【IFA2019】
ソニーモバイル岸田社長、「好きを極めた人たちのためのXperiaをお届けしたい」
2019年9月12日 06:00
ドイツ・ベルリンで開催されているIFA 2019で、フラッグシップラインに追加する「Xperia 5」を発表したソニーモバイル。同社の代表取締役社長の岸田光哉社長に、新しいXperiaの方向性や戦略などについて聞いた。
「ソニーにしかできないことをやり抜く」
ソニーモバイルのXperiaシリーズは、日本を代表するスマートフォンのシリーズとして、長らく安定した人気を持っている。
一方、ここ数年、今ひとつユーザーの期待に十分、応えることができずにいたことも事実だ。そんな中、昨年4月、ソニーモバイルの代表取締役社長に就任したのが岸田光哉氏だ。
――昨年4月の社長就任後、ソニーモバイルとして、さまざまな改革に取り組んでこられたようですが、具体的にどのようなことに取り組んでこられたのか教えてください。
岸田氏
約1年半前に就任し、最初に手がけたのは体制作りですが、その前に、自分たちは何を中心に据え、何のために存在するのかを見つけて、これをXperiaに携わるすべての人たちと共有することにしました。この考え方の共有なくして、先に進めないと思ったからです。
たとえば、今回、新しいコーポレートビジョンを掲げましたが、実はこれまでもコーポレートビジョンそのものはありました。でも、ありきたりの表現と言いますか、仮にたとえ会社名を変えても通じるような表現は、捨てようという話になりました。
マネージメントのみんなで議論をしたり、合宿をしたりと、まるで『昭和』な感じですけど、そういうことをきっちりとやりましたね。そこで、できあがってきたのが「Xperiaはお客様に想像を超えるエクスペリエンス(体験)をお届けする」というビジョンですね。
実は、このビジョンの中についても外向けにはデリート(削除)したものが2行ほど、あるんです。ひとつは「万人受けと決別する」ですね。
もうひとつは掲げたビジョンの中に「好きを極める人たちに寄り添う」という表現があるのですが、そこに「あなたの好きを極めるためなら、昨日までを捨ててもいい」という表現がありました。
ただ、この「昨日までを……」という表現は、今までXperiaをお買い求めいただいた人たち、Xperiaを好きな人たちを否定しているように受け取られてしまうかもしれないということで、削除しました。
でも、そういったことも含めて、ボクらがやるべきことは万人受けではない、ソニーにしかできないモノを作り、ソニーにしかできないオペレーションでやり抜くという結論に行き着いたんです。そして、このビジョンに基づいた形で、商品作りやそれに合った体制作りを進めてきました。
こうした体制作りを進める中で、早めに取り組まなければならなかったのが構造の転換、構造の改革でしたので、かなり時間を割いて取り組みました。
その取り組みがすべて終わったわけではないのですが、就任当初に掲げた「2020年にはオペレーションコストを半減する」という活動は、今年度いっぱいをめどに、完全に終了するという方向で進捗しています。
こうした取り組みの結果、最近では内部での会話も「ソニーらしい、より良いモノ」「ソニーらしい商品群やアプリケーション」をどうやって作っていくか、ご提供していくかという方向に変わってきています。いっしょに社内をご覧いただけないのが残念なくらい、変わってきたと思いますよ(笑)。
――こうした改革はXperia 1からスタートしたということでしょうか?
岸田氏
そうですね。Xperia 1からのスタートです。去年はここ(IFA 2018)で「Xperia XZ3」を発表したのですが、展示ブースも「Xperia XZ3」がスマートフォンのコーナーにポツンと置いてあって、周りもテレビはテレビ、オーディオはオーディオ、カメラはカメラという形で展示されていました。
ところが、今年は実際にご覧いただくと、おわかりいただけると思いますが、Xperiaがソニーブース内に染み入っているくらい、もうあちこちのブースにいっしょに置いてあります。
たとえば、αのコーナーの「瞳AF」の隣にはXperia、ハイレゾのウォークマンの隣にもXperia、BRAVIAの前にもXperia、プロ用モニターのところにもXperiaというように、Xperiaなしのソニーが考えることができないというくらいの世界観を今年からは打ち出しています。
――実際の数値的な面での変化は見えてきているのでしょうか?
