石川温の「スマホ業界 Watch」

ソニー・ホンダの新EV「AFEELA」はスマホを作ってきたソニーだからこそ生まれたクルマだ

ソニー・ホンダモビリティは1月4日(現地時間)、アメリカ・ラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジー展示会「CES」のソニープレスカンファレンスにおいて、2026年に北米から販売する新型EVのプロトタイプを公開した。また、ブランド名を「AFEELA(アフィーラ)」とすることも発表した。

EVブランド「AFEELA」のプロトタイプ

 ソニーが初めて開発中のEVを発表したのは3年前のCESでのことだった。その時、驚きだったのが、吉田憲一郎社長が「モバイルの次に来るメガトレンドはモビリティだ」と宣言したことだ。Xperiaというモバイル製品を手がけているソニーがモビリティにシフトし始めた、という本気度合いが伝わってきたのだ。

 単に宣言だけでなく「VISION-S」という、すぐにでも販売できそうな試作車を披露したのが衝撃であった。

 ただ、当時は「VISION-S」は、あくまでソニーが手がけるセンサーを他のクルマメーカーに売るための「ショーケース」的な位置づけであった。開発の現場レベルでは製品化を見据えていそうな雰囲気があったが、経営側としては、そこまでの決断は下していなかったようだった。

 しかし、ソニーは世間からの期待を察したのか、次第に本気モードに入っていく。2022年のCESではEV事業会社を設立し、製品化に向けて具体的な検討を始めると発表するとともにSUVタイプの「VISION-S 02」を披露。ソニーとしては次第に自分たちでクルマを作って売りたくなってきたようだった。

 とはいえ、クルマを開発し、製造し、販売するには安全性や信頼性の確立、さらには工場の確保、販売網の構築など、膨大な労力が必要となる。「本当にソニーはやる気なのか。事業化するなら、どこかのメーカーと組んだりはしないのか」とささやかれる中、2022年3月にホンダとの合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ」の設立を発表したのだった。

 それから1年弱となる2023年のCESでブランド名を「AFEELA」とするとともに、2025年に先行受注、2026年に北米からデリバリーされるモデルの「プロトタイプ」を公開となったのだ。

スマホ思わせるソニー・ホンダの取り組み

 ソニー・ホンダモビリティでは提供価値のコンセプトとして、

・Autonomy(進化する自律性)
  • ・Augmentation(身体・時空間の拡張)
  • ・Affinity(人との協調、社会との共生」)

という3つのAから始まる言葉を掲げている。

 実はブランド名の「AFEELA」はFEEL(感じる)を中心におき、3つのコンセプトが示す「A」をFEELを挟み込んだというのが由来としている。

 プロトタイプのヘッドライト部分には「Media Bar」と呼ばれるディスプレイが内蔵されている。まるでスマホのように天気などの情報を表示できるだけでなく、記者会見では「スパイダーマン」を表示させるといった場面もあった。

 ただ、プロトタイプのクルマは全体的な外観やインテリアは余計な装飾性がなく、スッキリとシンプルな雰囲気になっている。

 この狙いについて、ソニー・ホンダモビリティの川西泉社長兼最高執行責任者(COO)によれば「いまのクルマは装飾が多く、かつてのケータイに似ている。AFEELAはケータイ全盛期の頃に出てきたスマホのようにシンプルでスッキリとしたデザインにこだわった」という。

 まさにAFEELAは、ケータイ全盛期に出てきたスマホのように、外観よりも「OSやアプリをアップデートできる」というのがウリになるのかも知れない。まさにAFEELAは自動車業界の常識を覆すゲームチェンジャーになる可能性がある。

 プレスカンファレンスでは、クアルコムのクリスチアーノ・アモンCEOがサプライズで登壇した。

ソニーの吉田憲一郎社長(左)とクアルコムのクリスティアーノ・アモンCEO(右)

 ソニーとしては、長年、スマートフォン「Xperia」向けのSoCだけでなく、犬型ロボット「aibo」やドローン「Airpeak S1」においてもクアルコム製品を使ってきた。

 川西社長はそもそもXperiaの開発を担当していたこともあるし、aiboの生みの親でもある。

 これまでのソニーとクアルコムとの関係性から、AFEELAにはQualcomm Technologies製のSnapdragon Digital ChassisのSoCを採用する予定だ。これにより、運転支援やテレマティクスがSnapdragon Digital Chassisで動作することになる。

 クアルコムとしても「Snapdragon Digital Chassis」を採用する自動車メーカーが増えてきているものの、まだまだ取引先を増やしたいというのが本音だろう。このタイミングで、ソニーホンダからの採用が発表されたのは願ったり叶ったりではないか。

 例年、クアルコムはCESではクルマ関連のプレスカンファレンスを行うのだが、なぜか今年は開催しなかった。しかし、クリスチアーノ・アモンCEO自らソニー・ホンダのイベントに登壇し、ソニーとの関係性をアピールしたのは、クアルコムが自分たちで記者会見開催する以上の露出効果があったことだろう。

 クアルコムもソニーと同様、モバイルからモビリティにシフトしつつあるようだ。

 かつて、川西社長はソニー・ホンダの設立会見で「パートナーをオープンに募っていきたい」と語っていた。

 日本の自動車業界はOEMという自動車メーカーを頂点にティア1、ティア2といったような下請け構造となっている。一方で、Androidスマホ業界は、OSはグーグルだが、部品調達はオープンな関係性が築かれている。川西社長としてもAndroidスマホ業界のような水平分業で、AFEELAを作っていきたいようなのだ。

 まさに「AFEELA」は、「Xpeira」というAndroidスマホを手掛けてきたソニーだからこそ作れるクルマだといえるだろう。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。