インタビュー
ドコモがNECと立ち上げた「OREX SAI」ってどんな会社? 狙いをキーパーソンに聞く
2024年2月29日 00:00
Open RANの標準化を行っていくO-RAN Alliance設立の中心メンバーだったドコモだが、昨年のMWCでは、その取り組みを一歩進め、OREXというサービスブランドを発表した。
ドコモがO-RAN対応のハードウェア、ソフトウェアを支援し、各国でのキャリアを支援していくというのがその中身だ。ドコモの立ち位置はコンサルタントに近い。
現在開催中のMWC Barcelona 2024では、そのOREXを法人化。NECとともに、「OREX SAI」という会社を立ち上げた。
OREX SAIのパートナーには、無線機などのベンダーやvRANのソフトウェアベンダーに加え、AWS、Red Hatなどのクラウドベンダーも名を連ねている。
さらには、世界各国の通信建設事業者も含まれており、機器やソフトウェアの調達から実際の基地局設置までを、一気通貫で行えるような体制を整えようとしている。その狙いを、ドコモのOREXエバンジェリスト 安部田貞行氏に聞いた。
――今年度はブランドとして活動していますが、OREX SAIとして法人化しました。その狙いを教えてください。
安部田氏
我々はOREXをブランドとして立ち上げ、パートナーの皆様のものを実際にお客様のところで検証するということをやり始めました。次のステップとして、フィールドトライアルをやるとなると、当然、現地でのサポートが増えていきます。
ドコモは正直なところ、ドメスティックカンパニー(日本国内向けの会社)で、世界各国に拠点があるかというと、ありません。今からそのケイパビリティ(能力)を獲得しようとすると、コストや時間もかかる。
であれば、そういったケイパビリティのある方(NEC)と手を組んで動くのが効率的ということで、合弁で会社を設立し、その会社で現地のサポートをやっていこうとなりました。
――OREXをやっていく中で、やはりドコモの中だけでは厳しいということになったのでしょうか。
安部田氏
昨年立ち上げ、実際に各国のオペレーターとお話はしていましたが、今は出張ベースになっています。私自身もほとんど日本にいない状況になってしまっている(苦笑)。
最初にコンセプトを理解していただき、おもしろいと思っていただけるところまでは出張ベースでできる。
一方で、実際にネットワークを組んで作業するとなると、それはなかなか難しい。実際に人を送っていかなければならず、ローカルのケイパビリティは必要です。現地の言葉が分かり、すぐに飛んでいける人が必要になったということです。
――現地に法人を作り、ネットワーク構築を支援するというと、楽天シンフォニーが思い浮かびます。ああいった形になっていくのでしょうか。
安部田氏
楽天のアプローチを正しく理解しているかは分かりませんが、彼らは先にベースを持ってから活動をしています。ただ、これは鶏と卵なところがある。ビジネスがあって作るのか、ビジネスが見えた段階で作るのかというタイミングの考え方の違いですね。
僕らは、各ローカルにパートナーがいて、パートナーと一緒に現地に行くということをやっていました。ビジネスが見えない段階で投資して法人を作るより、見えてからやる方がいいという考え方です。ジョイントベンチャーを作り、ローカルの拠点を持ちましたが、そこにどれだけの人を配置するかはビジネスのステータスによっていきます。
――ということは、現時点である程度ビジネスが見えてきたということですね。
安部田氏
具体的に商用化に向けたお話はありますが、コントラクト(契約)が取れるかどうかは、最終的にコンペになります。候補の1つに挙がったからといっても、選ばれるかどうかは次の段階ですね。
実際に検証し、やる価値があるとなっても、コストの勝負もあります。ただし、そういう段階にまでは進んだということです。
――楽天シンフォニーの1&1のように、ネットワークを丸受けするような案件もあるのでしょうか。
安部田氏
グリーンフィールド(ゼロからネットワークを構築する事業者)はなかなか数がいない一方で、ブラウンフィールド(既存の事業者)は慎重で、元々のネットワークを持っているので一気にやるのは難しい。