岸田氏
Xperia 1を導入した2019年度第一四半期、このセグメント、つまり、モバイルのセグメントが黒字でした。
ただ、報道では年間の目標台数が500万台から400万台に下げたことが伝えられていて、私たちの真意があまり感じられないんですよ。
目標台数を100万台下げたのは、ローエンドの部分ですとか、前年から引き継いだ部分があります。本当のスタートはXperia 1で、あの商品を出すことができたおかげで、そのクオーター(四半期)が黒字になるということに、本当に手応えを感じましたね。
これまではどちらかというと、大きく構えてスタートして、最後は小さくなってしまうことを数年間、くり返してきたような印象だったんですが、Xperia 1以降はそういったことに絶対にならないように、商品はもちろんのことですけど、オペレーションについてもみんなで声を掛け合って前に進んでいる印象です。
そういった雰囲気が工場を含めて、実感できています。生産についてもXperia 1では必要以上に仕込まないようにしているため、販売する国と地域、販路、カラーなどによって足りない時期もありましたが、そこで無理をせず、確実に一歩を踏み出した2019年のスタートという感じです。
――Xperia 1では動画撮影機能に「シネマプロ」が搭載されていますが、普通のユーザーだと、「そこまでは撮らないよ」と考えてしまいます。でも、そこまで搭載したからこそ、売れるようになったとお考えでしょうか?
岸田氏
そうですね。これはテレビのBRAVIAでもデジタルカメラのαでも同じことが言えるのですが、それぞれの製品は今は成功を収めています。でも、そこに至るまでにはいろんな苦労があったわけです。じゃあ、その苦労が何なのかというと、「やっぱり、『これ』しかない!」と思っていただける、「これ」とは何なのかを導き出すまでのものなんです。
Xperiaについては全世界にいろんなタイプの商品を幅広く展開してきたので、どちらかと言えば、規模が限られていても業界最大手と変わらない目線で、いろんな戦略をやろうとしていた印象がありました。
だから、そこは一度、脱ぎ去って、本当に自分たちにしかできない、ソニーにしかできないことは何なんだっていうのを突き詰めたうえで、21:9の4K対応有機ELシネマワイドディスプレイを搭載したり、αの瞳AFをスマートフォンではじめて実現したわけです。ちゃんとソニーのアセット(資産)を使って、製品を作り上げ、それをお客様にご評価いただいたということになります。
実は、社長に就任したとき、ある製品を見て、「なんで、こんなに分厚くなっちゃったの?」と聞いたら、「いや、そう思ったんですけど……」という言葉が返ってきて、「そう思ったのなら、そう言わないと!」と話したことがありました。
このやり取りからもわかるように、みんなが本当にいいと思うモノ、好きなモノが作り切れてないように思えたんです。こういうところを正すことによって、我々の変化は始まったので、掲げたビジョンには「好きを極める」という言葉が入っているのです。
でも、自分が好きなものだけを作っていたのでは、いつかの厳しい時代のソニーに戻ってしまいますから、好きなものを極めているお客様に寄り添って、その人たちから「これなら、いいね」と言ってもらえるモノを作っていく。そのひとつの例が「シネマプロ」になるわけです。
カメラもみなさんがいろいろな意見をお持ちだと思いますが、実は、三眼でいずれも同じ12Mピクセルのイメージセンサーという構成は、これまで世界に例がなかったんです。
各社はメインカメラに48Mピクセルなど、高画素のセンサーを採用する例が増えていますが、Xperia 1とXperia 5は標準、望遠、超広角とレンズが変わっても同じ解像度で撮影できます。これは我々がデジタルカメラで悩み抜いたところで、動画でズームに取り組んだときもレンズが変わる度に画素数が変わるなんて、許せないという技術者の意見から、今の構成に行き着いています。
――今回、Xperia 5ではゲームにも取り組んだ印象がありますね。
岸田氏
Xperia 1のときはEPIC GAMEの「FORTNITE」などを21:9の画角にしていただいたのですが、21:9のワイド画面でプレイすると、早めに周囲の敵の動きが見えるなんていう話もありまして、コツコツと各方面と調整を重ねてきました。そんな中、社内に本当にゲーム好きの人が見つかって、その人たちに部屋をひとつあげちゃったんです。
