インタビュー

FCNTリブート第1弾スマホ「arrows We2/We2 Plus」発表、キーパーソンに聞く

 FCNTは16日、新型スマートフォン「arrows We2」と「arrows We2 Plus」を発表した。NTTドコモでは2機種ともに、auとUQ mobileでは「arrows We2」が発売される。

 レノボ傘下に入った新生FCNTの第1弾製品であり、2021年に発売された「arrows We」の後継モデルとなる。

左からFCNT 桑山氏、同 田中氏、同 外谷氏

arrowsやらくらくはレノボ傘下でも継続

 旧FCNT時代から同社を率いてきた田中典尚 代表取締役社長は「旧FCNTにおいて多くのお客様やステークホルダー様に多大なご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます」と謝罪の言葉を述べた。旧FCNTは2023年に民事再生を申請しており、現FCNTはレノボの傘下に入り再スタートを切った。

 レノボから派遣され、副社長に就任したFCNT 桑山泰明氏は同社の今後の戦略について説明。FCNTが育ててきた「らくらくホン」やらくらくコミュニティなど、シニア向けの取組みは受け継ぎ、今後も続けていく考えを示した。あわせて2023年の「arrows N」に代表されるサステナビリティの研究開発も継続し「ネクストarrows Nについても検討していきたい」と語った。

 また「ヘルスケア」分野への注力も表明。FCNTでは、これまでも心拍数を測定する機能などを実現している。桑山氏は今後も「ヘルスケアに特化した機能をブラッシュアップしたい」と説明。「優しいテクノロジー」を基礎にシニア向け製品、サステナビリティ、ヘルスケアを3本の柱として、新生FCNTを導く。

 一方で、レノボグループに入ったことにより変化していく部分についても言及。旧FCNTは国内マーケットに注力していたが、レノボが持つ海外の販売チャネルにのせていく可能性を示唆する。FCNTの開発チームはシカゴのモトローラチームともすでに連携しているという。

 さらに桑山氏は投資一辺倒にならず「しっかり効果を見極めて利益体質の会社に変わっていくこともシナジー効果のポイント」としたうえで「日本のお客様に寄り添った賞品を独自の価値で提供していきたい。さらに海外にもarrowsやらくらくの特徴を提案していきたい」と語った。

 今回、発表された新製品はarrows We2とarrows We2 Plusの2機種。具体的な価格は今後、販売するキャリアから案内があるとみられるが、外谷氏はエントリーモデルを担うarrows We2については「arrows We」を引き継ぐようなかたちで提供したい、arrows We2 Plusについては「市場での競争力がある価格で販売できるようにしたい」と語った。

 製品のコンセプト自体は以前からあったというが、開発は新FCNTになってからのスタートだったという。

自律神経ソリューションの開発に携わった森谷敏夫 京都大学名誉教授

個別インタビュー

――販売予定のキャリアはまだ価格を出していませんが、とても気になるところです。

外谷氏
 非常に競争力が出るんじゃないかと思っています。私自身が作り手としても信じられない価格で作っています。

――レノボグループに入ったことのメリットに調達力ということがありました。具体的にはどんなところでそのシナジーが生まれているのでしょうか?

外谷氏
 「Exlider」や自律神経のセンサーなどarrows独自の機能は、我々でなければ作れませんが、プラットフォームなどについては効率的に部品調達もして開発しています。部品については、レノボのサプライチェーンで調達できるので、そこはすごくメリットがあると思います。

 我々のほうからリクエストして、そのなかで最適なものを両社で相談しあいます。実は今回も「ここまでやるか」という話もあり……。arrows We2に搭載しているメディアテックの「Dimensity 7025」はかなり性能が良いんです。世間的には「Dimensity 700」のほうが一般的ですが「Snapdragon 6 Gen 1」に迫る性能を持っています。そういったものを(レノボのサプライチェーンを活かせば)「この価格で調達できるのか……」と。

――国内市場ではキャリアさんの販売力がまだ強いなかですが、新生FCNTというメーカーはコンシューマーとどう向き合っていくのでしょうか?

