法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

ウワサのiPhone SE後継モデルは「iPhone、やめたい」を救えるか?

 国内でもっとも高いシェアを持つアップルのiPhone。毎年9月頃に最新機種が発表され、多くのユーザーが毎年のように、新機種を購入してきた。一時は発売日に長い行列ができるほどの人気ぶりだったが、最近はオンライン販売も増え、少し落ち着きつつある。

 その一方で、ここ2年ほど、最新のiPhoneについて、一部に厳しい反応も聞かれるようになってきた。そんな中、かねてからウワサされていた「iPhone SE」の後継モデルがいよいよ発表されるのではないかと伝えられている。ウワサから垣間見えるアップルの思惑とユーザーの思いを探ってみよう。

もうiPhone、やめたい!

 iPhoneが国内で発売されて、今年の夏で12年になる。国内向けの最初のモデルとなった「iPhone 3G」が発売された当時、電話としての基本的な機能やユーザビリティには物足りなさが残っていたものの、洗練されたデザインやタッチパネルによる操作性などはそれまでのスマートフォンと一線を画すものがあった。

iPhone 3GS

 あれから12年。

 当初はソフトバンクが独占的に扱っていたが、その後、au、NTTドコモが取り扱うようになり、最近では各携帯電話会社のサブブランドやMVNO各社でも扱われるほど、拡がりを見せた。端末そのものも着実に進化を遂げ、ついには防水防塵やFeliCaの搭載も実現した。

 国内でのシェアは半数近くに達し、日本は米国以外でもっともiPhoneがシェアを持つほど、広く普及した。その背景にはiPhoneという製品が持つ洗練されたデザインやわかりやすいユーザーインターフェイスなどがある一方、国内の各携帯電話会社がさまざまな販売施策で、積極的に後押ししてきた貢献も大きい。

 最近は少し落ち着きを見せているが、各社がiPhoneを発売した当初は、新しいiPhoneの発売日には各キャリアショップやAppleストアの店頭に長蛇の行列ができ、当日はどのメディアもiPhoneの話題で持ちきりとなっていた。販売のランキングも常にトップを占め、若い世代はもちろん、やや上の年齢層のユーザーにも定番と言えるほど、高い人気を得てきた。

 しかし、ここ2年ほど、そんなiPhoneを取り巻く市場の様子が変わってきた印象がある。国内のシェアはトップをキープしているが、販売ランキングを見ると、上位を独占するようなことが少しずつ減り、普及価格帯のAndroidスマートフォンが何度となく、販売ランキングのトップを奪うことが増えてきている。ハードウェアとしての仕様面でもかつては「iPhoneから新しいイノベーションが生まれる」と評されたが、ここ数年はライバルメーカーの製品に後塵を拝することが多く、なかでもカメラの開発競争では完全に出遅れた感は否めない。

 また、ユーザーの評価も少しずつ変化しつつあり、この一年ほどの間に、気になる話題も何度となく、耳にした。なかでも強いインパクトを受けたのは、iPhoneを買い換えるためにショップに何度か相談に来ていたユーザーが最後には「やだ、もうiPhone、やめたい!」と叫んでいたというのだ。

高価格路線に着いていけないユーザー

 あらためて説明するまでもないが、iPhoneはAndroidプラットフォームに比べ、ユーザビリティに優れると評価されてきた。たとえば、どんなアプリを起動中もホームボタンを押せば、操作の起点となるホーム画面に戻るため、操作に迷ったら、いつでもホームボタンでホーム画面に戻れる。iPhone X以降は操作が上方向へのスワイプにが変わったが、それでもわかりやすいと言えるだろう。

 iPhoneの優れたユーザビリティとして、もうひとつ挙げられるのがデータ移行だ。iPhoneの場合、パソコンにインストールしたiTunes、もしくはiCloudにバックアップしておけば、新機種を購入してもほぼそのまま、新しい機種にデータを復元できる。アプリはもちろん、各機能の設定、写真や動画、FeliCaを利用したApplePay、Walletアプリの情報など、ほとんどのデータが元通りに復元される。筆者も何度もiPhoneを買い換えているが、移行時の手間はAndroidプラットフォームに比べ、格段に少ない。