実は、その部屋、古海さん(ソニー・ヨーロッパ President 古海 英之氏)の使っていた部屋で、ソニー・ヨーロッパに行っちゃったんで、ちょうど空いてるからって、ゲーム好きの人たちが集まる部屋にしたんですよ。
そしたら、集まって遊ぶだけじゃなく、eスポーツのプランを作ってきて、「今度、こんな大会があるので、協賛したいんですけど」なんて話が出てきて、動きが活発になってきました。ゲームを楽しむという点ではXperia 1の方が少し画面が大きいので、遊びやすいんじゃないかという見方もありますが、Xperia 5も存分に楽しめますので、これからもゲームには積極的に取り組んでいきたいと思います。
――販売方式が変わることもあり、国内はミッドレンジが注目を集めています。先日、サービス内容や端末ラインアップを発表した楽天モバイル(MNO)はミッドレンジが80%以上を占めるとアピールしています。ソニーモバイルとして、ミッドレンジはどのように考えられていますか?
岸田氏
私たちが取り組んでいるのは、Xperiaが好き、ソニーが好きというお客様を増やしていくことですから、そういうお客様に適切に商品をご提供していく必要があります。
ですから、中級機種だからやらないとか、そういう考えはありません。まず、ラインアップとしては頂点のXperia 1からスタートしましたが、なかにはもうちょっと使うのが楽しい、使い勝手がいい機種が欲しいというお客様も必ずいらっしゃるので、その人たちにとっての「好きを極めた商品」がミッドレンジに当たる価格帯の機種であれば、そこにご提供すると言うことも考えられます。
――海外市場については、いくつか撤退をされたようですが、今後の展開を含め、どのようにされていくのでしょうか。
岸田氏
実は、私が就任した後、昨年一年間、世界中の多くの国と地域の市場から撤退をせざるを得ないことになりました。
これはまず、我々がどこに集中していくのかを見定めて、それをやり抜くためです。残念でしたけど、世界の多くの地域から撤退させていただきました。
ただ、その後、その市場へどうやって戻っていくのかを考えられるフェーズに入ってきました。一度、撤退したら、撤退したままということではなく、ご存知のようにソニーは全世界に販売網を持っていますから、そこを使ってビジネスを展開します。
すでに欧州を皮切りに、各地域の法人にXperiaの販売機能を組み込んでいますし、今後はソニーの販売のネットワークと一体化して、ビジネスを展開していこうと考えています。ソニーとして、それぞれの地域に帰って行くということをひとつずつ計画をしながら、ていねいにやっていきたいですね。
広報部
実は、アジア地域では一度、撤退したタイ、マレーシア、シンガポール、ベトナムで、直販のソニーストアでXperia 1を販売しています。これはソニーモバイルとしてではなく、ソニーとして販売しています。
岸田氏
ソニーモバイルとしては、昨年、日本と台湾と香港以外のアジア市場から撤退して、結構、痛みを伴う改革をしたのですが、ソニーのネットワークで、もう一度、ビジネスを展開し始めています。
中国でもソニーストアでXperiaを売ると、一気に売り切れるような反響があります。
ただ、こういう言い方はあまり良くないのですが、どんなビジネスでも失敗は大きく構えたことによって、ダメになっていくケースが多いと思っています。たぶん、中国のビジネスもそういう姿勢が少なからず影響したのかもしれません。
でも、さまざまな改革や体制作りをしたことで、本当にていねいに、ひとつずつのやり方をしっかり見極めて、ソニーらしいやり方で、お客様にお届けする時期に入ってきたのかなと思っています。
一方、日本市場については、長い間、努力を続けて、現在のポジションを確保してきました。苦しいときにもみなさんにはいろいろな形でご意見をいただきましたが、日本はXperiaブランドの認知が世界でもっとも高い地域なので、ソニーを好きでいてくださる多くの方々に、適切なタイミングで適切な商品をご提供していくようにしたいですね。
――改革をするにあたり、一時期、Xperiaの名前を変更する話も持ち上がったとか。
