法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
新年度に動きはじめたモバイル業界、楽天や「+メッセージ」のゆくえは?
2018年4月23日 11:55
新しい年度を迎えた4月。モバイル業界もひとつの節目を経て、さまざまな新しい動きが見えてきた。今回は4月上旬に伝えられたニュースのうち、各方面で関心の高い「楽天の携帯電話事業参入決定」「主要3社がスタートさせる新メッセージングサービス『+メッセージ』」などを中心に、最新動向をチェックしてみよう。
新規参入の楽天に勝算はあるか?
4月6日、総務省が進めていた1.7GHz帯と3.4GHz帯の新規割り当てについて、電波監理審議会の審査結果が明らかになり、NTTドコモ、KDDI及び沖縄セルラー、ソフトバンクの既存の3グループ4事業者に加え、新規参入を目指して計画を提出していた楽天モバイルネットワーク(以下、楽天)にも周波数が割り当てられることになった。週が明けた4月9日には総務省において、認定書の交付式が行なわれ、野田聖子総務大臣から各社の代表にそれぞれ認定証が手渡された。
昨年12月、総務省の1.7GHz帯と3.4GHz帯の新規割り当てに対し、楽天が周波数を獲得し、「第4の携帯電話会社」として参入することを表明して以来、そのゆくえが注目されてきたが、これで2019年10月のサービス開始を目指し、いよいよ本格的に楽天の携帯電話事業が動き出すことになる。
楽天の携帯電話事業については、昨年12月の参入表明後、その可能性について、各方面ではさまざまな報道がされてきた。すでに、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が日本の人口よりも多い契約数を獲得し、全国にネットワークを張り巡らせている状況を鑑みると、これから新規参入する楽天が3社に肩を並べるのは到底、無理という厳しい評価が数多く聞かれた。その裏付けとして、楽天が参入時の設備投資として、約6000億円を用意しているとしたが、この金額はすでにネットワークを構築し、毎年のように増強をくり返しているNTTドコモが1年間に費やす設備投資費と同レベルであり、そんな金額ではとても戦えないという指摘だった。
確かに、いずれもごく当たり前の指摘だが、だからと言って、楽天の携帯電話事業に望みがないかというと、必ずしもそうでもない。
たとえば、2007年に新規参入を果たしたイー・モバイル(現在はソフトバンク傘下のワイモバイル)は、ネットワークの構築もさることながら、端末をどうするかが注目されていた。というのも当時はまだケータイ全盛時代で、各携帯電話事業者は端末メーカーに自社向け端末の開発を依頼し、端末を供給してもらう必要があったからだ。端末ラインアップが各携帯電話事業者の魅力を左右する時代でもあり、そのための資金(開発費)も必要とされていた。
しかし、現在はスマートフォンやタブレットが中心で、SIMフリー端末も各社から供給されている。そのため、楽天が携帯電話事業を始めるときの端末の調達は、現在のMVNOとしての楽天モバイルの端末調達を拡大するレベルで十分に対応できるわけだ。フィーチャーフォンについてもAndroidベースのものが販売されており、幅広い年齢層のニーズに対応させることも難しくはない。
総務省に自らのネットワーク構築を求められる
ネットワークなどの設備については、当然、たいへんなコストがかかるが、かつてのイー・モバイルは新規参入時、後発であるがゆえに、既存の3社に比べ、利用効率の高い最新設備を導入しやすいことをアピールしていた。サービス開始当初はユーザー数が少ないこともあり、利用増に伴う設備増強もある程度、抑えることができる。
ただ、携帯電話事業にとって、もっとも重要とされるエリアについては、かなり頑張らないと戦える状態には持っていくことが難しそうだ。現在、主要3社のエリアは各社ごとに多少の違いがあるものの、3G及びLTEによるネットワークは国内の99%以上をカバーしている。主要3社のここに至るまでの経緯を振り返ってみると、3社とも3Gは2000年頃、LTEは2010年頃からサービスを開始しており、すでに10年以上のエリア拡大を積み重ねたことで、現在のエリアを達成している。これに対し、楽天はゼロからエリアを作らなければならないため、主要3社と変わらないレベルまでエリアを展開するには、やはり、10年以上の歳月が必要になると推察される。特に、他社は携帯電話ネットワークにもっとも適している700~900MHz帯を持っているのに対し、楽天は新規割り当ての1.7GHzしかないため、広いエリアをカバーしたり、屋内に浸透するエリアの拡大には、かなり時間がかかると予想される。