 こうした事情も影響してか、iPhoneのユーザーは継続して、iPhoneに移行し、使い続けるという状況が何年も続いている。これも国内でiPhoneが安定した人気を保つ要因のひとつと言って、差し支えないだろう。

 しかし、その一方で、こうしたiPhoneの継続性に着いていけないユーザーが増えつつある。そのひとつがアップルがここ数年のiPhoneで展開する「高付加価値=高価格」路線だ。

 たとえば、iPhone 6(2014年)やiPhone 6s(2015年)を使っていたユーザーが居たとしよう。4~5年という、少し長めの期間、iPhoneを使ってきたが、最新のiOS 13ではiPhone 6シリーズ以前のモデルがサポートされなくなったこともあり、そろそろ買い換えを検討する。iPhone 6/6sは発売当時、最大容量を持つ128GBモデルでも販売価格は10万円前後で、当時は月々サポート割など、各携帯電話会社の月額割引が提供され、なかにはMNPなどでもキャッシュバックも受けられたため、もしかすると「0円」、あるいは非常に少ない負担で、機種変更ができただろう。

 ところが、そのユーザーがあまり最新の情報を収集しないまま、現在の各キャリアショップや家電量販店などを訪れると、店頭の価格を見て、驚くことになる。そう、現在は月額割引などもなく、基本的にはどの機種も正価(という表現が適切かどうかは別にして)で購入しなければならない。

 しかも最新のiPhoneは全体的に価格が高く、主要3社の価格で言えば、iPhone 11/256GBが10万円前後、iPhone 11 Pro/256GBは13~14万円程度となっている。少し値段が抑えられたApple Storeの価格でもiPhone 11で7万4800円(税別、以下同)から、iPhone 11 Proは10万68000円から、iPhone 11 Pro Maxにいたっては11万9800円からとなっている。

主なiPhoneの価格(いずれも発表時、税抜)
16GB32GB64GB128GB256GB512GB
iPhone 66万7800円7万9800円8万9800円
iPhone 6s8万6800円9万8800円11万800円
iPhone 77万2800円8万3800円9万6800円
iPhone 87万8800円9万5800円
iPhone X11万2800円12万9800円
iPhone XS11万2800円12万9800円15万2800円
iPhone XR8万4800円9万800円10万8000円
iPhone 117万4800円7万9800円9万800円
iPhone 11 Pro10万6800円12万2800円14万4800円

 そこで、主要3社で機種変更するときは「スマホおかえしプログラム」「かえトクプログラム」「トクするサポート+」などの分割払いによる割引販売を検討することになる。ところが、これらの販売方法はいずれも規定回数まで支払った後、端末を返却することで、残りの支払いを免除という形式を採っている。そのため、手元に端末が残らないことに不安を覚えたり、不満を持つユーザーも少なくない。

 さて、最新のiPhoneに機種変更しようとした前述のiPhone 6/6sのユーザーは、現在の価格を見て、予算に合うモデルを選ぼうとするが、かつてと同じ価格帯となると、10万円前後で購入できるiPhone 11が最有力だ。iPhone 6sのときは128GBモデルでも月額割引のおかげで、端末代金の負担は月額1512円×24回(NTTドコモの場合)で済んでいたが、iPhone 11では同容量の128GBモデルが24回払いで月額3960円、スマホおかえしプログラムを選んでも月額2640円の負担になる。つまり、1000~2400円も月々の負担が増えてしまうわけだ。

 しかも人によっては、iPhone 11がサイズ的にベストではないケースも考えられる。4.7インチのディスプレイを搭載したiPhone 6/6sは、ボディ幅が67.1mmだが、iPhone 11はディスプレイが6.1インチと少し大きく、ボディ幅も75.7mmとひと回りワイドになってしまう。つまり、手の大きくないユーザーにとっては、持ちにくくなってしまうわけだ。

 そうすると、今度はひと回りコンパクトな5.8インチディスプレイでボディ幅71.4mmのiPhone 11 Proが有力候補になるが、こちらは13万円以上と、ぐっと高くなる。しかも最安値は64GBモデルであるため、iPhone 6/6sで128GBモデルを選んでいた場合は、データの引き継ぎができなくなってしまう。

