法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
スマートフォンの次なるステップが見えたIFA 2019
2019年9月18日 06:00
9月6日~11日まで、ドイツ・ベルリンで開催されていた欧州最大の家電展示会「IFA 2019」。本誌では現地からの速報記事などをお届けしたが、国内市場と関わりの深いメーカーなどを中心に、発表内容を見ながら、今後の展開を考えてみよう。
他の業界に融け込むスマートフォン
毎年、夏の終わりにドイツ・ベルリンで開催されるIFA 2019は、1924年に開催された「大ドイツ放送展」が始まりだという。当時は鉱石ラジオや真空管ラジオなどが展示され、その後、テープレコーダー、テレビ、ビデオ、CDなど、Audio&Visual業界を中心とした製品や機材が数多く出展される展示会として歴史を重ねてきたが、近年は家電製品をはじめ、パソコンやスマートフォンといったIT関連製品にまで範囲を拡大しつつある。
Impress Watch全体を見渡しても本誌やAV Watch、PC Watchだけでなく、家電 WatchにもIFAのレポート記事が掲載されていることからもわかるように、多岐に渡る製品ジャンルが扱われるようになってきたわけだ。スマートフォンや携帯電話については、一時、IFAの会期に合わせ、各国の主要メーカーが発表会を開催し、最新モデルを発表していた。たとえば、8月に米国で発表されたサムスンのGalaxy Noteシリーズは、元々、IFAのタイミングで発表されてきたモデルとして知られており、ここ数年はIFAとは別のスケジュールで、独自の発表イベントを開催し、新モデルを発表している。
また、一部のハイエンド製品を除き、スマートフォンはコモディティ化が進んだと言われるように、特別なジャンルの製品として扱われるのではなく、どこにでも存在する、当然誰もが持っているものとして、扱われるようになってきたことも関係しているだろう。IFA 2019の会期中、ソニーモバイル 代表取締役社長の岸田光哉氏にお話をうかがう機会があったが、岸田氏はインタビューの中で、「就任直後はソニーブース内にXperiaコーナーがポツンとあったが、今年はBRAVIAの前にXperia、デジタルカメラのαシリーズの展示コーナーにXperia、ハイレゾオーディオのコーナーにもXperiaが置いてあり、ソニーブース内にXperiaが染み渡っている」と話していた。
スマートフォンがひとつの商品として完成度を高めることだけでなく、さまざまな商品とつながり、あるいはさまざまな商品の技術や機能を活かし、成立する時代になっていくというわけだ。おそらく、来たるべき5G時代になれば、「5Gは電気になる」という言葉からもわかるように、いろいろな製品やサービスに通信技術が組み込まれていくことを考えると、スマートフォンという商品そのもののインパクトだけで勝負する時代から、さまざまな業界、多様なサービスと連携する、連携しやすいことが前提となる時代へと推移していくことが推察される。
各社が新製品を発表
IFA 2019に合わせ、いくつかのメーカーが発表会やプレスカンファレンスを開催し、新製品も発表された。なかには今秋、新製品として、国内市場に投入されるモデルもあり、今後の展開が気になるところだ。主要メーカーの発表内容をチェックしてみよう。
「Galaxy Fold」の発売もアナウンスされたサムスン
サムスンはIFA 2019のプレスデーにプレスカンファレンスを開催し、出品する家電製品などを中心にプレゼンテーションを行った。モバイルについては今年8月にグローバル向けに発表した「Galaxy Note10」シリーズ、現在発売中の「Galaxy S10」シリーズ、ペン対応Androidタブレット「Galaxy Tab S6」、Windows on ARM(Snapdragon)搭載の「Galaxy Book S」、スマートウォッチ「Galaxy Watch Active2」などが紹介されたが、新たに普及価格帯の5G対応スマートフォンとして、「Galaxy A90 5G」が発表された。価格は749ユーロ(約8万8000円)に設定されており、他の同社製5G対応スマートフォンに比べると、リーズナブルな価格となっている。