外谷氏
 MVNOさんや量販店さん含めてお話させていただいております。我々の優しいテクノロジーを多くの方に使っていただきたいと思っていますが、まずは買えないとそもそも始まりません。いろいろな方が適切な形で買えるようなインフラは整備していきます。キャリアさんも大事なお客様ですので、そこも大事にしつつ広げていこうと。そこはこれまでのFCNTと大きく違う点です。

 そして良い製品ができたといことを知っているひとだけに認めてもらうのではなく、皆さんに知っていただく、伝える努力はしなくてはいけませんのでマーケティング面についてはいろいろと考えていることがありますので、プロモーションは強化していきます。

 我々のコントロールが及ぶ範囲ではないかもしれませんが、業界が難しくなっているなかでつっこんだ議論を各社でしていかなくてはいけないと思っています。我々が適正な価格で売りたいと思っても、結果としてそうならないという不幸が生じてしまうのは、我々も本意ではありません。そういう部分をどうしていくかは発売までもそうですが、発売後にも取り組んでいきたいですね。

――スマートフォンの販売台数は年々減少しています。利益体質にするということでしたが、自信はありますか?

桑山氏
 利益を出すということについては大丈夫です。そうするのが私のミッションでもありますし、赤字を出す機種だったらやらないというのは明確な判断基準です。しっかり利益ができる機種を企画して、利益が出るコストで調達しています。

 私はまだ(FCNTの)新参者なんですが、日々驚くことばかりです。レノボ幹部に実機を見せて説明もするんですが、らくらくホンを見せれば全員「英語版が欲しい」と。やはりどの国のお客様でも、良いものは良いと言ってもらえるという実感があります。磨き上げた製品を「正しくお客様に伝える」ということが、ある意味では次の課題です。

 arrowsもらくらくホンも、決してキャッチーで分かりやすいというわけではありません。“ちょっと見てもらっていいですか?”くらいでは分かってもらえないので、それをどうやって効率的に幅広く・短時間でやっていくかというのは、次のチャレンジです。ここからマーケティングやプロモーションをいろいろと企画していきますので、より広くお客様に分かっていただける活動をすれば選んでいただけるんじゃないかな、と。

外谷氏
 今までは基本的な性能がワンランク低かったところがありました。ユニークな機能はいいけど、基本的な部分が……ということで検討の候補になかったところも正直あるかと思っています。

 今回、arrows We2とarrows We2 Plusでは一気に基本性能を引き上げましたので“無視できない存在”になったのではないかと。そこにプラスアルファの価値としてヘルスケアやサステナビリティを持ってきました。スマートフォン市場はコモディティ化しており「どれを選んでも一緒でしょう」というふうになっています。価格とカメラとスペックと……。今回、ヘルスケアを打ち出しているのはスマートフォンを買うひとつのきっかけとして「新しい価値があるから買う」というところにつなげていきたいというところがあります。

 パイを広げるところにもつなげていきたいですね。メインはiPhoneだとしても、2台目需要としてのニーズがこの先あるのではと思っています。実際、スマホ2台持ちが増えているというところもあります。MVNOなども普及しており、回線も安く端末もリーズナブルで独自性があるということで、arrowsの良さを広げられればブランドの定着も図れます。「arrowsって面白いじゃん」というので選んでいただける機会を作れるかなと。

――FCNTからウェアラブルデバイスがでる可能性やヘルスデータをどう活用していくかなど具体的なロードマップがあれば教えてください。

桑山氏
 arrows We2 Plusは(ヘルスケア製品の)第1号機として発表しました。らくらくコミュニティもまたFCNTの資産なわけですが、ここも活用していきたいです。これは私の個人的な構想なんですが、FCNTからも発信はしていきますが、お客様同士で情報交換をしていただきながら、自律神経を測定する使い方や「こういう風にやるといいよ」と、情報交換をしてかっせいかしていただくというやり方もあるんじゃないかなと。

 自律神経の測定のソリューションもさらに進化させていく投資もあると思います。次のステップで何をやるかは正直、まだ決まっていません。今は今回の2機種を出すところに精一杯力を向けたというところですので。

――これまでFCNTが築いてきた堅牢性や優しいテクノロジーなどの技術がモトローラ製品にも導入される可能性はあるのでしょうか?

