石川温の「スマホ業界 Watch」

“1円スマホ”は消えず! 総務省のスマホ割引新ルール開始もすぐさま“対抗策”登場で考える規制のあるべき姿

 総務省官僚の歯ぎしりが聞こえてきそうだ。

 ソフトバンクは12月27日より、新しい端末購入補助プログラム「新トクするサポート(バリュー)」を開始する。従来は最短でも2年間(24回分)の支払いが必要だったが、「新トクするサポート(バリュー)」では機種代金の支払いが最短で1年間(12回分)で済むようになる。これにより、負担が少なく短期間で新しい機種への買い替えが可能となる。

 ソフトバンクがわざわざ12月26日に発表し、27日に開始するのは、総務省に対する「当てつけ」でしかない。

 総務省では、12月27日より、端末割引に関するルールを改定する。

 端末に対する高額な割引が規制されるということで、これまで家電量販店やキャリアショップではガイドライン改正に向けて「端末をお得に買えるのは12月26日まで」と、1円スマホの駆け込み需要を煽ってきた。しかし、ソフトバンクの奇策によって、27日に以降もiPhone 14やPixel 8が月額1円で売られ続けることが確定した。

 この12月に慌てて家電量販店に駆け込み、1円スマホを購入した人からすれば、まさに「寝耳に水」だろう。

 ここ最近、ソフトバンクは、新トクするサポートにおいて、前半24回分と後半24回分で、支払額に差を設けることで、高額な割引を載せなくても、月額1円スマホを作り上げるなど、巧妙なプログラムを仕掛けてきていた。

 27日から始まる新しいルールでは、端末購入補助プログラムで2年後に端末を返却し、残債分をゼロにする際、市場の下取り価格よりも4万円以上、高額で買い取った場合には「割引(利益の供与)」と見なされ、行政指導の対象になる可能性があった。そのため、「12月27日以降は1円スマホが消滅する」と言われていたのだが、ソフトバンクが巧みなのは、2年後ではなく1年後に返却のタイミングを持ってきた点だ。

 これにより、端末の価値が1年前倒しで評価されるため下取り価格が上昇し、4万円以上の割引を適用することなく、買い取りできるようになり、“月額1円”が継続できるようになったというわけだ。

 まさに総務省が作ったルールの抜け穴をうまくすり抜ける手法であり、27日から、全く無用の長物と化した規制が始まることになってしまったのだ。年末商戦から3月までの春商戦に向けて、ソフトバンクの1円スマホが売れまくれば、当然のことながら、NTTドコモやKDDIが追随するのは時間の問題だ。総務省としては赤っ恥をかき、面目丸つぶれと言ってもいいだろう。

割引めぐる官 vs 民の“イタチごっこ”は終わりにすべき

 総務省が「1円」といった高額な割引を適用して端末を販売する行為を撲滅させようと躍起になってきたのは、いまに始まったことではない。それこそ、ケータイが全盛であった2008年9月に総務省が打ち出した「モバイルビジネス活性化プラン」によって、端末の割引が規制され、端末メーカーが苦戦に追いやられたことがあった。当時、このプランを主導した総務省の官僚であった谷脇康彦氏(現、IIJ副社長)の名前を取って「谷脇不況」なんて揶揄されたこともあった。

 直近では、2019年にもガイドラインが改正され端末代金と通信料金を分離する「完全分離」なども導入されたが、結局は1円スマホの販売は継続され続けてきた。

 そもそも、総務省としては「端末に対して高額な割引を適用する資金があるなら、通信料金を値下げしろ」という論理で端末の割引を規制しようとしてきた。しかし、昨今のahamoやLINEMO、povoといった安価な料金プランは、2020年当時の菅義偉総理が「値下げしろ」と圧力をかけた結果で生まれたものであり、端末と料金の完全分離とは全く関係がない。

 もはや15年近くにわたって繰り広げられたきた、総務省とキャリアにおける「端末割引規制」は意味が無く、そろそろ、こんな茶番のイタチごっこは終わりにした方がいいのではないか。

 国民のスマホの使い方は十人十色、バラバラである。なぜ、9000万を超えるスマホユーザーがすべて同じ割引規制を受ける必要があるのだろうか。

 スマホがなければ仕事が成立しない、スマホが生活のすべてであるという人は、データ使い放題のプランを利用しており、月々の支払い額も高額であるはずだ。

 一方で、テレワークが中心で、スマホは自宅のWi-Fiをメインで使っている。あるいはスマホに依存していないような人であれば、サブブランドやMVNOで月々の支払額を抑えている。

 これだけスマホの使い方が異なるのだから、それぞれにあった端末割引があってもいいのではないだろうか。

 個人的に、スマホ業界が参考すべきだと考えているのが、航空業界だ。

 ANAやJALといったフラグシップキャリアは、航空券は高めだが、フルサービスが受けられ、欠航時などは手厚いサポートが受けられる。

 一方で、LCCなどの格安航空会社は安価で目的地に行けるが、機内食などはオプションで欠航時には自分で何とかしないといけない。

 ANAやJALでは上級会員の制度があり、たくさん飛行機に乗る人に対して、マイルを大量に付与したり、アップグレードされる機会が多かったりと、なにかと特典が充実している。

 スマホ業界も毎月、たくさん通信料金を支払っている人に対しては、端末購入時の割引を多く適用できると言った特典がつけられるといいのではないか。

 いまの総務省のルールではそうした「お得意様」に対する端末割引の優遇は一切、許されていない。

4キャリアそれぞれにあわせた施策があるべき、自由競争に移行を

 また、国内には4つの個性的なキャリアがあるにもかかわらず、同じ割引規制を課しているというのも変な話だ。

 新規参入で顧客獲得に邁進せざるを得ない楽天モバイルは、もっと楽天経済圏を生かした端末割引策ができるべきだろう。楽天経済圏にどっぷり浸かっている人に向けて、もしiPhone 14が安価に買える割引策があれば、iPhone 14購入を目当てに楽天モバイルに加入する人が増えるだろう。

 ソフトバンクであれば、PayPayを絡めての割引策が展開できると面白い。

auならば、auじぶん銀行やauカブコム証券とセットで加入すればiPhone 14が安く買えるなんてのもアリだ。

 NTTドコモであれば、dカード GOLDとのセット、さらにドコモを20年近く契約し続けている人が安価に買えるのであれば、顧客流出も減るはずだ。

 各キャリアは新規顧客の獲得を1円スマホで行いつつ、長期に使っているユーザーに対しても、端末割引で囲い込むという策を打てるようにすべきだ。

 総務省が何度もルールを改定しても結局「イタチごっこ」で終わる。もはや総務省のルールなんてすべて撤廃し、自由競争のもとで、各キャリアが自由に端末割引を行える環境に移行すべきではないだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。