また、今回のIFA 2019では発売が延期されていたフォルダブル(折りたたみ)スマートフォン「Galaxy Fold」の発売がアナウンスされ、一部のメディアに対し、実機を触る機会が提供された。筆者も数十分、試すことができたが、非常に興味深い端末だという印象を得た。
初期段階で指摘されていたディスプレイ面に貼られたフィルムはボディにしっかりと固定されるなど、さまざまな面で改良が図られていた。開いた大画面、閉じた側の画面の連携などもよく考慮されており、うまく二画面を活用するしくみが組み込まれていた。
ボディは折りたたんだ状態でスマートフォン2台分の厚みがあり、開いた状態ではスマートフォン2台分を並べた幅があるため、扱いには少し慣れが必要で、開閉動作もディスプレイや周囲のフレーム部分を押したり、指先で引っかけたりしながら操作するため、かつての折りたたみケータイのような軽快な扱いは難しい。
ただ、折りたたむという動作によって生まれてくる「使う楽しみ」があるのは確かで、開いた状態での7.3インチという大画面の迫力はこれまでのスマートフォンに比べ、明らかに異質な楽しさと探究心を駆り立てるモデルだ。もちろん、価格もそれなりに高くなるが、じっくりとイジってみたい、楽しんでみたいと感じさせる新しい時代のデバイスに仕上がっていると言えるだろう。
ゲーミングスマートフォンで新たなジャンルを開拓するASUS
国内ではZenFone 6を発売したばかりのASUSは、IFA 2019に合わせてプレスカンファレンスを開催し、ゲーミングスマートフォン「ROG Phone II」、スマートウォッチの「VivoWatch SP」を発表した。
「ROG Phone II」については、すでに今年7月に台湾で披露されていたが、今回は新たに1TBのストレージ(ROM)を搭載した「ULTIMATE EDITION」も加え、欧州向けの価格も発表された。チップセットは米クアルコム製「Snapdragon 855」をクロックアップさせた「Snapdragon 855 Plus」を搭載し、RAM 12GB、ROM 512GB/1TB、背面には冷却用のアタッチメントを装着でき、コントローラーなどと組み合わせたプレイもできるという、まさにゲームに特化したスマートフォンとなっている。価格は899ユーロ(約10万5000円)からと、それほど高くないが、中国やグローバル市場に比べ、日本のeスポーツ市場は起ち上がりはじめたばかりという印象で、ゲーミングスマートフォンというジャンルもなきに等しいが、今後の展開が楽しみな一台と言えそうだ。
カメラを強化した新モデルも登場したレノボ・モトローラ
モトローラ・モビリティを傘下に持つレノボは、IFA 2019に合わせてプレスカンファレンスを開催し、低価格帯の「moto e6 plus」、クアッドカメラを搭載した「motorola one zoom」などが発表された。
モトローラブランドのスマートフォンは国内市場でも着実にユーザー層を拡大しつつあるが、モトローラは国と地域によって、さまざまなモデルを個別に展開しており、グローバル向けに発表されても日本市場向けに展開されるとは限らない。
今回発表された2モデルのうち、「moto e6 plus」はチップセットにMediaTek製Helio P22を搭載し、13Mピクセルと深度センサーによるデュアルカメラを備えながら、139ユーロ(約1万6000円)という低価格を実現している。
もうひとつの「motorola one zoom」は昨年からモトローラが一部の国と地域で展開している“モトローラ版Android One”のラインアップになる。こちらは48Mピクセルの広角カメラに、光学3倍の8Mピクセル望遠カメラ、画角117度の16Mピクセル超広角カメラ、5Mピクセルの深度センサーで構成するクアッドカメラを搭載する。6.39インチのフルHD+対応有機ELディスプレイに、Snapdragon 675、4GB RAM、128GB ROMというスペックながら、価格は429ユーロ(約5万円)に抑えられているという、なかなかコストパフォーマンスの高い端末だ。今のところ、国内向けの展開は未定とのことだが、端末購入補助がなくなり、リーズナブルな価格の端末が求められている国内市場の事情を考慮すると、カメラを強化した端末として、国内への展開を期待したいモデルだ。