このネットワークは全部お任せしますというのは、そう簡単には出てこないでしょうね。
――ブラウンフィールドに入っていくための、コツのようなものはありますか。
安部田氏
既存の機器とのインターオペラビリティ(相互運用)はなければなりません。これを入れたら既存の機器が動きませんとなったら、先方は「なんで?」となりますからね。
また、新しいものを入れたときにメリットもなければならない。経営層は、コストメリットやパフォーマンスメリットがないものをなんで入れなければならないのかと考えます。
ここは、パートナーの特徴を生かしやすいところで、我々が持っているポートフォリオやサービスを入れることができます。
シングルベンダーと何が変わるのかという話だと、パートナーとやっているので、よりフレキシブルな対応ができます。
――仕様がO-RANなだけで、ベンダーを統一した「シングルベンダーO-RAN」とは違うということですね。
安部田氏
やはり選択肢だと思っています。ソフトウェアのハードウェアも、O-Cloud(O-RAN仕様のクラウド)の部分もそうです。クラウドベンダーが4社並んだような取り組みはなかなかありません。
マルチクラウドを組みたい時にも、我々を介してそれができるよう、併存させた環境は検証しようと考えています。
――楽天シンフォニーが「リアルOpen RANライセンシングプログラム」を始めました。このソフトウェアを追加するということもありうるのでしょうか。
安部田氏
アルティオスターのソフトウェアが、どれだけコンペティティブかは実際に検証していないので、増やす価値があるかどうかは何とも言えません。物を売るという観点では、そういう話にはなっていない。
ただ、Open RANを普及させるという意味では、楽天と同じ精神でお互いに協力できることもあります。
――以前は仕様が共通化されても、いざ組み合わせるとなかなか動かないという問題があったとうかがいました。そういった問題は減っているのでしょうか。
安部田氏
確かに新規ベンダーがやろうとすると最初は苦労しますが、こなれてきたベンダーは比較的すぐにつながるようになっています。
パワーコンサンプションがどれぐらいになるのかは、色々なベンダーのアクセラレーションカードを入れて測定していますが、性能的にもだいぶ上がって、(既存のシステムと比べても)競争できるようになっています。
――ドコモがマルチベンダーでやってきたノウハウを展開していくという趣旨でしたが、現在、ドコモはどの程度vRAN化しているのでしょうか。
安部田氏
まだまだ少ないです(苦笑)。元々動いているものがあり、調達しているものがある。そこに追加で入れようとすると、急にはできません。
新たに発表したものには入れていきますが、通信機器はライフサイクルが長い。本格導入したあと、ライフサイクルが終わるとリプレイスになりますが、そうなる前は、できるだけ今あるものを使っていきますからね。
――ここでの取り組みをドコモのネットワークに反映させるということもあるのでしょうか。
安部田氏
少なくとも、新しいvRANはそれを前提にやっています。ただ、やはり既存の部分が悩みですね。ある日突然自動化すると、いろいろなハレーションが起こってしまいます。
――ちなみに、現在提供しているのは基本的には5Gですよね。
安部田氏
基本は5Gですが、4Gも提供しています。海外はまだまだ4Gが多いところもあり、それも求められます。
――さらに下の世代はいかがですか。
安部田氏
2G(GSM)は正直悩ましいですが、やるとなると、新たなパートナーを含めなければなりません。実際にどのぐらいの規模があるのかは、考えなければなりません。
2Gを求めているのは欧州ぐらいですが、ワイドエリアで必要となるとやらざるをえない可能性もあります。
――3Gはどうですか。
安部田氏
2Gより先にターミネート(終了)されると思います。欧州はIoTデバイスに2Gでできているものがあり、そのライフサイクルが長い。逆に3Gの方が巻き取りやすいので、2Gより先に3Gが終わるのではないかと言われています。
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