法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
リーズナブルな価格でApple Pencilにも対応した新iPad
2018年4月12日 14:20
3月27日、米国シカゴで開催されたイベントにおいて、アップルは新しいiPadを発表した。2010年に初代モデルが発売されて以来、iPad miniシリーズやiPad Proシリーズなどを派生モデルを生み出しながら進化を遂げてきたiPadだが、今回発表されたモデルは第6世代に位置付けられる。実機を入手することができたので、タブレット市場の現状なども踏まえながら、新しいiPadをチェックしてみよう。
タブレットは売れてる? 売れてない?
現在、私たちのもっとも身近なデジタルデバイスと言えば、やはりスマートフォンだろう。毎日、常に持ち歩き、さまざまなシーンで活用でき、日々の生活にも仕事にも欠かせないツールだ。これに加え、仕事などではパソコンを利用することが多い。オフィスで利用するケースもあれば、カバンに入れて持ち歩き、外出先で利用したり、自宅でもパソコンを利用するユーザーも多くいるはずだ。
このスマートフォンとパソコンの中間的なデバイスとして、市場に展開されてきたのがタブレットだ。スマートフォンに比べ、大きな画面、大容量のバッテリーを搭載しながら、パソコンに比べ、軽量コンパクトで、ポータビリティに優れるという特徴を持つ。なかでもiPadはiPhoneと共通のiOSを搭載し、ほぼ同じユーザビリティで利用できることもあり、国内では初代モデルの発売以来、トップシェアを獲得し続けている。
ところが、iPadがリードし続けてきたタブレット市場にもいくつかの変化が起きている。プラットフォーム別ではAndroidタブレットがリーズナブルな価格帯のモデルで攻勢をかける一方、従来はパソコン側のポジションに存在したWindowsもSurfaceシリーズをはじめとした2in1モデルが急速に増え、新入学新社会人のエントリーモデルとしても着実に人気を得ている。
MM総研が今年2月に発表した2017年国内タブレット端末出荷概況によれば、メーカー別シェアではAppleが8年連続でシェア1位を確保しているものの、台数ベースでは3年連続の前年割れとなり、2位以下はファーウェイ、LGエレクトロニクス、富士通、NECレノボが続いている(参考記事)。
では、実際に市場でタブレットは売れているのかというと、これが何とも評価が難しい状況だ。たとえば、MM総研の調査では2017年のタブレット端末の総出荷台数は863万台で、前年比1.4%増としているが、2016年は前年割れを記録しており、ここ数年を通して見ると、微増微減の範囲に留まっており、実質的にはほぼ横ばいが続いている。家電量販店などで話を聞いてみると、春商戦は好調な売れ行きを記録するものの、全体的にはやや波があるという評価が多いのに対し、テレビなどを含めた通販では1年を通して堅調な売れ行きだという声も耳にする。その一方で、グローバル市場ではタブレットが苦戦を続けているといったニュースが伝えられることが多い。
売れているのか、売れていないのかが今ひとつつかみにくいタブレットだが、その背景にはタブレットがスマートフォンとは違った製品特性を持っていることが挙げられる。スマートフォンは1人1台以上を持つパーソナルデバイスという位置付けが基本だが、タブレットは個人が利用するパーソナルデバイス以外に、企業などが導入する「法人需要」、家族で利用する「ファミリー用」、特定用途に利用する「専用デバイス」、そして、学校などの教育機関で利用する「教育用」など、多様なシーンでの利用が考えられる。つまり、ある用途では伸びているが、違う用途では横ばいだったり、需要が減少していたりするケースがあるようだ。
今回、発表された新しいiPadは、米国シカゴで開催されたSpecial Eventでお披露目されたが、その場所は通常のイベントホールではなく、シカゴにある「Lane Tech College Prep High School」という学校が選ばれ、その内容も、アップルの教育市場への取り組みを強くアピールするものだった。
アップルがこうした形でiPadを発表してきたのは、iPadが元々、教育市場に強いとされてきたものの、米国ではChromeBookやWindowsタブレットをはじめ、ライバルが勢いを増してきたことが関係している。教育市場向けというと、生徒や学生が利用する端末ばかりが注目されがちだが、実は授業などで利用する教材や教師が利用するシステムなども含めた、統合的な教育向けITソリューションが求められており、各社の競争が激しさを増している。アップルとしてはリーズナブルな価格を設定した新しいiPadをベースに、今後も教育市場にしっかりとコミットしていきたいという姿勢を打ち出してきたわけだ。