ソニーモバイルは「Xperia 5」を発表
今回のIFA 2019で開催された数あるスマートフォン関連の発表の中で、日本のユーザーがもっとも気になった製品のひとつがソニーモバイルの「Xperia 5」だろう。今年2月に発表された「Xperia 1」で再スタートを切った新生Xperiaの第2弾モデルで、Xperia 1と同じ縦横比21:9のシネマワイドディスプレイ、標準、望遠、超広角で構成されるトリプルカメラを搭載しながら、幅68mmのひと回りコンパクトなボディにハイスペックを凝縮したモデルとして仕上げられている。
Xperia 1は映画などのコンテンツの視聴に適した21:9の4K有機ELディスプレイを搭載しているが、ボディがかなり縦長で、幅も72mmとワイドなため、女性ユーザーや手が大きくないユーザーにはちょっと持て余し気味の印象があった。これに対し、Xperia 5はディスプレイがひと回り小さくなり、解像度がフルHD+になったものの、ボディはコンパクトにまとめられ、非常に持ちやすく、女性にも扱いやすい仕上がりとなっている。
チップセットなどのスペックはXperia 1とほぼ同じで、一部のソフトウェアはXperia 1で得られたユーザーの意見を取り込み、改良が加えられている。国内での販売も予定されているとのことで、今秋以降の展開が楽しみな一台と言えそうだ。
LGエレクトロニクスはグローバル市場向けにデュアルスクリーンスマホを発表
国内市場ではボリュームゾーンを狙ったコストパフォーマンスの高いモデルを展開するLGエレクトロニクスだが、グローバル市場向けはIFA 2019のタイミングでデュアルスクリーンに対応したスマートフォン「LG G8X ThinQ DualScreen」を発表した。
この製品は今年2月、MWC 19 Barcelonaで発表された「LG G8 ThinQ」をベースにしたモデルになる。今年2月の段階では、一般的な形状のスマートフォンに、ディスプレイ付きの手帳型ケースを組み合わせることで、二画面スマートフォンを実現したものだったが、それがそっくりそのまま、製品化されたことになる。
Galaxy FoldやHUAWEI Mate Xなど、折りたたみスマートフォンが注目を集めている中、ディスプレイを折り曲げるといった複雑な構造を採用せず、もう一枚のディスプレイを追加することで、より広い画面を実現しているのは、グループ内でディスプレイを製造するLGエレクトロニクスらしい解決策と言えそうだ。
製品のデモでは片方の画面でゲームを表示しながら、もう片方の画面にコントローラーを表示したり、複数のコンテンツを切り替えながら表示するなど、実際の利用シーンに合った活用を体験できるようにしていた。国内販売は未定だが、新しいスマートフォンの形として、今後の展開が楽しみなモデルだ。
フラッグシップモデルを海外市場にも展開する構えのシャープ
シャープは昨年に続き、IFA 2019でプレスカンファレンスを開催し、欧州市場向けの製品ラインアップを発表した。主力であるテレビなどが中心だったが、今回は国内でも安定して高い人気を得ている「AQUOS R3」をはじめ、独自モデルの「AQUOS V」など、スマートフォンも発表された。
シャープは一時期、欧州市場から撤退したため、ブランドの扱いがやや複雑な状況にあったが、今年はそれも解消し、テレビなどの家電製品だけでなく、スマートフォンでも本格的に展開しようという構えだ。
昨年までは日本で販売されていない普及モデルだったが、いよいよ国内市場で実績を持つフラッグシップモデルを展開し、欧州市場を戦っていく構えだ。AQUOS R3の価格も729ユーロ(約8万5000円)に設定されている。