岸田氏
はい、そういうことも含めて、検討しました。正直に申し上げて、先ほどもお話ししたように、Xperiaのブランドがもっとも浸透しているのは日本です。
では、欧州などではどうなのかというと、Xperiaというブランド云々以前に、まず、ソニーのスマートフォンであること、ソニーがスマートフォンをやっていることを知っていただけてない国と地域があることも調査などでわかってきました。そのため、本当に「Xperia」というブランドでやるべきなのかを議論した時期がありました。
ただ、その議論の中で、最初にお話ししたビジョンにもあるように、Xperiaは「Experience(エクスペリエンス)」という言葉から来ています。我々がこれから追求していくことは、「想像を超えたエクスペリエンス」をお客様にご提供することですから、そこに行き着いた結果、「やっぱり、Xperiaブランドは変えない」という結論になりました。
――今年2月にXperia 1、今回はXperia 5をそれぞれ発表し、つい先日は楽天モバイル(MNO)にもXperia Aceを供給することが明らかになりました。そんな中、今年2月には他社からフォルダブル(折りたたみ)のスマートフォンが登場し、岸田社長は「折りたたむ前にやることがある」という名言をおっしゃってましたが、Xperia 1やXperia 5のような21:9のディスプレイを搭載したものではなく、ほかのフォームファクター(形状)に取り組まれる考えはお持ちでしょうか?
岸田氏
私たちはまず、2020年度に単年度の黒字化することをお約束しました。そのことをコミットメントするために、まず、21:9ではじめたフォームファクターに集中して、この世界観を大きくしていくことに注力します。しかしながら、今後、ずっと同じフォームファクターを続けるわけではないものの、21:9の今後がどうなるのかを語るには、まだ導入段階なので、少し早いと思っています。
また、5Gになってきたとき、次のスマートフォンを提案すべき責任を持っているのは、ソニーじゃないのかというくらいの気構えを持って向かっていきたいと思っています。
今後、スマートフォンはいろんな形に進化していくかもしれませんが、スマートフォンがなくなるわけではありませんし、我々にとってもお客さんにとってももっとも身近な商品です。我々はタブレットからも撤退しましたし、スマートプロダクトからも少し距離を置くようになりましたが、5Gの時代になれば、いろんなものの中に通信機能が入ってきます。
現在は21:9のディスプレイを搭載したスマートフォンに注力していますが、5Gの時代にはどういう商品群でソニーの世界を作っていくのかということも含め、これからもご期待いただきたいと思います。
――今回のXperia 5でコンパクトにした理由はどこにあるのでしょうか?
岸田氏
これまでもコンパクトなモデルは手がけてきましたし、コンパクトなモデルを求める声もいただいていました。Xperia 1はやはり、男性の方が中心なんですね。女性の好きを極めた方にも持っていただいて、毎日、愛情を持って使っていただきたいと思い、今回のXperia 5を送り出すことに結び付きました。そういう意味では、今回はカラーバリエーションにも気を配っています。
――欧州はコンパクトなモデルの反響はどうなのでしょうか?
岸田氏
欧州は国と地域によって、コンパクト好きなところがあります。私が住んでいた北欧はそれこそ「ミニマリズム」の原点のようなところで、佇まいが美しくコンパクトなモノは本当に愛される傾向があります。そういった国と地域のみなさんにも可愛がっていただけるモデルになるんじゃないかなと期待しています。
――最後に、日本市場への展開も予定されているXperia 5の意気込みをお聞かせください。
岸田氏
Xperia 1から我々の新しいチャプターが始まりました。この新しいXperiaの世界観をもう少し広いお客様に楽しんでいただけるようにご用意したのがXperia 5です。瞳AFや21:9の有機ELディスプレイ、ゲームなどを含む楽しい機能が満載ですので、Xperia 1共々、楽しんでいただける世界を作っていきたいと思います。これからの新しいXperiaの世界にご期待ください。