石川温の「スマホ業界 Watch」

「Rakuten AI」が大幅アップデートも「povoAI」に注目が集まる理由

 楽天グループは2024年10月より提供していた「Rakuten AI」を大幅にアップデート。エージェント型AIとして、楽天モバイルのコミュニケーションアプリ「Rakuten Link」にRakuten AIを搭載した。

 楽天経済圏にあるショッピングや金融、トラベルなど多岐にわたるサービスなどと横断的に連携し、将来的にはユーザーにパーソナライズされた対応をしてくれるようになるという。

 三木谷浩史会長は「ユーザーの意図を理解し、実行する、スーパー秘書のような存在になる」と胸を張る。

 楽天グループだけでなく、各キャリアでAIのサービス提供が始まりつつある。自前でAIサービスを構築するところもあれば、既存のAIサービスの「窓口」になるところもあるなど、各社で戦略の違いが出てきた。

 ここ最近、ネットで大きな反響を巻き起こしたのが、KDDIの第3ブランド「povo」の「povo AI」だ。

 povo AIはpovo2.0アプリ内で使える生成AIサービスだ。

 povo AIといっても、povoが独自に生成AIサービスを構築したというわけではない。ChatGPTやPerplexityを選んで使えるというものとなっている。

 なぜ、ネットが盛り上がったかと言えば、これが「無料」で使えてしまうからなのだ。調べ物や会話相手、校正、要約などに使えるが、残念ながら画像生成や履歴の保存などには対応しない。

 また、自分のアカウントでのログインもできない。あくまでライトに使えるというものとなっている。

 とはいえ、使える生成AIサービスは「GPT-4o」、「o3-mini」、「GPT-3.5」、「Perplexity Sonar Pro」から選べる。

 やはり、キャリアが独自に作った生成AIよりも、すでに人気と実績がある生成AIサービスを無料で使えるというほうがインパクトがあり、魅力に感じる。しかも、povoとなれば、維持コストもかなり抑えることができる。

 アカウントがあればpovoアプリが使えるわけで、データ容量がゼロとなっていても生成AIが使い放題なのだ。もちろん、外出先でセルラー回線で生成AIを使いたいのなら、データ容量は必要だ。

 ソフトバンクも昨年、Perplexityを1年間、無料で使える施策を展開していたが、いまでは半年間0円となっている。

 おそらく、povoもいまのところはお試し的に導入しつつ、将来的には「トッピング」として、生成AIサービスを有料化したいのだろう。

 そこでふと、思ったのだが、生成AIサービスとpovoのトッピング、意外と相性がいいのではないだろうか。

 昨今、様々な生成AIサービスが登場している。どの生成AIサービスも日進月歩の進化を続けており、どこかが絶対的に賢くて便利という状況でもない。

 今月はこの生成AIが便利だけど、先月は別のほうが賢かったということを繰り返している。SNS上で「Manusが便利でヤバい」という評判が流れてきて、興味はあるのだが「また、アカウント作るの面倒だな。クレジットカードで課金するのも迷っちゃうし」と、二の足を踏むことも増えてきた。

 グーグル「Gemini」であれば、Google Workspaceに含まれていることもあり、「Gemini、他の生成AIサービスに負けずに頑張れ」とGeminiの進化待ちだっりすることもある(結局、待ちきれず、新しい生成AIサービスに課金してしまうのだが)。

 将来的に「povo AI」として、様々な生成AIサービスがラインナップされ、すべて無料で使えるのが望ましいが、それが無理なら、有料のトッピングとして提供してもらってもいいかもしれない。

 ひとつのトッピングで複数の生成AIサービスが使えるのが理想だが、それぞれ別の生成AIサービスが、個別のトッピングとしてラインナップされていてもいい。

 それであれば「今月はChatGPTを使ってみるか」とか「来月はGeminとManusを両方使ってみよう」といったように、毎月、気軽にトッピングを変えて生成AIサービスを楽しむなんて使い方ができそうだ。

 それぞれの生成AIサービスを、それぞれのアカウントにログインして課金したり、無料版に戻すといったの面倒くさい。

 一つ画面で、あらゆる生成AIサービスの課金状況を管理できるような仕組みをpovoの「トッピング」としてくれると、かなり便利なような気がしている。

 KDDIは4月に松田浩路氏が社長に就任した際、「AIマーケット構想」を掲げていた。auではスマートフォン黎明期に「auスマートパス」を提供し、様々なアプリを手軽に試せるようにした。まさにAIでも、ユーザーが自分にあったAIサービスに出会える場を提供するというわけだ。

 すでにAIを使い倒している人、一方でまだAIにあまり触れていない人も満足できるプラットフォームを提供するというのは、様々なパートナーと、ユーザーのIDと課金システムを持ったキャリアだから実現できる仕組みなのかもしれない。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。