エリア展開を考えるうえで、もっとも重要となる基地局の設置場所については、すでに主要3社が『いい場所』を押さえているうえ、昨今は耐震設計などの関係から、マンションやビルにアンテナや基地局設備を新たに設置することを拒否するオーナーも多く、苦戦することが予想される。
楽天では東京電力や関西電力、中部電力など、電力各社に協力を仰ぎ、各電力会社の送電鉄塔や配電柱、建物屋上などを利用することに合意しているが、それでもどこまでエリアを拡大できるかは未知数だ。おそらく楽天としては、当面、顧客が多く、トラフィックが見込める東名阪を中心にエリアを展開し、それ以外の地域は順次、需要を見極めながら拡大していく策を取ることになるだろう。
そうなってくると、やはり、サービス開始当初は既存の主要3社にローミングする形で頼るしかない。かつて、イー・モバイルが新規参入したときもNTTドコモとローミング協定を締結し、音声サービスが開始された2008年3月から2010年10月末までの約2年半近く、イー・モバイルはNTTドコモのネットワークにローミングをすることで、広いエリアをカバーしていた。今回の楽天もNTTドコモにローミングを申し込む形になると予想されるが、総務省から新規割り当ての条件として、楽天が自らエリアを拡大していくことが明言されているため、何年もローミングに頼るわけにはいかない。
実は、昨年、楽天が新規参入を表明したとき、筆者は最近のSIMフリースマートフォンで標準機能となりつつある『デュアルSIM/デュアルスタンバイ(DSDS)』を活かし、1枚目に新規参入のMNOとしての楽天のSIMカード、2枚目に既存のMVNOとしての楽天モバイルのSIMカードをセットすることで、都市部ではMNOの楽天、郊外や地方ではMVNOの楽天モバイルのSIMカードを切り替えながら使うのではないかと予想していた。
ところが、この案は前述の通り、総務省が楽天が自らネットワークを構築していくことを新規割り当ての条件に挙げたため、実現が難しくなってしまった。これに加え、認定証の交付式が行なわれた後の囲み取材で、NTTドコモの吉澤和弘代表取締役社長は「楽天のローミングについては交渉があれば、真摯に対応していく」と答えたものの、MVNOとしての楽天モバイルとMNOとしての楽天の組み合わせについては、「同時に、というのは少し違うのかな」「MNOとして事業をするということなので、今のMVNOの顧客はマージしていくやり方になるのではないか」とコメントしたため、実現はほぼ不可能ということになってしまった。
この他にも楽天が携帯電話事業で主要3社と戦っていくためには、店舗や独自のサービス展開など、さまざまな要素が関わってくる。携帯電話事業は前述のように、設備投資を中心としたコストが継続的にかかるため、『儲かる商売』に育てるには時間がかかるとされている。ただ、楽天は通販サイトの楽天市場だけでなく、旅行関連の楽天トラベル、金融の楽天証券や楽天銀行、楽天カード、楽天Edyなど、すでに多くの事業を展開し、それぞれを着実に成長させてきている。なかでも楽天カードや楽天証券などは、買収で傘下に収めた後発の事業でありながら、既存の証券会社やカード会社と渡り合うか、それを上回るほどの成果を出している。これに対し、主要3社はここ数年、携帯電話以外の事業を徐々に拡大し、成長させようとしてきている状況にあり、楽天の新規参入はまさに対極にいる企業がモバイル業界に乗り込んできた状態に近い。
楽天の携帯電話サービスは、2019年10月開始予定とされているが、どのような形でサービスが展開されるのかはまだわからない。ここで説明してきたように、携帯電話サービスの要であるエリアについては、苦労しそうな印象は否めないが、それでも『第4の携帯電話会社』が生まれ、新しい競争が起きることはユーザーとしても歓迎したいところだ。これまで国内では何度か新規事業者が参入しながら、最終的に主要3社に収斂させてしまった経験があるが、今回はソフトバンクのイー・モバイル買収のような『反則ワザ』も使えないように、総務省も新規割り当てにいくつも条件を設定している。楽天の新規参入により、新しい競争が起き、料金の低廉化やサービスの活性化など、モバイル業界に新しい風が吹くことを期待したい。
新コミュニケーションサービス「+メッセージ」はLINE対抗?