A10 Fusionチップを搭載
今回発表されたiPadは、2010年に発売された初代モデルから数えて、第6世代に位置付けられる。直近では昨年3月にiPad(第5世代)が発売されており、今回のモデルはこれをベースに、Apple Pencil対応などの強化が図られたモデルということになる。
まず、本体は昨年のiPad(第5世代)と同じであり、重量も変わらず、ケース類も同じものが利用できる。筆者が外出時にiPadを使っていると、ときどき「持ち歩くのに重くない?」と聞かれることがあるが、そういう場合、どうも話を聞いてみると、初代から第4世代までのiPadが600g以上だった時代のイメージを引きずっていることが多い。iPadは2013年発売のiPad Air以降、500gを切っており、今回のiPad(第6世代)はiPad Airと同じで、Wi-Fiモデルが469g、Wi-Fi+Cellularモデルが478gに抑えられている。
本体前面に搭載されたディスプレイは、iPadシリーズ伝統とも言える9.7インチで、最大2048×1536ドット表示が可能だ。ホームボタンやフレームのサイズなども基本的には変わらないため、カバー類だけでなく、保護フィルム/ガラス類も昨年モデルと同じものが利用できるはずだ。ただ、今回のiPad(第6世代)はApple Pencilにも対応しているため、念のため、今回のモデルで動作が確認された商品を選んだ方が良さそうだ。
チップセットについては64bitアーキテクチャの第4世代A10 Fusionチップが搭載される。A8チップに比べ、CPUで2倍、グラフィックスで2.7倍の高速化が図られている。iPhoneの世代で比較すると、従来モデルのA9チップはiPhone 6s、今回のA10FusionチップはiPhone 7に搭載されていたものということになる。ちなみに、上位モデルの10.5インチiPad Proと12.9インチiPad ProはいずれもA10X Fusionチップを搭載しており、昨年のiPad(第5世代)に比べ、性能的には上位モデルにかなり近付いたことになる。
実際に操作したときのパフォーマンスについては、アプリ次第ということになるが、グラフィックの多いゲームやAR対応アプリなどを利用したときのレスポンスは、着実に快適になってきたという印象だ。また、iOS9以降、サポートされているマルチタスク機能の「Split View」もストレスなく操作することが可能だ。
Apple Pencil対応&AR対応
iPad(第6世代)が昨年のiPad(第5世代)以前と比べて、もっとも大きく違うのは、Apple Pencilに対応したことが挙げられる。Apple PencilはこれまでiPad Proシリーズのみが対応してきたペン入力デバイスで、手書きメモ、グラフィック描画、書類への注釈など、さまざまな用途に使うことができる。iPadは画面サイズが大きいが、画面に手が触れた状態でもApple Pencilでの入力ができるため、紙のメモを取るときのように、キャンバスに絵を描くときのように、書類に情報を書き加えるときのように、ストレスなく使うことができる。
こうしたペン入力デバイスは他の製品にも対応製品があり、筆者自身もよくSurface ProのSurfaceペンを利用しているが、対応アプリを利用したときはApple Pencilの書き味もなめらかで、ペン先の追従性も良好だ。アップルによれば、同社のWebページにも掲載されているように、プロのアーティストによる本格的なイラストやデジタルアートなどにも利用されているという。ただ、こうした操作性に関わる部分は、利用するアプリなどによっても違うため、一概には言えない部分もある。
アプリについては2015年に12.9インチiPad Proの初代モデルがリリースされてから2年半近く経ったこともあり、多くのApple Pencil対応アプリがApp Storeで提供されている。これに加え、今回のiPad(第6世代)の登場に合わせ、アップルのiWorkアプリ「Keynote」「Numbers」「Pages」もApple Pencilに対応したため、アプリを追加していない標準環境でもApple Pencilを使うことが可能だ。
Apple Pencilは簡易的なペンデバイスと違い、内蔵バッテリーを充電して利用するという仕組みを採用している。Apple Pencilのトップ部分のマグネット式キャップを取り外すと、Lightningコネクタが現われるため、これをiPadのLightning端子に挿して充電する。もしくはApple Pencilのパッケージに変換アダプタが同梱されているので、これを使い、iPadを充電するときに使うACアダプタとLightningケーブルと接続して、充電する。フル充電した状態で約12時間の利用が可能とのことだが、Apple Pencilの利用頻度があまり高くないユーザーは、どうしても「いざ使おう」という段階で、Apple Pencilがバッテリー残量が少なく、慌てて充電するというシーンも起こり得る。