もうひとつのAQUOS Vは一昨年のフラッグシップに搭載されていたSnapdragon 835を搭載したモデルで、229ユーロ(約2万7000円)という低価格を設定しており、価格競争が激しい欧州市場での主力モデルになりそうな印象だ。
このほかにも、ソフトバンクの5Gサービスのデモでも使われていた5G試作モデルをはじめ、おなじみのRoBoHoNも出品され、来場者の注目を集めていた。
5Gモデムを内蔵し“オールインワン”のチップセットを発表したファーウェイ
国内では米中貿易摩擦に伴う発売延期などが注目されたファーウェイだが、国と地域によって、差があるものの、欧州市場では幅広くビジネスを展開しており、貿易摩擦の影響をそれほど大きく感じさせない。
IFA 2019では昨年に引き続き、同社のコンシューマー・ビジネス・グループCEOのリチャード・ユー氏が基調講演に登壇し、次期スマートフォンに搭載予定のチップセット「Kirin 990」をはじめ、ウェアラブル端末向けのチップ、HUAWEI P20 Proの新色、フルワイヤレス対応のBluetoothイヤホンなどを発表した。
Kirin 990はHUAWEI P30 Proに搭載されているKirin 980の後継となるチップセットになるが、5Gモデムを内蔵した構成になっており、商用化ベースでは世界初のオールインワンチップだとアピールしていた。ちなみに、ファーウェイはすでに5GのシングルモードをサポートしたBalong 5000をリリースしており、これとKirin 980を組み合わせることで、5G対応スマートフォンを中国向けなどに出荷している。
また、ウェアラブルデバイス向けのチップ「Kirin A1」も発表され、これを採用したフルワイヤレス対応Bluetoothヘッドセット「HUAWEI FreeBuds 3」も合わせて発表された。ファーウェイのプレゼンテーションはライバル製品に対する遠慮のない比較でおなじみだが、HUAWEI FreeBuds 3はアップルのAirPodsに対するアドバンテージを積極的にアピールしていた。
また、基調講演では9月19日にドイツ・ミュンヘンにおいて、Kirin 990を搭載した次期フラッグシップ「Mate 30シリーズ」を発表することも明らかにされた。
いよいよ本格化する5G時代への歩み
いろいろな記事でも触れているように、2019年はモバイル業界にとって、ひとつの節目となる年だと言われている。国内市場で言えば、改正電気通信事業法の施行、楽天モバイル(MNO)のサービス開始、5Gのプレ商用サービスの開始などが挙げられるが、グローバル市場においても5Gサービスの開始(すでに開始した地域もある)がひとつのトピックであり、これに伴う新しいビジネス展開への期待は非常に大きい。
ただ、一般ユーザーが5Gを自らの手で体験し、大きな変革を実感できるようになるには、もう少し時間が必要とされている。今回のIFA 2019でもプレスカンファレンスで「5G」が触れられるものの、具体的な製品やサービスはスマートフォンが中心で、それ以外のジャンルへの展開はまだこれからという状況だ。ひとつ気になるのは、昨今の一般メディアの取り上げ方を見ていると、5Gについて、やや騒ぎすぎ、市場も過度に期待を持ちすぎ&持たせすぎという印象もあり、ユーザーにヘンな誤解を与えそうな不安も残される。
とは言うものの、来たるべき5G時代へ向けた歩みは着実に進んでおり、各社の発表を見れば、その取り組みや方向性も少しずつ明らかになってきている。たとえば、サムスンは5G対応端末をすでに4機種もラインアップし、ファーウェイは他社に先駆けて、5G対応チップセットをワンチップにまとめ、まもなく搭載端末を市場に投入する構えだ。
シャープのように、日本での実績と5Gへの取り組みを携え、欧州市場へ挑むようなケースもある。ソニーモバイルもソニーのグループ全体の資産を活かしながら、各事業との連携により、5G時代を見据えた体制作りを本格化させている。今回のIFA 2019でお披露目された製品の内、いくつかの商品は今秋以降、国内市場にも投入される見込みだ。今後の各社の発表を楽しみに待ちたい。