4月10日、NTTドコモ、au、ソフトバンクは、従来のSMSを進化させた新しいコミュニケーションサービス「+メッセージ(プラスメッセージ)」を発表した。こうしたコミュニケーションサービスを国内の主要3社が揃って発表するのは、これまでのモバイル業界を振り返ると、あまりなかったケースと言えそうだ。
「SMSを進化させた」という表現で語られる+メッセージだが、実は今年2月に一部の報道で「打倒LINEの新サービス導入へ」と伝えられていたこともあり、発表会ではLINEの対抗になり得るかといった点にも注目が集まっていた。同じメッセージングサービスではあり、後述する将来への展開などを考えると、確かにLINEに対抗する要素はあるが、ユーザーの視点で見ると、LINE対抗というより、LINEやFacebookメッセンジャーなどと併用するメッセージサービスという印象だ。
まず、+メッセージの基本仕様だが、SMSから進化させたコミュニケーションサービスであるため、携帯電話番号でやり取りをする。アカウントなどを作成する必要がなく、相手の携帯電話番号がわかれば、メッセージをやり取りすることが可能だ。
やり取りできるメッセージの長さは、従来のSMSが全角で最大70文字のメッセージを送信できたのに対し、+メッセージでは最大2730文字まで、やり取りができる。やり取りできるのは文字だけでなく、写真や動画、専用スタンプ、音声メッセージ、地図情報で、動画は最大1000MBまでと定義されている。SMSが基本的に一対一のコミュニケーションだったのに対し、+メッセージではグループを作成して、複数のユーザー間でメッセージをやり取りすることも可能だ。
料金については、SMSが1通(全角70文字まで)あたり3円という設定だったのに対し、+メッセージはデータ通信で送受信されるため、それぞれのユーザーが契約するデータ定額のデータ通信量から消費することになる。テキストやスタンプ程度であれば、あまり気にならないが、動画などを送受信すると、当然のことながら、データ通信量はかさむことになる。とは言え、すでにLINEなどのメッセージアプリを利用しているユーザーにしてみれば、データ通信量の感覚もつかめているので、それほど気にならないだろう。
ただ、この料金面でひとつ注意が必要なのが送信する相手が+メッセージを利用できないときは、SMSで送信しなければならないという点だ。+メッセージは基本的にスマートフォンにインストールされたアプリによって、メッセージを送受信をするが、連絡先の画面を見ると、+メッセージが送受信可能な相手には+メッセージのアイコンが表示され、利用できない相手は何もアイコンが表示されない。そのため、送信するときに判別ができるので、知らないうちにSMSの送信料金がかかってしまうことはないが、せっかく主要3社が同時に導入するのであれば、料金プランで対応策を考えても良かったのではないだろうか。たとえば、主要3社では前述のように、SMSは1通(全角70文字まで)あたり3円の料金がかかるが、海外の携帯電話事業者の料金プランを見てみると、SMSの送信料が基本使用料に含まれていたり、1カ月に1000通以内というように、一定数まで無料で利用できるようなプランも用意されている。+メッセージの普及を狙うのであれば、サービスの利用開始時点での料金面の障害を取り払い、SMSからの移行を促せるような取り組みを期待したいところだ。
+メッセージを利用する環境については、主要3社のSMSの扱いが違うこともあり、少しずつ対応が異なる。まず、2018年5月以降に発売される端末については、基本的に端末に+メッセージのアプリがプリインストールされるが、それ以前の機種、つまり、現在、ユーザーが利用している端末については、NTTドコモがドコモアプリ配信基盤(ドコモアプリ管理)からのダウンロード、auがau MarketでSMSアプリのバージョンアップ、ソフトバンクがGooglePlayストアでソフトバンクメールのバージョンアップで利用できるようになる。iOSについてはアップルのApp Storeで共通のアプリが公開される予定だが、審査の関係上、サービス開始の5月9日に間に合うかどうかは未定とされている。
+メッセージでやり取りしたメッセージや連絡先の情報は、基本的に端末内に保存され、クラウドサービスなどは提供されない。しくみとしてはLINEに近い形だが、機種変更時のデータの移行については、各携帯電話会社が提供するバックアップアプリでサポートするとしており、MNP時も基本的にはバックアップアプリでデータの移行ができるようになる見込みだ。
今後の発展が期待される「+メッセージ」
ここまでの内容だけを見ると、「また3キャリアが独自のコミュニケーションサービスを始めるのか」「SMSの進化なんて、今さら、流行らないのでは?」と捉えてしまうかもしれない。人によっては「もうLINEで十分だから、いらないよ」と反応するかもしれないし、なかには「電話番号を教えるのはちょっと抵抗が……」と考えて、利用を躊躇してしまう人もいそうだ。
まず、本誌の記事でも触れられているように、+メッセージはRCS(Rich Communication Services)と呼ばれる規格に準拠しており、ローカルな規格やサービスではない。RCSという規格は数年前から存在していたもので、MWCを開催することでも知られる業界団体のGSMAによって、標準化が進められている。GSMAがRCSを標準化した背景には、各携帯電話事業者が採用するSMSやMMSを上回るリッチなコミュニケーションサービスのベースになるものにしたいという思惑がある。