実際の利用シーンについては、ユーザーの用途次第だが、筆者や本誌でもおなじみのライターの白根雅彦氏は、PDFファイルで出力される書籍の校正に赤入れ(修正を加えること)などでApple Pencilを重宝している。
前述の通り、今回のiPad(第6世代)は米国シカゴの学校で発表のイベントを行なうなど、教育への取り組みを強調しているが、iPadを学校や自宅での教育に活かせそうなのがAR(Augmented Reality/拡張現実)だ。iPadでのARは、すでにiPad ProシリーズとiPad(第5世代)が対応しており、今回のiPad(第6世代)はこれを継承した形になる。
iPhoneでもiPhone 6s以降、iPhone SEが対応している。AR対応アプリは端末のカメラを通して見えるところに、何かが存在するように仮想的に表示するが、こうした利用シーンでは画面が大きい方が対象物を見やすいなど、iPadの方が有利な面も多い。
たとえば、机の上に生き物を表示して観察したり、絵画や美術品を表示して、細部を拡大して楽しんだりといった使い方も大画面の方が絶対的に有利だ。iPadで利用できるAR対応アプリは、すでに多くのものが公開されており、AppStoreの「ARをはじめよう」コーナーなどにもまとめられている。なかには百科事典のようなものもあり、子どもといっしょに楽しみながら勉強に役立てるものもある。ただ、アプリによっては日本語化されず、英語版のまま公開されているものも多いため、初心者には少しとっつきにくいアプリもあるかもしれない。
買い換えにも適したリーズナブルな価格
前述のように、タブレットはターゲットとする市場によって、売れ行きの勢いが異なるが、個人ユーザーが購入する商品では価格がひとつの重要なポイントになってくる。なかでもAndroidタブレットは2~3万円台の手頃な価格帯に、数多くの製品がラインナップされており、好調な売れ行きを示している。
こうした背景もあってか、今回のiPad(第6世代)は全体的に価格が見直され、もっとも安いモデルは別表の通り、3万円台から購入できる構成となっている。
Wi-Fi | Wi-Fi+Cellular | |
32GB | 3万7800円 | 5万2800円 |
128GB | 4万8800円 | 6万3800円 |
実際には、保証サービスの「AppleCare+ for iPad」(8400円)に加入すると、さらに出費がかさむが、それでも4~7万円台の範囲で、最新モデルが購入できる計算だ。Wi-Fi+CellularモデルについてはNTTドコモ、au、ソフトバンクが扱っており、各社で購入すれば、月々サポートなどの割引も受けることで、2年間利用時の実質価格を1~2万円台に抑えることが可能だ。すでに各社でスマートフォンを各社で契約していれば、データ通信の定額パックをシェアで利用することで、月々の支払いも節約できる。アップルからSIMフリーモデルを購入し、MVNO各社のデータ通信契約で割安に利用するという選択肢もアリだろう。
一般的に、タブレットはスマートフォンに比べ、買い換えサイクルが長いとされているが、iPadの場合、iOSのアップデートがある程度の世代で終了する仕組みのため、古いiPadで古いiOSのバージョンのまま、利用している人も少なくない。
具体的には、最新のiOS 11はiPad(第5世代)、iPad(第6世代)、iPad Air、iPad Air 2、12.9インチiPad Pro(第1世代)、12.9インチiPad Pro(第2世代)、10.5インチiPad Pro、9.7インチiPad Pro、iPad mini 2、iPad mini 3、iPad mini 4が対象機種となっており、これらよりも古い機種はすでにiOSのアップデートも提供されない。
もちろん、そのままでも継続利用はできるが、セキュリティ面やバッテリーの劣化などを考えれば、今回のiPad(第6世代)で価格が見直されたことを機に、古いiPadを処分し、世代交代を検討してみるのがおすすめだ。ちなみに、iPadの買取価格は思いのほか高く、2012年当時に販売されていたiPad(第3世代)でも1万円前後で取引されているようだ。
ぜひ、これを機に多彩な機能に対応した最新モデルに買い換え、個人でも家庭でも新しいiPadの楽しさを試して欲しいところだ。