 その結果、そのiPhone 6/6sのユーザーは写真などのデータを削除して、保存容量を減らすか、予算をオーバーした価格の高いiPhoneを買うことを検討しなければならず、冒頭の「もうiPhone、やめたい」という発言につながってしまったわけだ。

保存容量によるジレンマ

 ところで、iPhoneに限った話ではないが、スマートフォンで写真を撮ろうとしたり、機種変更をしたり、OSのアップデート(ソフトウェア更新)を実行するとき、本体の空き容量が足りず、保存してある写真を削除したり、使わないアプリをアンインストールして、容量を何とか確保しようとしている話を耳にしたことはないだろうか。

 これも説明するまでもないが、ある程度、同じ端末を長く使っていると、さまざまなデータが保存され、本体の空き容量は少なくなってしまう。旧機種から買い換えるユーザーの動機として、「本体に保存できる容量が限界に近付いたから」という理由も挙げられるくらいだ。たとえば、前述のiPhone 6/6sユーザーのように、4年も5年も使っていて、何も対策をしていなければ、おそらくiPhoneの空き容量が少なくなっているはずだ。

 そこで、今度は写真などをクラウドへ退避させることを検討するわけだが、iPhoneの場合、標準で提供されるiCloudの容量は5GBしかない。しかもこの5GBは写真のためだけに提供されているわけではなく、iPhoneの内容をiCloudにバックアップしたときの保存場所としても利用される。つまり、最新の状態をバックアップしようにもiCloudがいっぱいでバックアップすらできないということも起こり得る。

 5GBがいっぱいになれば、iCloudの有料ストレージプランの契約を検討するが、これもそれなりに負担が増えてしまう。他社と比較して、特段、高いわけではないが、50GBで月額130円、200GBで月額400円、2TBで月額1300円という料金が設定されている。

 本誌読者のように、さまざまなサービスを知るユーザーであれば、「いや、iCloudを契約しなくても……」と考えるだろう。そう、実はiPhoneにGoogleフォトをインストールすれば、画質を抑えた写真が無制限、元の画質でも最大15GBまでは無料で保存することができるからだ。この他にもマイクロソフトの「Office 365 Solo」ユーザーはOneDriveで提供される1TBのオンラインストレージを使ったり、Amazonプライムの会員も画質を抑えて、Amazon Photosに無制限で写真を保存できるなど、いくつも対策が考えられる。たとえば、保存した写真で空き容量がわずかのiPhone 6/6sユーザーが新しいiPhoneに買い換えるため、ショップを訪ねたとき、ちょっと気の利いたスタッフであれば、「Googleフォトにアップロードしちゃいましょう」とアドバイスしてくれるかもしれないが、いずれもアップルとは直接、関係ないサービスであるため、実際にはなかなかそこまで踏み込んだサポートは期待できない。

「iPhone SE」という呪縛

 ここではあるiPhone 6/6sユーザーの「もうiPhoneやめたい」という叫びの背景にある要素を説明したが、iPhoneの継続性において、アップルのもうひとつ重い課題となっているのが「iPhone SE」の存在だ。

 iPhoneはこれまで発売以来、数回、大きなデザインの変更をしている。日本で発売されなかった初代iPhoneを別にすれば、背面が丸みを帯びたiPhone 3G/3GS、4インチディスプレイを搭載したコンパクトボディのiPhone 4/4s/5/5s/SE、4.7インチディスプレイを搭載したひと回り大きいボディのiPhone 6/6s/7/8、ホームボタンをなくしたiPhone X/XS/XR/11の4つのデザインに集約される。iPhone 6以降は「Plus」や「Max」の名が冠された大画面モデルもラインアップされているが、基本的なデザインはそれぞれの世代の標準サイズのモデルに統一されている。

左からiPhone SE、iPhone 6s、iPhone 6s Plus

 これらの内、現在でも根強い人気を保っているのが「iPhone SE」だろう。2016年3月に発表されたiPhone SEは、iPhone 4から続いた4インチディスプレイを搭載したコンパクトボディのiPhoneの集大成とも言えるモデルで、2011年10月に亡くなったアップルの創業者であるスティーブ・ジョブズのオリジナルコンセプトが活きている最後のモデルだと捉える人も少なくない。