携帯電話の世界では当たり前のことだが、遮断されているなどの特異なケースを除けば、ひとつの電話番号で、どの国と地域の携帯電話番号とも音声通話ができ、SMSも国際SMSに対応していれば、国番号を付加することで、SMSが送受信できる(料金は高いが……)。MMSになれば、写真なども送受信ができる。つまり、電話もSMSもMMSも携帯電話業界の共通の規格であり、広くサービスとして利用されているわけだ。
しかし、スマートフォンが全盛の今、実際の利用シーンを見てみると、インターネットを中心に展開されてきたメッセージングサービスの利用が拡大している。日本ではLINEが代表格だが、中国ではWeChat、米国ではWhatsAppやFacebookメッセンジャー、韓国のKakaoTalk、楽天が買収したViberなど、さまざまな国と地域で、多様なメッセージアプリが利用されており、それぞれに独自の情報サービスや決済サービスが展開されている。もちろん、これらは提供されるサービスごとに仕様が違い、当然のことながら、互換性もない。そこで、SMSとMMSに続く、リッチなコミュニケーションサービスを模索すべく、生まれてきたのがRCSという規格になるわけだ。
+メッセージはRCSに準拠したサービスだが、今のところ、規格に準拠しているのみで、海外で展開されているRCSのサービスと相互接続などには対応しない。今回の発表会ではすでに39カ国50キャリアでRCS対応サービスが提供され、今後、さらに30カ国90キャリアでの採用が予定されていることが明らかにされた。業界としての事実上の標準規格になる見込みだ。
国内のMVNOでの利用については、今のところ、主要3社のMVNO向けのサービスメニューに+メッセージが存在しないため、利用できないが、広く普及を図るために、今後、MVNO向けにもサービスを提供できるように準備を進めることになりそうだ。ただし、主要3社の設備にMVNO向けサービスを提供するための仕様を用意しなければならないため、少し時間がかかりそうだ。
ところで、+メッセージではメッセージのやり取りに携帯電話番号が必要だが、すでにLINEやFacebookメッセンジャーなどを利用しているユーザーから見れば、相手によっては「わざわざ電話番号を教えたくない」と考えてしまうかもしれない。確かに、筆者もFacebook上ではつながっていながら、お互いに携帯電話番号を知らないようなケースはよくある。
ところが、+メッセージを利用する考え方は、まったくの逆になる。おそらく、読者のみなさんもプライベートと仕事では、コミュニケーション手段を使い分けているだろうが、+メッセージはどちらかと言えば、普段から仕事などで、お互いに電話をかけるような間柄の人とやり取りをするためのサービスに位置付けられる。たとえば、仕事上でお付き合いがあり、お互いの電話番号は知っているが、LINEやFacebookはプライベートで利用しているので、仕事上の人とはつながりたくないといったケースはよくある。+メッセージはまさにこうしたシチュエーションに適したサービスというわけだ。仕事で助けてもらったり、お世話になったとき、後で「今日はありがとうございました!」といったメッセージを+メッセージで送ることができるわけだ。「仕事だからメールでは?」という意見もあるが、仕事とは言え、メッセージアプリの気軽なコミュニケーションでお礼を言いたいというシーンもあるはずだ。
+メッセージでもうひとつ注目しておきたいのが発表会でも語られていた将来への展望だ。SMSやMMSは業界標準のサービスであるため、海外の携帯電話事業者でも提供されているが、単にメッセージのやり取りだけに使われているわけではない。SMSを送信すると、クーポンが送られてきたり、ホテルやレストランの予約確認がSMSで送られてきたり、イベントやサービスの申し込みにSMSを利用したり、SMSでサポートを受けるなど、さまざまな使い方が広く普及している。日本の場合、iモード以降、コミュニケーションサービスがケータイメールをベースに進化したため、こうした使い道のほとんどは各キャリアのメールサービスを中心に展開されてきた。スマートフォンが普及して以降、GmailやSNSのアカウントなども活用されるようになったが、それでも相変わらず、キャリアメールはいろいろなシーンで、PCのメールとは違った扱われ方をされている。総務省の「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」でもMVNOから「キャリアメールがMNPの障壁になっている」と指摘されるほど、相変わらず、メールサービスへの依存度が高い。
これに対し、LINEなどのメッセージサービスでは、海外の携帯電話事業者などで展開されているサービスをうまく取り入れ、さまざまな企業との連携サービスや決済サービスを展開している。たとえば、LINEのアカウントが会員証になったり、宅配便の配達予定が伝えられたり、銀行の残高が紹介できたりするといった具合いだ。
主要3社としては、RCSという業界標準規格をベースに、共通仕様のサービスを提供することで、将来的にはLINEなどが提供しているようなメッセージサービスと企業を連携させるサービスを展開しようと考えているわけだ。単なる情報配信などだけでなはなく、決済サービスなどに展開することも視野に入っており、今後、主要3社が提供するそれぞれのサービスにも大きく関わってくるものになるはずだ。
まずは5月9日のサービス開始を待つことになるが、今後、+メッセージを各社がどのように展開していくのかも含め、注目される。