石川温の「スマホ業界 Watch」

マイナ保険証のスマホ対応、病院の「診察券」は過去のものになるか

 マイナンバーカードがiPhoneに対応した。iPhoneのウォレットアプリに収納でき、コンビニのコピー機で住民票を出力したり、マイナポータルへのログインが簡単になる。

 平将明デジタル大臣によれば、6月24日のサービス開始以降、6月30日現在で66万5000人が登録したという。

 デジタル庁や関係省庁では、スマホに内蔵したマイナンバーカードを活用できる場所を増やしている。今後、期待したいのが、医療機関での「マイナ保険証」だ。

 実はすでに関東にある15の医療機関や薬局で「マイナ保険証がスマホで使える実証実験」が進められている。実証実験の結果を踏まえ、9月以降、全国の医療機関で本格展開となる予定だ。

 7月2日には国立病院機構東京医療センターに厚生労働大臣の福岡資麿氏とデジタル大臣の平将明氏が視察に訪れ、メディアの前で実際に私物のiPhoneを使ってマイナ保険証で本人確認を行うデモを行った。

 平大臣は「マイナンバーカードのなかでもマイナ保険証は非常に重要なユースケースと言える。マイナンバーカードがスマホに搭載されることで、より簡単なUI・UXで保険医療を受けられるのは、国民の皆様の利便性を大きく向上させるものと期待している」と語る。

 実際、病院の受付端末において、iPhoneであれば画面をいくつかタッチして、iPhoneのFace IDで認証させ、カードリーダーにタッチすれば本人確認が完了する。

 Androidも受付端末にマイナンバーカードの暗証番号を打ち込み、端末をカードリーダーにタッチすればいい。暗証番号を覚えていなくても使えるという点においてはiPhoneの方が簡単かもしれない。

 平大臣は「私自身、最近、財布を持ち歩いていない。マイナンバーカードが必要となると、それだけのためにカードを持って来るという話になる。これがスマホ一つで終わるならば、決済もキャッシュレスで済むのだから、病院にスマホだけを持ってくればいい」と利便性を強調していた。

 平大臣の話を聞いて、ここで一つ疑問が湧いた。

 病院に通う際、月に1回、保険証を提示を求められる。これがスマホで済むのはかなり便利だ。一方で、病院ごとに「診察券」が存在し、毎回、診察券を受付に出す必要がある。仮にiPhoneにマイナ保険証が入ったからといって、結局、診察券を毎回、持ってくる必要があるのではないか。

 そもそも、なぜ月に1回、保険証の提示が求められるのか。

 現場にいた厚生労働省の人に聞いたところ「保険証の提示は法律で決まっていること。しかも、本来は毎回、提示することが義務づけられているが、現場では月に1回に簡素化してしまっているのが現状」なのだという。保険証の提示は当然のことながら本人確認だ。

 これまで紙ベースであったものが、マイナンバーカードによって、顔写真と偽造がほぼ不可能なICチップ化され、他人に悪用されにくくなった。スマホに搭載することで、紛失し、他人に使われるリスクも減ることになる。

 では、診察券をなくすことは可能なのだろうか。

 すでにオンライン診療と対面診療、両方を手がける病院などは診察券がアプリ化されていたりする。予約から支払い、処方箋にいたるまで、全てアプリで完結してかなり便利だ。

 では、一般的な病院ではどうか。

 厚労省によれば「診察券はいわば病院における会員証のようなもの。マイナ保険証に一本化することで、診察券を病院からなくせるし、実際、診察券を廃止している病院も出始めてきている」という。

 大きな病院であれば、通院歴のある患者さんは数千、あるいは万単位の人数になるだろう。そうした患者さんをカルテと紐付けてリスト化するには、診察券に番号を振って管理するのが一般的だ。

 そうしたリストや紐付けも、本人確認がしっかりしているマイナ保険証に一本化してしまえば、診察券は廃止しても問題ないということだろう。

 NTTドコモが「おサイフケータイ」を発売したのが2004年7月のことだ。当時「おサイフケータイがあれば、いずれ財布を持ち歩かなくて良くなる」と言われていた。しかし、決済や交通系などはケータイやスマホで代用できるようになったものの、時々、本人確認書類が必要な場面があり、財布はいつまで経っても手放せないものであった。

 しかし、スマホにマイナンバーカード機能が載り、保険証も紐付いたことで、いよいよ「財布を持ち歩かなくてもいい日」が現実味を帯びてきた。

 あとは医療機関もDXを進めてもらい「診察券の要らない病院」が増えることを祈るばかりだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。