桑山氏
 ありえると思っています。そういう話にももうなり始めています。内部的にはモトローラの本社があるシカゴのチームとはかなり密なコミュニケーションをとっていて、一緒に仕事をしています。arrowsの堅牢性、防水性、MIL-SPECの追及のしかたなど実はかなり評価されています。

 モトローラのポートフォリオに活かせないのか、あるいは「arrowsを海外に持っていったら売れるぞ」というフィードバックももらっています。これから具体的にプランニングしていきますが、海外というのも十分検討できるフィードバックをモトローラの幹部からももらっていますので、どうやってやるかというのはこれから考えていきたいと思っています。

――どのくらいの期間で実現しそうでしょうか?

桑山氏
 あまり時間はかけずにしたいですが、やることありきではありません。いいものを作って正しい手段でリーチして初めて認めていただけるということだと思うんですが、日本だけではなく海外のお客様にも必ず刺さると信じています。ただ、焦りすぎてアプローチを間違えたりと失敗してしまうのも目に見えています。ちゃんと準備を整えてやっていきたいです。

――arrowsファンにはハイエンドモデルを待っている人もいると思いますが、計画はありますか?

外谷氏
 ハイエンドはやりたいと思っています。arrows NXの後継モデルを望む声があることは認知しています。どんなハイエンドモデルを提供すべきかを追及しているところなので、気持ちとしては近いうちにまたお知らせできることがあるのではないかと……。

桑山氏
 私としては折りたたみ端末もやりたいです。サポートしてくれる人がいないんですけど……。これもやることありきではなく、arrowsならではの独自性をもって提案できて、日本のお客様にお求めいただけるのであればやりたいですね。

外谷氏
 FCNTならではの価値をどう届けるかですが、折りたたみとは相性がいいかなとも思っています。折りたたみ端末に抵抗感がある方は、高いというのもありますが壊れやすそうというのも上位に来ています。そこに我々のDNAである「壊れにくい」というところを備えて開発するというのは、それなら買おうかなという方もあるのではないかと。

 “折りたたみの民主化”みたいなところをやっていくうえでは、我々も貢献できる部分もあるかなと思っていますので、そこはあきらめていないので、近いうちになにかお知らせできることがあるのではと思っています。

――生成AIがトレンドのひとつです。そこに向けた投資やパートナーシップなど、今後の製品への反映はあるのでしょうか?

桑山氏
 生成AIはもはや“言わなかったもの負け”のような風潮です。FCNTとしてもAIは視野に入れていくべきと思っています。しかし、AIありきではなくarrowsやらくらくの特徴を活かすやりかた、そのお客様が使いやすいAIが提供できるのであればそこにもしっかり投資してarrows・らくらくらしいAIの使い方を提案したいと思っています。

 レノボとしてAIにはかなり投資を推進しているので、それをFCNTとして活用するというのも当然の話ですので、FCNT単独で開発をしていくということよりはグループの開発を活用しながらarrows・らくらくにフィットした使い方を追及していきたいです。

外谷氏
 AIは手段です。インフラとしての生成AIは我々もおそらく搭載しますし、そこをどう差別化していくかというのは非常に重要かと思っています。らくらくコミュニティなどあわせて、端末・サービス垂直統合型の観点でAIを活用していくだとか、いろいろな切り口があるかなと思っています。あくまでも生成AIを使っていないと負けだから何か搭載しなくちゃ、というやっつけで何かやるというのは考えていません。

――本日はありがとうございました。