と比較すると、Galaxy S20 Ultra(日本未発売)は1/1.33インチ、Galaxy S20+は1/1.76インチ、iPhone 11 Pro Maxは1/2.55インチのイメージセンサーをそれぞれ採用しており、いかに今回の1/1.28インチのイメージセンサーが大きいのかがよくわかる。また、スマートフォンのカメラでもデュアルピクセルセンサーによる高速なフォーカスを可能にしたものが増えてきているが、HUAWEI P40 Proでは8つのフォトダイオードを組み合わせた「Octa PDオートフォーカス」を実現し、暗いところでもより高速なオートフォーカスを可能にしている。
さらに、動画撮影も光学手ぶれ補正とAI手ぶれ補正の組み合わせにより、手持ちのまま、歩いて撮影してもジンバルで固定したときのような安定した動画を撮影することができた。このあたりはHUAWEI Mate30 Pro 5Gの撮影機能に、さらに磨きをかけてきた印象だ。
インカメラは32MPイメージセンサーにF2.2のレンズを組み合わせたオートフォーカス対応のものを搭載する。環境光センサーや赤外線深度センサーもパンチホールに内蔵されており、周囲の環境に合わせた撮影ができるだけでなく、暗いところでも明るく撮影することができる。インカメラでも背景をぼかした撮影ができたり、4K対応のセルフィービデオも撮影できるようにしている。これまでインカメラというと、女性のセルフィーのニーズを満たす方向性ばかりが強調されてきたが、昨今、リモートワークやテレワークなどで、ビデオチャットやビデオ会議を利用するケースが増えており、今後はビデオの撮影なども含めた性能が求められることになるかもしれない。
ちなみに、メインカメラでの動画撮影については、音声の録音も配慮されている。端末の上下に全指向性マイクがそれぞれ内蔵されているが、背面のカメラ部にもマイクが内蔵されており、動画でさつえいするときの被写体の音をしっかりと捉えて、録音(録画)することができる。
最強カメラを搭載したHUAWEI P40 Proは日本上陸なるか?
HUAWEI PシリーズとHUAWEI Mateシリーズのフラッグシップモデルは、ここ数年、グローバル市場において、非常に高い評価を得てきた。Leicaとの協業によるマルチカメラは、Leicaレンズだけでなく、RYYB配列というイメージセンサーの基本構造を変えるほど、ユニークなイメージセンサーを部品メーカー(おそらくソニー)と共同で開発し、AIを活かした画像処理エンジンを進化させるなど、スマートフォンのカメラの最先端をリードしてきた。カメラ以外にも画面内指紋センサーやワイヤレス給電などの機能をいち早く採用し、新しいユーザー体験を次々と提供してきた。今回のHUAWEI P40 Proもカメラを中心に、大きく進化を遂げており、おそらくもっとも先進的なモデルに仕上がっていると言って、差し支えないだろう。
ただ、HUAWEI Mate30 Pro 5Gの記事でも触れたように、ファーウェイはGoogleとの取引を停止されているため、2019年6月以降に発表したモデルはGMSを搭載できず、HMSを搭載する形で出荷することになった。今回のHUAWEI P40 Proも同様の形で、グローバル市場には出荷される。
ファーウェイとしてはHMS対応アプリを増やすため、開発者を幅広くサポートする体制を整えているものの、Google Playは10年以上の時間をかけて、現在の環境を整えてきたことを鑑みると、そう簡単には同レベルの環境を整えることは難しい。今回はグローバル版を試用したため、国内のAppGalleryの環境がどの程度、整ってきているかを確認できていないが、国内で5Gサービスがスタートしながら、グローバル市場において、5G対応端末ではサムスンとトップ争いをくり広げ、市場をリードしてきたファーウェイが主要3社には1機種も採用されなかった現実を見ると、まだ十分な評価を得られるレベルに達していないとも言えそうだ。
HUAWEI P40 Proはライバル機種を圧倒するカメラ周りの性能をはじめ、4方向に湾曲したユニークなディスプレイ、美しいデザインと質感など、端末としての完成度が非常に高く、個人的にはぜひ国内でも利用したいと考えている。しかし、それが実現できるか、快適に利用できるかは、正直なところ、まだ何とも言えないというのが本音だ。できることなら、かつてのようにGMSを搭載しながら、HMSでも有用なアプリが数多く提供される形で、最強のカメラを搭載したHUAWEI P40 Proを試したいところだ。