 そんなユーザーの思いもあってか、2018年9月、iPhone XSシリーズが発表されたときにiPhone SEが販売ラインアップから消えたにも関わらず、それ以降もMVNOなどで数量限定で販売されると、すぐに売り切れてしまったり、ヤフオクなどで新品が高値で取引されたり、現在も中古店で安定した人気をキープするほどの人気ぶりだ。

 そんな根強い人気を持つモデルだけに、後継機種を望む声も数多く聞かれ、iPhone Xなどの新機種が登場しても「こんな大きなiPhoneはいらない」「iPhone SEと同じサイズで作れるはずだ」といった厳しいコメントを何度となく見かけた。

 しかし、現実的なところを考えると、iPhone SEと同程度のコンパクトなボディに、現在の最新のチップセットを組み込み、さまざまなバンドや通信方式に対応したアンテナを実装することは、難しいことが予想される。特に、チップセットは放熱などの設計をやり直す必要があり、そう簡単には開発できないとも言われている。

 ところが、2019年5月に4年ぶりの新機種となるiPod touch(第7世代)が発表され、iPhone SEよりもコンパクトなボディに、iPhone 7と同じ世代のA10チップを搭載していることが明らかになると、再び、iPhone SE後継機への期待が語られるようになってきた。つまり、iPod touchにA10チップが搭載できるのだから、それよりも大きいiPhone SEのボディなら、もっと新しいチップセットを搭載しても問題ないという解釈をしているわけだ。もっともiPod touch(第7世代)に搭載されているA10チップは、iPhone 7に搭載されているA10チップよりもクロック周波数を低くするなど、性能はかなり抑えられている。

 そして、2019年秋以降はiPhone SE後継機に関するウワサが一段と多く伝えられるようになり、今年3月に発表されることがほぼ確実視されるほどだった。ところが、新型コロナウイルスの影響で、発表は見送られてしまったようで、原稿執筆時点ではまだ何も発表されていない。その一方で、海外のメディアなどを中心に、ここ数週間は「今週末に発表」「○月○日に発売予定」といったニュースが毎日のように、世界中を駆け巡り、まるでカウントダウンに近い状態となっている。

 とは言うものの、アップルのトップページには「お近くのApple Storeは、追ってお知らせするまで休業いたします」と表示されており、少なくともApple Storeの再開までは発売されないのではないかという指摘も多い。

 真偽のほどは定かではないが、今のところ、iPhone SEの後継機種については、「iPhone SE2」「iPhone 9」「iPhone SE(2020)」などの製品名がウワサされている。ボディについては残念ながら、iPhone SEのサイズではなく、iPhone 7/8と同サイズで指紋センサーを搭載するという見方が多く、チップセットはiPhone 11と同じA13チップを搭載し、背面カメラはシングルカメラになるという。これだけの仕様を実現しながら、価格は400ドル以下を狙うとウワサされている

 アップルがiPhone SEの後継モデルと言われる製品を投入する背景には、やはり、ここ数年の「高付加価値=高価格」路線の影響で、販売が鈍ってきたことが挙げられるだろう。台数としては横ばい、もしくは微増かもしれないが、売れ筋は昨年のモデルで言えば、もっとも安いiPhone 11ばかりが売れ、高価格のiPhone 11 ProやiPhone 11 Pro Maxの売れ行きは一昨年のiPhone XSシリーズに比べ、ぐっと落ち込んでいるように見受けられる。アップルとしては根強い人気を保つiPhone SEの後継モデルに位置付けた新製品を投入することで、少しでも市場を活性化したい思惑が見え隠れする。

 ただ、iPhone SEの後継とされるモデルが本当に400ドル以下、日本円で5万円以下で販売されることになると、現在も継続販売されているiPhone 8(5万2800円~)やiPhone XR(6万4800円)と競合するため、これらのモデルの販売を終了し、iPhone SEの後継機種に引き継ぐことを狙っているかもしれない。本当に発表されるのか否かはわからないが、もし、本当に5万円を切る価格帯で十分なスペックのiPhone SEの後継とされるモデルが登場するのであれば、冒頭で触れた「もうiPhone、やめたい」と叫んだユーザーにもひとつの答えを提供できることになりそうだ。今後のアップルの動向をしっかりとチェックしておきたい。

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